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面倒くさい事になる予感しかしない(前編)

「なんかもう、一年分くらいのゴブリンを倒した気がするよ」


 ラインハルトの吐いた弱音が、一行の気持ちを如実に表していた。

 森に入ってから、ただひたすらにゴブリンゴブリンゴブリン、ちょっと蜂を避けてまたゴブリンゴブリンといった感じである。一応、ゴブリン達が騎乗している狼とも出会ってはいるのだが、体感としてはゴブリンとしか戦っていない。

 そのお陰と言って良いのか分からないが、一行の対ゴブリン戦闘の経験値は上がっており、とりあえず全員がウルフライダーともなんとか渡り合える様になっている。

 ジョージは狩猟経験から足の速い相手にも慣れているのか、ウルフライダー相手にも結構早く順応していた。マルガレーテとラインハルトは最初苦戦していたが、あまりに頻出するウルフライダーに対応しなければならず、こちらもしばらくすれば相手を引きつける程度の事は出来るようになっていた。


「そろそろ日が暮れる。完全に暗くなる前に、森から出た方が良いと思うのだが」

「そうですね。ゴブリンも狼も夜行性ですから、ここら辺で切り上げた方が賢明でしょう」


 回復アイテムの在庫が心許なくなってきた辺りでジョージが提案すれば、コリーもそれに賛成した。

 実のところ、鳥人のラインハルトを除けば、何かしらの夜間戦闘能力を持っている種族が集まっているのだが、初日にオズが不覚を取った事からも分かるとおり、単に能力があるからと言って夜間戦闘が出来る事にはならない。

 リアルで狩猟を嗜むジョージは、その事を身に染みてよく知っている。

 幸い、一番ノリノリでゴブリンを退治していたゾフィーも流石の連続戦闘でバテてきており、狩りの続行を望む声は上がらなかったので、そのまま街に戻る事になった。



 街に戻ってすぐに市役所へ行き、依頼の結果報告をする。役所は閉まっている時間だったが、案内板にも書いてあったとおり冒険者用の窓口は稼働しており、そこで手続きが行われた。

 市役所員達も結果が気になっていたようで、オズへの質疑応答を行ったコリーの上司も残っていた。奥まった部屋に通されてアイテムバッグからゴブリンの死体を取り出せば、立ち会った役人達から盛大な溜息が漏れる。

 「出来ればガセであって欲しかった」という所なのだろう。気持ちは分からなくも無い。

 勿論、依頼自体は無事完了と言う事で、その場で報酬が支払われた。ボーナスに関しては、本来10APだったが色を付けて14APも貰ってしまった。7レベル分のAPと言うのは破格だが、裏を返せば「これからも街に貢献してね」という役所なりの顔繋ぎなのだろう。多い分には文句はないので、ありがたく貰っておく。

 初クエスト成功と言う事で、どこかで軽く打ち上げがしたいとマルガレーテが言いだし、オズが来夢眠兎に教えて貰った店へと案内する事になった。


「「「「「かんぱーい」」」」」

「イェーイ」


 頼んだ飲み物が運ばれてきた所で、グラスを打ち合わせて乾杯する。ちなみに、未成年が立ち入れる区画での飲酒は基本的に禁止されているので、全員がジュースでの乾杯である。

 大皿料理をいくつか頼んで、各自が思い思いの料理を摘まむ。大型種族であるオズの胃袋には大分余裕があるため、余る心配もない。


「いやー、たかがゲームと思っていたけど、それでも一仕事終えると気持ちが良いわね」

「ボーナスも弾んで貰えたしね」

「あー、しばらくゴブリンは見なくていいや」

「まあ、あれだけ駆除したのだから、数は減っているだろう」


 従姉一家は楽しそうで、オズとしても嬉しくなる。ゲームのプレイ方針は色々あろうが、やはり楽しめなければ続かない。

 自分の持ってきたクエストの所為で、おかしな事にならなくて良かったと密かに胸をなで下ろす。毎度こんな事を考えてるような気もするが、まあそれもMMOというゲームならではである。

 ちなみに、おそらく今日のクエストはイベントか何かのトリガーだろうから、多めに駆除したからといって特に何が変わるわけでもないだろうし、明日以降も森はゴブリン溢れていると思われたが、それを言っても誰も幸せにならないので黙っていた。


「それにしても、コリーさんを守りながら戦うとか大丈夫かと思ったけど、意外と何とかなるもんだね」

「まあ、それについては何とでもなったと思うぞ」

「どういうこと?」

「多分だけど、コリーさんはかなり高レベルのNPCだからな。狼やゴブリン位なら、一人でもどうにでも出来る」


 オズの説明に、一家揃って目を丸くしている。やはり、気付いていなかったらしい。オズとしても、「高レベルNPCが居る」と言う事で油断されても困るので、あえて黙っていた部分はあるのだが。

 VRゲームでは特にそうだが、レベルが高いからと言って死なない訳ではない。コリーは一応は『お客さん』であって、箱入りのお嬢さんで居て貰わないと困る。高レベルだからと言って、護衛の手を緩めるようでは論外なのだ。


「そういうのって、やっぱアビリティとかで分かるようになるの?」

「そういうアビリティもあると思うが、一部のNPCに限って言えば、動きを見れば大体分かる。コリーさんは、その類だな」


 NPCが強くなるには、大きく分けて3種類しか方法がない。特殊な能力を身につける事、ステータスが高くなる事、それと戦闘自体が上手くなる事だ。

 3番目に関しては、能力がそのまま普段の動きに反映される事が多いので、慣れてくると見分けるのは結構簡単だ。オズの見た限りでは、市役所に勤めている役人の大半は高レベルで、コリーだけが特別という訳ではなさそうだったが。

 物理系のステータスに限って言えば、これまた普段の動きから見破れる事が多いので、恐らくコリーは魔法系ではないかと睨んでいるが、まあこれは詮索するのも失礼なので黙っておく。

 MMOにおいて、衛兵や番兵のような犯罪者を取り締まるNPCが高レベルなのは、珍しい事では無い。恐らくは市役所の職員達も、衛兵兼冒険者ギルドの実働員の様な役割を担っているのだろうと勝手に思っている。


「あら、オズ悪人さん。丁度良い所で」

「ん? ああ、来夢眠兎か。教えて貰った店、使わせて貰ってるぞ」


 しばらく談笑していると、唐突に後ろから声がかかる。振り返れば、昨日世話になった兎人の来夢眠兎がそこに居た。

 いつの間にやら、全身の装備が初心者装備でなくなっている。あちらはあちらで、ゲームを楽しんでいるようだった。


「実は少々、オズさんにお詫びしなければならない事がありまして。お時間、よろしいですか?」

「お時間は構わんけど、詫びを入れられる覚えが無いんだが。あ、蜂の事なら、気にしなくて良いぞ」

「いえ、そちらもなのですが、もう少し込み入った話がありまして……」


 なんとも歯切れが悪い。オズとしても、身に覚えの無い事で詫びを入れられるのは落ち着かない。

 まあ、立ったままの相手に事情を聞くのもなんなので、従姉一家に目で許可を取ってから椅子を勧める。「もう一人、いいですか?」と聞かれたので、こちらも承諾した。

 来夢眠兎に続いてヒョコッと椅子に腰掛けたのは、またしても兎人の男性だった。同じプレイヤーの作品なのだろう、来夢眠兎と似たような装備をしているが、何故か彼の方が若干胡散臭い印象を受ける。


「やあ、ご歓談中にお邪魔して申し訳ない。僕は来夢月(ライムライト)、見ての通りの兎人族でしてね」


 挨拶も、どことなく胡散臭い。恐らくは、狙ってやっているロールプレイなのだろう。なかなかに濃いキャラだな、と言うのがオズの感想だ。

 それにしても、名前と言い種族と言い、ここまでお揃いなのは恐らく偶然ではないのだろう。


「つかぬ事をお聞きしますけど、来夢眠兎さんのご家族か何か?」

「あ、先日は娘がお世話になりました。眠兎の父です」

「へえ、僕達以外にも、親子でゲームやってる人って居るんだね」


 マルガレーテの質問はネットマナー的にギリギリだったが、来夢月は気にした風もなく答えた。


「それにしても、そちらもご家族でゲームをしているとは。しまったなぁ。こんなことなら、やっぱりカミさんも連れてくれば良かった」

「もしかして、奥様もウサギさん?」

「ええ、そうですとも。いや、最初は3人バラバラの種族を選ぼうって言ってたんですけどね。カミさんと娘のやりたい種族が被った結果、それなら合わせようかって事になりまして」


 胡散臭い言動とは裏腹に、結構なマイホームパパさんらしかった。家族揃って同じゲームをやろうと言うのだから、ある意味当然なのだろうが。初対面の一団にこうもスルリと入っていける辺り、やり手なのかも知れない。

 そのまま一同が談笑に入ろうとした所で、来夢眠兎のわざとらしい咳が割って入る。


「えー、ゴホン。それでですね、オズさんにお詫びしなければいけない事なのですが……」

「あ、そうそう。実は僕ら、家族経営で情報屋みたいな事をやっててね。昨日、娘がそれを説明してなかったって聞いて、慌てて仁義切りに来た次第なのさ」


 情報屋、と言われても、オズにはピンと来ない。そもそも、オズはゲーム開始時には攻略情報等をなるべく集めないでプレイする派だ。そういうのは、ある程度ゲームをやり込んでから見た方が、長く楽しめると思っている。

 ただ、世の中にはゆっくりゲームを出来る人間ばかりでないと言うのも理解しているので、攻略情報を集めるプレイヤーが居るのも想像は出来る。それで商売が成り立つのかどうかは、不明だったが。

 まあ、いずれにせよ、そういう事であれば悩む事もない。


「昨日のアレは、来夢眠兎に案内して貰った対価として支払ったもんだ。わざわざ仁義切りに来てくれたのはありがたいが、特に詫びを入れられるような事でもないと思うぞ」

「そう言っていただけると、ありがたいね。いや、こういうのって、揉めるときは揉めるからね。あ、あと、改めて聞きたいんだけど、君から貰った情報、人に流したりネットに上げたりしても大丈夫?」

「まあ、個人のプレイヤーネーム出さなきゃご自由に」


 オズ自身は、余計な情報を見たくないので今は掲示板等を利用していないが、別に情報を秘匿したい訳でもない。

 特に、昨日情報を渡した【乗騎】アビリティは、恐らく取得するのは難しくない上に、役に立てられるかどうかも微妙な代物である。おかしな風聞がついて回らなければ、情報が出回るのはなんの問題もない。


「ついでにと言うと厚かましいけど、何か面白い情報があったら、是非買わせていただきたいね」

「面白いかどうかは分からんが、話の種は無くもない。……どうする?」

「良いんじゃない? どうせ、遅かれ早かれ知れ渡るでしょう」


 コリーから仕入れた情報は、オズ一人の手柄という訳でも無いので、一応皆に確認を取る。

 マルガレーテは即承諾し、ジョージは妻の意見を支持、子供二人はあまり興味が無いようで話題にも参加してこなかったので、とりあえずはオズが代表して情報を開示する事になった。

クエストボーナスのオマケ4APは、パーティ人数×20以上のゴブリンを退治したり、コリーを戦闘させずに依頼を終了させたりした分の特別報酬です。報酬が馬鹿高いのは、これがイベントトリガーになる特別クエストだからですね。


後編は明日上げる予定です

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