十話 狩
ゆらゆらと、月を背に浮かぶ。
――僕は再び暗い森に視線を移した。
そのとき、僕の足下で、駆ける二つの影を見た。
一人は僧形の男
もう一人は、
……白い狐の面をつけている。
その二人は、いつの間にか立ち止まり、じっと僕の方を眺めていた。
にたりと、笑みがこぼれる。
……ああ、ようやく見つけた。
――狐が、いた。
――ゆらり、と奴の身がゆらいだ気がした。
「……まずい、見つかったな」
華梁が言った。
「見つかった?」
「間違いない。 ……っと来たぞ。構えろ」
見ると、さっきまで月に有った人形の陰は、もう無くなっていた。
その代わり、こちらの方に向かい、鳶のように架空してくる人影が一つ。
人影は飛んでいた。
陽炎のごとくおぼろげな身を翻しながら、夜の空を飛ぶ。
その姿ははかなく、そして美しかった。
「あれは人の姿ではあるが、人と否なるものだ。けして見誤るな、命取りになるぞ」
華梁が錫杖を構える。じゃらり、と音が鳴った。
「なあ、華梁」
「なんだ?」
「よく分からないが、あれは人の思いが作り出したものなのだろう?」
「ああ」
「原因は、俺か」
華梁は少し思念したあと「……そうだ」と言った。
「ならば、あれは俺の領域か」
僕の手で作り出した恨み。それが、形になったもの、
そうか、
ようやく僕にも裁いてくれるものが現れたか。
「おい、生身のお前じゃ相手にならんぞ」
「試さなくてはわからない」
それに
「あれが人では無いのなら……俺とて同じだ」
奴との距離が迫る。
奴が、僕に触れる瞬間、
僕は、奴の頬をを薙ぎ払った。
爪が、肌に食い込む。
手応えが、あった。
奴の身は前方の木に勢いよくぶち当たり、地面へ倒れ込んだ。