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学科魔法士の迷宮冒険記(最終版)  作者: 九語 夢彦
6章 逢魔が時
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6章ー9:都市情勢の確認と、迷宮潜行開始

 談話室内の重たい空気を振り払うように、ミツバが口を開く。

「まだ会議でも、どちらだろうかと迷っている状態です。どちらであっても三葉市の危機ではありますが、普通に考えれば【逢魔が時】発生の場合の方が、都市の被害はより深刻です。しかし幸い、観測衛星から見る限りでは、第3迷宮域の空間歪曲(わいきょく)率は低いままですし、【魔晶】の明滅も確認できていません。【逢魔が時】発生の可能性は、現時点の情報から判断する限り、相当に低いと思われます」

 ミツバが一度言葉を切り、命彦達を見回してから言葉を続ける。

「勿論、魔獣の使う結界魔法で第3迷宮域全域がすでに覆われていて、観測情報を偽装されていれば、科学的手法で【逢魔が時】発生の予兆を掴むのは極めて難しいため、その場合は私の観測結果、予測結果も、無意味でしょう。しかし、それを言い出せば、現状ある情報から、科学技術による先々の演算予測で導かれた予測結果は、どれもこれも不確実と思われてしまいます」

「……そうね。魔法による未来予知だって、現状では不透明だもの」

「結局、今分かっとる情報だけで、判断するしかあらへんわけやね?」

「はい。そして、今判明しているのは、魔法士を優先的に狙う4体の高位魔獣が、この関西迷宮にいるということです。これらのどれか、あるいは全てを倒すことで、未来の予知不全が改善されれば、【逢魔が時】発生の可能性は排除できる。物事は単純です」

「そう、そうだね? ここは単純に考えようよ」

「ああ。とりあえず、今から迷宮へ行って、採集できるだけ採集したらさっさと帰ろう。そしてその後は、俺達も情勢がはっきりするまで、しばらく迷宮に行くのを控える。これでいいだろう?」

「「「賛成!」」」

 命彦達が今後の行動を決めたのを見て、安心したようにミツバが笑った。

「ええ。それが最善でしょう……さて、命彦さんへの忠告が済んだところで、梢姉さん? 私がこちらに寄ったのは、梢姉さんを所長室へ連行するためですが、理由に察しはついていますか?」

「へ?」

 ミツバの突然の発言に、梢がきょとんとする。

「私が会議に出ている間、処理しておいてくださいと頼んでいた書類が手つかずのままですが?」

「あ……忘れてた、てへ」

 ミツバに言われてから思い出したのか、梢がぺロッと舌を出して、おちゃらけた。

 その梢へ冷たい笑みを返し、ミツバが言う。

「では、今思い出したのでやりましょうか? 私が会議再開の時間ギリギリまで傍で見ていますので、今すぐ済ませましょう。私は電脳空間の会議の場にいつでも戻れます。今から50分は付きっ切りで見てあげられますよ?」

「いやああーっ! 助けて命彦! あ、痛い痛い、関節決まってるぅ! 書類整理はいやあああぁぁぁー……」

 ミツバに羽交い絞めにされた梢が、談話室から連行されて行った。

 重たい空気が一瞬で吹き飛ぶほど、バカらしい場面であった。

「あの人、所長代理の仕事をほっぽって、命彦の決闘を見物してたんか?」

「そうみたいね? その上で、今まで所長の仕事を放置していたと……」

「梢さんって、能力的には滅茶苦茶優秀だけど、全力で仕事は嫌がるよね?」

「そ、それでも優秀だと思いますよ、私は!」

 舞子が1人、梢を庇うが、命彦とミサヤは冷たい目をしていた。

「優秀は優秀だが、多分あの人はバカだと思う」

『はい、私もそう思います』

 梢の手続が半端であったため、命彦達は依頼の受領書をもらうために再度受付で受領手続を行い、採集用の容器が亜空間収納された〈出納の親子結晶〉を受け取って、依頼所を出て行った。


 [結晶樹の樹液]と[精霊泉の滴]、そして[精霊石の欠片]の、3つの採集依頼を同時に受けた命彦達は、いつものように【精霊本舗】へと立ち寄り、開発棟の一室で自分達の魔法具の点検をドワーフ翁に頼んでいた。

「ほれ、終わったぞい?」

「「「ありがとうございます、親方」」」

 命彦とミサヤ以外のメイア達4人が、ドワーフ翁に揃って頭を下げる。

 命彦もドワーフ翁に感謝した。

「すまんドム爺、いつもありがとう」

「いえいえ、若様達がワシらのために素材を集めてくれると言うんじゃ。これくらいはさせてくだされ」

 ドワーフ翁がニコニコと言うと、命彦が苦笑して言葉を返す。

「いや、ドム爺にはいつもよくしてもらってるし、それに今回のことは、祖父ちゃん達が店の〔採集士〕達を連れてったのが原因だ。店に迷惑がかかったのは、身内として謝るべきだと思ってる。ごめん」

「ふぉふぉふぉ。店の最高権力者たる会長達が必要と思って連れて行ったんじゃ。誰にも文句は言えまいて。それに、恐らく会長達は若様がここにいるからこそ、店を空けても平気だと思って〔採集士〕達を連れて行ったんじゃと、ワシは思いますぞい?」

 命彦を子どもか孫を見るように温かく見て、ドワーフ翁が言うと、命彦が首を傾げた。

「どういうことだ、ドム爺?」

「若様は身内にはとことん優しいですからのう? ワシらが困っておれば、必然放っておけず、手を差し伸べてくださる。それを読んでいたからこそ、会長達も店の〔採集士〕達を連れて行ったと思ったわけですじゃ」

「それは……あり得そやね?」

「店の〔採集士〕達が抜けた分の仕事も、命彦だったら……命彦とミサヤだったら、十分に対応できるからね」

「そう思ったからこそ、安心して連れて行ったというのは、刀士さんや結絃さんの性格からして、十分に考えられる話だわ」

「うー……そう言われれば、そうかもしれんが」

 勇子と空太、メイアが口々に言うと、命彦も腕組みして考え込む。

 思案顔の命彦へ、ドワーフ翁が告げた。

「若様とミサヤ様が本気を出せば、うちの〔採集士〕達8人全員の1日の仕事量を、2人だけで超えられると、当の〔採集士〕達が言っておりましたがのぉ?」

 楽しそうにドワーフ翁が言うと、命彦が苦笑してムリムリと手を振った。

「いやいや、それは買い被りだよドム爺。専門の採集技術を必要とする採集物は、俺やミサヤでも手が出せねえもん」

「じゃが、それ以外の採集物に限れば、どうですかのう?」

 ドワーフ翁の言葉に、命彦が考え込んだ。

「それは……」

『勝てるとは言い切れませんが、いい勝負はするでしょうね? 専門の採集技術さえ不要であれば、一度に採集して来る量と種類では、上回れる自信があります』

「ミサヤ、ここはもっと謙遜(けんそん)しようぜ?」

 命彦の代わりにえっへんという感じでミサヤが思念で答え、命彦が肩を落とす。

 命彦とミサヤの様子を見て、ドワーフ翁が楽しそうに丸い身体を揺すった。

「ふぉふぉふぉ、いやいやそうでしょうとも。ワシもそう思いますわい。ウチの〔採集士〕達も腕が良いですが、若様とミサヤ様の連携力には及びますまい。そう思うからこそ、若様達がいれば店の方はどうにか回せると思い、会長達は〔採集士〕達を連れて行ったんじゃろうて。それだけ会長達は、若様を信頼されておるということじゃのう」

「うーむ、上手く丸め込まれた気がするが……褒められてるのは分かる。ありがとドム爺」

 命彦が照れるように言うと、ドワーフ翁はコクリと首を振ってから、舞子に視線を移した。

「いえいえ。……さて、マイコ嬢や。今回は急いで迷宮へ行くと聞いておる。〈地炎の魔甲拳:マグマフィスト〉の賃貸契約は、また後日にしたいんじゃが、良いかの?」

「そうですね? 早めに契約したいところですが……今回はいいです。また後日、お店に寄らせてもらいますね?」

「うむ、では待っておるぞい」

 ドワーフ翁が舞子と約束したのを聞いて、点検してもらった魔法具を装備した勇子が、開発棟個室の引き戸を開けた。

「よっしゃ、それじゃ点検も終わったし、迷宮へ行こか!」

「やれやれ、無駄に元気だねぇ」

「ホント、ミツバの迷宮が危ういかもって話、もう忘れてるのかしら?」

「ははは、まさか。幾ら勇子さんでも……」

 勇子に続いて空太とメイア、舞子が個室を出て行く。

 命彦も個室を出ようとすると、ドワーフ翁も後ろに続いて個室を出た。

「ドム爺?」

「今は休憩時間じゃからのう? 店の入り口まで見送らせてくだされ、若様。気分転換じゃ」

 そう言って歩き出すドワーフ翁と共に、命彦達は店舗棟に入り、店内を通り抜けて店の入り口に到着した。

 店の入り口では、エルフ女性の営業部長の他、数人の店員達が見送りに待っていた。

「あら、ドルグラムもついて来ていたのですか?」

「うむ、気分転換にのう。ソルティアこそ、子どもらはどうした?」

「今回は予め若様が来ると分かっていたので、魔法で眠らせました。すぐに若様に纏わりついて、困らせるので」

「すまん、ソル姉。迷惑をかけちまって」

「いいえ。他の日にでもまた相手をしてあげてくださいまし。さて……それでは若様、くれぐれもお気を付けて。依頼した採集物は確かに必要ですが、それ以上に、若様が私達には必要です。無理せずに、疲れたらすぐに帰還してくださいね?」

「分かってるよ、ソル姉。それじゃあ皆、行って来る」

 歩き出した命彦達。命彦が1度だけ後ろを振り返り、エルフ女性とドワーフ翁を見て、伝達系の精霊探査魔法《旋風の声》による思念を、2人にだけ送った。

『ソル姉、ドム爺。もしかしたら……近いうちに()が来るかもしんねえ。今は腕っ節の立つ〔採集士〕達がいねえから、店の防備を厳重にしててくれ。あと、緊急避難用の装置や魔法具の点検と整備も、頼む』

 命彦の思念に、エルフ女性とドワーフ翁をしっかりと首を縦に振って答えた。

 2人のその姿を見て、ミサヤを肩にのせた命彦は淡く笑い、また歩き出した。


 路面電車を利用して【迷宮外壁】にたどり着き、昇降機で昇って関所に着いた命彦達は、手早く手続きを済ませて、迷宮へと降りる。

 【迷宮外壁】の斜面、それも迷宮側の斜面には、無数の魔法機械〈ツチグモ〉が配備されており、その〈ツチグモ〉達の傍を、都市自衛軍の学科魔法士達がうろついていた。

 【迷宮外壁】の斜面を降る昇降機から、その様子を見ていた空太が、顔を引きつらせて言う。

「ははは……もう完全に有事だね? 〈ツチグモ〉は電磁投射砲と追尾式(ホーミング)小型誘導弾(マイクロミサイル)を装備した、完全武装状態だし、軍の魔法士小隊も10組50人近くいる。関所にも交代要員の10組が待機してた。100人体制だよ」

「それだけ軍も警戒してるってことでしょうね?」

「空気がピリピリしとるわ。場違いやねえーウチら」

「仕事だから仕方ねえだろ。それより着いた、降りるぞ舞子」

「あ、はい!」

 迷宮に足を踏み入れた命彦達。

 命彦が手を差し出すと、舞子もすぐに察したのか、目を閉じて魔力を送り出した。

「呪文は憶えたろ? 一緒に言ってみろ、舞子」

「はい!」

「「其の旋風の天威を視覚と化し、周囲を見よ。映せ《旋風の眼》」」

 魔法が具現化されると同時に、周囲の様子が舞子の脳裏に次々と想起され、物凄い量の情報が、舞子の脳に叩き付けられる。

 しかし、その情報の奔流を舞子はどうにか捌き、必要分だけを選択して、意識を保っていた。

 魔力を介して、舞子が《旋風の眼》を制御し始めていることに気付いた命彦が言う。

「よし、感覚は相当掴んでる。そろそろ1人で練習しても良い頃合いだろう」

「え、ホントですか?」

 舞子が喜びのあまり、命彦に詰め寄る。すると命彦が苦笑して首を振った。

「ああ。と言っても、まだまだ修行が必要だと思うがね。そら、気を抜くと制御が乱れるぞ?」

「あ! っと、ふうぅー……また気を失うところでした」

 探査魔法の制御が乱れ、一瞬フラついたものの、どうにか瞬時に探査魔法を消すことで意識を保った舞子。

 その舞子を忌々しそうに見て、ミサヤが《思念の声》で語った。

『これでマヒコがマイコから解放されると思うと嬉しい限りですが、マヒコの教えを受けた者がまた増えたかと思うと、口惜しい気がします』

「あ、教えを受けた者ってことは、私はもう弟子っていう認識でいいですよね、ミサヤさん?」

 すかさず言質を取ろうと動く舞子を、ミサヤが冷たく両断した。

『いいえ。自分で自分の身も守れぬ者は、断固としてマヒコの弟子と認めません』

「ううう、厳しい」

 凹む舞子を見て、メイア達がくすくす笑っていると、ミサヤが命彦の指示で、地上や地下を探る感知系の精霊探査魔法《地礫の眼》を具現化した。そして、命彦が口を開く。

「よし。感知系の魔法も展開した。太陽が沈み切るまで2時間近くあるが、1時間で採集物を集めて、さっさと街に帰るぞ?」

「「「りょ-かい」」」

 【魔狼】小隊の全員が《旋風の纏い》を具現化し、迷宮内の移動を開始した。

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