表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

宿命と真理

靖の身体は埋められたままだった。少年達は近くでずっとゲームをしている。

「もう帰ろっか?」

「うん!」

少年達が靖を置いて帰ろうとした時、小山が少し動いた。

「誰が……、」

「えっ…?!」

少年が驚き、恐れながらもゆっくりと近づく。

「誰が僕を死んでると言った?!」

小山から白い腕が出て、靖がゆっくりと這い出て来る。

「うわあぁぁっ!」

「生き返った?!」

「ご、ごめんなさい!」 

少年達は慌てて逃げようとしたが、遅れてきた昴が止めた。

「おい、待てよ!」

「あっ…、お兄さん?」

「お前ら、青波台小学校の生徒か?」 

「うん…」

昴が少し前かがみになって、少年達にこう言った。

「俺が悪かった、靖を放って行ってしまったからだ」

「えっ…?」

「ただなぁ…、生きてようが、死んでようが、面白半分で人を埋めるのは良くないな」

「それは…、本当にごめんなさい!」

昴は少年達の目を見た。

「後の事は俺がなんとかする。ほら、靖、こいつらもちゃんと反省してるからな?」

「うん…」

少年達はトボトボとした歩き方で帰ってしまった。

「とはいえ靖、無事で良かったな」

「これで無事って言えるの…?」

「俺じゃなかったら、本当に帰れなかったかもしれないんだぜ?」

「僕は生きている…、その一方で死んでいる…。死ぬのも辛いけど、死ねないのも辛いね…。」

すると昴は少し落ち込んだ顔をした。

「靖、死ねないのは俺も同じだ、しかもそれが永遠に続くんだぜ?確かに生死者も死ねないな、だが、寿命が来たら死ぬんだろう?」

「どちらかが死んで生き返った後、凄く痛いんだ。だから…、本当に死ぬ時ってもっと痛いのかな…」

靖は昴の方を見つめた。

「ねぇ、この前昴が怪と戦った時、怪は昴の事を華玄って呼んでたよね?あれ、何なの?」

昴はうつむき加減になってこう答えた。」

「あれは、前世の俺の名前だよ。俺がこんな力を持ってる理由の一つに、華玄の魂を持ってるからというのがあるんだ。華玄の魂の力は強大で、あらゆる怪や悪霊が狙ってる。それを俺が倒してるんだ。」

「そっか…、華玄ってどんな人だったの?」

「あいつは罪と禁忌を犯し続けた。そして身近な人を殺し、その魂を吸気し続けた。理由は俺にも分からない。

俺は、罪と罰を抱えて生きている、俺の存在そのものが禁忌のようなものさ。俺は産まれてはいけない存在なんだ。だけど、俺は生き続けなければいけないんだよ…」

靖が昴の肩を叩いた。

「大丈夫だよ、何かあったら僕が居る」

すると昴はため息を着いた。

「それは永遠じゃないんだろ?俺は靖が死んでも生きなければならない。だから…、俺は永遠に孤独なんだよ…」

「そっか…」

靖は昴の背中を擦りながら、その一言の意味を考えていた。



「上様!」

ある冥府神霊が、少年の所に訪ねこんだ。

「ギガ、何の用だ?」

少年はギガを座らせた。 

「はっ、マイクロとナノが華玄の所に向かった様子であります!」

「そうか…、お前の能力が役に立ったよ」

「お役に立てて光栄に預かります!」

ギガはそう言って土下座をすると、何かを思い出したかのように立ち上がった。

「そういえば…、アト様が行方不明になったというお達しが…」

「何?アトさんが…?あいつ、俺が陽の方の四番目なら、陰の方の三番目だ。何で仕事をサボってるんだ…?」  

少年は何処か遠くを見つめていた。



「昴君、姿勢ちゃんとしてよ」

教室で普段通り踏ん反り返って椅子に座っている昴を、クラスメイトの女子である木津杏が注意した。

「分かってるよ〜」

昴は足を直して椅子に座り、杏の方を見た。

杏は首辺りで切りそろえた香染の髪の毛に杏の花の髪飾りをし、白シャツにサロペットを着込んでいた。

「いっつも偉そうな気分で…、また変な作り話でもしてんの?」

「作り話なんかじゃないぞ?」

「自分が強いと思って、良い気分になってるだけじゃないの?」

「何かを言ってんだよ?俺は強いんだぞ!」

杏はため息をついた。

「まーたその話をして…、だから友達が居ないんだよ?」

杏はランドセルを背負って教室から出ていった。

「全く、あいつは何なんだよ」

昴もランドセルを背負って出ていった。

靖は、今日は急用があると言って、昴とは帰らなかった。仕方ない事だと考えていたその時、靖と杏らしき叫び声が聞こえた。

「まさか…、あいつ!」

昴は慌てて駆け出した。


昴が辿り着いた時には、既に杏と靖は怪にやられ、倒されていた。

「うっ!」

「あぁっ!」

「ハハハ、さて…、華玄も同じような目に遭わせてやるか」

怪は二体居て、片方は闇色のドロドロとしたもので、もう片方は細かい粒のようだった。

「そんな…、僕は良いけど杏ちゃんは…」

「靖君!」

昴は二人を見た後、怪の方に目を向けた。

「お前…、マイクロとナノか…靖と杏に手出しただろう?」

「華玄、お前はとてつもない悪人だろう?何故正義の味方ぶる?」 

昴は鎌を持っていた。

「…そうだな、俺はとてつもない罪を犯したのかも知れない。俺がするのはその償いという訳でもない。

俺はヒーローにはなれない、だけど、誰かを守りたいって思いはあるんだよ!」

「ハハハ…あの華玄が?主に手を出したあの華玄が?!」

「いつ分かるんだよ…、俺は華玄じゃねえよ」

昴は鎌を振りかざした。

「『冥道裂斬』!」

ところが、ナノは自らの身体を分裂させ、マイクロは形を変えて避けてしまった。

「華玄!お前の命もこれまでだ!『凝素解除』」

マイクロが昴に向けて針を刺したと思うと、昴は突然苦しみ出した。

「まさか…、『凝血』を使ったのか…」

「お前の血液を凝固させなくした、これで怪我すれば大量出血で死ぬだろう」 

「ハッ、調子に乗るなよ…」

「『分割』!」

更にナノは自らの身体を分割させ、昴を襲う。

「『冥土の流星群』!」

昴は大量の飛弾を繰り出してナノの身体一つ一つに当てていき、消滅させた。

「華玄!だが…、お前はどう足掻いても人間の範疇からは超えられない、俺の力に呑まれて死ぬのさ」

「それはどうかな?」

昴は御札を取り出してマイクロに技を繰り出した。

「『氷神円舞』!」

するとマイクロの身体はみるみるうちに凍っていった。

「くっ…、華玄!」

昴がマイクロにとどめを刺そうとしたその時、光の矢が昴を貫いた。 

「ぐっ!まさかこの力は!」

すると、神々しい鹿のような怪が現れた。

「お前…、ピコかよ…。悪いタイミングで出てくるもんだな」 

「華玄!俺はお前を殺す!『神通矢』!」

神通力の矢や槍は昴に刺さり、怪我を負ってしまった。

「そのまま返してやるよ、『神憑槍』!」 

昴の光の槍はピコに突き刺さった。

「このままじゃきりがないな…、靖、杏、歯食い縛っておけよ?」

昴は群青色の霊水晶を取り出した。

「これが俺の能力だよ…、『創風華』!」

すると、『風』の流れが新たに創りだされ、二体は圧された。

「例え能力を使ったとしても、俺達に敵うことは無い!」

「それはどうかな?」

昴は青白い炎を纏って空へと飛び上がった。

「流石に現世だから遠慮はしとくよ?『冥土の超新星』!!」

すると、全てを包み込むような大爆発が起き、二体は消滅してしまった。

それに巻き込まれる形で靖と杏も灰のようなものを被った。

「ば、爆破オチだなんて…」

「ひ、酷すぎる…、ゲフッ」

「靖、杏、大丈夫か?」

昴は二人の元へと駆け付けた。

「二人のとこには結界張ってたはずだが…それごとぶっ飛んだようだな」

「なんで、こうなるの…」

昴は二人を立ち上がらせた後、鎌に力を込めた。

「ふぅ…、『冥星の治癒』」

すると、三人はあっという間に回復した。

「こんな目に遭わせて…大丈夫だったか?」

「う、うん…」

以前の事があるので靖は慣れていたが、杏は今も何が起こったのかよく分かっていなかった。

「さっきの……、何だったの?」

「ああ…、あれは怪だよ。人々に危害を与える存在さ。俺はあいつらに命狙われていて、その返り討ちに遭わせただけさ」 

杏は頬を叩いた。

「嘘?!あ、私夢見てるんだ、こんな幻覚見てるから昴君が本当に強いと勘違いしてるんだ」 

「残念ながら杏ちゃん…、全部本当なんだよ…」


 

三人は気晴らしに公園に向かった。杏は腕時計型の携帯電話で時間を確認しようとしたが、どういう訳か点かなかった。

「最近、電波の調子が悪いんだよ」

「僕もそう思った。ここ数日、青波台の住宅街だけ電波の調子が悪いんだよ。駅に出た時はそうでもなかったのに…」

「なんか…、妙だな」

三人の横を雄豹が走り去ったような気がした。

「まさか…、あいつが?」

すると、公園の茂みが動いた。

「た、助けて…」

三人が覗くとそこには、見慣れない恰好をした昴達よりも小さな少年が側溝にはまっていた。

「ちょっと待ってろよ…」

昴が引き抜くと、そこには現世では珍しく、癖がついた白髪に、黄色い目の少年が姿を見せた。

少年は昴の顔を見ると驚きの声を上げた。

「あっ…!か、華玄!」

少年は銀色の三叉矛を取り出した。 

「ここで会ったが千年目!華玄!お前をこの場で殺す!」

少年は矛を持ったまま突進したが、昴に難なく避けられた。

「お前、アトだよな?お前の能力は『身代』、傷を移せるんだよな?そういう相手はな…」

「まさか華玄、僕を殺せるとでも思ってるのか?」  

アトは巨大な鼠の怪の姿になると、昴に飛び掛かった。

「『神憑槍』!」

槍は直ぐ様アトに突き刺さった。

「華玄…、この力も僕の力で…」

「無駄だよ、今の状態じゃ能力は使えない」

「ぐっ…おのれ…!」

昴はしゃがんてアトの顔を見た。

「な、なんだよ…、いい加減さっさと殺せよ…、主に働きかけられない下僕など無駄なだけと言いたいのか?」

「アトといい、他の冥府神霊といい、まさか…、月輪を復活させる為に俺を狙ってたのか?」

アトは昴から顔を背けた。

「お、お前なんか…華玄なんか居なければ主が死ぬ事も、争いが起こる事もなかったんだ!」

「俺に全てを押し付けたいのか?まさか全部の事を俺の責任にするつもりなのか?!」

「ああそうだよ!華玄が居なければ冥界はもっと平和だっただろうし、誰も死ぬ事はなかった、そして僕達が怪化する事も無かったんだ!」 

アトは泣き叫んだ後、昴に向かって手を出した。

「だから…、この場で華玄、お前を殺して月輪様を復活させる!」

だが、光の槍は思った以上に食い込んでおり、能力を使う事もままならなかった。

「……無理だよ、例えお前が俺を殺せたとしても、月輪が復活する事はない」

「えっ…?」

アトの顔が一気に絶望へ染まった。

「月輪の魂は華玄が吸収したんだ。それもかなりの時間が経ってるから分けるのはもう困難だ」

「そんな…、やっぱりお前は!」

昴はアトを落ち着かせた。

「まぁ、落ち着け。アト…、これは仕方がない事だったんだ。月輪の力だけではどうしても限界があったんだ…だから俺がやらなければって…。」

「この罪人!この反逆者!お前さえ居なければ、お前さえ現れる事が無かったら…!」

昴は、顔を殴ろうとしたアトの右手を掴んだ。

「例え俺を殺せたとしてもお前の望みは叶わない、それでもやるのか?」

「ああ…!」

「なら、お前もこの前の冥府神霊みたいに消すか…、と言いたいの所だが、アト、お前何か忘れてないか?」

「えっ…?」

「お前、ずっと側溝にはまってただろう?それを俺が引き抜いたんだ。華玄がどうかは知らないが、俺はそういう困っている人が居たら、例え敵だろうと味方だろうと助けてあげたいんだ。それに…、俺はお前に見込みがあると思ってるんだぞ?人一倍忠実心が強かったららしいじゃないか。」

するとアトは顔を曇らせ、昔の話をし始めた。

「僕達は元々鬼界に居た。そして月輪様に拾われたんだ。怪の中でもひ弱な僕だけど、そんな僕を月輪様は重宝してくれた。月輪様が受けた傷ならどんなものでも受けた。でも、月輪様が居なくなってからは誰かの為に傷を受ける事は無くなったんだ…」

すると昴はアトの耳元で何か囁いた。

「えっ…?でも…」

昴はアトの槍を引き抜いた。

「立てよ、アト」

「あっ…」

アトはしばらく戸惑っていたが、昴に抱きついてきた。

「昴様!大変嬉しゅうございます!このアトめはあなた様のご命令に従わせて頂きます!」 

アトはさっきまでと打って変わって笑顔になっていた。

「さっきまで殺すとか言ってたのに…」

靖はため息をついた。

「でも、アト君可愛いよね!」

「そう?」

「でも、昴、さっき何言ったの?」

「俺は本当の事を教えてあげただけだが?」

「みんな…、よろしく」

アトは靖と杏の方を見つめて笑った。



休日、桜弥は窓辺で何かを考えてた。

「桜弥さん、どうかしたの?」

真莉奈がその隣にやって来る。

「実は、昴の事について考えてたんだ。あいつは異常な程に強い、しかも力に呑まれずそれを使いこなし、あらゆるものの範疇を超えてしまうんだ…。俺はお前が怖い。」

「まぁ、それがあの子なんじゃない?」

すると桜弥は頭を抱えた。

「俺は、昔もあいつの父親だった。王蓮だった頃の俺はあいつの力の異常さに気づけず、それに呑まれて死んでしまった。そして同じような事がまた起ころうとしてるんだ。悲劇を繰り返さないように俺は産まれてきたはずなのに…。」

桜弥は真莉奈の目を見つめた。

「真莉奈、俺が死んだ後も昴を見てくれ。紅姫は神力を持っていなかったが、真莉奈には神力がある。それなら昴の事も何とか出来るはずさ。出来る限り側に居てやってくれ。」

「桜弥さん…、うん、分かったよ」

真莉奈の目は決意に満ちていた。



「上様!」

雄豹の姿のギガが少年の元に戻ってきた。

「成果はどうか、ギガ?」

「はっ、範疇を広げ、町に支障を与えている事だと思われます!ただ…」

「ただ?」

「アト様が…、華玄の方に寝返ったそうでございます」

「何?!」

少年が怒りの越えを上げ、立ち上がった。

「アトさん…、月輪様に忠誠を誓ったんじゃなかったのか?!」

少年の身体が重く毒々しい瘴気に包まれていく。

「そろそろ俺も手を出す」

「上様?!」

少年の左手は異形のものへと変わっていった。

「華玄…、お前は、お前だけは絶対に許さない」

少年はそのまま二階に上がり、考え事をしていた。



智は冥界で仕事の合間、シェイルと話をしていた。

「この年になると、ずっと現世に居るのもしんどいのか?」

「ああ…、死神のこの年はまだまだ人生の半分もいってないが、人間はもう年老いてる頃だからな」 

「そうか…、人間の生は短いな、だからこそ未練がましいんだろう、そうだ、智、玲奈さんの事はどうする気かい?」

智は何時にも増して真剣な表情になった。

「玲奈には、玲奈の人生を歩んで欲しいと思ってるんだ。だから、無闇に生を伸ばしたりはしないし、引き止めない。最期はちゃんと見送るつもりでいる。」

「そうか、智は偉いな」

だが、智は寂しそうな顔に変わった。

「でも…、やっぱり寂しいよ…。俺、玲奈を失ったらどうすれば良いか分からない。」

するとシェイルは智の肩を持った。

「何だよ、水臭いな、僕が居るじゃないか」

「うん、ありがとう…」 

三途の川の岸辺には赤い桜並木があり、どれも見事な桜吹雪を舞わせていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ