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学科魔法士の迷宮冒険記(最終版)  作者: 九語 夢彦
6章 逢魔が時
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6章ー3:駆け出しと一人前、戦士としての認識の差

 走り去る角持ち少女を見て蒼い顔の舞子が、命彦に詰め寄って言う。

「どうして決闘を受けたんですかっ! 彼女は、三火(みつび)鬼燐(きりん)は、芽神女学園の〔騎士〕学科でも、通常戦闘では無敵と言われるほどの異世界混血児です! 〔騎士〕の学科位階が8だったという、歴戦の戦闘型魔法士である教官にも勝ったという噂の才女ですよ! 亜人の……鬼人種魔獣【夜叉(ヤシャ)】族の父を持ち、鬼の血を継いでいるんです! 魔法抜きで勝てるわけがありません!」

 恐らく命彦を心配しているからこそ言っているであろう舞子の言葉を、命彦は耳をほじって、暢気そうに聞いていた。

 ヤシャ族は、勇子の母親の種族であるシュラ族と同様、肉体派の亜人種族であり、高い身体能力を持っている。

 角を隠している時と出した時とで、身体能力に相当の幅があるシュラ族とは違い、常に角を出しているヤシャ族は、高い身体能力を一定で発揮することができる亜人種族であった。

 筋力に関する限り、ヤシャ族は地球人類を下回る部分を探すのが難しいほど、多種の面で人類を上回っている。

 それゆえに、魔法抜きで決闘することに対して、舞子は非常に危機感を持っていた。

 舞子の発言を聞き、空太がポンと手を叩く。

「ああ! 道理で馬鹿力だと思ったよ。迷宮で見た時は剣と盾を装備してる上に、全身甲冑(フルプレート)を着て普通に歩いていたから、おかしいとは思ってたんだよね? 魔法で装備を軽くするって言っても限度があるし。合計で20kg以上はあるだろうって魔法具の装備を、普通の人間の、それも女性が身に付けて、迷宮内を歩き回るのは相当厳しいからさ」

「そうね。それこそ動く度に余計に体力を消耗するから継続戦闘がしにくいわ。でも、身体能力に秀でた亜人の血を受け継いでる、というのであれば、あの装備を着て動ける体力や膂力も納得できる」

「ウチも一時期、似た装備で迷宮へ出入りしてたから同類やと思とってん! いやーヤシャ族やったんやねぇ? シュラ族と同じ肉体派の鬼人の血を引いてるんやったら、あれ全部装備しててもそこそこ動ける筈やわ。あはははは」

「わ、笑ってる場合ですかっ! 彼女は学校の身体能力検査で凄まじい数値を出してます! 人間の男性の、それも各分野で超一流と言われる運動選手に匹敵する身体能力を、彼女は持ってるんですよ! 命彦さんはその彼女と魔法抜きで戦うんです! その意味を分かってるんですか?」

「当然分かってるわ。半分とはいえ鬼人種の血を引いてるんだったら、身体能力の限界値が地球人のそれとは全然違うもの。勇子のおかげでよく知ってるわよ?」

 至極冷静に言うメイアに、舞子だけが焦って言う。

「それだったら、魔法抜きで彼女と戦うことが、命彦さんにとってどれだけ不利で危険かも分かる筈でしょう? 180cmに85kgという恵まれた体格に加え、瞬発力も持久力も、人間より優れた鬼人の身体能力を持つんですよ!」

 焦燥感を目に宿した舞子が、悔しそうに俯いて言う。

「ろくに道具の持ち方も知らず、根性だけで重量挙げをして1度で250kgを記録し、100m走では自己流で走って10秒ちょうどとか、基礎の身体能力が違い過ぎます」

「それって彼女の記録かい? 詳しいんだね、舞子?」

「当然ですよ! 学校入学後にすぐにあった、全学年合同身体能力検査では、私は彼女と同じ組にいました。常軌を逸したその身体能力を、まざまざと見せ付けられたんです。肉体派の亜人や、それらの亜人種の血を引く異世界混血児には、身体能力で人類が勝つことは不可能です」

 舞子が拳を握り、憧れと羨望を宿す目で呟いた。


 1人焦る舞子に対して、決闘する当人の命彦は、のんびりした表情で問い返した。

「人種の違いによる能力差は俺も先刻承知だっての。そもそも俺は、勇子と魔法抜きでもよく格闘戦してるぞ? 決闘とは体裁(ていさい)こそ違うが、真剣勝負って点は同じだ。身体能力が高い亜人や異世界混血児の戦闘力は、骨身に染みて知ってるし、勝ったこともある。戦い方は熟知してるつもりだが?」

「え……ええっ!」

 面白い様に目を丸くして驚く舞子へ、ミサヤが思念で語る。

『勿論徒手空拳の場合、マヒコが負けてばかりですが、しかし、互いに武器持ちでの格闘戦だった場合は、マヒコがユウコに勝ってる時の方が多いですね』

 メイアと勇子、空太も続いて言う。

「肉体派の亜人やその亜人の親を持つ異世界混血児は、確かに人類種族最高峰の身体能力を、先天的に生まれ持った身体的優性(フィジカルエリート)だけど、その優れた身体能力が常時全力で発揮できるかというと、それは難しいわ」

「亜人や異世界混血児かて、一応人類種族に勘定されとる。出せる力にも当然浮き沈みがあるし、骨格や筋肉の付き方は人間と一緒やから、体勢・姿勢、重心を崩されることで、優れた身体能力にも制限がかかる。そこは地球人類と同じやで?」

「互いに全力を出し切れる条件下で、かつ身体操作技術も同等であれば、人類より身体能力の限界値が高い、肉体派の亜人や異世界混血児の方が、当然勝るけど、それがそのまま戦闘で、それも格闘戦で現れるかどうかは、また別の話だよ」

「勿論、身体能力に勝る方が遥かに有利ではあるんやけど、それだけで勝敗が決まるほど、格闘戦は浅い世界やあらへん。特に武器持ちでの格闘戦の場合は、武器の扱い方1つで、身体能力の格差を凌駕し得るから、肉体派の亜人や異世界混血児やからって、地球人類に絶対勝てるとは言えへんねんで? ウチの実感やと、無手で戦った方がよっぽど地球人類側に不利やと思うわ」

「実際、無手の格闘戦の場合、よく勇子が油断して10本に1本は命彦に負けてるけど、武器有りの場合、常に真剣勝負で3本に2本は命彦が勝ってるわ。武器有りの格闘戦の方が、地球人類には断然有利よね?」

「……う、嘘でしょう? シュラ族の、鬼人の身体能力を持つ勇子さんが、魔法抜きの格闘戦で1度でも負けるって、うええっっ!」

 あまりにも信じがたい事実を知り、命彦と勇子を交互に見る舞子。

 その舞子の様子に苦笑を返し、勇子が言った。

「いや、ウチだって初めて負けた時はええって思ったで? けどまあ、さっきも言うたけど格闘戦の勝敗は、単純に身体能力だけで決まるもんやあらへん。勿論、生まれた持った身体能力や体格差(リーチ)は、格闘戦の勝敗を左右する最重要の要素ではあるんやけど、それらの優劣を覆すために、人はそれら以外の要素を必死に磨くわけやん?」

「知恵・技術・精神に、経験から来る予測とかね? これらの要素のどれか1個でも相手を上回ってたら、勝てる可能性は僅かでも必ずあるわよ、相手が生物である限りね?」

「特に、ウチらみたいに身体能力に秀でた亜人や異世界混血児は、自分の身体能力が高いモンやから、人間相手やと自然と力押しをようしてまう。それで基本的に勝ててまうからね? せやから、どっちか言うと力の加減っちゅうのが苦手で、いわゆる器用に身体を動かすことが苦手やったりする。早い話が動きに無駄が多いんよ?」

「身体能力の差が、勝敗に作用しやすい無手格闘の場合じゃ、少々の動きの無駄も無視できるけど、武器格闘の場合は、それが致命傷を招くことが多々あるわ。勝てる見込みは一応あるのよ?」

 勇子とメイアの言葉を総括するように、命彦が口を開いた。

「学科魔法士は、巨人や竜といった、身体能力でも魔法能力でも人類を上回る化け物としばしば戦うんだ。自分が生まれ持った能力だけで戦いの勝敗が全部決まるんだったら、肉体でも魔法でも劣る人類は、とっくの昔に魔獣との戦闘で全滅してるよ」

『戦いというモノのは、マイコが思ってるよりもっと多様で、もっと混沌としてるのです』

 ミサヤがそう思念で語ると、命彦達は世間話をしつつ校門から歩き出した。

 ポカンとした舞子は、この時初めて、命彦達と自分との間にある力の差が、自分の想定よりも遥かに深いことに気付いた。


 依頼所へ行くため、命彦達は芽神女学園を出ると、すぐに路面電車へ乗車した。

 座席に座った命彦が、ミサヤを膝に乗せつつ舞子に問う。

「そういえば舞子、【ヴァルキリー】小隊から接触はあったのか? それを想定して、対処については連絡しといた筈だが?」

「あ、はい! ありました。一応言われたとおりに答えたんですけど、あちらの方で勝手に話し合って終わってしまって……」

「あら、小隊で話し合ってたの? ということは、話し合った上で、あの角持ち少女は1人、命彦に決闘を挑んだわけ? お嬢様の呪詛を外せって?」

「恐らくそうだと思います。彼女だけが最後まで、呪詛は外すべきだとか、お嬢様には相応しくありませんとか言って、ずっと騒いでました。でも、【ヴァルキリー】小隊の小隊長やその他2人は、解呪するかどうかに迷っている様子で、もう一度考える必要があるとか言って、さっさと話を切り上げましたね?」

「じゃあ決闘の件は、あの鬼娘(おにっこ)の独断っぽいね? 他3人は加護としても使えることに気付いて、解呪を惜しみだしたのか。良い感じだね、命彦?」

「ああ。こっちの思惑通りだよ、自分達から首輪に関心を持ってくれた。くくく」

 嫌らしく笑う命彦の言葉を聞いていた舞子が疑問に思い、核心を問うた。

「あの、加護に使えるってどういうことですか? 私にはさっぱりで。そもそも〈悦従の呪い蟲〉って、呪詛を与えるための魔法具、というか魔法生物ですよね? それがどうして加護と関係あるんです?」

 舞子の問いかけに、命彦は酷薄に笑って答える。

「アメとムチってヤツさ。〈悦従の呪い蟲〉は、そもそもメイアを守るための呪詛として作ったモノだ。しかし同時に、呪詛の対象者を生かさず殺さず、俺の手駒として使うための首輪でもある。言うことを聞かすのにムチだけだったら意味がねえだろ? だからアメも与えるのさ。俺の手駒として動く限り、呪詛の対象者は他の魔法士よりも、戦闘で生き残りやすいんだよ」

『〈悦従の呪い蟲〉は、呪詛対象者の魔力を吸い、その身体を維持しますからね? 必然、対象者が死ねば魔法生物も死ぬので、是が非でも生かそうとするのです、対象者を』

 ミサヤの思念を受けて、舞子がハッとする。その舞子を見て、勇子が苦笑した。

「言わんとすることは分かったみたいやね? 具体的に言うと、〈悦従の呪い蟲〉を仕込まれた呪詛対象者は、命彦らに逆らうと悦楽(えつらく)地獄へ落とされるけど、その一方で、命彦らに逆らわん限り、魔法的状態異常や呪詛に対する高い耐性と、霊体種魔獣による憑依への抵抗力っちゅう、蟲の効力、言わば蟲の加護が得られんねん」

「この蟲の加護は、地味に体質改善効果もあるから、疲労を蓄積しにくくして、体力がすぐ回復するっていう、疲れにくい身体も得られるんだ。後衛の戦闘型魔法士だったら、今までよりも明らかに疲れにくい自分に絶対に気付く筈さ。それに気付いたら最後、蟲の加護を手放すのを惜しむ意識が生れる。是が非でも解呪しようっていう気が削がれるんだよ。それもこっちの狙いの1つさ。首輪に対する駒の抵抗意識を減退させるって意味でね?」

 〈悦従の呪い蟲〉が持つ、まさかの効果を知り、舞子が唖然とする。

「呪詛を受けた後の方が、戦闘力が上がるってことですか? ……それ、私も欲しいんですが?」

「バカ言え。戦闘力は上がってねえよ。使える魔力が減った分、若干下がってる筈だ。しかし、その分普通の魔法士よりも死ににくい身体が手に入る。あと、舞子は俺のために死ねって言ったら、死ねるのか?」

「そ、それは……嫌です」

「せやろ? 〈悦従の呪い蟲〉を仕込まれたヤツらは、生殺与奪を命彦に握られとる。それだけメイアや舞子にゲスい真似をしたからこそ、呪詛を仕込まれたわけやが、かと言って簡単には改心せんやろし、すぐに解放したら、あんたらが報復に遭うかもしれん。せやったら、生かさず殺さず、使えるだけ使ってすりつぶすのが一番ええと思わんか?」

「放っといても真っ当に生きるだろうって確信を僕らが持てた時は、呪詛も解くよ、命彦はね? そういうヤツだからさ。でも、僕の経験則だと、ゲスいヤツはいつまで経ってもゲスのままだ。メイアへ陰湿に絡んでた女生徒は、もう蟲を仕込まれて1年は経つけど、未だに人間性がクズでゲスのまんまだしね?」

 空太の発言に苦笑して、命彦が語る。

「ウチの祖父ちゃん曰く、人間ってのはよっぽどの目に遭わんと、精神的には成長しねえらしい。舞子を(しいた)げて攻撃してた【ヴァルキリー】小隊も、改心するのはまだまだ先だろう。しばらくは、生かさず殺さず、首輪を付けたまま泳がすさ。どういう判断をするのかは、あいつら次第だ」

 そう言う命彦を見て、愉快そうに勇子が問う。

「とはいえ、今のままやったら、解呪の条件満たしても、実は解呪する気はあらへんのやろ、命彦?」

「いやいや。こっちが出した条件だ、解呪はしてやるよ、解呪は?」 

『……いったん解呪してから、もう1回呪詛をかけるのですね?』

「その通り! さすがミサヤだ。よく分かってるねぇ俺のことが」

「あらあら、最低の魔法士だわ」

「まあでも相手が相手だしね? それくらい用心した方がいいと思うよ」

「せやね。下手に甘さ見せて、ウチらやあんたらに危害を加えられるのが一番困るし、【逢魔が時】で一緒に戦場へ出た時に、不意討ち喰らうのもごめんやからね?」

「ああ。ただ、その点の心配はいらんだろ? 蟲の魔力感知範囲の都合上、俺達が傍にいる限りは、呪詛対象者はろくに力を出せん筈だ。一緒の戦場に出た時は、生き残るためにあっちが勝手に遠くへ離れて行くさ」

「遠くから魔法弾で狙撃して来る場合が怖いけど、それを言ったら【逢魔が時】終結戦って、戦場のあっちこっちで魔法弾が飛んでるから、そもそも当たるこっちに問題があるしね? 全部躱すか防げばいいだけだわ」

 くすくす笑いつつ、怖いことを言う命彦達。

 舞子は命彦達の恐ろしい考え方に戦慄する一方で、それは迷宮防衛都市を守る魔法士として、当然の判断だということに気が付いた。

 【逢魔が時】が発生して命彦達が戦場へ出る時には、多くの魔法士と一緒に戦うのである。

 命を懸ける戦場において、自分達に敵意を持つ魔法士と一緒に戦う可能性も当然あった。

 有事の際に、あいつとは色々あるので自分達の担当を入れ替えて欲しいという、ヌルイ願いが通ることもほぼあり得ず、信頼できぬ者からの故意の誤射を警戒して、一緒に戦うことも十分あり得る。

 それを考慮すれば、敵対する者にきちんと首輪を付けて、言うことを聞かせられるように保険をかけておくのは、危機管理の面から見ても、至極当然の考え方であった。

 舞子は、自分が思った以上に甘く、また命彦達が思った以上に敵対者へ厳しいことを知り、命彦達の言動に時折表れる年齢不相応の非情さと狡猾さが、魔獣との戦闘で生き残るための秘訣だと推測した。

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