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嫌いなNPCと鶏の肋は似ている

 何度目になるか分からないビッグタートルの突進を、水中で羽ばたく事で躱す。すれ違い様に一撃を入れるが、相手の防御力が高いのであまり効いた様子はない。

 こちらの隙を突くように襲いかかってきたミサイルジョー達を、魔法で迎撃する。


「《サンダーウォール》3連」


 水中に出現した雷の壁は、物理的な防御力は無いが代わりに触れた物に結構なダメージを与える。雷属性がミサイルジョーの弱点である事もあり、3枚の壁に突っ込んだトビウオ達は立て続けに絶命した。状態の良い物を引っ掴んでアイテムバッグに突っ込み、再び海亀に向き直る。

 相対的にオズが小さく見える程の巨体を誇るビッグタートルだが、水中だからか結構素早い。つい先程通り過ぎたばかりなのに、向き直る頃にはあちらも切り返して突進してくる。再び躱して、カウンターの一撃を入れた。

 試練の海における戦闘は、ひたすらこのパターンの繰り返しである。ソロのオズには、ビッグタートルと正面切ってのド突き合いをするHPは無いので、亀の攻撃を躱しつつ雑魚とダメージレースをする以外の選択肢が無い。

 根気よく亀と交差する内に、同じ箇所を執拗に攻撃した甲斐あって、亀の前ヒレが動かなくなる。泳ぐ速度も目に見えて遅くなるため、そのまま取り付いてHPを削りきった。


「ったく、こんだけ苦労して碌に金にならないってのはなぁ……」


 死体をアイテムバッグに放り込みつつ、誰に言うでも無く愚痴を垂れる。

 ジョージ夫妻は生産施設をアップデート出来ていないため、亀の素材を加工出来ない。引き取っても現時点では無用の長物と言う事で、一旦買い取りを拒否されていた。まあ、仕方があるまい。

 他に亀の甲羅を欲しがるような知り合いがオズには居ないので、素材はそのままNPCに卸す事になる。そうすると、どうしても価格としては苦労に見合わない物になるのだった。

 スータットは内陸の街なので、海亀の甲羅は珍しさはあっても恒常的な重要は無い。買い取り価格はどうしても安いのだ。オズはトーネックスが嫌いなので、そちらの買い取り価格は調べていない。

 まあ、わざわざレベルが高い方の海に来た目的は、亀ではない。アイテムバッグからオズの頭くらいの大きさの石を取り出し、適当に放り投げた。

 水中なのですぐに失速し、そう離れていない海底に落ちる。いくつか投げると、その一つが落ちた砂地から、勢いよくトラッパーシェルが飛び出してきた。

 外れを引いて砂地に再び潜ろうとするとトラッパーシェルを、強引に引き留める。水中の浮力と、クラスチェンジしたオズの膂力もあって、そのまま引っこ抜く事に成功した。こうなってしまえば、後の処理は砂浜に居た頃と変わりない。


「《ファイヤーウォール》2連」


 熱が入ってパカッと開いたトラッパーシェルの中身を美味しく戴き、貝殻はアイテムバッグにしまい込んだ。

 トラッパーシェルは、以前の砂浜に居た頃よりパワーアップしているものの、分類としては同じモンスターのため、素材の加工難易度が以前と変わらないらしい。設備が揃っていないジョージ夫妻でも加工が出来るという事で、入手を頼まれていたのだ。

 夫妻の経済状態はそのままオズの収入にも直結するので、優先的に対応すべくこうして試練の海へとやって来たのだった。


「とりあえず、集められるだけ集めるか」


 独り言を言いながら、次の敵を探して泳ぎ始める。



 同じ事を2セットほどやった所で、MPが心許なくなってきた。

 新しく覚えた【水流操作】は【水魔法】の《ウォーターコントロール》を呪文無しで使えるアビリティだ。声を出す必要が無いので【調息】を邪魔しないのと、プレイヤーの意のままにON/OFFが出来るので亀との戦闘が安定するのが強みだった。慣れれば、もう少し色々悪さも出来るだろう。

 反面、ONにしているとMPとスタミナを消費するので、アビリティレベルが上がれば消費がマシになる事を差し引いても《ウォーターコントロール》よりコストは重い。雑魚を散らすにも魔法をバラ撒く必要があるため、MP消費はどうしても多くなる。

 デスペナルティで貝殻を失いたくもないので、大人しく海岸に戻る事にした。万が一の逃げ道として、海岸から一定以上離れないようにしていたので、戻りはすぐだ。

 幸いにも会敵せずに海岸へと辿り着く。水から上がって辺りを見渡した所で、見知った顔を見つけた。


「おや、どうも」

「これはまた、珍しい所で…… という訳でもないか」


 準攻略組である虎veるのパーティが、そう離れていない場所に居た。あちらは丁度戦闘が終わった所だったようで、各自がアイテム等を使って回復している。

 あちらも特に急いでいるような様子はないので、挨拶をしながら近付いていった。


「これからボス戦で?」

「ええ、そのつもりです。トップ組は次のマップへ行ってレベル40にもリーチ掛けてるそうなんで、ウチらとしてもあまり置いてかれたくないって訳でして。

そちらは、精霊の領域を目指して?」

「トラッパーシェルを狩りつつあわよくば、って所だったんだが、そう上手くも行かなんだ。本腰入れるなら、回復アイテム揃えて、無駄な素材は拾わないで、って事になるかな」


 情報交換がてら、お互いの状況を話していく。

 サービス開始から約1ヶ月経っているので、流石にスータットの物資不足も解消されている。回復アイテムも店売りは問題無く手に入るのだが、オズはこれまで【調息】と回復魔法でだましだましやっていた。

 理由は色々あるが、アイテムバッグからアイテムを取り出すとどうしても片手がそれに取られるのが辛いのと、あとはやはり費用の問題だ。レベルドレイン代は結構お高いので、万が一狩りが失敗したときの事を考えると切り詰められる支出はできるだけ切り詰めたい。

 オズが欲しいのはMP回復のアイテムだが、そちらはどうしても割高で、数を揃えようと思うと現時点の稼ぎでもそこそこ重い。灰人の道のオークは人型だったので、プレイヤースキルで何とでもなるというのもあって、これまでは何とかなっていたのだが。

 流石に、この先もプレイヤースキル頼みでゴリ押しという訳には行かないようだ。

 虎veるが、少し考えたあとで申し訳なさそうに切り出してくる。


「失礼な質問で申し訳ないんですが、精霊の領域まで行くのって、まだ時間掛かりそうですかね?」

「んー、どうだろ。回復アイテムさえ有れば道中は問題無いと思うが、ボスはまだ見た事無いしな。そのまま行けるのか、対策が必要なのかで変わって来るかね」


 質問内容は少々意外だったが、特に隠す事でも無いので普通に答えておく。

 聞く限りでは、そもそも海に行っているプレイヤーというのが珍しいらしく、水の精霊に会ったという報告はオズ以外からは上がっていないらしい。水中戦闘の時点で【水泳】と【水魔法】がほぼ必須だし、戦術構築も地上とは大きく異なるので、そもそも人気が無いエリアなのだとか。

 オズとしても、出来れば早めに会いに行きたいとは思うのだが。水中戦闘を得意とする知り合いは居ないので、ソロ突破以外の選択肢が無いのが辛い所だ。


「翠さん、アレ言っちゃって良い?」

「パーティ同士の情報交換なら、リーダーにお任せしますよ。ここで隠しても、ウチの人が知らせるでしょうけど」


 虎veるが情報屋の妻である来夢翠に何事かを確認する。漏れ聞こえる情報から推測するに、情報屋絡みでまた何かあるらしい。

 程なくしてあちらの相談は終わったようで、再びこちらに向き直った虎veるが口を開く。


「正直あやふやで申し訳ないんですが、トーネックスで不穏な噂が立ってる、という噂があるらしくて」

「? 噂の噂?」

「まあ、そんな感じで。掲示板なんかで『トーネックスで何か不穏な事が起きてるらしい』って書き込みが今週半ばくらいから有るらしいんですが、情報屋では裏が取れてないらしくて」


 言われた言葉を咀嚼するのに、少し時間が必要だった。

 トーネックスで何かが起きているというのは、特に目新しい情報では無い。人魚に網を投げ掛ける事件は未だ解決しておらず、現時点で犯人がいるのはトーネックスの可能性が高い。事情を知らないプレイヤーがその辺の事を聞けば、そういう噂が立つのは不思議でもない。

 水の精霊の領域にはヒュドラーケンなるモンスターが封印されているらしいが、これも何者かが封印を解こうとしているそうで、もしそうなれば一番先に被害を食うのは位置的に考えてもトーネックスだろう。実の所、火種はいくつもある。

 ただ、最初の聞き込みの際に塩対応を食らわされた経験があるので、オズとしてはトーネックスへの好感度は低い。ゲームに必要だからNPCに対しても気を遣うが、本質的にプレイヤーは自分の益にならない存在に対して何処までも冷酷である。


「正直、トーネックスのために何かしようって気にはならんが……」

「あー、まあ、俺も正直気持ちは分からないでもないですが。

ただまあ、将来的に行ける所が広がるなら港街ってのは必要だろうってのと、この時期に何かあるとNPC視点ではプレイヤーが怪しいって事になりかねないんで、出来れば避けたいってのがありますね」


 虎veるの言う事にも理はある。

 現地人(NPC)からしてみれば、異邦人(プレイヤー)は1ヶ月前に突然現れた余所者だ。何かあれば、以前から居た奴より新参者が疑われるのは仕方が無い。

 無駄な諍いは避けるに越した事はない訳で、その為には今起きている事に対してなるべく情報を集める必要があり、それには水の精霊に会うのも含まれる。

 海に行っているプレイヤーが少ない以上、オズも有力候補に上がらざるを得ない訳だ。


「そう言う事なら、頑張るっきゃないんだろうけど。でもなー、トーネックスかー」

「すんません、なんかモチベーション下げちゃったみたいで」

「いやまあ、後から聞かされても同じだっただろうし、やる気を回復する時間を得たと思う事にするわ」


 虎veるが謝ってくるが、彼が悪い訳では無い。どちらかと言えば、悪いのはオズの心の狭さであるのだが。

 ゲームを進めるために頑張るのは良いとして、それがトーネックスの益になるというのが気に入らない。出来れば滅びて欲しい所ではあるが、本当に滅びられるとそれはそれで困る。どこまでも気分の問題でしかないために、どこまでも面倒な話だった。

 オズもゲーマーであるので、もう少し差し迫った状況になればスパッと割り切れるのだが。

 まあ、ウダウダと考えていても仕方が無い。ひとまずはアイテムバッグの中を換金するため、虎veる達と別れてポータルを目指す。

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