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対 スクリューシャーク戦

 体の中に打ち寄せる波しぶきの感触で、ログインしたことを知覚する。

 ベッドの上で、30秒ほど天井を見つめてからようやく体を起こした。

 鮫退治は、思った以上に難航している。原因は色々あるが、要約してしまえば鮫が速くてオズが遅い。これに尽きる。

 【水泳】のレベルは22になって動きは大分改善されたものの、それでも鮫には到底及ばない。突進攻撃も全く回避できないわけではないが、スピード差からいずれは追い付かれてしまう。

 すれ違い様に目潰しを仕掛けた事もあるのだが、鮫はどうやら目が潰れていてもこちらを知覚出来るらしく、視覚を奪っただけでは決定的なチャンスは作れなかった。【鑑定】で弱点属性が火と雷である事は判明したが、この2属性は水中では威力が大幅に減衰するらしく、魔法を主体に戦うのも現実的ではない。

 他にも色々試してみたのだが、結果は芳しくない。認めたくは無いが、どうにもオズ一人の力で鮫に勝つのはすぐには無理そうだと言う事で、フレンドに色々と知恵を借りたりしている内に、気がつけば金曜日になっていた。

 殺意の炎は、まだ胸の中で燃え続けている。あまりやりたくなかったが、山のミドルオークでレベル上げをし、レベル差で無理矢理突破することも検討しなければならないかと考え始めた所で、フレンドメールが届いた。

 メールの送り主はマルガレーテだった。作製を依頼していた道具が出来上がったという内容だったので、喜び勇んで家を出る。家は隣同士なので、移動に時間は掛からない。


「いやぁ、すみません、色々無理言って」

「なに、材料は持ち込みだし、手間賃も貰っている。気にすることは無い」


 ジョージ夫妻に依頼していたのは、頑丈な網と銛である。

 網に関しては、一度ネットランチャーの網で動きを封じられないかと試したことはあったのだが、鮫の先端のノコギリで切り裂かれて効果は上げられなかった。なので、むしろノコギリ部分を通すように網目を大きくし、その上で頑丈になるように糸を太くした網を依頼していたのだ。

 銛は投擲用だ。タダでさえ動きにくい水中で、ギリギリの回避を狙うとそれだけで事故率が跳ね上がるため、ある程度離れたところからの攻撃手段は欲しい。鉄槍は返しが付いていないので刺した後すぐに抜けてしまうため、改めて銛を注文していたのだった。

 出来上がった品を受け取り、点検していく。夫妻を信用しない訳ではないが、道具頼りでボスに挑む以上は、一つ一つの出来が生死を分ける。お座なりには出来ない。


「あれ、銛の柄に付いてる紐の輪っかは、これ何です?」

「それはゴム…… は用意出来なかったので、蛙の舌で代用した銛の発射装置だ。手首を通すようにして使ってくれ」


 水中では腕の振りも遅くなるため、ゴムの反発力を利用して銛を飛ばすのだそうだ。現実の手銛を使った漁では器具を使って手首と繋いだりするのだが、ジョージが試した限りでは、【投擲】の範疇に納めるには単純な輪っかが精一杯だそうだ。恐らく、投石紐とかと同じく補助器具の扱いなのだろう。

 微妙にシステムの穴を付いている気もするが、威力が上がるのであれば文句を言う事でもない。問題があるなら、運営が修正するだろう。


「網はワル君の要望通りに縄を太くして、その上で重石も付けてあるわ。その分、かなりの重量になってるけど」

「うん、良い感じ。こういうのが欲しかった」


 全長10m、ノコギリ部分を除いても8mくらいある鮫を捕らえるための網なので、かなりの大きさになる。網目を大きくした関係上、絡め取って動きを封じると言うよりは重さでスピードを鈍らせることを主目的としているため、重いのは悪いことではない。

 地上では、オズの筋力(STR)でも投げるのは難しそうであったが、水中で突進してくる鮫に被せるような形で使うことを想定しているので、問題は無いはずだ。問題があっても死ぬだけだ。

 期待した以上のものが出来上がった事について夫妻に礼を言い、オズは意気揚々と海へと出掛けていった。



 さて、いつも通り蟹相手にレベルを上げ、現在種族レベルが23である。取得経験値からもう1レベルは上げられると思うが、アビリティのレベルが24になっても新スキルは覚えないので、時間効率と鮫殺したい欲を優先した。

 これまでの遭遇経験から推測するに、鮫は一定のエリアを周回しているようで、ある程度より深いところに進むとランダムでエンカウントする。鮫と戦っている間は他のモンスターに横槍を入れられることは無いが、これは鮫が徘徊型のボス扱いなのか、単に嫌われ者なのかは不明だ。未だ海中でポータルは発見出来ていないので、恐らく後者だと思われるが。

 新アイテムを引っさげてのリベンジという事で、事前の確認を入念に行う。


「銛よーし、網よーし、食い物よーし」


 メニュー見開いて、アイテムをチェックしていく。まあ、受け取ってそのままアイテムバッグに詰め込んだので忘れようもないのだが、こういうルーチンワークを行っているときにアイデアが湧いてきたりするので、意外と馬鹿に出来ない。

 水中での戦いは結構シビアで、特に《ブレスインウォーター》が切れると溺死が確実なので、MPには注意を払う必要がある。【調息】はあるのだが、HP回復が魔法頼りなのでどうしても途中で途切れるし、万が一呼吸が出来なくなったときに使えないという事で、《消化吸収》を使うための食糧をゲッコーから大量に買っていた。

 ちなみに、ゲッコーが用意してくれたのはドーナツなのだが、海中で食べるドーナツの味は、ゲッコーに申し訳ないとしか言い様がない。重量が軽くて戦闘中も食べやすい割に満腹度の上がりは良いので、目的には合致してるのだが。

 一通りチェックを終えて歩き出すと、いくらも行かないうちに、目の前に巨大な魚影が現れる。夜なのでシルエットしか確認出来ないが、あの大きさあの形は忘れようもない。お目当ての、スクリューシャークである。


「会いたかったぜ、鮫野郎!」

「ギョアァァ」


 先手を打ったのは、スクリューシャークの方だった。相変わらす、巨体からは想像出来ない速度で突進してくる。

 これまでの敗戦から分かったのだが、スクリューシャークは必ずこちらの四肢を分断するような攻撃をしてくる。舐めプなのかそう言う習性なのかは知らないが、いきなり首を狙うような攻撃はしてこない。オズの付け入る隙があるとすればそこで、その為のアイテムである。

 アイテムバッグから、トラッパーシェルの貝殻を取り出す。少なくとも今まで手に入れたアイテムの中で最も頑丈で、スクリューシャークの突進で貫通されないのはこれだけだ。貝殻の丸みで相手のノコギリを滑らせるように防げば、ガリガリと削れる音を立てながらも攻撃を防いだ。防具を装備出来ない竜裔の特性上、アイテムで攻撃を防いでもダメージは食らうのだが、それでも腕が飛ばないだけで大分マシだ。

 すぐさまくる折り返しからの突進を、【気配察知】を頼りに間一髪で躱す。全てを躱す事は出来ないし、だからと言って全ての攻撃を受けていたらあっという間に貝殻が壊れる。回避と防御を取捨選択しながら、チャンスを待つ。

 いつまでも攻撃がクリーンヒットしないことに業を煮やしたのか、スクリューシャークが身を捩る。フェイントのつもりかも知れないが、そんな事をしても攻撃が到達するのが遅れるだけだ。降って湧いた一瞬の隙に、アイテムバッグから網を取り出した。

 目の前に突然現れた網をスクリュシャークは先端のノコギリで刻もうとするが、速度が乗っているためにノコギリを振り切る前に網目掛けて突っ込む。網のロープが何本か切れるが、網目が大きいのと一本一本のロープが太かったのが幸いして、網は破断すること無くスクリューシャークに絡みついた。

 鮫は、バックが出来ない魚である。一度網に絡まってしまえば、脱出は困難だ。自慢のノコギリが網を貫いているため網を攻撃する手段も無く、網の重量を受けて目に見えて速度が落ちる。

 足さえ鈍らせてしまえば、オズの攻撃も当たる。アイテムバッグから銛を2本取り出して、両手で交互にぶん投げた。狙い違わず、背びれと腹の辺りに銛が突き刺さる。穂先には結構えげつない返しが付いているため抜けるようなことも無く、敵の身体にしっかりと食い込んでいる。


「《サンダーエンチャント》!」


 オズの両手の爪が、雷を帯びる。【雷魔法】がレベル22になったときに覚えた、属性付与の魔法だ。あくまで対象の武器に属性を付与するだけなので、水中での減衰も適用されない。直接攻撃を当てないと意味を成さないので鮫が泳ぎ回っている内はあまり意味が無かったのだが、ようやく日の目を見るときが来た。

 すれ違い様に左の貫手を叩き込んでやれば、弱点属性だけあって効くらしくスクリューシャークは苦しげに身を捩る。が、タダでさえ足が鈍っているのに、そんな無駄な動きをすれば更に足が鈍るだけだ。その隙を逃さずに、更に追撃を入れる。

 戦闘は、しばらくオズの有利に進んだ。これまでの敗戦が嘘だったかのように、攻撃も回避も楽に出来る。弱点属性で攻撃しているのでダメージの入りも良く、ソロでやっているにしては大分良いペースでHPを削っていく。

 変化が訪れたのは、スクリューシャークのHPが5割を切った辺りだった。


「ギョアアアァァァァァ!」


 突然叫んだかと思うと、凄い勢いで錐揉み回転を始める。スクリューシャークと言う名前から想像出来た事ではあったが、どうやら回転して突っ込んでくるのが奥の手らしい。

 ただ、回転したからといって網を振り切れる訳では無いらしく、その足は遅いままだ。これなら回避も難しくはないと判断し、すれ違い様の一撃を叩き込もうとしたときだ。いきなり、身体がスクリューシャークの方へと吸い寄せられる。

 どういう理屈か知らないが、どうも水流か何かで引き寄せられているらしいと気付いた時には、既にスクリューシャークのノコギリが目の前に迫っていた。慌てて、左腕でノコギリを掴んで無理矢理軌道を変える。左肘から先がミンチになったが、串刺しだけは回避した。そのまま脇を抜けようとしたとき、刺さっていた銛の柄に叩かれて更にダメージを食らう。

 何とか死なずに済んだので、敵がUターンしてくる前に回復魔法で腕を再生する。


「どうにも、近付いて攻撃するのは駄目っぽいな」


 ある程度近付くと、無理矢理相手の方へと吸い寄せられるようだ。近接攻撃は悪手だろう。

 使わずに取っておいた銛を取り出し、遠距離攻撃主体に切り替える。ただ、銛にはエンチャント出来ない上、数に限りもある。恐らくそれだけで相手を倒すには至らないだろうが、だからと言って他にいいアイデアがある訳でも無い。出来るだけのことはやってやろうと、銛を鮫の身体に突き立てていく。幸い、水流に飛び道具を防ぐような効果は無いらしく、銛は問題無く敵に突き刺さった。

 錐揉み回転をしている魚体に銛を撃ち込んでいくので、スクリューシャークはあっという間に出来損ないのハリセンボンみたいな見た目になった。ただ、見た目に反してHPはそこまで減って居らず、手持ちの銛15本を全て撃ち込み終わったあとも、敵のHPは3割ほど残っている。

 こりゃいよいよ接近戦を挑むしかあるまいと覚悟を決めたところで、それに気付いた。


「回転が弱まっている……?」


 スクリューシャークの錐揉み回転が、明らかに最初の頃より遅くなっている。吸い寄せる水流も弱くなっているらしく、右手首から先を犠牲にするだけで脱出出来た。原因は、続く銛の柄の15連撃を食らったときに判明する。


「銛が、水の抵抗で回転を鈍らせてんのか」


 どうも、相手は魔法的な何かで水流を生んでいた訳では無く、あくまで錐揉み回転に伴う形で発生する水流を利用しているという設定らしい。それが、銛が不規則に突き立つことで重心が崩れた上に、銛の柄が水の抵抗を生んで回転自体を鈍らせているようだ。

 そうと分かれば、話は簡単だ。海鳥用に持ってきていたネットランチャーを取り出し、そのままスクリューシャーク目掛けて撃ち出す。網はノコギリに引き裂かれるが、狙い通りだ。そのまま裂けた網は銛の柄に絡みつき、さながら帆のようになって水の抵抗を増す。手持ちの網を全て打ち出せば、不規則に絡まった網は鮫の泳ぐ速度も鈍らせ、最早スクリューシャークの速度はオズでも簡単に追いつけるまでになっている。

 こうなってしまえば、相手はただデカイだけの魚でしか無い。【水泳】と《ウォーターコントロール》を駆使して突進を回避し、そのまま銛の一本を掴む形で鮫の背中へと取り付いた。


「さて、今までのお返しをせんといかんよな、鮫野郎」

「ギョアァァ……」


 オズの爪先に、《サンダーエンチャント》の紫電が宿る。



スクリューシャーク を討伐しました。

平和の海 が攻略されました。豊かなる交路 へ進行可能となります。

スクリューシャーク が初めて討伐されました。初討伐ボーナスが入ります。

スクリューシャーク が初めてソロで討伐されました。初ソロ討伐ボーナスが入ります。


 唐突に表示されたインフォメーションが、戦いの終わりを告げる。どうやら、予想に反してボスだったらしい。

 オズは、これまでの鬱憤を晴らすかのように吼えた。

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