シティーアドベンチャーは手間が掛かる
スゴスゴとトーネックスに戻ってきて、その足で市役所へと向かう。
いくつかの素材について納品依頼が出ていたので、その場で納めて報酬とAPを貰った。スクリューシャークの納品依頼もあったので、話し合った末に納品してしまうことにした。なんだかんだで、パーティ全員にAPが入るのは大きい。
査定して貰って報酬を受け取った後、思い出したようにオズは市役所職員へと話しかける。
「そういや、人魚って役所で買い取って貰えるんですか?」
「はぁ!?」
「何言ってんだよ、オッさん!」
話を聞いた職員は不快そうに眉を顰め、ゾフィーは瞬時に怒ってローキックをカマしてくる。システム的にローキックのダメージは0なので、無視してそのまま話を続けた。
「いや、異邦人の間で『人魚が高く売れる』って噂になってるんで、てっきり納品依頼があるのかと思ったんですが、メニューに見当たらなかったもんで」
「あのですね。人魚族は歴とした人間ですよ。役所で人身売買を受け付ける訳がないでしょう。
そんな人道にもとる話をあちこちで吹聴しようものなら、それだけで捕まりますよ。気をつけて下さい。
分かりましたか!?」
「はい、すいませんでした」
どうやら職員はかなり本気で怒っているようだった。全面的にオズが悪いので、素直に謝っておく。
周りの視線に追い立てられる様にして、市役所を後にした。
「もー、何であんな事言うんだよ。あれじゃ、アタシ達が悪い奴みたいじゃん!」
「役所のスタンスを確認する必要があったからな」
0ダメージのローキックを仕掛け続けるゾフィーに説明する。
人魚に網を投げかけた犯人がトーネックスでどういう扱いを受けるのかと言うのは、実の所かなり重要な事項である。人魚を捕まえて売り捌くという行為がトーネックスで合法だった場合、犯人に危害を加えればオズ達の方が犯罪者になりかねない。
また、その場合はトーネックスの街は人魚と敵対関係になる可能性が高い訳で、最悪の場合はそのままトーネックスと人魚で戦争に発展することもあり得る。まあ、こんな序盤でそんな重いイベントは起きないと思いたいが、樹精の森のイベントもかなり重めだったので、オズとしても確認しない訳には行かない。
市役所の職員というのは、余程のことがない限りは一般的な常識と感性を持ち合わせたNPCである。その職員があそこまで怒ると言う事は、人身売買というのは普通に犯罪であり、仮に犯人がこの街に潜んでいたとして、大っぴらに活動している訳ではない、と言うのが分かった訳だ。
「VRのゲームだと、こういうシティーアドベンチャーで総当たりをやってたらいつまで経っても終わらないからな。取りあえず、真っ当な場所だと情報が得られなそうだってアタリが付いたのはデカイ」
「それにしたって、もうちょっと言い方あったんじゃないの!?」
「っつーても、当たり障りのない会話でフニャッと切り分けると、後で困るからな。砂場の棒倒しと一緒で、とにかく削れるところはドンドン削って行かんと、時間ばっかり過ぎる。
ゆっくりやって、人魚に被害が出たらそれこそ取り返しが付かん。多少強引でも、なるべく手番を減らした方が良い結果になる事が多いんだよ」
旧来のゲームと違い、VRゲームの街というのはかなり広いし、人口も多い。流石に現実と一緒とまでは行かないが、それでも街をしらみつぶしに探して住人全員から話を聞くというのは、およそ狂気の沙汰だ。
一番手っ取り早いのは犯行現場を見つけて、そこから犯人を追跡することだが、豊かの交路へと立ち入れない以上、それも出来ない。であれば、とにかくトーネックス内でそれらしきところを調べて、その上で可能性を絞り込んでいくというのが、まあ妥当な攻略法であると思われる。
「と、言う訳で。一度パーティ解散して、怪しいところを手分けして探そうぜ。丁度、昼に【マッピング】で大体の所埋めたから、お前らにも地図を渡しとく」
「一番怪しいのって何処?」
「人魚を連れて街中を移動するのはリスクが高いから、恐らく捕まえた人魚を捕らえておく為の施設を海の近くに作ってるはずだ。
街中にあるとすれば港の辺り、恐らくは目立たないところにちょっとした小屋か何か建ててんじゃねーの?」
「よし、探してみる!」
言うが早いか、ゾフィーはそのまま港の方へと駆けていった。慌てて、パーティを解散する。ゾフィーの背中はすぐに見えなくなった。
隣で地図と睨めっこをしているキリカマーと来夢眠兎に声を掛ける。
「お前らはどうする?」
「ひとまず、聞き込みをしてみようと思う。犯人像に関して、何か分かる事はある?」
「正直、情報が少なすぎてなぁ。海でもチラッと言ったが、人身売買となればある程度の金とコネが必要になる。ベタな予想だと、悪徳商人か港のお偉いさん、もしくは領主の馬鹿息子とかかね」
「ある程度の金と権力があって、尚且つ人物的にあまり尊敬されないような人間、という事ですか」
「まあ、表では立派だけど裏では…… って可能性もあるんで、あまり先入観持つのも危険だが。そもそも、何でわざわざ人魚を狙うのかも分かってないし」
とりあえず人身売買の前提で話を進めているが、人魚に個人的怨みを持つ漁師Aの犯行という可能性も無い訳ではない。情報の出揃っていない現状では、あまり具体的な犯人像というのも出せないのだった。
また、仮に犯人がオズの予想通りに金とコネを持ち合わせた人物だとして、街に来たばかりの異邦人がどうやってそんなお偉いさんに近付くか、という問題もある。後ろ暗いことをやっている様な人間が、何処の馬の骨とも分からない人間をホイホイ招き入れるとも思えないから、情報収集をするにもいくつかのハードルを越える必要があった。
しばらく話し合ったがやはりあまり良いアイデアは出ず、まずは最低限の情報収集をしてからでないとどうにもならないと言う結論が出たところで、二人とは別れた。
「でも俺、シティーアドベンチャーってあまり好きじゃないんだよな」
「で、ボクの所に来たって訳かい」
話を聞いた来夢月が、全身の力を抜くようにしてソファへともたれかかる。
旧来のゲームではいざ知らず、VRMMOのシティアドベンチャーは一にも二にも人数が物を言う。とりあえず、そういうのに興味がありそうな人間に片っ端から声を掛けることにして、まずは情報屋の来夢月に話を持ってきたのだった。
「少なくとも、豊かの交路は昨夜初めてプレイヤーが踏み入ったエリアだ。そこで発生してるイベントなら攻略組もそこまで先んじてはいないし、上手くやればおいしいとこ取りは十分可能だろ」
「キミも、人参ぶら下げるのが上手いね」
今現在でどの程度のプレイヤーがスクリューシャークを倒しているのかは分からないが、例えオズ達より先にイベントを発見したプレイヤーが居たとしても、アドバンテージは精々半日分程度である。上手くやれば追い越せるというのは、決して夢物語ではない。
それに、情報屋をやっているのであれば情報収集と推理で進めて行くシティーアドベンチャーは得意分野だろう。そう言う意味でも、断られないだろうという打算はある。
来夢月は目を閉じて頭をフル回転させているようだったが、やがてゆっくりと口を開いた。
「とりあえず、メインの情報収集はトーネックスでやる事になるだろうね」
「だな。人魚を捕まえて何するのか知らんが、海に面してないスータットやイアンカーボンに運び込むのはリスクがデカイ。豊かの交路に立ち入れない事を考えても、トーネックス周辺で完結するイベントじゃないかと思うが」
「そうすると、トーネックスに行かない事には始まらない、か」
「キャリーなら請け負うが?」
安楽椅子の探偵をさせたい訳ではないので、情報収集のためにトーネックスへ行かねばならないと言うのは当然ではある。その為の必要経費として、キャリーも当然視野に入れていた。
そもそも、来夢月一人を運ぶのであれば実質障害となるのはハーミットボーガーくらいで、それについても立った状態で相手出来るのであればまず負けないだろうとは思う。【乗騎】があれば砂浜はクラゲと貝にだけ気をつけて突っ切れば良いので、そこまで時間の掛かる作業でもない。
「実を言うと、この後カミさんのパーティにキャリーして貰う手筈になっていてね。丁度良いから、キミも一緒に来てくれるかい」
「俺は構わんが、元から組んでるパーティに飛び入りで混ざっても、連携取れなくて邪魔になるだけじゃないか?」
「いやいや。【乗騎】持ちが居れば進軍速度は上がるから、それだけでも大分恩恵はあるよ」
「まあ、そう言う事なら」
と言う訳で、急遽キャリー部隊に参加する事になったのは良いのだが。
来夢月に連れられて行った広場には、思ったよりも参加者が集まっていた。
虎顔の男に引き連れられた一団は、蟻イベントの際にも会った来夢翠の参加しているパーティだ。今回のキャリーのメインなので、これは良い。こちらを見て驚いた顔をしているゲッコーも、キャリー対象兼【乗騎】要員として引っ張ってこられたのだろう。オズも似たような物なので、これもまあ良い。
だが、他にもいつぞや出会ったKNOWSONと他二人のプレイヤーが居る。こちらは完全に想定外で、かなり驚いた。
「実を言うと、もう少ししたら情報屋クランを作ろうって話をしててね。で、賛同してくれた人間を何回かに分けてキャリーしようって話になってたのさ。
でもまあ、乗り物があればある程度乗員の安全も確保出来るし、一気に運べるならそれに越した事は無いからね」
「つまり、取りあえず来夢夫妻はこの間と同じくゲッコーに乗せるとして、他三人は俺が請け負う訳か」
「あー、申し訳ないんですが、ウチのパーティにもう一人足が遅いのが居るんで、出来れば四人お願いします」
「はいよ、了解」
この際、文句を言っても始まらない。キャリーはするつもりであったし、それに情報屋が増えるという事はイベントの進捗に期待が出来るという事でもある。
四つん這いになって乗員を乗せ、そのままポータルを通って砂浜へと移動した。《四足歩行》がドンドン様になっていくのが哀しくもあるが、まあ考えない事にする。
準攻略組だけあって、来夢翠の所属するパーティは戦闘力が高い。砂浜の敵にも慣れているようで、戦闘は非常に安定していた。
ただ、護衛対象が多いので敵を完璧に抑えきる事も出来ず、偶に後ろへ抜けてくる敵も居るが、その程度であれば四つん這いのオズでもどうにかなる。今も、殴りかかってきたシャコボクサーを《アイヴィーバインド》で転ばせ、頭を噛み砕いて始末した。
「俺も一応【捕食】は持ってますけど、使いこなしてる人を見るのは初めてですね」
「そりゃまあ、両手が使えるなら普通そっち使うだろ。俺だって、二本足で立ってるならそうするよ」
パーティリーダーの虎veるが、呆れ半分といった感じで話しかけてくる。彼も虎人なので【捕食】は持ってはいるが、武器持ちなので滅多に相手に噛みつく距離まで近付かないし、そもそもタンクなのでそんなリスキーな行動に出る余裕もないという事で、ほとんどレベルは上がっていないそうだ。装備で重量が嵩むため【狩猟】も取得できず、有効活用する目処は立っていないらしい。
その代わりと言ってはなんだが、虎veるの防御力は非常に高い。カブータスとは違って相手の攻撃を鎧で受ける事が出来るため、とにかくアビリティを使ってヘイトを集め、彼が殴られている間に他のメンバーが敵を倒す事で非常に戦闘が安定している。
また、オズに騎乗しているユメメェの持つ【歌唱】の効果も大きい。【歌唱】はその名の通り歌っている間はレイドメンバーにバフを撒けるアビリティなのだが、使用中は少しずつMPとスタミナを消費する。歌っている間は【調息】も回復魔法も使えないので本来は休み休み使うアビリティなのだが、オズの《騎手回復》のお陰で連続使用出来る時間がかなり延びていた。
「やっぱ、【乗騎】持ちがパーティに欲しいですね」
「乗騎になりそうなモンスターをテイムすれば良いんじゃないか? ミドルオークの連れてる狼はかなりデカかったし、中型種族までなら問題無く乗れると思うが」
「あー、現時点でテイム条件が判明してるモンスターは、ハニーキャリアだけですよ。同じ様な考えで狼のテイムに挑戦したプレイヤーは多いんですけど、成功例は俺の知る限り0です」
どうやら、このゲームでモンスターをテイムするには、各モンスターごとに決められた条件をクリアする必要があるらしく、現時点ではその条件が判明したモンスター事態がほとんど居ないらしい。オークやゴブリンですら狼を従えているので、そこまで厳しい条件があるとも思えないのだが、そう上手くも行かないそうだ。
ほんの一時期、アカウントを作り直して【乗騎】持ちの種族をパーティに加えるのが流行かけた事もあるらしいのだが、AP稼ぎの関係からアカウント作り直し自体が非効率である事と、やはり【乗騎】を加えたパーティ戦闘のノウハウが確立されていないので効率的に動けないという事で、あっという間に下火になったそうな。さもありなん。
そんな事を話している内に、ボスエリアへと辿り着く。と言っても、過剰戦力気味の準攻略組が相手ではハーミットボーガーも脅威とはならず、オズとゲッコーが乗員の安全を確保しつつ逃げ回っている間に、ボスのHPは削りきられた。
大した山場もないまま、一行はトーネックスへと到着したのだった。




