表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/105

げに恐るべきは親心

 スータットの街を、ブラブラと散策する。

 ひとまずは回復アイテムの値段などを調べているのだが、やはりと言うかMP回復アイテムが結構馬鹿にならない値段する。

 より正確に言えば、オズが手数を魔法で補うスタイルのためバカスカMPを消費して戦う事になるので、それを賄えるようなアイテムとなると、どうしてもお高くなるのだ。

 フリーマーケットでプレイヤーの店も覗いてみたが、生産系のプレイヤーはどうしてもレベルの上がりが遅いので、効果の高いMP回復アイテムを作れる人間自体が少ない。

 そして、高レベルのプレイヤーは就職システムでNPCにお世話になっている人間が多いので、生産品がそちらに流れて、あまりフリーマーケットには回ってこないのだった。つまり、どうしたって金が掛かる。

 レベルドレイン代も上がっているので、それを考えると回復アイテムを潤沢に買い込むだけの余裕がない。風俗代のために攻略を諦めるというのはかなり駄目な思考だが、身体のパーツが色々増えた現状では、トーネックスよりもレベルドレインの方がオズにとって価値が高い。

 回り回って、結局はモチベーションの問題へと戻ってくる事になる。オズとて攻略をしたくない訳ではないが、急ぐ理由がトーネックスというのが気に入らない。

 さてどうしたものかと頭を捻っている所で、横合いから声を掛けられた。


「おや、オズさん。お久しぶりです」

「お、KNOWSONか。しばらくぶり」


 情報屋クランのKNOWSONが、こちらへ歩いてくる所だった。彼もクラスチェンジしたのか、体格がかなり変わっている。

 モグラ型の小型種族なのは相変わらずだが、腕がかなりごつくなっている。手指と爪がオズと同じ様に一体化して鉤爪状になっており、かなり攻撃的な印象を受けた。

 まあ、中身が変わった訳ではないので、相変わらず口調は穏やかだったが。


「何かお悩み事でしたら、相談に乗りますよ」

「半分愚痴になるんで申し訳ないが……」


 丁度良いので、事情をざっと説明する。

 KNOWSONもトーネックスの噂は把握しており、少しでも多くの情報が必要という意見は一致していた。ただ、クラスチェンジをしないとNPCがまともに情報を落としてくれないので、それも上手くいっていないようだ。

 一応、情報屋クランに協力してくれる人間のレベリングを手伝う事で、人手を増やしては居るのだが。漠然とした噂を元に情報を拾っていく必要があるため、どこから手を付けたら良いのかも分かっておらず、調査は難航しているそうだ。


「現状、効率の良い金策はトーネックスに集中してるので、オズさんにお勧め出来るような物は……」

「ま、そうなるわな。我が儘言ってる自覚はあるから、気にせんでくれ」


 トーネックスは現時点では最前線のプレイヤー拠点であり、効率の良い金策を求めるならそちらに情報が集中するのも当然ではある。

 港街なので、海のモンスター素材も需要はあるだろうし、そちらに卸せば金になるというのも道理ではあるのだ。オズの心情的に、あまりやりたくないと言うだけで。

 KNOWSONも強く勧める気は無いようで、代替案を提示してきた。


「回復アイテムが欲しいと言う事であれば、生産職に依頼するのが手っ取り早いかと。オズさんの知り合いにも、確かいらっしゃいましたよね?」

「居るには居るが、ジョージさん達は装備専門だし、ゲッコーは料理人だしな。薬となると微妙に門外漢なんで、ちと気が引ける」

「多分、今なら生産職は【錬金】のレベル上げに必死でしょうから、話を持って行けば受けてもらえると思いますよ」


 知らないアビリティが出てきたので、詳しく話を聞いてみる。

 【錬金】は生産アビリティの一種なのだが、これまであまり注目されなかったアビリティである。その理由が、【錬金】と言うのが「複数素材を組み合わせてちょっとだけ良い素材を作る」というものだからだ。

 勿論、【錬金】で出来上がった素材を加工すれば、元の素材をそのまま加工するより良い物が出来るのだが、複数素材を融合するという時点でコストが跳ね上がる。低レベルの【錬金】だと最終的に出来上がる物の性能にそこまで差がないので、余分に金を掛けてまで欲しがる人間というのが少ない。

 今までは攻略組のペースが速かった事もあり、【錬金】で素材を融合させるよりも次のエリアの素材を使う方が性能の高いアイテムを作れるため、コストに見合わないという事で敬遠されていたのだが。

 レベル30を越え高位のアイテムを作る段階になって、【錬金】の上位アビリティである【錬金術】がどの分野でもほぼ必須という事が判明したので、生産職は阿鼻叫喚になっているのだとか。


「【錬金術】の取得条件が、【錬金】および【無属性魔法】のアビリティレベル30と結構キツイので、生産職はレベル上げでアップアップしてます。

オズさんの欲しい効果の高いMP回復アイテムは無理でしょうけど、効果の低い物で良ければ、材料さえ用意すれば喜んで受けて貰えると思いますよ」

「【錬金】のレベル上げが必要なのは分かるが、MP回復アイテムは確か【調薬】が必要だろ? 余計なアビリティ取ってたら回り道じゃないか?」

「MP回復アイテムのレシピに【錬金】と【無属性魔法】の《マジックエンチャント》が含まれているので、【錬金術】を目指すなら一番手っ取り早いのがそれなんですよ。

大元の材料となる薬草類が、大量に手に入れるなら樹精の森のクエストくらいしか手段がないので、レベル30を越えたプレイヤーにとって頭痛の種だったりしますけど」


 樹精の森のクエストはオズも時々受けているが、レベル30越えとなると経験値的にも敵の素材的にも旨味は無い。素材集めと割切っても、正直微妙だろう。

 ただ、手っ取り早く周回出来るので、金策せずに回復アイテムを手に入れられるとなれば、一考の価値はあるだろう。相手が受けてくれるかどうかは確認せねばなるまいが、今の話を聞く限りではお互い益が有りそうではある。


「ありがとう、助かったよ。お代はどうすりゃいい?」

「そうですね、水の精霊に会って情報を持ってきてくれるのが一番の報酬ではありますが……

あとは、手付金代わりと言うわけでもないですが、レベルドレインに関して、いくつか聞きたい事が」

「そりゃ、構わんけど」


 少々意外な提案に驚いたものの、レベルドレインもAP取得の手段としては有用だ。情報屋としては、押さえておきたいのだろう。

 とりあえずオズが知る限りの情報を吐き出した後、KNOWSONと別れた。



「【錬金術】ならもう覚えてるわよ」


 トラッパーシェルの貝殻を卸すついでに【錬金】の話を持って行った所、マルガレーテから返ってきたのは意外な答えだった。


「ハルもゾフィーも、あまり重い物は装備出来ないでしょ。ちょっとでも良い物を持たせようと思うと、素材から底上げしていくしかないのよね」

「あー、なるほど。そう言う事であれば、さっきの話はいいや。忘れて」


 親心がコストや効率に勝ったらしい。オズとしては、ひたすら感服するしかない。

 そうとなれば、新たに【調薬】を取得する利点がマルガレーテ側には無い訳で、オズの目論見はあっさりと崩れた。彼女達も金策に忙しいので、余計な回り道をさせるのも申し訳ない。前言は撤回しておく事にする。

 残る心当たりはゲッコーだが、果たして料理人のゲッコーが回復アイテム作りを引き受けてくれるかどうかは怪しい所だ。彼の屋台は結構繁盛しているので、仮に【錬金】のレベル上げが必要だったとしても、わざわざ薬を作りたがるか不明である。

 とりあえずは駄目元で頼んでみようと立ち上がりかけた所で、マルガレーテが待ったを掛けた。


「申し訳ないけど、ちょっと話し合いたいから、2分ほど待って貰える?」

「? まあ、構わんけど」


 マルガレーテは、ジョージと何やら相談し始めた。

 二人の話し合いを待つ間、現時点での稼ぎを確認する。正直、レベルドレインに行くにも少々心許ない額だ。午後もあるのでレベルドレイン代の方は何とでもなるだろうが、MP回復アイテムを揃えて試練の海にアタックするとなると、恐らく足りないだろう。

 流石に1回のアタックでクリア出来ると考えるほど自惚れては居ないので、試行回数は確保したい。やはり、何らかのテコ入れが必要だと確認した所で、マルガレーテがこちらに向き直った。


「さっきの話、条件付きで受けさせて欲しいの」

「条件?」

「単刀直入に言うと、アナタの家に私達一家で住まわせて欲しい。あと、地下に生産用の設備を置く許可が欲しい。

それを受けて貰えるなら、材料さえ用意して貰えば回復アイテムの手間賃は家賃代わりにチャラにするわ」


 出された条件を勘案する。

 とりあえず、一家を自宅に住まわせるのは、別に構わない。生産用の設備も、今の所オズが何かする予定は無いので、大丈夫だろう。住人にそこまで細かい許可設定が出来るかは確認する必要があるが、まあいざとなれば申請を受けてからオズが設置するようにすれば良いだけだ。

 材料に関しては樹精の森で集める事になるが、材料集めと金策でどちらが効率が良いかと言えば、材料集めの方に軍配が上がる。オズとしては悪くない取引だ。


「んー、まあ、住むのは構わないし、生産設備も可能な範囲で許可したいと思うけど。

ただ、流石に商売までは許可できんから、店はまた別の所に構えて貰うよ」

「それでいいわ。取り繕っても仕方が無いから言ってしまうけど、私達に必要な生産設備を置けるような家を買おうと思うと、かなりの値段になるのよね。

家を買って、更にそこに生産設備を設置して…… となるとどうしてもお金と時間が掛かるから、家を買うステップだけでも短縮出来るとありがたいのよ」


 マルガレーテの説明も全く嘘ではないのだろうが、それが全てでもないだろう。レベル30以上になった途端に家を買う必要があるとなれば、ゲームバランスとしては生産プレイヤーに厳し過ぎる。調べれば、何らかの代替手段は有るはずだ。

 それをせずにわざわざアビリティまで取ってこちらの家に来るという事は、恐らくはゾフィーの説得が面倒になったんだろうな、と当たりを付ける。

 まあ、オズとしてもいちいちゾフィーが泊まりに来るかどうかを確認するのは手間なので、住むと決まったならそちらの方が面倒が無い。とりあえずは、一緒に住むに当たってのお互いの条件を確認する事にした。

アビリティ名の表記揺れを直しました。

【薬師】→【調薬】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ