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海人と出会う

 スクリューシャークの内臓を食って得られたのは、【竜の心臓】というアビリティだった。

 これまでも未取得のアビリティが生えてくることはあったが、『竜』の文字が入ったアビリティがいきなり生えてくるというのは初めてのことで、少々面食らう。効果としては、各行動に伴うスタミナ消費量の減少のようだ。どの程度減るのかは分からないが、普通に強アビリティである。

 鮫の内臓の味は、何と言うか普通に内臓だった。例によって未処理なので臭みは凄いが、それでもカブトムシに比べると大分マシだ。今にして思えば、ゴーレム核や未処理の内臓よりも不味いカブトムシは、ある意味凄いのかも知れない。

 絡みついている網は切らないとどうしようもなさそうだったので諦めて切り裂き、身を切開して刺さっている銛を抜いた状態でアイテムバッグに放り込む。ノコギリは如何にも武器に使えそうな形状をしているし、まあ身も食えなくはないだろう。

 鮫といえば、フカヒレは言わずと知れた高級食材だが、他の部分に関しては食うという話を聞いた覚えが無い。内臓を食った限りでは毒などは無いはずだが、何か食わない理由があるのかも知れない。まあ、ゲッコーにでも聞いてみよう。


 戦後処理を終えて、改めて辺りを見渡す。

 インフォーメーションによれば、先程まで居た海とは違うフィールドに入ったはずなのだが、景色を見る限りは地続きであり特に壁のようなものは見当たらない。また、今までフィールドの入り口にあったポータルも見当たらないので、どうにも新フィールドという気はしない。

 ただ、よくよく考えてみればオズが辿ってきた砂浜から海に入るというルートがそもそも正規ルートから外れていると思われるので、今居るここも正規の入り口でない可能性は高い。正規ルートの入り口がどうなっているのかは分からないが、そちらにはポータルがあるのかも知れない。

 悩んでいても仕方が無いので、とりあえずは沖に向かって歩き出す。360°が海なのでどう行くのが順路なのかサッパリ分からないが、とりあえず先に進めば何かしら敵に出会うだろう。

 しばらく進んでいくと、目の前を横切るように移動する魚群を見つけた。バンディングフィッシュかと思い身構えるが、すぐに間違いに気付いた。明らかにアレよりは大きいし、何よりシルエットが全く違う。

 あちらでもオズを見つけたようで、群れから外れる様に一匹だけこちらに向かってくる。驚いたことに、向かってくる影はかなり速い。下手をすれば、スクリューシャークと同じかそれ以上かも知れない。明らかな格上の予感に、一層気を引き締める。

 幾らも経たないうちに目の前までやって来たのは、お伽話に出てくる人魚のようだった。見る限りではラインハルトと同じ年頃の少女のようで、チューブトップの様な服を着て手にはスクリューシャークのノコギリから作ったと思われる槍を持っている。下半身はまんま魚だ。オズの知る限りでは、プレイヤーの選択可能な種族に人魚が居た覚えは無いので、恐らくはNPCだろう。

 こちらを警戒しているようだが、いきなり襲ってくるほど喧嘩腰でもないらしい。交渉の余地はありそうだと判断して、こちらから話しかけることにした。


「えー、初めまして。異邦人、竜裔のオズ悪人といいます。そちらは、人魚の人、でよろしいのかな?」

「いかにも。人魚族(マーマン)の戦士、ゼア。地上の者が、ここで何をしている?」

「何をしている、と言われましても……」


 現地人からしてみれば、海底を歩いているトカゲというのはやはり奇妙に映るらしい。当然と言えば当然の問いではあったが、オズも明確な目的があってここに来た訳ではないので答えにくい。

 変に省略して誤解を招くよりは良いだろうと判断し、ここまで来た経緯をざっと説明した。説明している本人からして、「鮫に舐めプされたのがムカついたので、1週間近くかけてリベンジしました」と言うのには説得力無いなと思ってしまうが。

 相手も常識的な感性の持ち主だったらしく、オズの説明を信じてはいないようだ。


「説明させて置いて済まんが、俄には信じがたい話だな」

「そいつは残念。出来れば、このまま平和的に立ち去る位で済ませたいんですが」


 初対面で価値観も分からない相手に迂遠な交渉をしても仕方が無いので、ストレートにこちらの要求を伝える。ゼアは少し考えていたが、何らかの結論が出たらしく口を開いた。


「疑って悪いが、余所者に群れの移動を見られたくはない。トーネックスまで送るので、付いてきて貰おう」

「それで、そちらが納得するのであれば」


 トーネックスと言うのは初めて聞く名だが、恐らくは砂浜から見えていた港町の事だろう。紆余曲折あったが、結局はそこに辿り着くらしい。

 群れから離れてオズの誰何に来たという事は恐らくゼアは護衛のような役目を担っていたはずで、その彼女が群れから離れて大丈夫なのだろうかとは思ったが、それを聞いても詮索しているように思われるだろうと考え、黙っておく。

 ゼアの先導に従う形で、トーネックスとやらへ向けて歩き出した。



「……この槍も、その時に仕留めたスクリューシャークの牙より仕立てた物だ」

「ほう、そりゃ凄いですな」


 道行きがてら、ゼアの武勇伝を聞いている。

 なんでも、人魚族は一人前と認められるためにスクリューシャークを一人で倒す必要があるらしく、ゼアも先日その儀式を経て一族の戦士と相成ったそうだ。道具に頼りまくったオズとは違い、彼女は正攻法でスクリューシャークを攻略したそうで、素直に賞賛する。

 人魚族の戦士と言うだけあって、ゼアの戦闘力は高い。道中で何度か戦闘になっているが、そのほとんどを彼女一人で片付けている。オズも手伝おうとはしているのだが、なにせ移動スピードが段違いなので、先行した彼女に追い付く頃には戦闘が終わっている事が多い。パーティを組んでいる訳でもないので経験値も入らず、オズは本当に後にくっついてるだけだ。

 また、恐らく群れを見掛けた位置を知られたくないのだろう、道中で何度か方向転換を挟んでいる。それも、オズに気付かれにくいよう戦闘後に微妙な修正を加える形で行われており、彼女の技量の高さをうかがわせる。オズが気付いたのは、たまたま目印にしていた岩が針路から外れたのに気付いたからだ。

 会話に付き合うのも、こちらの気を逸らす一環だろうと思われるが、お陰で結構色々な事を聞けた。

 どうも、人魚族の儀式というのは日本で言う元服に当たるもののようで、情報から推測するに恐らくはクラスチェンジの為のものと思われる。クラスチェンジに関する情報というのは未だに公式からは開示されていないが、NPCがわざわざクラスチェンジの為にクエストをクリアしているという事は、プレイヤー側もそれを求められる可能性は高い。人魚族のみの風習というのも無くは無いが、それはそれで将来的に人魚族がプレイアブルになった際、種族間格差が生まれることになる。全種族共通と考える方が自然だろう。

 ゼアがトーネックスの名前を知っていたことからも分かるとおり、人魚族も一応はトーネックスとそれなりに交流があるらしい。そこまで親密な訳ではなく、どちらかと言えばお互いの領域に不可侵が原則で、偶に漂流者を港へ送り届ける程度のものだそうだが。

 目新しい情報を心のメモ帳に書き留めている内に、トーネックスに近付いていたらしい。ゼアが、槍で海面を指差した。


「上がるぞ。付いてこい」


 言われたとおりゼアに続いて海面に顔を出せば、少々距離は離れているが街の灯りが目に入る。アレが、トーネックスだろう。


「あの光を目指して泳げば、迷うこともあるまい」

「いや、ありがとうございます。助かりました」

「礼は要らん。こちらも、思惑があってのことだ」


 言うが早いか、ゼアは海中へと潜ってしまった。見送るのも彼女に迷惑だろうと思い、そのまま港へ向けて泳ぎ出す。

 街は意外と遠く、辿り着くまでに10分くらいかかった。

 適当に港から陸へ這い上がれば、近くで夜釣りをしていたオッサンにビックリした目で見られる。もしかして不法侵入じゃないかと思ったが、幸い衛兵が飛んでくる様子もない。見つかって職質されるのも嫌なので、港に設置されていたポータルからそのままスータットへと戻った。




 海中散歩は思ったよりも時間を食っていたようで、スータットに戻る頃にはジョージ夫妻はログアウトしていた。素材に関しては明日以降に渡せば良かろうと思い、先にゲッコーの屋台へと足を運ぶ。


「よぅ、ゲッコー」

「おう、下の人か。その様子だと、戦果は上々らしいな」

「まあな」


 指定された台の上に、スクリューシャークの死体を置く。全長10mにもなるノコギリザメというのはやはりインパクトが強いらしく、周囲がどよめいた。

 改めて見ると、ノコギリ部分はほぼ無傷だが、それ以外の部分は満遍なく痛んでいる。銛と爪を叩き込んだので皮膚の損傷は特に激しく、皮の部分は恐らく使い物にならないだろう。


「とりあえず、ノコギリは武器になるらしいんで、ジョージさん達に渡したい。皮は使い物にならなそうだし、骨はどうすっかな」

「鮫は軟骨魚類だから、骨らしい骨は無いぞ」

「マジか」

「ゲームだから、コイツには普通に骨有るかも知れんけど。ま、捌いてみますか」


 言うなり、ゲッコーは巨大な包丁を取り出して鮫を捌いていく。流石の手際で、みるみる内に巨大な鮫が解体されていった。

 彼の言うとおり、鮫に骨らしい骨は無く、三枚に下ろした際にも辛うじて背骨の所が硬くなっているくらいで、腹骨のような物は見当たらない。


「そういや、鮫って食えるのか? フカヒレ以外の料理を聞いた覚えが無いが」

「大体は、蒲鉾の材料とかになってるらしいぞ。栃木だと照り焼きや煮付けにしたりするんだが、醤油がないからムニエルにしてみっか」

「何故、栃木……?」

「鮫は魚では珍しく日持ちするんで、昔は栃木でも食える海の魚として珍重されてたらしい。今でも、スーパーなんかで切り身が売ってる」


 まあ、現実でも食われているなら、それなりに調理法も確立しているのだろう。大人しく出来上がるのを待つ。

 しばらくして、出来上がった料理が出された。見た目には、普通に魚のムニエルだ。バターの香りが食欲をそそる。

 口に入れてみれば、味も普通に白身魚のムニエルだった。多少バサつく感じがないではないが、バターと一緒なら気になるほどでもない。


「あー、うん。普通に美味いわ。ブリカマから脂を抜いた感じというか、これならフライとかに……」

「どした?」

「なんかバフ付いた」


 オズの報告に、周囲がどよめく。メニューで確認すれば、攻撃力上昇のバフが掛かっているのを確認出来た。

 これまで屋台で食事をしていたときに、バフ効果が付いたことはない。少なくともオズの知る限りでは、プレイヤーメイドの食事でバフが掛かったのは、これが初めてだ。

 辺りがお祭り騒ぎとなった。

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