2.順番に加えていかないと、失敗しちゃいます。
おんなのひとが、おんなのこをみあげました。
「な、何をお望みでしょうか……?」
「そんなに警戒しないでよー。大したことじゃないって、私のマッチを『魔法のマッチ』にしてほしいだけ」
あかるくいわれて、おんなのひとは、きょとんとしました。
「『魔法のマッチ』……ですか?」
「そ。あなたに『願いが何でも叶うマッチ』だと認識してほしいの。あなたはこの世界を定義している深層意識統合体、あなたが『そうだ』と認識すれば、それはこの世界では事実となる。そうでしょ?」
おんなのひとは、ちょっとこまりました。
「それは、そうですが……。でも、『何でも』は不可能ですよ?」
「分かってる。あなたは神様じゃないもの。まあ、フツーの人からすれば神様だけど」
「まあ、今までは神と思われてきましたね」
「実際、神様みたいなもんだけどねー。でも、出来ないことはちゃんとある。だから、出来ることをしてもらいたいのよ」
「それが『魔法のマッチ』ですか?」
「ええ。出来る範囲で十分よ。それで何とか未来を変えてみせるから」
おんなのひと、またまたびっくり。
「未来をご存知なんですか!?」
「あー、うん、このままだと私、凍死確定なんだよねー」
「いや、まあ、それはそうでしょうけれど……何で確定だと知ってるんです?」
「いや、体験済みなんで」
「体験……って、まさか」
おんなのひとに、じっとみつめられて、おんなのこは、ちいさくバンザイしました。
「コレ、1回目の人生の繰り返しなのよね」
「繰り返しまでアリなんです!?」
「いや、私も初めてのケースよ!?」
「あなたが初体験ってあるんだ!?」
「驚くのソコ!?」
おんなのこにはじめておどろかれて、おんなのひとは、かえってあわててしまいました。
「いえ、意外だったもので……もう何でもアリな方に見えてましたから……」
「あなたが言うの、ソレ?」
おんなのこが、くすくすわらいました。つられて、おんなのひとも、ちょっとえがおになりました。
「ふふふっ、本当ですね」
「じゃあ、お願いできる?」
「分かりました。では、あなたに幸運を」
「ありがと。じゃあね」
わらいあってたら、またまっしろになって、おんなのこは、もとのところにいました。
「さて。試してみましょうか、っと」
おんなのこは、マッチをすりました。
シュッ。
「とりあえず、暖かい外套!」
とにかく、さむくてさむくてしかたがないのです。おんんなのこは、あたたかいふくを、マッチにおねがいしました。
ぽんっ。
マッチのひのなかから、ふくがでてきました。かわいくて、あたたかそうです。
でもね。
「って、小っさ!!」
てのひらにのっているふくをみて、おんなのこは、おもわずおおきなこえになりました。
おにんぎょうさんがきるふくみたいです。
とってもかわいいのに、ああ、ざんねん。
しかも、マッチがきえたら、ふくもきえてしまいました。
ああ、ざんねん、ざんねん。
そのとき、おんなのこのあたまのなかだけに、こえがきこえてきました。
(それはまあ、私が認識しても、あなた一人しか認めていないんですから……)
(そうよねー、多数決の原則だものね、統合体は――って、あなたまだいたの!?)
(というか、あなたが私を完全に認識しているものですから、つながったままになっているんですよ)
(あ、そっか。じゃなくて、もうちょっと何とかなんないの!?)
(ですから、あなた一人が認めている程度では、そのぐらいなんですよ)
おんなのこ、ちょっとかんがえこんでしまいました。
(ですから、『何でも』は不可能だと――)
(なら、認める人が増えればいいのよね?)
(え? ええ、まあ、その通りですけれど……)
「よし」
おんなのこは、ひとどおりにもどりました。
たくさんのひとがあるいています。それを、おんなのこが、じーっとみています。
じーーーっ。
(……あの?)
(誰に声をかけるかが問題なのよ、こういう時は……よし、あれだ!)
おんなのこがみつけたのは、おやこづれでした。ちいさなおんなのこがないていて、おかあさんがなぐさめています。
「あのお人形さんがほしかったんだもん……」
「だから、また今度ね? 今日は買えないけど、今度はかってあげるから」
ちいさなおんなのこは、なみだめで、ほっぺをふくらませています。おかあさんは、ちょっとこまっているみたい。
おんなのこは、マッチをすりました。
シュッ。
「光の蝶々っ」
ぽんっ。
おんなのこのちいさなこえで、ちょうちょがでてきました。
ひかりでできた、ふしぎなちょうちょです。
「さあ、お行き」
おんなのこにいわれて、ちょうちょがとんでいきます。
ひらひら、ひらひら。
ちいさなおんなのこのまわりで、ひらひらとんでいます。
「わあーーー」
「あら? 蝶々? こんな季節に?」
ちいさなおんなのこがなきやんで、おかあさんはほっとして、でもふしぎそう。
ちょうちょのあとをつけてきたおんなのこが、ひょこっとかおをだしました。
「うふふ、気に入った?」
「うん! とってもきれいーーあ、消えちゃった……」
おんなのこのマッチのひがきえて、ちょうちょもきえてしまいました。ちいさいおんなのこは、ざんねんそうに、うつむきました。
おんなのこが、えがおで、マッチをシュッ。
ちょうちょが、また、ひらひら、ひらひら。
「わあ! お姉ちゃんすごい! ちょうちょを出せるの!?」
「ううん、私じゃなくて、凄いのはこのマッチなの。『魔法のマッチ』なんだから」
「すっごーい!」
ちいさなおんなのこが、はしゃいだので、あるいていたひとたちも、おんなのこたちをみはじめました。
(視線が集まった、ここだ!)
おんなのこは、ひらりとまわって、かかとをならして、おおきくてをたたきました。
「さアさア! お急ぎの方もそうでない方も、ちょいとこちらをご注目あれ! はイ、向こうの方はお耳を拝借、手前の方はお目を拝借! なアにお時間お手間はとらせませんとも、何せ扱う物がマッチですから、所詮燃え尽きるまでの一瞬でございますれば!」
おんなのこの、とってもげんきなこえに、なんだなんだと、あるいていたひとまで、ちょっとたちどまりました。
(テキ屋でもやってたんですか?)
(いや、これは真似事)
(その割には、堂々たるものですが……)
(見習いのうちに刺されて死んじゃったからねー、59回目のときは)
(何だかブラックなコト多くありません!?)
(そんなことないって。半々、いや白4の黒6……やっぱ3の7、いや2の8かなー?)
(ほぼ黒!?)
(てへっ♪)
おんなのこ、せきばらいをひとつ。それから、おおきくいきをすって、つづけます。
「ただ、マッチといっても、そんじょそこらのマッチじゃアございません! 実はこのマッチ、みなさまの小さな願いを叶える『魔法のマッチ』でございます! おや、信じてない、信じていませんね? そりゃアそうでしょうとも、そんなの見たことも聞いたこともない、そりゃアごもっともというものです! ところが、これについちゃア見た方がいらっしゃるんです!」
そこで、おんなのこは、ちいさなおんなのこへ、手のひらをむけました。
「はい、こちらのお嬢様です! お嬢ちゃん、このマッチで見たのはなんだったかな?」
「ちょうちょ!」
「はい、この通り! おっと、お嬢様を嘘つき呼ばわりはいけませんよ? だって、ほらこの通り!」
おんなのこがマッチをシュッ。
ぽんっ。
ちょうちょが、ひらひら、ひらひら。さっきよりも、ほんのちょっとだけ、おおきくなっています。
ちいさなおんなのこが、おおよろこび。そして、みているひとたちから、すこしだけ、ほぉ、とこえがきこえました。
「はイご覧の通り! おっと、信じられない? まだまだ信じられない? そりゃアそうでしょうねエ、ごもっともごもっとも! では、そこの貴方!」
おんなのこが、わかいおんなのひとをゆびさしました。さっき、こえをあげたなかのひとりです。
「わ、私?」
「ええ貴方! ひとつ願いを言ってくださいな、おっと大きな物はご遠慮を、ややこしいこともご勘弁を! 何せ小さなマッチでございますれば、可愛らしいことで、そう、バラ一輪なんていかがです?」
「え、ええ、じゃあそれで……」
「ようござんすとも!」
おんなのこが、マッチをシュッ。
ぽんっ。
きれいなバラがでてきました。まっかで、とってもみずみずしいです。
「あら、本当に出た!」
「ね、嘘じゃアございませんでしょ? 」
わかいおんなのひとが、びっくりしました。ほかのひとたちから、また、ほぉ、とこえがあがります。さっきよりもおおくなりました。
「さアさア、いかがでございましょう? 嘘じゃアございませんでしょう? もっとも、マッチが消えてしまえば蝶々もバラも消えてしまう、夢幻の一時なんですが。おや、それでもまだ信じられない? ではひとつ華やかにいってみせましょう!」
おんなのこが、マッチをシュッ。
つづけて、シュッ、シュッ、シュッ。
ぽんっ、ぽぽぽんっ。
マッチから、ちいさなひかりが、ひゅるるるっとよぞらへあがっていきます。
ぱーん、ぱぱぱーん。
みんなのあたまのうえで、ひかりがはじけました。
はなびです。ちいさいけれど、きれいなひかりのはな。
あつまったひとたちが、うえをみながら、おおーとこえをあげました。
「さアさア、続けて参りますよ! 一時の夢をご堪能あれ!」
おんなのこ、マッチをシュシュシュシュシュシュッ。
ひゅるるるるるる、ぱぱぱぱぱーん。
よぞらに、どんどんはながさきます。さっきよりもいろがついて、あか、あお、きいろと、とってもきれい。
さいごのはなびが、どーんとおおきくさいて、みんながはくしゅしました。
ぱちぱち、ぱちぱち。
「ありがとうございます、ありがとうございます! さアいかがでございましょう? この『魔法のマッチ』、本当なら結構な貴重品ではございますがこの年の暮れ、皆様の新しい年をお祝いする意味を込めて1本銀貨1枚、いや銅貨10枚、いやいや銅貨3枚でお譲りいたしましょうか! 数に限りもございますので、早いもの順でございますよ! さア買った買った!!」
「はっはっは! 面白い、買った! 記念に1本もらおう!」
「おう、俺にも1本くれ!」
「あたしにも!」
「俺は子供の土産に3本!」
みんな、おんなのこへとあつまって、つぎつぎとマッチをかっていきます。
あっというまにたくさんうれて、おんなのこのポケットは、ちいさいおかねでいっぱいになりました。
マッチはまだありましたが、おんなのこはのこりをかくして、うりきれですといって、おしまいにしました。
はじめのちいさなおんなのこにてをふって、おんなのこは、いえにかえることにしました。
(……ひとつ、言っていいですか?)
(何?)
(まっっったく、子供らしくありませんでした)
(だよねー。なんかごめん)
おんなのこ、あたまをぽりぽりかきました。
いえにかえったおんなのこは、おとうさんにおかねをわたしました。たくさんだとあやしまれるので、すくなめにしたのですが、それでもいつもよりちょっとおおかったので、なぐられずにすみました。
つぎのひのあさ、おんなのこは、あったまろうとして、マッチにひをつけました。
そして、ちいさくいいました。
「……やば。ミスったみたい」