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流石は伝説の種族だったりする

「いらっしゃいま…… 随分、お疲れの様ですね」

「あー、まぁ、コッチの事情だから気にせんでくれ」


 出迎えてくれたデシレが、心配そうにこちらを覗き込んでくる。

 つい先程まで素材集めと金策に駆けずり回っていたので、その気疲れであって何か問題があった訳ではないのだが。マルガレーテから設備を増やすための資源として色々注文を受けたので、思ったより各エリアを回る羽目になったと言うだけの事だ。

 試練の海の攻略が始まれば、素材回収は二の次で先に進む事を優先する事になる。当然、金策などは出来ないので、今のうちに稼げるだけ稼ぐ必要があったと言うだけの話だが、それをデシレに言うのは躊躇われた。

 まあ、マルガレーテのアビリティレベルの問題もあるので、明日明後日で回復アイテムが揃うような事も無いとは思うが。その時になって「準備が出来ていません」という事態は避けたい。

 デシレも突っ込んだ事は聞いてこず、受付を済ませてそのまま部屋へと案内される。

 クラスチェンジして値段が上がった分、部屋も上階へと移っており、前より少しだけ時間が掛かる。歩いている間に、デシレの方から話しかけてきた。


「こんな事をお客様に聞くのもどうかとは思いますが…… 異邦人に受けの良いサービスって、どんなものですかね?」

「うん?」


 質問の意図を図りかねて、間抜けな返答をする。

 『異邦人に受けが良い』と言うのは当然、娼婦としての受けだろう。オズとしても、他人の性癖を把握しているわけではないので、微妙に返答に困る。どう答えた物か悩んでいると、デシレが言葉を続けた。


「例の新商売なんですけど、何をすれば良いか決めるのが難航しているらしくて。

現地民の顧客は望めないので、どうせなら異邦人相手に特化した方が良いだろう、という意見が出てるんですが」

「ああ、そっちの話か」


 先走って性癖の暴露をしないで良かったと思いつつも、とりあえず頭を切り替える。

 極論すれば、新商売のネタは何でも良いだろう。新商売の想定顧客である異邦人が望んでいるのはレベルダウンに伴うAPの再取得であって、サービスはオマケだ。彼女達には悪いが、それこそ何もせずに《エナジードレイン》だけ掛けてくれるのが一番ありがたいまである。

 とは言え、そんな商売が役所に許可を貰えるとも思えないので、最低限の体裁は整える必要があるのだろうが。


「この店は高級娼館だけあって店員の教育も行き届いてるし、横展開するならそれを活かせる商売が良いとは思うが。

そうだな…… メイド喫茶とか良いんじゃないか?」

「メイド喫茶、ですか?」


 デシレはメイド喫茶を知らないようだったので、説明してやる。

 と言っても、オズもメイド喫茶の何たるかを熟知している訳ではないため、本当にザックリとした説明でしかないが。どの道、《エナジードレイン》を行う必要がある以上、リアルのメイド喫茶と全く同じ業務形態にはならないだろうから、そこは問題あるまい。

 話を聞いたデシレが、首を傾げる。


「何と言うか…… それって、身分詐称になりませんかね?」

「芝居か、もしくはごっこ遊びみたいなもんだと思えば良いだろ。少なくとも、そこ勘違いする異邦人はまず居ないよ。

こっちに来る異邦人で、チヤホヤされるのが嫌いな奴ってのは相当珍しいからな。大抵は、綺麗所に(うやうや)しくサービスされるだけで財布の紐も緩むさ」

「そんなものですかね?」

「そんなもんだ。目の前に実例が居るだろうが」


 自分を指差して自信満々に答えれば、デシレも流石に反論出来ないようだった。

 そんな事を話している内に、部屋も前まで辿り着く。



 デシレのクラスチェンジに伴い、サービスの内容が格段にアップしている。

 その分、終わった後の凄いのだが。あと、ログアウトした後に色々片付ける際の死にたい感も凄い。

 それはさておき、メニュー画面から種族レベルが1になっている事を確認し、ついでに身体の具合を確かめる。家が広くなったのだからそっちでやれば良いのだが、何となく癖のようになっていた。

 ワサワサと羽を動かしている時に、そう言えばデシレに聞きたい事があったのを思い出す。


「そういや、聞きたい事があるんだが…… あー、答えたくなきゃそう言ってくれて良いんだが、お前さん、【飛行】アビリティって持ってる?」

「【飛行】ですか? クラスチェンジの際に取得したので、ありますけど」


 返ってきた答えに、思わず天を仰ぐ。

 デシレの翼はクラスチェンジ前と比べて明らかに大きくなっているので、【飛行】があっても全くおかしくはないのだが。ただ、同じ様に翼が生えたオズには【飛行】アビリティが取得出来ていないので、そこの差異はどこから来るのかよく分からない。

 いずれにせよ、あわよくば後天的に【飛行】を取得する方法が分かるんじゃないかという目論見は崩れたわけで、さてどうしたものか。

 こちらの落胆を察したのか、デシレが声を掛けてくる。


「ええと、【飛行】がどうかしましたか?」

「いや、見ての通り俺の方も羽が生えたは良いんだが、【飛行】は覚えてなくてな。覚える方法があったら、教えて貰えないかと思ったんだが」

「ああ、それなら何とかなるかも知れません」

「ん?」


 思わず聞き返す。

 デシレは、こちらの質問には答えず、中空を眺めている。恐らくは、メニューを弄っているのだろう。しばらく指を彷徨わせていたが、やがて目的の物を見つけたらしく何かの操作を行っていた。


「《ソウルリンク》…… あ、成功した」


 思わず不安になるような台詞と共に、デシレとオズの身体がボゥっと光る。赤い光はそこまで強くなく、程なくして消えた。


「ええと、メニューを確認してみて下さい」

「おう。お、おおー」


 言われてメニュー画面を確認すると、種族アビリティの項目に【飛行】Lv0が増えている。何気に、アビリティLv0と言うのは初めて見る表記だ。

 早速試してみたい誘惑に駆られるが、店内でそんな事をすれば出禁になりかねないので自制した。

 デシレが、効果の説明をしてくれる。


「ボクと眷属の間で、アビリティの遣り取りをするスキルです。今のようにボクのアビリティを貸し与えたり、逆にお客様のアビリティをボクが借りたり、といった感じですね」

「……滅茶苦茶強くないか?」

「今の所は一度に遣り取り出来るアビリティは一つだけですし、貸し与えてる間はボクのアビリティが使えなくなりますから、そうでもないのでは?」

「いやいや、追加料金払うから、ちょっと実験してみようぜ」


 と言う訳で、実験を開始する。

 まず、オズが持っている【料理】アビリティを、デシレに貸し与える。オズの【料理】がグレーアウトされ、デシレ側に【料理】Lv0が増えたのを確認してから、実験開始だ。

 【料理】アビリティは、料理に関わる行動をしている間少しずつ経験値が貯まるという仕様がある。これを利用したレベリング方法が、俗に『無限メレンゲ』と呼ばれる苦行だった。

 デシレが危なっかしい手つきでボウルの中の卵白を泡立てるのを、ジッと眺める。Lv0だけあって補正は働いていないようだが、問題はそこではない。程なくして、変化は現れた。


「あ、【料理】のレベルが上がりましたね」


 Lv0だけあって、レベルアップに必要な経験値はそう多くない。そう時間も掛からずに、デシレのアビリティレベルは上がった。

 その状態で、貸していたアビリティをオズに戻すとどうなるか。


「【料理】Lv1が残ったままになってますね……」

「俺の方は、【料理】が使えるようになってるな。

なるほど、伝説の悪魔が軍団作ったカラクリがコレか」


 AP無しでアビリティを取得出来るというのは、他の種族には無いアドバンテージだ。

 実際には相手を眷属化し、その上でアビリティの遣り取りをした後でレベル上げという手番を踏む必要があるが、逆に言えばその手番さえ踏めば、効率的にアビリティの収集が出来る。

 眷属側は再レベリングによるAP取得もあるので、それを考慮すれば悪魔側はアビリティ取得だけなら楽になるし、複数眷属がいればその効率は指数関数的に上がっていく事になる。眷属側も他の眷属のアビリティを悪魔経由で受け取れるわけで、メリットは大きい。

 デシレも、その事に気付いたようだ。


「もしかして、かなりトンデモなスキルですかね、これ」

「眷属が俺一人だと、そこまででもないだろ。それに、手間暇掛けてレベル1のアビリティ増やす旨味もそこまで無いし」


 実際、オズしか眷属の居ない現状ではそう遠くない内に頭打ちになるのは見えてるし、戦闘系のアビリティしか覚えていないオズと戦闘系のアビリティを必要としないデシレでは、そこまで旨味が無い。伝説の悪魔は因子をバラ撒いて眷属を増やしまくったそうだが、デシレにそれが出来るのかは不明だというのもある。

 アビリティもレベルを上げないとそこまで強くはないので、その手間も考えればそこまで短期的に戦力増強を見込めるようなスキルではないだろう。


「【飛行】はどうします?」

「店の中で飛ぶわけにはいかんし、そもそもアビリティの遣り取りが店的にどうなのかってのも確認する必要があるだろ。

……とりあえず、デートプラン選べるくらい金貯めるから、そんときまでにどうするか店長さんと決めといてくれ」

「分かりました」


 つい気になって実験してみたが、よくよく考えてみればメニューに無い事を勝手にやってるわけで、店としては面白くないだろう。

 通常の手段で覚えられないアビリティを覚えるというのは、それこそ金に換算出来ない価値があるわけで、話の種にちょいと貰い受けるというのも抵抗がある。そもそもそれを許可するのかどうかを含めて、店側で決めて貰わねばなるまい。

 下手をすれば悪魔目当ての客が店に押し寄せる事態になりかねないわけで、店長さんにその辺も吟味して貰うよう言い含めて、店を後にした。

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