表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノイズオブオーパーツ   作者: 右回来斗
2/2

第2話「興味と恐怖と戦闘服」

第2話「興味と恐怖と戦闘服」


1


足が棒になりそう。だがならない。なんでだ。

最近どんどんヘタレになりつつあると言われている俺はそう感じていた。

俺は今、放課後にも関わらず山を登っていた。

「ったく………運動不足だってのに…」

誰に言うともなく、ただぼやく。


腹が減った。

俺はそうも感じていた。

出発する前に何か食べてくれば良かった。

何故今このような後悔の念を抱かなければならないかというと、あの天才ハッピーが俺に、放課後にこの山に来いと言ったからだ。

だが放課後のいつ、山のどこに行けばいいのかまで言わなかったのは事実だ。

出来るだけ早く行こうと思い、帰った後すぐ普段着に着替えて出たのだ。

「まあでもデブ抑制にはなるか…」

大きくはないが脂肪が付いている自分の腹をつまみながら、俺はさらに呟く。

「山のどこだよ…頂上?まさか麓じゃないよな?」

つくづく独り言の多いやつだ。と自分では思っているが、勝手に不安の言葉が出てくる。

………と。


「やあタク!やっときたね!」

と声が聞こえた。

朝以降は全く話していなかったので、ちょっとした懐かしい響きとなりつつあるその声の主は、やはりハッピーだった。

正直言うと……………………………びっくりした。

今思うと愚鈍極まりないが、山を指さすのだから、頂上か、もしくはここまで登ってきているのでそうならいやだったが麓だと思い込んでいた。

まさか……こんなにど真ん中だったとは……。

本当にど真ん中だ。全部で7号あるこの山の先ほど3号目を登ってきたところだ。

「ハッピー。こんなところに呼び出して何の用なんだ?」

多少自分を笑いながら、俺は言った。

そして、ハッピーはこう答えた。

「手伝って欲しい仕事があってね…既に他の方々も配置についているんだけど…」

俺は全く理解できなかった。

「えっと…なんの話をしてるんだ?」

「とにかくついてきなよ」

そう言って、ハッピーは手招きした。


2


ハッピーが俺を連れて来たのはさらに山の深いところだった。

別にここまで来なきゃいけないならハッピーは先程の場所で俺を待たなきゃ良かったのに…と思いながら足を進める。

「…………ここら辺……だね…」

突然ハッピーが呟いた。

ハッピーは先程から黙っていたので、俺は少し驚かされた。

「何がここら辺なんだ?」

と、俺が聞いたその時………………


ドーン!!


爆発にも似た音がすぐ近くから聞こえた。

「な…なんだ!?」

驚いた声を上げた俺に帰って来た答えは…

「あ、間違えた。場所もうちょい先だ」

だった。

ハッピーはいつもと変わらぬ口調で言う。

そしてハッピーは駆け出した。

「ちょ…おい待てよっ!?」

激しい音に圧倒され、自分がするべきことがよくわかっていなかった俺は、とりあえずハッピーについて行くしかなかった。

そこにあったものは…


『狩り』というのはこういうものなのではないだろうか、と思った。

何故最初にそう思ったかはわからない。

目の前の光景はもっと、こう、驚くべきことの宝石箱のようだったというのに。

その驚くべきこととは、例えば、同じような服を着た8人程の人達が、近未来を描いた映画に登場するような武器を使って、とてもこの世のものとは思えない真っ黒な化け物と激闘していること、等だろうか。

「これ……………は………?」

目の前の光景があまりにも現実離れし過ぎていて、俺は絶句する。

俺は何を見せられているのだろうか。

とにかく、見ない方が良いもののような気がした。

一度足を踏み入れれば、もう二度と戻れないような…。


化け物が、咆哮した。

激しい爆音が響きわたるが、不思議と町まで聞こえている感じはない。

そして、化け物はその大きな尾を地面に叩きつける。

戦闘服の1人がそれを余裕を持って躱す。

尾は地面に少しの溝を作った。

躱した戦闘服とは別の人間が、今度は化け物の尾に飛び乗り、そしてそのまま頭部へと信じられない動きで駆け上がる。

そして、その身体を化け物の頭部から飛び上がらせ、クルクルと前方に回転させた。

そして、ちょうど人間の眼が化け物を捉える位置に来た時、伸ばした腕には……………銃が握られていた。

バシュウウウウウン!

実際に音がなったかはわからない。ただ、俺が正確にわかったのは、銃の先端から突き刺すような閃光が放たれ、化け物の頭部を撃ち抜いたという事実だけだった。

化け物は断末魔というには寂しすぎる、弱々しい声を上げ、その真っ黒な身体を地面に寝かせる。

そして、その直後、化け物の身体から破裂するように『黒色』が飛び出し、天にみ舞い散った。


数分間…おそらく数時間ではなかったと思う。俺はボーッとしていた。

そして気が付いた瞬間、別の感情が俺を襲った。

何故ハッピーは俺にこんなものを見せたのだろうか。

化け物と人間の戦いなんかを…。

俺はこれから何を手伝わされるんだ?

探偵助手だったというのは知っていたが、ハッピーはどんな世界で生きているんだ?

恐怖や不安といった諸々の負の感情が、俺の脳味噌の中をマッハの速さで飛び交った。

「……酷い顔してるじゃん」

隣のハッピーが俺の顔を覗き込み言う。

「まさか『あれ』のエサにしようなんて思ってないよ」

いつもの口調のはずなのに、全く別のものに聞こえる。

「まあとりあえず今現場を見てもらったし、次、見てもらいたい場所があるから早く行こう。」

「無理…」

最初の『無理』は意識していったわけではなかった。

だが、最初のをいった瞬間、俺の中にあった無数の『関わりたくない』が口から溢れ出た。

「………無理無理無理無理無理無理無理無理!!!マジで!無理だからっ!!」

気が一瞬にして動転した俺は、狂ったように叫んだ。

「いやまだちゃんと説明してな…」

「いや!もう見た感じわかるから!これあれじゃん!下手したら命はないってやつじゃん!」

「いやだから…」

「マジで無理!もう本っ当にムリっ!!」

「落ち着け!タク!!」

「いやだいやだもうほんとうにまじでやめてかかわりたくないからねえあきらめておれはおれのことはたのむからねえ!」

「タク…」

ハッピーは頭を抱えた。


そのまま20分ぐらい叫び続けたらしい。

ひとしきり叫ぶと、何故か安心してしまった。

恐怖がなくなったわけではないが、このまま猛ダッシュで逃げても、ハッピーに追いつかれる気がするし、抵抗しても無駄だと俺は判断していた。

一種の切羽詰まった状態だ。

…何故か安心しているんだが…。

「とりあえず落ち着いたね」

叫び疲れて息が上がっていた俺に、ハッピーは「やっと終わった」と言うかのような声で言う。

「………………俺を……どうするつもりだ?」

「何だよ…友達としての信頼はもうないのかい?」

「あんなの見せられたらそんなん無くすわ…」

「見せる順序間違えたかな…」

「そういう話じゃねえ」

少し気の抜けたような会話をした後、ハッピーは

「じゃあ、落ち着いたところで次行くか」

と言った。

冗談じゃない。俺はどうなるのか、と聞いているのに、それの答えもないままついていけるか。

俺のその思考を読んだように、ハッピーはこう続ける。

「君に手伝ってもらいたいことはそこにある。それほど危険じゃないよ。………………………多分。」

最後の多分が気になったが、今はついて行くより他になさそうだ。というのは俺にも伝わった。


3


そこは、山の麓だった。結局は麓なのか、と俺は思った。

しかし、どこを見回してみても、先程のような化け物や戦闘服の人間はいない。

「安心が顔に出てるねタク」

そう言われた俺は、その言葉に反応するでもなく、表情をそのままにして(もしかしたら変わっていたかもしれないが)ハッピーにこう言った。

「で、次はどこなんだ?」

「お?まさか興味出てきた?」

そう、よく考えると、先程の体験は俺の人生を揺るがすものなのだろうが、もしかすると世界の新事実の一端に触れたのかもしれないのだ。

そう考えると、恐怖が消えるわけでもないが、何というか、『怖いもの見たさ』なのかもしれないものがこみ上げる。

「さてとーじゃあ入ろっか」

ハッピーはそう言って空に手を伸ばした。

「お前何言ってんだ?」

周りを見渡しても、建物らしきものはない。

…と考えていたが、ハッピーが空中でタブレット端末のロックを解除するような動作をすると、何と、地面に階段が現れた。

「わかった。もう意味不明だ」

完全に矛盾したセリフを言った俺は、別に驚いていないわけではなかった。

だがもう驚きの連続過ぎて、もはや慣れてしまったのかもしれない。

ハッピーはこちらを見て、フフと笑うと、階段を降り始めた。

俺もついて行くべきと判断し、ハッピーの後ろを追う。

「タク。剣道はまだやっているかい?」

ハッピーはいきなり聞いた。

「…えっ?剣…道?」

唐突でかつ日常的過ぎる質問に、ついさっきの階段よりも驚いた反応をしてしまった。

「剣道…あれは…なんていうか今は習ってないけど…なんでそんなこと聞くんだ?」

「なんとなくだよ」

「お前のなんとなくは一番信用できないと100年前から言われてる」

別に深い意味があるわけでもない言葉を話しながら、俺は今はほとんどやめてしまった剣を少し思い出す。

まだあの動きは出来るだろうか…。

そういえば先生、いや、師匠は基本しか教えてくれなかったな…。

「覚えているかい?」

ハッピーは俺に聞いた。

俺は剣道の話と認識し、

「どうだろうな…でも、身体は少しぐらい覚えてると思うけどな…」

一瞬寂しそうな表情をしたように見えた。ハッピーがだ。

だがハッピーはすぐに表情を戻し、こう続けた。

「あるよね。全然自分では覚えてないつもりだけど、身体が覚えてるってやつ。……………あ、そろそろだよ。」

そろそろ。ついに自分が今からどうなるのかが判明する。

そう思うと、何故か不安が少しずつ戻ってきた。

そしてハッピーは言った。


「ようこそ。ノイズオブオーパーツの秘密基地へ!」


第2話 END

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ