短編小説「黒戦士は黒ビキニに迷わない」
「どう致しましょうかね……」
ニュー・紫峰市のビジネス街、メイド服を着たその女性はそう呟いていた。
胸がJカップという爆乳サイズで、肩や胸元が大きく露出したメイド服を着ているその女性、ユシー・バカンスシェイドはと言うと、なかなか来ない増援に頭を悩ませていた。
「ソープシェイド様達はどこに行ったのでしょう? 今から作戦を開始しようと思っていたのですが、仕方ありませんと思います。早速、行動に移しましょうか。
まぁ、わたくしは他の怪人の皆々様と違いまして、特に怪人と思われるようなところもありませんので、秘密裏に行動せよという命はすぐに完了致しますでしょう」
そう言ってバカンスシェイドは背中から生えているヤシの木を揺らしながら、"秘密裏に"行動を開始し始めていた。
「では、行動を開始いたしましょうかね」
☆
「暑いわねぇ……」
ニュウ・ギガレンジャーの1人、須黒梨花はいきなり強くなった初夏の日差しを日除け帽子で遮りながら、ニュー・紫峰市の道を歩いていた。
(ちょっと暑すぎない……? それに皆の様子も少し変なような?)
最近、地球温暖化の話は良くあるけれども、それにしてはまるで夏のような猛暑である。気象ニュースでは5月なのに35℃を越えていると言われてるし、街中では水着を着た男性や女性が楽しそうにはしゃいでいる。本当に常夏がやって来たみたいで……。
「このヤシの木だって……本当にリアルで……って、あれ?」
梨花はホログラムか、もしくは人工物かなにかだと思っていたのである。けれども手にした感触としては本当に天然のもので……これってもしかして?
「こんなヤシの木がいつの間にか生えるなんてあり得ない……わよね? それじゃあ、これもユシーモンスターの仕業、なのかな?」
そう考えると、この暑さや人々の浮かれ具合も、類似性があるように思えてくる。
「ヤシの木は……あっちの方が多いわね」
梨花はヤシの木の成長が進む方向を見つけると、そのままそちらの方向へと走り出していた。相手がどんな事を考えているか分からないし、これが何かの作戦なのかもしれないけれども、今はそんな事よりこれをなんとかしたいと言う気持ちの方が私は強かった。
「お姉さんが皆を守る……!」
☆
そして私、須黒梨花が走り続けていると、
「見つけた!」
明らかに普通の女性ではない女性を発見。露出度の高いメイド服や胸はJカップと大きいし、なにより……普通の女性は背中からヤシの木を生やしたりはしていない! 私は確信して彼女を呼び止める。
「そこの女の人!」
「……はい、わたくしの事でしょうか?」
と、私が呼び止めると、彼女はこちらを振り向く。
「あの……失礼ですが、どちら様でしょうか? わたくしの記憶では、あなた様はご存じないのですが……」
「これでも……かしら?」
私はそう言って、シフトフォンに『B』のメモリを入れる。そしてボタンを押すと共に、私の身体が変身のための白い光に包まれていく。
「返信変身、ギガブラック!」
そして身長が縮む代わりに、胸の大きさがさらにボンッと膨らみを増していた。活動しやすい黒い服装に変わっていて、さらに黒いシャボン銃、シャドーバブルが私の手にすっぽりと収まる。そんなニュウ・ギガブラックの私の姿を見ても、ヤシの木を生やしたメイド服の彼女はキョトンとした顔でこちらを見ていた。
「まぁ、最近お噂のギガレンジャー様でしたか。けれどもわたくし様はごく普通のメイドでありますので、そんな怪人ではありませんよ? 見当違い、でございますよ?」
「いい加減な事を……!」
私がそう言って、シャボン銃に『B』のメモリを入れると、必殺技がチャージされていく。
『バブル!』
「とりあえず、あなたが何を考えているか分からないですけれども、ナッノ博士に見て貰えれば分かるでしょう! 喰らえ、バブルウイップ!」
シャドーバブルから放たれた多くの泡はと言うと、メイド服の彼女へと向かって行く。
ニュウ・ギガブラックの私が放った必殺技バブルウイップは多くの泡で敵を包み込む技であり、敵を動けなくするのに使える技。これで捕まえて時間を稼いでいる内に、ナッノ博士に連絡して……私はそう思って、シフトフォンで連絡しようと思ったのですが……
「あ、あれ?」
私の放ったバブルウイップは確かにメイド服の彼女にぶつかったはずなのに、彼女は全くダメージを受けていない。それどころか、泡は彼女の身体をすり抜けている。
「穏便に済ませるつもりだったのですが、仕方ありませんね。行きますよ……」
そう言って彼女はスーッと息を吐きながら整えると、彼女の頭上から白く光る閃光が降り注いでいた。
(……閃光?)
「ひっさーつ、あ~ろ~波!」
そうしてメイド服の彼女の手から、真っ黄色のほんわかとした光が放たれていた。私は慌てて避けようとして、横に飛んだんですが、
(やはりこの身体、動き辛い!)
ギガレンジャーになると身体能力は上がるのだが、いつもと違う背丈だからこう言った突発的な事には弱いのである。
そのせいで、完全に避けきったと思ったはずなのに、私の足元にその真っ黄色の光が当たっていた。するとポンッ、と私の身体が白い煙に包まれる。
「ケホケホッ……何、これ? って、えぇぇぇ!?」
白い煙が晴れると、私は自分の姿に驚いていた。私の身体にさっきまで身に纏っていたのは黒いスーツだったはずなのに、今の私の格好は……
「……び、ビキニ?」
そう、水着。それもビキニだった。しかもマイクロと頭が付く。
トップは大事なところを隠しつつ身長と同じくらいの特大スイカカップを強調しており、ボトムは女の子の大事な部分をぎりぎり隠しているくらいの危ない感じ。変身しているから低身長もあいまって、なんだかとってもいけない感じに……。
「あらあら、避けられちゃいましたか。でしたら、もう一発させていただきましょうか」
「ちょっ……!?」
そう言いながらまたしてもさっきの光を撃とうとしているから、私は走って逃げだしていた。と言うよりも、攻撃が効かないから焦っていたのである。
(……は、速く電話! 電話をしないと!)
マイクロビキニは動き辛くて、それになにより色々と零れ落ちそうで迂闊に走れないのである。私は急いでナッノ博士に電話すると、2回ほどコールが鳴り響いたと思うとナッノ博士が電話に出てくれた。
「……も、もしもし? ナッノ博士?」
『今、ボクはこの夏の暑さをなんとかするために、佐美と一緒に沖杉の会社に居るんだが……どうかしたのかい?』
「そ、その……今回の原因と思われるユシーモンスター、バカンスシェイドと戦闘中なんです。でも、攻撃が効かなくて……」
『バカンスシェイド?! ホムラめ……厄介なのを出して来たな。
バカンスシェイドはちょっと特殊なユシーモンスターだよ。どこかにバーカンスと言う別個体の本体があって、それを破壊しないと倒せない厄介な相手だ。だから……その別個体がどこにあるか分からないんだけれども……』
「別個体……」
そう言えば、さっきの必殺技を出す際に、バカンスシェイドの頭上から白く光る閃光が来ていたような……。
「そ、そうです! 頭上から光が降り注いでいましたよ!」
『……だったら空中か。けど見えないって事は成層圏以上にあるのかもね。今持っている中で遠距離攻撃出来るメモリは、『S』……スナイプ。狙撃のメモリなんだけれども。
これは本人の腕と機械の性能を極限までに高めるメモリであって、成層圏以上までやろうとすると相当の腕と機材が……って、おい!』
バンッ! と、いきなり物凄い銃撃音がシフトフォンから聞こえたと思うと、
「うっ……! か、身体が……お茶がきちんと運べません……」
バカンスシェイドの身体がいきなり痺れをして、その身体から何か出ようとしている。恐らく新たな別個体を出そうとしているんだろうけれども、
「そうはいきません!」
私はそう言って、『M』、マリンのメモリを出してシャドーバブルの中に挿入する。
『マリン!』
狙いを敵であるバカンスシェイドに狙いをつけて、そのまま引き金を引くと大量の水圧と共にバカンスシェイドへと放たれる。
「マリン・ジェットスイーパー!」
そしてマリンシェイドは大量の海のような水量がバカンスシェイドを襲い、バカンスシェイドは目を回していた。
「……め、目が回りますぅ。た、助けて……ホムラ様~」
そしてバカンスシェイドは倒されて、私の格好もマイクロビキニから元の黒の戦士姿へと変わっていたのでした。
「……恐ろしい、敵、でしたね」
私は……そう言うので精一杯でした。
ちなみにナッノ博士に後で事情を聞いた所、あの時傍にいた沖杉家のメイドさんがいきなり『S』のメモリを取って、成層圏のバーカンスを撃ち抜いてくれたおかげで、助けてくれたみたいです。
ありがとう、メイドさん!
後で今が旬のふきの、ふきの煮物を持って行きますからね!
それを言ったら、
「普通、そう言う場合はクッキーとかケーキだろうが。だからお母さんとか呼ばれちゃうんじゃないですか?」
とナッノ博士に言われちゃうんだけれども……。それはまた別の話です。
ユシーモンスターNo.18
〇ユシー・バカンスシェイド
所属区分;溶解使徒ホムラの部下
使用体;実験体V-78『オヤスミ』、中休之宮憇
外見;肩や胸元が大きく露出したJカップの胸、背中からヤシの木を生やしている。
所見;『常夏』をイメージした女怪人で、自身は平凡で特に特徴がないと思っているみたい。能力としてはヤシの木を生やしたり、人を浮かれさせたり、水着にしたりと基本的にバカンス気分にさせるの能力の持ち主で、またバーカンスと呼ばれる別個体を破壊しないと倒せない特殊な怪人ですね。口調も仕事も丁寧で、奉仕精神に溢れています。By;文化者エージェント・ナッノ




