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六連星の下で

翌日、昴達は学校で聞き込みをしていた。何処かに怪しい所はないか、何かが混じっているのか、誰かいないのか、そういう所を念入りに聞き込んで、探し回った。

それでも、手掛かりは見つからなかった。

「靖、瘴気を入れられた時、何処から入れられたのか分かるか?」  

「う〜ん…、僕からは見えなかったんだよなぁ…」

昴がシャツを捲ると、もう治りかけてはいたが、まだ痣は残っていた。

「背後から入れられたの?」

「みたいだな、しかも背中の下の方だから授業中は難しい。」

「じゃあ、いつやられたんだろ…」

昴は昨日の時間割を見た。

「その日、確か体育があったんだよ」

「じゃあ、体育の時に靖君の後ろに居た人に聞けば!」

「よし、早速行こう!」

三人はそう言って駆け出して行った。



アトは昴が居ない間、町を歩いていた。すると、蜂の触覚をした人物と、クラゲのような人物が目の前に立っていた。

「ヨクトさん、ゼプトさん?!」

それは冥府神霊の陰のトップであるヨクトと二番目であるゼプトだった。

「アト、お前、華玄に寝返ったんだって?」

「僕は主に仕えてるだけだ!」

「へぇ…、あの大罪人を主に…」

「僕は主に仕えるだけ、君たちの下僕じゃない!」

「格下の癖に…、調子に乗るな!」

ゼプトは巨大なクラゲの姿になると、アトの胸元に毒手を突き刺した。

「あっ!」

「お前は華玄と同じだ!」

アトは更に毒手で締め付けられ、身動きが取れなくなった。

「危ない!」

その時、ゼプトに燃え盛る炎が当たり、アトから離れた。

「お前は!」

そこには、駆け付けた桜弥と真莉奈が現れた。

「幾ら味方同士だからといって痛めつけるのは許さないから!」

「よし、真莉奈、行こう!」

「『復讐の業火』!」

「『爆轟焔(ボンバー•ブレイズ)』!」

二人が繰り出した炎はゼプトを一気に焼き尽くした。

「ぐっ…!死神と陰陽師の分際で!」 

「さて、後一人だな、さっさと蹴りをつけてやる!」

「俺を舐めるなよ?」

ヨクトは背中から刀を抜き、二人に向けた。



昴はクラスメイトに体育の事について聞いたが、特に違和感はないとの事だった。

「これで全員かな?」

「いや、まだ聞いてないのが一人居る。」

昴は修二の方を向いた。

「何だ?」

修二は明らかに敵意を持った目で見つめてきた。

「お前が靖に手を出したんだろう?」

昴は修二の方を指さした。 

「お前の頭脳は腐ってないんだな、華玄」

「怪しいと思ったんだよ、俺の名前を一言も言ってないんだろう?現にお前は俺の事を華玄と呼んでいる。」

「それじゃあ、修二君は……」

修二は三人を睨みつけた後、屋上に駆け込んだ。


三人が屋上に着くと、修二が灰色の服にマフラーをした姿となり、瘴気を纏っていた。

「華玄…、お前は、お前だけは絶対に許さない」

修二の左手は黒く染まり、異形と化していく。

「お前は主を、皇子様を、お前の両親を殺した不届き者だ、自らの力で封印したはずなのにまた過ちを繰り返す気か?!」

「待って!昴がそんな事するはずが…」

「うるさい!」

修二は向かって来た靖と杏に手をかざし、瘴気を送り込んだ。

「しばらく寝てろ」

二人はその場に倒れてしまった。

「お前…、その腕はゼッタか、靖と杏に手を出したのか?!」

「まさか華玄が正義に目覚めるとはな?まさか罪滅ぼしか?そんなんじゃ埋まる罪じゃないのにな」

すると昴はゼッタに向かって歩み寄ってきた。

「俺には人間が作ったらような正義や悪という概念は無い。俺にあるのは…、『絶対』だ!」

ゼッタは二人をものを見るような目で見た。

「『仮死瘴』、俺はただの人間と生死者に興味は無いよ、ただ…、華玄、お前だけは死んでもらわないとな!」

ゼッタか瘴気を纏った腕で殴りかかり、昴は間一髪で避けた。

「お前、流石に一筋縄ではいかないか」

昴は鎌を取り出すと、ゼッタに振りかざした。

「お前さえ居なければこんな事にはならなかった、お前さえ居なければ…!『瘴砲弾』!」

昴は瘴気の弾を避け、もう一度ゼッタに斬りつけた。

「分かってるんだよ、かつての俺が大罪を犯したこと、二度と現れてはいけない存在だった事も、この世界に俺は必要ないって事も」

「それなら何故?!」

「『火神円舞』!」

昴は、火をゼッタの腕に向かって繰り出した。

「報われないかもしれない、俺なんて永遠に救われないかもしれない…、罪や罰を抱えてまでも俺はやらなきゃならないんだよ!」

「戯言を!」

ゼッタが放つ瘴気が充満し、浄化の力がなければ死んでしまう程になった。

「『雷神円舞』!」

昴は技を放つが、ゼッタには届かない。

「『瘴気の爪』!」

ゼッタが爪が昴を引き裂いた。

「何故俺が責められなきゃならないんだ?」

「自分で何をしたのか分からないのか、この悪人が!」

ゼッタは更に追い打ちをかけてくる。

「例え前世で俺が何をしても、俺は華玄じゃない。救いなんて、報いなんて、そんなのいらない。ただ…、俺は、忌子とか、華玄の再来とかじゃなくて、俺を、風見昴という存在を認めて欲しいだけなんだよ!」

「くっ…、いい加減自分の罪を受けとめ、報いを受けろ!」

昴は傷口を押さえて立ち上がると、ゼッタを向かって鎌を振り上げた。

「『冥道裂斬』!」

ゼッタはそれを受け、地上に落ちていった。

「調子に乗りやがって!」

ゼッタは本来の姿である蜥蜴の怪になり、昴を襲った。

「瘴気が広がって来たな…、このままじゃ町が危ない」

「お前は自分の事しか考えてないだろう?!」

「『禁忌•蓮華槌』!」

昴が放った一撃はゼッタを貫いた。

「俺の力は大切なものを守るためにある!」 

その時、昴の霊水晶が光り出した。



ヨクトは刀を向けるが、一向に振る気配はない。

「早速こっちからいかせてもらうよ!『幻月斬』!」

ところが、まともに攻撃を食らっているのにその気配がない。 

「『心身滅裂』!」

真莉奈が与えたはずのダメージが戻ってきた。

「あっ!」

「真莉奈!『返昇風(リターン•ストーム)』!」

「『反復撃』」!

桜弥がぶつけた風は数倍になって帰ってきた。

「くっ…、このままじゃらちがあかないな」 

真莉奈は透明でふよふよした玉を取り出した。

「無水晶!この力を解き放て…『神化』!」 

真莉奈は冥府仙女の姿に変わり、虚月を向けた。

「これは…、后様の?!」

「『幻影月破』!」

真莉奈が鎌を振り上げると、ヨクトにダメージが入った。

「ぐっ!」

ヨクトはふらつきながらも、攻撃をそのまま返そうとする。だか、それは出来なかった。

「元々無いものをそのまま返しても意味ないよね?」

「后様の力、本当だったのか!」

ヨクトは狙いを変え、桜弥に向かっていった。

すると桜弥は金色に輝く水晶を取り出した。

「有水晶…、この力を俺に!『混沌渦(カオス•サイクロン)』!」

無水晶と有水晶が混じって産み出された混沌は、ヨクトを一瞬呑み込んだ。

「まさか俺に敵おうとするのか?!『反復撃』!」

ヨクトが今まで受けてきたダメージが二人に返っていく。

「いい加減終わらせるぞ、霊水晶…、この全ての力を俺に!『風桜斬(サクラ•セレーション)』!!」

桜弥が繰り出した風の翼はヨクトを完膚なまでに叩きつけた。

「この…、風見の陰陽師が…!」

「『虚無の斬縛』!」

虚月の一撃がヨクトを斬りつけ、そのまま消滅していった。

「アト、大丈夫か?」

「うん…」

空は瘴気の影響で黒い雲で覆われている。だが、アトはその中に一筋の光を見つけた。

「あれは…!」

「まさか、昴?!」

「あいつの力は本物だったか…、あいつならきっとこの力を使ってくれる」

桜弥はじっとその光を見つめていた。



昴は霊水晶を握りしめた。

「ようやく分かったよ、何故華玄が他の力を得てまでも力を欲していたのかが」

「何故だ?!」

「華玄…、お前、神になりたかったんだろ?だが、力をどんなに得てもお前に足りなかった事がある。」

「その為に月輪様を殺した、やはりお前が許せない!」

ゼッタは昴に瘴気をぶつけていくが、霊水晶の浄化の力が強く、押し出されていく。

「それは、他を慈しむ心だよ、その神の心こそが華玄に足りないものだった。華玄はただ人間が持つ自己のままに生きてただけだからな」

「くっ…、口が上手くても意味が無いんだ!どんなに生まれ変わっても華玄は華玄だ、大罪人だ!どんな事を言おうとその罪は永遠に消えないんだよ!」

昴は容赦ないゼッタの攻防を受けていたが、さっきと違って余裕があった。そして、それを掻い潜ると青い炎を纏って空を飛んだ。

「その先へ行けるのかな?いや、行ってみせる。俺は何もかも超えてやる、生も死も、罪と禁忌も、死神も、そして、華玄さえも。俺は風見昴、決して華玄ではない、俺は俺のまま、誰も行けない場所へ行ってみせる」

「どんなに力を得たって過去に敵うか!」

「霊水晶…、この力を放て、『神化』!」

周囲で一気にガラスが割れたような音がしたと思うと、赤い花びらが舞い、身体は黄金の炎に包まれた。

そして、その炎が消えると昴の容姿は冥王の式服となり、頭には黄金の冠があった。

「起きろよ、二人とも、せっかくの俺の勇姿が見せようと思ったのにな」

「あっ、昴…?」 

靖と杏は、昴が放った光で目を覚ました。

「冥府神皇•昴…、ここに降臨!」

「お前、それは月輪様の!」 

昴の鎌は柄までも金色になり、水晶が飾られていた。

「冥府神鎌•『真陽』!」

ゼッタは三人に向かって瘴気の弾を打ち込み、腕を振るったが、跳ね除けられてしまった。

「『月輪円舞』!!」

昴の一撃はゼッタを貫き、そしてそのまま倒れてしまった。

「あっ…!」

「かつての主の力を受ける気分はどうだ?」 

ゼッタは更に技を繰り出そうとしたが、力に逆らえず、そのまま消滅していった。



神化を解除した昴は二人の所に来た。

「凄いね、昴!」

靖と杏はすっかり元気になり、昴の横に居る。

「いや、まだまだだよ…俺は全てを超える存在になるんだからな」

「昴君、まぁ、今回は何かカッコよかったかな…」

「今回は、って何だよ?!」

杏は頬を赤らめながらも強い態度で出てくる。

「まぁ、命が無事で良かったね」

「いや…」 

昴はポケットの中から瘴気が籠もった魔水晶と、自分の霊水晶と、数珠を取り出した。 

「『蘇生風霊』…!」

昴は数珠を左手に巻き付け、鎌で霊水晶を割った。すると霊水晶の力が魔水晶に伝わり、ゼッタの姿が現れた。

「うっ…」 

「起きろよ、ゼッタ」

昴はゼッタに手を差し伸べた。

「華玄…、お前、何故生き返らせた?」

ゼッタはそれを振りほどして昴の方を見る。

「ゼッタ、お前は人一倍月輪への忠誠心が強かったんだっけな?」

「それが何だ?例え俺はお前に恩を受けても従う気はない!」

「俺だって責任というものは持ってるんだ。俺が冥王になった暁にはあいつらを、他の冥府神霊を復活させて本来の力を取り戻させる。」

「ぐっ…、どうせ罪滅ぼしなんだろう?!」

「なぁ、どうしてあの時靖と杏を眠らしたんだ?」

「それは…」

ゼッタは口をつぐんだ。

「お前は、関係ない人を巻き込みたくなかったんじゃないのか?怪は無条件に人を襲う存在だが、お前は賢いんだな。」 

「怪が皆そうな訳ないだろう?」

ゼッタは昴から目を背け、吐き捨てるように言った。

「なぁゼッタ、お前よりも格上の冥府神霊も居るのに、月輪はどうしてお前を重宝したか分かるか?」

「それは…、戦闘力が高かった事と、使いやすかった事だろう」

「忠誠心が強くて、他を敬い、曲げない信念を持つ。

月輪はいつもお前の事を想っていた。長らく側に居たんだろうな。お互いの絆というのは主従関係だけではないような気がするんだ。」

昴はもう一度ゼッタに手を伸ばした。

「かつての俺は月輪や日輪、そして両親に手をかけ、幾つもの禁忌を犯した。今の冥界は冥王が不在の中動いている。だから俺が冥王になるしかないんだ。ならないといけないんだ。今の俺は一人じゃない、守るべき人達も居るし、両親の存在の大きさも分かる。アトだって俺の事を慕ってくれている、だけど…、俺はその先に行くんだ。永遠を生きる為にそれを共にしてくれる人が必要なんだ。それは守るべき存在でも、慕う存在でもない。共に過ごし、共に戦う存在が必要なんだよ!」

ゼッタはゆっくりと立ち上がった。

「…それは、俺で良いのか?俺が月輪様にしたようにすれば良いのか?」

「主とか、そんな堅苦しくなくて良い。受け入れたくないなら受け入れなくて良い。まずは友達からって言うだろう?」

ゼッタは嘲るように笑った。

「華玄と友達になんて…、どうかしてる」

すると昴はため息をついた。

「おいおい、何回も言ってるだろう?今の俺は華玄じゃない、風見昴だって。」

「昴か…、月でも太陽でもなく星の名前か、本当にどうかしてるよ。ただ…、強さは本物だった、お前ならその名前に相応しい存在になれるのかもしれないな…」

昴は笑っていた。

「俺はこれからも強くなる、付いていけるか?くれぐれも離れるなよ?」

「昴…、あぁ、何処までだって行ってみせるさ、お前がそこに居る限りな」

「ゼッタ…、現世の時は修二だっけ?これからも俺の側にいてくれるか?」

ゼッタは昴の前に跪いた。かつて鬼界で月輪と戦い、忠誠を誓った時と同じように。

「…御意、昴様、我の魂と心身は君のもの、これから永遠に付いて参ります。」

学校の屋上には日が差し込んでいた。



翌日からは何事も無かったかのような日常が始まった。

修二は昴達の所に加わり、話をしている。杏はそれが嬉しい反面、何か厄介なものを抱えた気分になっていた。

「何で…、私の所に来る男子はこんなにも曲者揃いなんだよ!」

「まぁまぁ杏ちゃん落ち着いて…」

「杏…、お前は恐らくそういう星の下に産まれたんだ。」

杏は昴の事を不満げに見た。

「あんたがその星なんでしょ?!」

昴は何も言ってないという顔で杏から目を反らし、口笛を吹いた。

「杏、あんまり言ってやらないでくれよ」

修二は靖と一緒に杏をなだめたが、言うことを聞かなかった。

「私一生こうなの?もう……、酷すぎる」

「杏お嬢様、気をお確かに…」

杏の異常な程に気を揉む日々は今後も続くようだった。

六連星、七連星とも呼ばれ、実際には百二十もの星が連なる昴。若く青い星はこれからも輝き続けるだろう。

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