4章ー14:模擬戦の評価と、基礎魔法戦闘講座
天井の衝撃吸収材から舞子を救出した命彦達は、しょげかえる舞子の前で楽しそうに笑っていた。
「いやー信じられん終わり方やったわ。まさかこれからいう時に、衝撃吸収材にめり込んで動けんとか、斬新過ぎるで舞子?」
「《火炎の纏い》を使えば、力づくで抜け出せたのにね? 焦って混乱した挙句に脱出方法にも気付かず、助けを求めたのも面白いわ」
「お嬢様然としててデキる子っぽい雰囲気もある分、思い切り抜けてることするから、落差が凄いよね? 感心させた数分後に自分で評価を暴落させるとか、本当に面白かったよ。ここまで抜けた子は、僕も初めて見たかも」
「……面目ありません」
顔を真っ赤にする舞子。その舞子に、命彦が咳払いしつつ声をかけた。
「ごほん! いやまあ、非常に面白い……楽しい模擬戦だった。ろくに戦闘訓練も受けず、実戦経験も皆無だったにしては、そこそこ動けて判断も良い。特に咄嗟の反応、判断力と決断力は賞賛に値する。注意力と冷静さがあればもっと良かったが」
『とりあえず面白かったので、しばらく見守ります。ぷくく……』
感情を表に出すのが稀であるミサヤでさえ、身を震わせている。
「ミサヤ、笑っちゃだめだ。えーとまあ、人として面白味があることは良いことだと思うぞ? 今回の模擬戦はもう良いだろう。実力はある程度分かった。改めて、これからよろしく」
「はい……こちらこそよろしくお願いします」
舞子ははずかしさの余り、縮こまっていたが、その舞子を見て苦笑した命彦が言う。
「現時点でも、こっちの指示次第で舞子はそこそこ使える可能性があるということが分かった。ということで、今から早速迷宮での実戦訓練に移ろう」
「ええ! もう行くのかい? 早過ぎる気がするし、それに今から出ると多分、夜の迷宮を舞子に見せることに……」
「それも目的の1つってことでしょ? 昼の迷宮と夜の迷宮。学科魔法士として、その違いは早めに知るべきだわ」
「多少でも動けるんやし、一足飛びに弱い魔獣と当てるんもウチは有りやと思うで? 人を相手にした時と、魔獣を相手にした時の、舞子の反応の違いも、先に確かめた方がええやろ。今後の訓練に活かせるやん?」
「俺も勇子と同意見だ。魔獣と相対した時の舞子の反応がまず見たい。ということで舞子、魔力は平気か?」
「あ、はい!、少し休憩すれば平気です!」
迷宮という命彦の言葉を聞き、舞子が目を輝かせて答える。
「まだまだ元気ね。あ、迷宮に出るんだったら、ついでに依頼も受けましょうよ?」
「そやね、舞子でもできる依頼を探すとして、採集・探索・護衛・討伐・派遣とあるけど、どれにするん?」
「魔法戦闘技能を身に付けるために依頼を活用すると考えれば、探索か討伐が最有力だよね? 魔獣との戦闘が主目的だし……僕としては遠慮したいけど」
「いや、今回は舞子が一度失敗している採集依頼を再度受けることにする。失敗した依頼をそのままにしてると、魔法士としての評価も落ちるし、場合によっては苦手意識まで付く。採集依頼を成功させ、その過程で魔獣との戦闘も行おう」
『一挙両得狙いですか、さすがはマヒコ。良い考えです』
「私もお願いします! 失敗したままは嫌です!」
「本人の希望やし、決定やね?」
「ああ。俺とミサヤで依頼を受けて来る。他は、舞子に魔法戦闘の知識について色々教えてやれ。舞子は基本から抜けてるようだから、基礎知識から教えてやれよ?」
「りょーかい、ウチらに任しとき!」
「あ、命彦、依頼を受けるのと一緒に家へ連絡するつもりだろう? 僕も行くよ、空子に連絡したいんだ」
「分かった。じゃあ空太は一緒に来い。俺達が戻るまでここは任せたぞ、メイア」
「はいはい、さっさと行って来て」
命彦達がポマコンを手に持ち、訓練場から出て行く姿を見て、勇子が頭痛を堪えるように言う。
「……ったぁく、ウチの男どもはどうしてこう、マザコンにシスコン、ロリコンやったりするんやろ。はあー……2人とも、はよ戻って来るんやで」
重度の家族想いである命彦達を見送り、メイアと勇子は肩を落とした。
命彦達を待つ間、舞子は魔法戦闘に関する基礎知識をメイアと勇子から教わっていた。
「戦闘型の魔法学科が前衛系と後衛系に分かれとるんは、魔獣達を確実に仕留めるためにそれが1番効率がええからや。模擬戦前にも、ウチやメイアが言うたと思うけど、魔法の戦闘技能は基本4つに分けられる。攻撃、守備、汎用、そして搦め手の特殊やね? 戦闘型の魔法学科も、前衛・後衛がこの4つにそれぞれ対応しとるわけや」
「代表的である8つの戦闘型魔法学科で言うと、まずは前衛攻撃の〔武士〕と後衛攻撃の〔精霊使い〕ね? 敵対戦力の削減を行う攻撃役よ。次に前衛守備の〔騎士〕と後衛守備の〔僧侶〕。自分達を守る守備役ね」
「さらに前衛汎用の〔闘士〕に後衛汎用の〔神司〕や。戦局に応じて攻守に活躍する遊撃役やで? ほんで最後が前衛特殊の〔呪闘士〕と後衛特殊の〔呪術士〕。状態異常や弱体化、捕縛といった絡め手の攻撃で、敵戦力を操作する操作役や。とまあ戦闘型魔法学科は、戦い方や魔法戦闘技能によって、それぞれ役割があるわけや」
「この役割分担こそが魔獣相手には特に重要よ? 多くの魔獣は地球の動物達より総じて知能が高い。でも、同時に獣の本能もある。だから、基本的に自分の目の前にいる獲物を優先的に狙うのよ。前衛が魔獣の攻撃を食い止めれば、後衛が安心して効力の高い魔法を使えるわけね?」
「ほいで前衛が敵を食い止めるにしても、敵戦力を削ってからの方が食い止めやすいし、自分らの守備力を高めたり、攻守に対応できる遊撃戦力があれば、敵に意表を突かれても即座に対応できるんや。おまけに敵の戦力を思い通りに誘導することができれば、自分らが受ける被害はもっと減らせるやろ?」
「そういう考え方から、魔法戦闘技能の4分類が生まれたのよ。当然前衛と同じ役回りを、後衛もある程度できる方が連携が取りやすいわ。前衛と後衛、そして4つの戦闘技能。それらが効率的に機能することで、魔獣の討滅速度が倍増し、自分達の被害が減るわけね」
「探査型魔法学科の魔法戦闘技能は、迷宮で生き残るためのモノやから、魔獣を狩るための戦闘型の魔法戦闘技能とは、またちょい違うんやけど、まあどっちの魔法戦闘技能も極めたらほぼ一緒や。一流の〔忍者〕とか、戦闘型の魔法学科も真っ青の戦闘力を発揮しよるしね?」
「つまり極論すると、探査型も戦闘型と同じ魔法戦闘技能の区別が適用できるというわけ。そのために最低限、この魔法戦闘技能の種類と違い、そこに起因する戦闘上の役割については、しっかり理解してね? 小隊戦闘の基本でもあるから。分かった?」
「はい! しかし、前衛と後衛って、意味があって分かれてたんですね? 魔法戦闘技能の4分類も、今聞いてようやくそれぞれに意味があったと知りました」
舞子は自分のポマコンでメイア達から言われた知識を確認し、うんうんと首を振って理解したことを示した。
その様子を見ていたメイアが、生徒を見守る教師のように笑みを浮かべる。
「ええ。舞子が分かってくれたようで嬉しいわ」
「私、単純に修得する魔法の違いだけで、魔法学科が分かれてるとばかり思っていましたけど、きちんと戦略的にも魔法学科の区別に意味があったんですね? 聞いてて良かったです」
ポマコン片手に言う舞子へ、勇子が苦笑して言った。
「舞子の理解でも一応は間違っとらんねんで? 戦闘型の前衛系魔法学科は、精霊付与魔法を重点的に修得するやろ? あれは精霊付与魔法が魔獣との接近戦に必須やからや。対して戦闘型の後衛系魔法学科は、精霊攻撃魔法や精霊結界魔法、精霊治癒魔法を重点的に修得する。前衛を援護したり、魔獣の戦力を削るのにそれが必要やからや」
「結局、修得する魔法の違いも前衛と後衛とを分ける根本に繋がっているのよ。勿論、各魔法学科が修得する魔法をより詳しく比較すれば、きちんと4つの魔法戦闘技能の区別にも当てはまるわ」
「とにかく、魔法戦闘技能による役割分担が魔獣との戦闘において、重要やと分かればええねん。自分が修得しとる魔法技能が、どの魔法戦闘技能に1番近いかを探れば、自ずと魔法戦闘における自分の立ち位置、役割が見えるいうこっちゃ」
「そういうことね。〔魔法楽士〕も修得する精霊付与魔法は、特に身体的感覚と結びつきやすく、魔法の想像図も簡略化しやすいから、激しい動作をしていても使えるわ。加えて魔法に込める魔力量や精霊量によって、魔法的効力の増減幅が相当ある。戦闘型前衛系魔法学科に必須であることからも分かるとおり、舞子の戦闘における立ち位置は基本的に前衛。接近戦には持って来いの魔法術式を修得してるのよ?」
「せやで。使い方を工夫することで、攻撃魔法や結界魔法とかの、他の魔法術式のお株を奪う効力も具現化できよる。極めれば相当戦闘に使える魔法術式やねん、付与魔法は」
勇子の言葉を捕捉するように、メイアが口を開く。
「あ、でも一応言っておくと限度はあるのよ? 魔法の効力射程や効力範囲は、付与魔法より攻撃魔法の方が優れているし、結界魔法には一切の物理的干渉を無効化する特性があるから、効力が拮抗した時の防御力では、付与魔法が一歩劣るわ。それはさすがに知ってるでしょう?」
舞子はメイアの説明を聞いて、沈黙を返した。目が物凄く泳いでいる。
「えーと、授業で聞いたことはあるんですけど、詳しく知ってるかと言われると、その」
「……心配だから一応説明しとくわね? 付与魔法の魔法力場は伸長や収縮、集束や拡散が、修練によって自由に行えるけど、魔法力場の伸長と拡散については、その効力が及ぶ距離の限界が約30m、範囲の限界が半径15m程度と言われているわ」
「この限界域については、魔法力場を歌や演奏に乗せて拡散し、効力は低いけど広範囲に付与魔法を伝播させるっちゅう、〔魔法楽士〕の舞子の方がよう知っとるやろ?」
「あ、はい。魔法力場を認識する、人間の演算能力や空間把握能力の限界らしいですが、確かに魔法力場を伸ばしたり拡げたりする長さや範囲に限界があるのは、私も知ってます。限界以上に力場を伸ばしたり、拡げたりしようとすると、力場が霧散してしまうんですよね?」
「せや。そのせいで魔法の効力を発揮できる距離や面積では、付与魔法はどうしても攻撃魔法に一歩劣る。攻撃魔法は、どんだけ効力射程が短い魔法弾でも100mくらい先から余裕で狙撃できるし、攻撃できる面積も広い。魔法の射程や効力が及ぶ範囲では、とても付与魔法は攻撃魔法を超えられへん」
「次に結界魔法に劣る点だけれど、魔法術式の別を問わず、どの魔法でも同等以上の効力を持つ魔法的干渉を受けると、一時的に効力が相殺、貫通されてしまうことは知ってるわよね?」
「はい、さっきの模擬戦でも実感してますから。付与魔法の魔法力場の場合だと、同等かそれ以上の魔法的効力を持つ、攻撃魔法の魔法弾や結界魔法の魔法防壁、同じ付与魔法の魔法力場とかと衝突した時に、力場の効力を上回った分の魔法的効力や物理的干渉が、力場を超えて来ますよね? 手も痛かったですし」
「そうよ。魔法の一時的相殺、それはつまり、魔法の効力が一瞬消えるということと同義。それじゃあ少し考えてみて。体重1tの魔獣が付与魔法を身に纏い、ある魔法士に突進したとね? 魔法士は自分の身を守るため、付与魔法か結界魔法で防御するわ。この時、もし魔法士の使った魔法の効力と、魔獣の使った付与魔法の効力が同等だったとすると?」
舞子が一瞬考え込み、口を開く。
「結界魔法の場合は魔法的効力の特性上、魔法的干渉と物理的干渉の双方を無力化しますよね? 一時的に相殺されて魔法防壁が消える場合でも、魔獣側の纏う魔法力場は消え、突進も消える間際の魔法防壁に堰き止められて、その場で一度は止まる筈です。一方の付与魔法の場合は……はっ!」
「気付いたやろ? 付与魔法の魔法力場は防御専門やあらへん。使い方によって身を守れるってだけや。同程度の効力を持つ魔法的干渉とぶつかれば、魔法力場は相殺されて一瞬効力が消えてるのと同じ状態に陥る。それはつまり」
「魔獣の突進攻撃に宿る魔法攻撃力は無力化できるけど、物理攻撃力はそのまま受けるということよ。魔法力場は肌身に接しているから、この場合の物理的干渉、突進の衝突力は、魔法士にとって回避不能と言えるわね?」
「……付与魔法を使って防御した場合、もし魔法的効力が魔獣側と同じであれば、単純計算で1t×突進速度分の物理的衝撃を、魔法士は受けるわけですか。車にはねられるのと同じですよね? うわぁー……今聞いててよかったです!」
「分かってくれたようで安心したわ。付与魔法を使った魔法防御は、あくまで魔法的干渉を優先して減衰、無力化するモノであり、効力に余裕がある場合にのみ、魔法的干渉に付随する物理的干渉も減衰させ、無力化するの」
「その点、結界魔法の魔法防壁は、魔法的干渉と物理的干渉を最初から同時に減衰、無力化させる。魔法的干渉に付随する物理的干渉をまずは無力化した上で、魔法的干渉も無力化、減衰させるわけやねん。同等以上の効力を持った魔法がぶつかり合った時ほど、結界魔法と付与魔法の差が出てきよるんよ」
「たとえ魔法防壁を突破されても、物理的干渉は確実に無力化し、魔法的干渉もできる限り減衰させる結界魔法に対して、付与魔法は……」
「魔法力場を突破された瞬間、減衰した魔法的干渉と全く減衰してへん物理的干渉がほぼ同時に迫って来るちゅうわけや。この違いは絶対憶えときや? デカい魔獣と戦う時は、これ分かってへんとホンマに死ぬで?」
「了解です。付与魔法で魔法的干渉に付随する物理的干渉まで減衰させ、無力化するためには、常に自分の付与魔法の効力が、魔法的干渉を確実に上回っている必要があるっていうことですよね?」
「そうよ。そのために、2重3重の付与魔法の重ねがけだったり、精霊融合による効力の倍加だったり、質の良い防具型魔法具の装備が行われるんだからね」
「はい!」
舞子の瞳が理解の色を宿したのを見て、勇子とメイアはふっと笑みを浮かべた。
「付与魔法の欠点の方へ話が逸れたけど、裏を返せばその欠点さえどうにかしたら、付与魔法は攻撃魔法としても結界魔法としても使えるいうこっちゃ。その汎用性の高さは、まさに戦闘用の魔法術式と言えるわ」
「そうね。私個人としては、その戦闘用の魔法術式である付与魔法を、戦闘以外にあえて使ってる〔魔法楽士〕が、異端という気もするわ」
「あはは、異端ですか……」
舞子が、苦笑して少し肩を落とした。その舞子を励ますように、勇子が肩を叩いて言う。
「まあまあ、異端でもええやんか? 単純に魔法戦闘での適性を見れば、〔魔法楽士〕は他の限定型や生産型の魔法学科より、よっぽど高いねんし。舞子にとってはそっちの方がええやろ?」
「確かに。使い方が違うとはいえ、〔魔法楽士〕は付与魔法を修得し、身体もよく動かすわけだから、私の〔魔工士〕学科より戦闘適性が高いわね」
「ふふふ、お2人とも、気を遣ってくださって、ありがとうございます」
2人の気遣いを感じ、舞子が嬉しそうに笑った。
メイアの口から〔魔工士〕という言葉を聞いて、ふと思い出したのか、舞子がメイアに問いかける。
「……そう言えば、〔魔工士〕と聞いて思ったんですが、メイアさんはどうして【魔狼】小隊に入ってるんですか? 〔魔工士〕は普通、小隊に入りませんよね? 収入面でも特に入る必要がありませんし」
〔魔工士〕学科を修了した魔法士は通常、その実力・力量を問わず、学科魔法士資格を取得すると同時に、企業や研究所に雇用のお誘いを受けるため、余程の物好き以外は、自営業者として依頼所に登録する者がおらず、当然特定の小隊に入る者もごく僅かであった。
舞子が気にするのも当たり前である。
舞子に問われたメイアは困ったように笑い、照れつつ言った。
「えーと、まあ色々と理由はあるんだけれど。1番の理由は……恩返しかしらね?」
「恩返し?」
「ええ。私も今の舞子と同じように、魔法士育成学校の自分の所属する魔法学科で、一部の魔法予修者達からしつこく嫌がらせを受けてて、命彦達に助けられたのよ。ね、勇子?」
「いやあ、助けたっちゅうか、ウチは好きに暴れただけっちゅうか……学校の空気を濁らせるクズを、単にシメただけやしね? 命彦も多分、メイアを助けたとか思ってへんのんちゃう? てかあのアホ、随分前からメイアの腕を狙ってて、早くウチの会社で雇いたいとか言うてたからね? メイアへの嫌がらせを都合よく利用したとも言えるわ」
「ふふふ、そうね。上手いこと私も命彦の言葉に踊らされてしまったわ。……でも、今も感謝はしてるし、恩も感じてる。だから、小隊に入って恩返しをしてるのよ」
「命彦には秘密にしいや、メイア。そういうこと言うたら、あいつ調子に乗って、タダで色々魔法機械を作れって言ってくんで?」
「それは困るわね。舞子も、これは私達の秘密にしましょうか?」
「ふふふ、はい。詳しいことはまたの機会に聞かせてくださいね?」
「ええ。機会があったらね?」
女子同士の秘密を作ったことで、舞子はメイア達への親しみが増したことを感じていた。




