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このお話は、別サイト様で公開予定のお話のスピンオフです。

去年久々書いたファンタージーにちょこっと出てきたホストクラブネタから派生したお話、面白がって書いてみたところ、「これって女の子側目線で書いたらどうなんだろう? 」と、ふと執筆欲にかられました。

というわけで、悪戯に書いてみたら乗りまして、最初のお話より長くなりました。

せっかくスピンオフなので、公開同時進行したいと思っております。

もしよろしかったら、お付き合いくださいませ。




 一匹の仔猫が、異国渡りの絨毯を敷き詰めたギャラリー兼廊下を駆け抜けた。

 走る足は止めずに、時折ちらりと視線を動かし、潜り込める場所を探しているみたい。


 だけど、おあいにく様。

 ここ廊下だもの、潜り込めるような家具一つもないのよね。


「いったよ! 

 グリゼルタおねえちゃま! 」


 甥っ子の小さなテオドールが叫んでくれる。


「任せて! テオ」


 その声に答えながらわたしはスカートの裾をたくし上げ仔猫の前に回り込んだ。


「あとは何とかするから、走らないでね! 」


 わたしはとりあえず声を掛ける。

 仔猫を追いかけて走るテオの足に、少し丈の長いフォントルロイスーツの裾が纏わりついて、転びそうで気が気じゃない。

 もし怪我でもしたら、またお兄様の奥さん-お義姉さま-に何を言われるかわかったもんじゃない。

 とか考えているうちに仔猫が捕まえられる距離に走りこんでくれた。


「もう逃さないわよっ! 」


 言いながら床に伏せ仔猫の首元に手を伸ばす。


 

 フギャァアアアアウ!!!!!

 


 小さいながら精一杯威嚇し叫んだ鳴き声が廊下全体に響き渡る。


 もぉっ。

 少しおとなしくしてくれないかな? 


 首根っこを押えた仔猫の様子を覗き込んで思う。


 あんまり騒ぎが大きいとヤバイんだから。


 仔猫の首を吊るして立ち上がると、結い上げずに垂らしたままの髪が肩からこぼれて落ちるのが目に入った。

 

「おねえちゃま! 」


 今年三歳になった甥っ子のテオが駆け寄ってくる。


「ほらっ、捕まえたよっ! 」


 わたしは襟首を吊るした仔猫を男の子の鼻先に突き出した。

 急所をつかまれたことで仔猫は先ほどとはうって替わり、手足をだらんと落としうなだれている。


「ありがとう。

 おねえちゃま」


 テオが笑顔を浮かべる。


「さ、怒られないうちに、早いところバックヤードに連れて行こうね。

 テオドール」


 わたしは仔猫の首根っこを吊るしたまま、もう片方の手をテオと繋ぐ。


「ごめんなさい。

 ぼくがキッチンから連れてきたりしたから…… 」


 握られた手を更に強く握り返し、テオは足を止める。


「ん? どした? 」


 顔を覗き込むとテオ目には涙がたまり、今にも溢れそう。

 きっと叱られると思っている。


「大丈夫よ。

 ほら、もう捕まえたもの。

 お母様には内緒にしておいてあげるわ」


 わたしはテオの手を引いて促した。

 こんな場所でぐずぐずしていたらお義姉さまに見つかってしまう。

 そしたらさっきの約束「お母様には内緒」を破ることになってしまう。

 とにかく急いだ方がいい。

 キッチンまではいけなくてもせめてバックヤードのドアさえ潜れば…… 

 そう思って歩き始めると、こういう時に限って運悪く、突然廊下に並んだドアの一つが開いちゃうのよね。

 


「グリゼルタ! 

 こんなところで何をしているの? 」


 真新しいドレスの裾を捌き出てきた婦人が足を止めると突然言い放った。


「お義姉さま」


 テオに握られた手に力が篭るのを感じながら、わたしもまた足を止める。

 本当は仔猫を腕の中に隠し、このまま足早にすれ違ってしまいたいところなんだけど、さすがにテオの手を引いていたらそれは無理。

 既にお義姉さまの視線はわたしの抱いた仔猫に向けられていた。


「まぁ、なに。

 その猫は? 」


 あからさまに眉を顰めたお義姉さまは何かとても汚いものでも見たかのように言う。


「あれほど毛が散らかるからバックヤードから出してはいけないと言っていたのに、また連れ出したのね? 

 全く十五にもなってまだわたくしの言っていることがわからないの? 」


 はいはい、わかっています。

 っていうか、その十五っての嫌味? 

 もう三ヶ月も前に十六の誕生日は過ぎているんですけど。


 声に出さずに反抗する。

 本当は言いたいけど、言ったら倍になって帰ってくるだけ。

 その嫌味をグチグチと聞くのは時間の無駄だし精神衛生上とぉっても悪い。


「違うよ、ぼくが持ってきちゃったんだ。

 おかあさま。

 グリゼルタおねえちゃまは捕まえてくれただけなんだ」


 握った私の手に力が篭ったと思ったらテオが言う。


「あなたは黙っていなさいテオ! 」


 お義姉さまは容赦なく自分の子供を怒鳴りつけた。

 びくり、とテオの小さな身体が一瞬硬直する。


「そもそも、テオドールがバックヤードに入るのをどうして止めないの? グリゼルタ? 

 裏は子供には危険だとあなたも知っているでしょう。

 それなのに猫なんて連れ出して。

 病気のお義父様の様態が猫せいで更に悪くなったらどうするつもりなの? 

 それに、廊下で遊ぶなんて何事ですか。

 遊ぶなら子供部屋か、北の庭にしなさいといつも言っているわよね? 」


 いつものようにねちねちと責めてくる。


「ごめんなさい、お義姉さま。

 でも子供部屋は階下に響くし、北のお庭は昨日までの雨でぬかるんで遊べないから。

 南のお庭なら乾いているんだけど」


 とりあえず謝って、遠まわしに要求する。

 そもそも日の当らない邸の北側に遊び場を限定するほうがどうかしている。

 南と違って日当たりが悪いんだから、一度雨が降ったら数日は遊べないのなんてわかりきっているはず。

 でもって、無理に遊んで着ている服を泥だらけにしたら、それはそれでまたお小言だ。


「言い訳は結構よ。

 あなたも知っているわよね、南の庭は庭師が日々手入れをして見栄えがいいように整えているのよ。

 子供が駆け回って芝を荒らしたり植木の枝を折ったりしたら、お客様が来た時にみっともないでしょう。

 だから、あなたに子供達の遊び相手をお願いしているんじゃない。

 なのに少しもおとなしくさせておけないなんて、ほんっとに役に立たない娘ね」


 お義姉さまはわたしの言葉なんて聞いちゃくれない。


「とにかく、こんなところで騒がれたら、病気のお義父様のお体に障るわ。

 早いところテオを子供部屋に連れて行って。

 それからルイーザが昼食会から戻ったら、着替えさせてお昼寝をさせておいてね」


 言いたいことだけ言ってお義姉さまは私の横をすり抜けて廊下の奥へ消えていった。


「……叱られちゃったね」


 母親に頭ごなしに怒鳴られ、肩を落としていると思われるテオの顔を覗き込む。


「うん…… 」


 今にも泣き出しそうにしているかと思ったら、テオは答えながら重くなった瞼を眠そうに擦る。

 怒られて泣き出すより眠気のほうが勝ったみたい。


「そろそろお昼寝の時間だね。

 仔猫裏に戻したら、お昼寝にしようね」


 わたしはテオの手を引いてできるだけ急いだ。

 ぐずぐずしていたらここで眠ってしまいそう。

 こんなところで眠られたら抱っこして子供部屋のある屋根裏まで運ぶことになる。

 さすがに三歳児を抱いて階段を上がるのはわたしの腕力じゃ骨が折れる。

 その上子供って眠ると重さが倍増するから、何が何でも自力で屋根裏まで階段だけは上って欲しい。

 


 欠伸を漏らしただけあって、テオは子供部屋のベッドに潜ると同時に寝息を立て始めた。

 ここ数日雨続きだったせいもあり午睡の時間になると必ずぐずったテオが、仔猫を追いかけて体力を消耗したせいか今日はぐっすり寝てくれた。

 わたしはベッドの脇から立ち上がると、床に散らかった絵本やぬいぐるみを片付ける。


「お嬢様、ルイーザお嬢ちゃまがお帰りになりました」


 気遣うような控えめなノックの後、メイドの声が知らせてくれた。


「ありがと。

 そろそろかなって思って、今下に下りようと思っていたところなの」


 礼を言いながらドアを開けると、メイドに伴われた女の子の姿がある。


「お帰りなさい、ルイーザ。

 おばあ様のお家の昼食会は楽しかった? 」


 ルイーザの手をとり部屋の中に引き入れながらとりあえず聞く。

 その背後でメイドが申し訳なさそうに一つ頭を下げ、階下へ降りてゆくのが見えた。


「うん。すっごく楽しかったの! 

 おばあ様、ルイーザのお誕生祝いにって、すっごく大きなケーキをご用意してくれたのよ。

 それからね、沢山のフルーツの入ったお菓子でしょ、あとね、あとね…… 」

 ルイーザは先日五歳になったお祝いにと、お義姉さまの実家で開かれた昼食会の光景に、少し興奮した様子で目を輝かせる。


「そう、良かったわね」


 わたしはルイーザのよそ行きのドレスを脱がせながら微笑んだ。


「おねえちゃまもくれば良かったのに。

 おかあさまもおねえちゃまもご一緒じゃないなんてつまんない」


 出かける前にはあんなにはしゃいでいたのに、いくら実祖父母の家でも一人は心細かったみたいで、ルイーザは不満そうに可愛く口を尖らせる。

 まぁ、まだ五歳じゃ無理はないと思うけど。


「おばあ様にご招待を受けたのは、ルイーザでしょう? 

 おばあ様はルイーザと一緒にお食事をしたかったのよ。

 だから、そんなことを言わないの」


「ねぇ、どうしておねえちゃまはおばあ様のお家には付いてきてくれないの? 」


「だって、ルイーザのおばあ様はわたしのおばあ様じゃないもの。

 ご招待もされていないのにお伺いするわけにはいかないでしょう? 」


 言いながらルイーザを簡素なワンピースに着替えさせ、ベッドに押し込んだ。


「おばあちゃま、おねえちゃまにも招待状送ったって言たわ。

『忙しくてこられないのは残念ね。

 次にはぜひきて下さいね』

 って」


 欠伸を漏らしながらルイーザは言う。


「ルイーザ? それ本当? 」


 妙な言葉を聞いた気がしてわたしは首を傾げながら聞き返す。

 けど、ルイーザもまた、慣れない場所での食事に疲れたのかベッドに入るとすぐに寝息をたてていた。




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