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闇路妖狐  作者: 狐禅
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九話 人の思い

「俺の仕事っていうのは、一言で言えば、この世に現れた「不必要なもの」を無くしてるんだ」


夜の森を駆けながら、華梁がそう言った。


「不必要な、もの…とは?」


「そうだなぁ…この世界が網の目のような関係にある。お互いがお互いを支え合い、何か欠ければ、何かが狂う。均衡を保ちながら、この世界は作られている――


――たとえば、魚と人の関係


人は魚を食べるために殺しているが、魚の方もまた、人に食べられなければ数が増えすぎてしまう。

人は魚を必要とし、魚も人を必要としている。

お互いに補い合ってこの世界に住んでいるのだ。


これは、どんなことにでも言えることだな。


植物でもいいし、動物でもいい。


ウサギだっていいし蛇だっていい。


どんな生き物でも、どんな些細な存在でも、それがいなくなれば何かしら世が狂う。


俺たちはそれを「理」と呼んでいる。


「理」は存在しているわけじゃない。


言うなれば、世の流れ。この世を混乱させないために、見えない手でこの世の均等を保とうとしてくれている。


こんな話を聞いたことがあるか?


ある生き物は、爆発的に数が増えてしまうと、自ら崖から飛び降りてその種の数を減らすそうだ。

数が増えすぎてもいけないことを、本能で知っているからだろう。

これもまた、理の見えざる手が働いている結果なんだろうな。


戦だってそうだな。あれも増えすぎた人を淘汰するために理の手が働いたのかもしれない。


そのようにして、この世は成り立っているんだ。


だから、この世に存在しているものは、何一つ不必要なものはない。


――分かるか?


僕は頷く。


聞いたことはあるし理屈も分かる。


「だが、その均衡を崩すものがあるんだ」


「…不必要なものなど無いのではなかったのか?」


「その通りだ、ただし、この世に存在しているものならな」


「それじゃあ……」


「存在しないもの……それが均衡を崩しているのだ」


「どういう事だ?」


「存在していないはずなのに、存在するもの…それが」


――人の、思いさ。


「は?」


「人は、思いで生きている、悲しいとか嬉しいとか苦しいという感情も、すべて「思い」だ」


――それが、


――あまりに強いと、自分の内側から抜け出てしまう。


「どういう、ことだ?」


そう聞くと、ぽりぽりと頭をかきながら「言葉で説明するのは難しい」と言った。


「実際見るのが一番早い。ほら」


そう言って、華梁の指を指した方向には


月が浮かんでいた。


大きな、丸く、白い月。

その月を背にしながら。

何かが浮遊していた。


「あれが、均衡を崩すもの、だ。」


それは子供の姿をしていた。


顔には、白い札。


短髪に細い腕。浅黄色の衣


風に身をまかせながら、それはこちらをじっと視ていた。


「人の思いが形になったもの。怨恨や欲望の姿だよ」


華梁は目を細めた。


「理は、あれを無くすために以前、とんでもないものをこの世に生みだしてしまった。……俺たちはそれを再び生み出さないために、人の体から抜け出た「思い」を無くしている」


僕の方を振り返った。


「…これが、仕事だ」


怨恨

恨み

悲しみ

それが起こるのは必ず原因がある。

原因とは、

何に対しての?

……誰に対しての、か。


僕はあの姿に見覚えがあった。


「人は、あれを、時には霊と言い、時には呪と言い、時には、神という。

――人の思いの強さが、怨恨が、憎悪が、世に生みだした存在だ」



あれは――



――僕の殺した死体を抱き起こし、泣いていた男の子だ。




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