十一話 捕食
――何かが僕の中でささやきだした。
――そうだ。お前はそれでいい。
お前には、力がある。
お前の力は、いずれ神をもこえるものだ。
そして、お前の目の前にいるものも、おなじように、力がある。
その力は――お前に向けられた憎しみの強さだ。
お前の憎しみと、どちらが強い?
ためしてみよ
ためしてみよ
そして
そして
この私を
楽しませて、みよ。
――理性が、無くなっていく…
――あぁ…そうだったな。
――これが、「俺」の役目だ。
「おい」
うずくまっているそれに声をかけた。
まだ子供の面影を残す小さな体。
そして顔には、
白い、札のようなものが貼り付けられている。
見覚えがある。
この札は、奴の持ち物だ。
奴が、縁を、結んだものだ。
「……ずいぶんとあっけないな、俺が世を恨んだ憎しみはこんなもんじゃ無かったぞ」
それは、腕を立てゆっくりと立ち上がろうとしていた。
「来るならそれを超えるものでこい、でなければ、俺は裁かれない」
「俺」はもう一度、腕を構え直した。
それが、飛び跳ねる。
木の丈をも超える飛躍で、再び空を舞った。
だが、先ほどの優雅な飛行ではない。それは傷ついた鳥のように弱々しく、触れればすぐに地に落ちそうだ。
あの高さなら、落とせる。
「俺」は近くにあった杉の木に足をかけ、素早く両手で自分の体を空へと押し出した。
――飛躍。
失速するたびに、他の木でそれを行う。
最後に足を蹴り出したときには、「俺」はそれよりも上空にいた。
それは、おびえた顔をしながら僕の方を仰ぎ見ていた。
少しだけ残った理性が、今の僕の姿を、客観的に眺めている。
――気づけば自然と口が曲がっていた。
――嗤っているのか僕は?
――なんて、醜い。
これはまるで、
――狩り、だな。
そうだ…これはまるで狩りだ。
弱った小鳥を落とす、狐である。
「俺」は片腕でそれの頭を押さえ、そのまま地面へ落下した。
「……悪いなぁ。お前の恨みじゃ、俺のことは殺せないみたいだ」
地面にたたきつけられる直前、「俺」はそれの額に張ってある白い札を強引に引きはがした。現れた顔は青白く、恨みがましい目で「俺」の顔を凝視していた。
目が合う。
それはかすかに口元を動かし、
おかあさんと
そう言ったような気がした。
地面に、落ちた。