華玄の再来
星が生まれたような、そんな感じがした。
彼が生まれた時、開けてはいけない何かを開け、それが解き放たれたような感じだった。
誰も感じた事のない、誰も見たことのない。いや…、もしかすると、ただ忘れていただけかもしれないが…。
彼は陰陽師の力を持つ父親と、死神と人間の間の子である母親の間に生まれたはずだった。普通ならそこで力は弱まるはずだっだ。だが、それが目覚めさせてはいけないものを、目覚めさせてしまったのだ。
生まれてすぐ、彼は病室の窓から投げ出された。このままでは病院がなくなると言われたからだ。彼は燃えながら森に落ち、そのまま爆発して森は一瞬にして焼けた。だが、彼は赤子とは似つかぬ目をして、泣かずにそのままそこに寝そべっていた。
夜空の中に輝く青く若い星々、昴。彼はその名を付けられた。これは何の星の合わせだろうか…。
『華玄の再来』、彼はいつの間にかそう呼ばれるようになった。生まれてからしばらく経ったある日、両親と祖父母達は彼を止めようとしたが、何をしても無駄だった。
彼を止めるものは誰も居ないのだろうか。
ただ、強い力を持つ者は同じような力を持つ者に狙われる。それらと戦う為に彼は更に強くなっていかなくてはならないのだ。
彼に安寧なんて無い。永遠の戦いと孤独に投げ出され、果てもない命を過ごす。最も、彼が望んでなった訳ではないが。
風見昴は小学五年生になった。学校ではあまり昴の事については注目されない。かと言って目立たない訳でもなく、むしろ目立っていた。
「今日は怪は現れないか…」
華玄の魂を持つ昴はよく怪に狙われていた。何しろその魂を持つと不死不滅の存在になると言われているからだ。
昴はもちろんそんな事は知っていた。だが、怪はいつも門前払いしているので、よっぽどの事がない限りはどっちでも良かった。
昴は誰も居ない教室で椅子にのけぞり、机に足をかけた。もちろん行儀が悪いのは承知の上だ。ただ、こうすると自分はちっぽけな世界の王様になった気分になるのだ。
「さて、今日は帰るか」
昴がランドセルを背負って帰ろうとすると、何処かから大きな音がした。
「まさか…、怪が?!」
昴は急いでそこに向かっていった。
音のした方に向かうと、そこには二体の怪と、同級生らしい一人の少年が居た。少年は怪に襲われ、怪我をしている。
「あいつは…、」
昴は朱色の柄に金色の刃をした鎌を取り出し、二体の怪に向けた。
「お前、確か…ミリとセンチだったっけな?」
「華玄、まさかお前が現れるとはな、餌にでもなりに来たのか?」
二体の怪が手をかざすと、昴の鎌は小さく縮んでしまった。
「『縮小』と『密縮』だったっけな?二体の能力は似ている。だかな、それだけで俺を倒せると思ってるのか?」
昴がそう言って鎌を投げつけると、二体の身体を斬りつけた。
「お前…『縮毛』!」
「それがどうしたって言うんだよ?!」
昴は技を避けると、更に鎌で二体に斬りつけた。
「お前らみたいなやつに負ける俺じゃないさ、『火神円舞』!」
昴の炎は一瞬ににて二体を焼き尽くすと、そのまま消えてしまった。
「おい、大丈夫か?」
昴は倒れている少年に目を向け、揺すった。だが、返事どころか息もしていないようだった。
「まさか、死んで…」
その時だった。少年の周囲に『風』が吹き込み、身体を包んだと思うと、そのまま目を覚ました。
「あれ、僕は…」
「おい、さっきまで心臓止まってたのになんで生きてるんだ…?」
少年は傷を抑え、痛がりながらも立ち上がった。
「うん、たまにこんな事があるんだ。なんでなんだろう…。うっ…、傷が痛むな、あぁっ!」
「大丈夫か?」
「あれ、さっきまでの化け物達は?」
「俺が倒した」
「えっ…?」
少年は不思議そうに昴を見つめた。
「まだ名前聞いてなかったな?俺は風見昴さ」
「あっ、僕は柘植靖…、よろしくね」
赤褐色の髪の毛に余裕を感じる目つきの昴とは対照的で、黒髪に穏やかな目つきをした靖。同じクラスにはなったことがあるはずだが、あまり関わりはなかった。
「靖、さっきのは…」
「うん、それは…なんでだろう…。」
「母さんに相談した方が良いかもな、ちょっと来いよ」
昴は靖の腕を引っ張り、そのまま一緒に家まで連れて行った。
「母さん!」
昴は靖と一緒に家に入って行った。
「ちょっと、なんでこんな事に…」
「あれ、お帰り。えっと…この子は?」
そう言って現れたのは昴の母親である真莉奈だった。
「実は、母さんに靖を見てもらいたくて…」
「えっ?そうなの?」
真莉奈は靖と話をした後、こう呟いた。
「そっか…、生まれつきそんな事が起こってるのか…。えっと…、『死神の砂時計』」
真莉奈が自分の能力で砂時計を出すと、そこの砂は止まったり、落ちたりを繰り返していた。
「これは寿命を見る為のものなんだけどね、普通は砂はずっと落ち続けるものなんだけど…。落ちたり止まってたしてる。もしかして…、君は生死者なんじゃない?」
「えっ?生死者ってなんですか?」
「う〜ん…、生死者っていうのは生まれながらにして死者、つまり死人の性質を持ってる人の事かな。珍しい存在なんだよね。」
「それで、さっきも…今までも死んだと思ってたら生きてたんだ…。」
生死者というのは稀な存在で、魂と身体のどちらか、また、どちらも死んだ状態が繰り返されるのだ。不完全な不死身とも呼ばれ、寿命はあるのだが、よっぽどの事がない限りは死なないといわれている。
「靖君、生まれた時に変な事なかった?」
「そうですね…、生まれる直前、前世の母親に殺されかけたんです。そして、しばらく彷徨ってて…気づいたらそうなってました。」
「そうだったのか…」
靖は納得したような、してないような、そんな気分だった。
「靖、怪にはよく狙われてるのか?」
「うん…」
昴は靖の肩を叩いた。
「何かあったら俺が守るならな」
「あ、ありがとう…」
そして、靖を家まで送って行った。
「ねぇ、昴のお母さんって死神なの?さっき僕の寿命を見てたみたいだけど…」
「厳密に言ったら人間とのハーフかな、それで言ったら俺はクォーターって奴なんだけど」
「本当に僕怪に狙われてるんだよ?大丈夫なの?」
「怪に狙われやすいのは俺も一緒さ」
「そうなんだ…?」
靖の家が見えたのでそこで別れようとしたその時、突然靖が呻き出したと思うと、その場で倒れてしまった。
「靖!」
「昴!僕はここだよ!」
靖の声は天上から響いていた。
「まさか…、お前、冥界に?待ってろよ…」
昴は靖の声がする方に向かって行った。