1.下ごしらえって、とっても大切。
むかしむかし、おおみそかのよるのことです。
ゆきが、ずっとふっていました。
こんこん、こんこん。
そんなまちのなかを、おんなのこがあるいています。
くたびれたふくで、もっているかごには、マッチがたくさんはいっています。
おんなのこは、なにかをさがしているみたいです。
きょろきょろ、きょろきょろ。
あっちをみたり、こっちをみたり。
そして、くらくて、だれもいないところで、おんなのこは、マッチをつちに、つきさしはじめました。
くっつけてならべるように、マッチをさしていきます。
おとうさんにわたされたマッチは、とってもたくさん。だから、なくなるしんぱいは、これっぽっちもありません。
できたのは、もようみたいにならんだマッチたち。
びっくりするほど、ややこしいもようです。
「さて、ここからが本番。迷っちゃダメよ、私」
おんなのこは、マッチにひをつけました。
ひは、あっというまに、つぎつぎともえていきます。
ほのおのもようの、できあがり。
ゆらゆら、ゆらゆら。
くらいなかで、いやというぐらい、めにとびこんできます。
おんなのこが、じっとみています。
そのめは、まるっきり、いちばでうられているさかなのめ。
みているのか、みていないのか、わかりません。
これっぽっちも、うごきません。
さかなのようなめに、ほのおのもようが、うつっています。
そのまんなかに、ぽうっと、ひかりがともりました。
もえているマッチとは、べつのひかり。
そのひかりが、マッチのほのおを、のみこみます。
どんどん、ひろがります。
どんどん、どんどん。
どんどん、どんどん、どんどん。
そして、ひかりで、いっぱいになりました。
おんなのこは、まっしろいところに、うかんでいました。
おんなのこは、おおよろこび。
「やった! 成功!」
おんなのこに、だれかがはなしかけました。
「狙ってここに来れる人がいるなんて……」
おんなのこがふりかえると、おんなのひとがいました。
くたびれたふくの、やさしそうなおんなのひとです。
おんなのこは、ばつがわるそうに、ちいさくわらいました。
「うーん、その姿で来るかぁ」
あんまりおどろいていません。
おんなのひとのほうが、すこしおどろきました。
「あら、驚かないの?」
「私の一番印象深い人の姿に見えているだけでしょ? 『世界の意思』さん?」
おんなのひとが、こんどは、ほんとうにびっくり。
「私のことをご存知なの?」
「何度か会ってるから。あ、この世界じゃなくて、だけれど」
「この世界……って? え?」
「前前前世では、高次元意識生命体で『覚者』だったから。『世界の意思』、世界を定義している深層意識統合体にアクセスする方法は知っているの。というか、思い出せてよかったわー」
おんなのこがなにをいってるのか、おんなのひとには、ちんぷんかんぷん。
「えっと……?」
「あー、そうねぇ、平たく言うと、私は生まれ変わって来たのよ。別の世界から」
「そんなのアリですか!?」
「アリよ? 直前の世界じゃあ、小説のネタの鉄板だったのよ?」
「嘘ぉ!?」
おんなのひと、すわりこんでがっくり。そして、ひょこっとかおをあげて、いいました。
「直前って、何回かご経験が?」
「うん」
「ちなみに、何回ほど?」
「そんなに多くは……」
おんなのこは、ちょっとだけ、かんがえました。
「えっと、今回で73回目?」
「多いですねっ!?」
「そう? 意識生命体の頃は、3桁以上、4桁のツワモノもいたわよ?」
「まさかの桁違いっ!?」
「だから、私ぐらいは別に珍しくはないと思うけど。まあ、前世の記憶を思い出せるかどうかは運次第だからねー。今回は運が良かったなー」
あっさりいわれて、おんなのひとは、ぽかーん。でも、なんとかえがおになって、いいました。
「そ、それは、ええっと、良かったです? ね」
「ショック療法って効果あるのねぇ。ちょっと痛かったけど」
おんなのこが、あたまをさすったので、おんなのひとは、しんぱいそうにいいました。
「あら、お怪我でも?」
「お父さんにちょっと殴られたんで」
「殴られた!?」
「あ、大丈夫よ? 薄っぺらい安物のビンだったから」
「それ凶器ですよね!?」
おんなのひと、びっくりです。
「いや、ビンだから割れてくれて助かったのよー。あれが拳骨だったら、首の骨がイッてたかも?」
「ちっともちょっとじゃないっ!?」
おんなのひと、もっとびっくりです。
おんなのこは、はっはっはとわらっています。
「大げさだねー。結局あたまが少し裂けた程度だったし? それももう縫っといたし? 大丈夫大丈夫」
「……縫ったって、ご自分で?」
「うん。棚に裁縫セットがあったし」
「裁縫セットて!」
「戦場では物資がないんだから、ある物を利用するのよ? お父さんのお酒で消毒も出来たし」
「戦場が比較対照です!?」
「45回前は軍医で、19回前は重傷の負傷兵だったから。縫う方も縫われる方も経験済みです♪」
「まさかの両方!?」
おんなのこは、おどけて、ぺろっとしたをだしました。
おんなのひと、ずっとびっくりです。
「ほ、本当に経験が豊富なんですね……」
「まーねー。そこそこ良い目にも、そこそこ悪い目にも逢ってきたからねー。しっかし、あなたがその姿に見えるってことは、私にも可愛いところが残ってたのねぇ」
おんなのひとが、くびをかしげました。
「そういえば、誰に見えてるんですか?」
「えっと、お母さんの姿なのよね」
おんなのこが、はずかしそうにいいました。
おんなのひとが、ほっとしました。
「ああ。良いお母さんだったんですね?」
「というか、可愛い人だったよー。マッチ売って帰ったら真っ先に迎えてくれてねー」
「うんうん」
「売り上げを取り上げてネコババしてねー」
「うんう――って、はいぃっ!?」
「貯めたヘソクリと家の現金持って、男と逃げたのよねー」
「ちょっ!? ちっとも可愛くないですよ!?」
「えー? 女なら不思議じゃないっしょ? その程度、可愛いもんじゃん」
おんなのひと、ピーンときました。
「……経験がおありなんです?」
「おっ、鋭いね? うん、まあ、イロイロやらかしたことが、ねー」
「何をやらかしたんですか……」
おんなのこが、めをそらしました。もじもじとしています。
「……いやぁ、前にね、ちょっとお縄になっちゃったことが、ね?」
「お縄にって、逮捕されたんですか? まさか凶悪犯罪者!?」
「いやいや、懲役刑で済んだから! ちゃんと刑に服したから!」
あわてるおんなのこをじっとみて、おんなのひとはためいきをつきました。
「……そうなんですか?」
「うんうん。まあ、懲役600年で、監獄島から脱獄出来なかっただけなんだけどさー」
「600年て!」
「死刑のない国だったから、恩赦があっても出られないようにするしかなかったんだよねー」
「それ実質最高刑ですよね!?」
「まあ、アレはそう判決されるわよねー。私も、34回目に最高裁裁判官だったときに同じような判決したもん」
「両方経験済み再び!?」
「まだ転生3回目だったから。若かりし頃の黒歴史だよー」
「若さが年齢じゃなくて転生回数になってる!?」
またはっはっはとわらうおんなのこに、おんなのひとはがっくりしました。
「まあ、長く生きてれば色々なことがあるってことよ?」
「転生回数でカウントするんじゃなくって、生きるって……あれ? 生きるって、何なんでしょう……?」
おんなのひとのあたまがぐるぐるしはじめたので、おんなのこが、ぱぁん、と、てをたたきました。
「はいはい、哲学的命題は後で、ゆーっくり考えて。私、あなたにお願いがあって来たんだから」