対 ビートルボンバー戦
長くなったので2話に分けています。
更新から飛んできた方は、前話からお読み下さい。
ボスエリアに足を踏み入れた途端、昆虫達が揃って出迎えた。まあ、前回と同じである。
それなりに慣れたとは言えこの数は気持ち悪いらしく、マルガレーテが「うえぇ」嫌そうな声を出した。
敵の陣容を確認した所で、ある事に気付く。
「あのカブトムシ、メスだね」
「……だよな」
来夢月も同じ事に気付いたらしく、オズより早くそれを口にした。
午前中に出会ったビートルファイターは立派な角が生えていたのだが、目の前を飛んでいるカブトムシには角が無い。空中からの突進攻撃で戦うカブトムシに角が無いとなれば戦力半減どころの話では無いが、流石にそれは考えが甘い気がする。何か別の攻撃方法があると思った方が良いだろう。
今更ながら、来夢月に問うてみた。
「情報屋、何か知ってる?」
「残念ながら。
ウチの奥さんから聞いた限りじゃ、このフィールドのボスはオスだった筈なんだけどね。もっとも、このフィールドを攻略したパーティが軒並み情報を秘匿してるんで、サンプル数が少ないのがネックだけど。
まったく、君と居ると商売繁盛で嬉しい悲鳴だよ」
「オーケー。じゃあ、その悲鳴が断末魔にならないよう頑張ってみますか」
つまるところ、確率なのか何かのフラグを踏んだのかは分からないが、新ボスを引き当てたらしい。よりにもよってこのタイミングでと思わないでもないが、文句を言っても始まらぬ。
こちらに気付いた昆虫達がワラワラと寄ってきたので、戦闘を開始することにした。
「来夢月はボスの【鑑定】、ジョージさんと姐さんは自衛最優先で。精霊さん達は、誰か寝そうになったら起こして下さい!」
指示を飛ばし、オズも敵を迎え撃つべく構える。
とにかく最優先ターゲットは4匹居るクワトロガッターだ。こいつらを後ろに抜けさせると、それだけで後衛が崩壊する。
1匹目の下顎をすくい上げるようにしてひっくり返し、2匹目は3連の《ストーングレイブ》で突き上げて上手く横倒しにする。3匹目にはジョージから貰った鉄槍(フリマの売れ残り)をぶん投げまくって無力化した所までは良かったのだが。流石に1対4は無茶だったようで、4匹目の突撃は上手く捌ききれずに、突進してくる顎を掴んで受け止めるのが精一杯だった。
レベル22のオズからしてもクワトロガッターを正面切って受け止めるのは無謀だったらしく、HPゲージが4割ほど一気に減った。その上、筋力でも負けているようで、ジリジリと押されていた。
このまま押し合いを続けてしまえば、ダンガンカナブンを後ろに通す事になってしまう。仕方が無いので少々無理をしようとした所で――
「ワル君、上!」
マルガレーテの注意で、それに気付いた。いつの間にか動き出したカブトムシが、オズの真上に迫っている。ひっくり返しただけのクワガタ2匹はまだ生きているのだが、どうやらメスの方はオスよりも気が短いらしい。
ヤバイと思い、クワトロガッターの押す力を利用して後ろへ飛ぶ。今までオズの居た場所に、白い何かが投下されたのはその直後のことだった。一瞬だけ見えた限りでは、どうにもカブトムシの幼虫のようだったのだが……
幼虫(仮)が地面に到達した途端、派手な爆音と共に盛大に炎を吹き上げた。ほぼ爆心地に居たクワトロガッターはモロに炎を浴び、そのまま燃え上がる。
今更だが、昆虫達の弱点属性は火である。森への被害を考えればおいそれと使えないのと、ダンガンカナブンなどは火が点いたまま飛び回るのでかえって危険度が増すという事で、今まで活用する機会は無かったのだが。ボスからのフレンドリーファイアを受けたクワトロガッターは、程なくしてHPが0になった。
尚も燃え続けたので、流石にマズいと言う事で消火しておく。
「ボスの名前はビートルボンバー。弱点属性は火だとさ」
「いや、あれは流石に森に居ちゃイカン奴だろ」
甲虫爆撃機。来夢月からの報告は非常に納得のいく物だったが、森の中で火を扱うことと言い、フレンドリーファイアを躊躇わない戦闘スタイルと言い、およそ他者との共存に向かない要素満載である。そりゃハニーリッター達も追い出したがる訳だ。
ビートルボンバーは、一旦高度を上げた物のすぐに切り返して戻ってきた。ビートルファイターに比べれば大分遅いが、接近戦の距離まで下りてくる訳ではないのでむしろ厄介な相手と言えるだろう。
再び上空から強襲してくるビートルボンバーの腹には、しっかりと新しい幼虫が抱えられていた。どうやら子沢山のご家庭らしい。迷惑な話だ。
「クソ。3人とも、乗れ!」
雑魚の相手をしながら、上空からのボスの爆撃を回避するのはそこそこ難しい。足の遅い来夢月やゲームに不慣れなジョージ夫妻には荷が重いと判断し、オズは3人を乗せて逃げ回ることにした。
《4足歩行》は一応仕事をしているものの、そもそも竜裔の長い腕は4足歩行向きではない。逃げ回るためにはあまりスピードを落とす訳にも行かず、恐らく乗り心地は最悪だろうと思われた。
「ワル君、コレが終わったら鞍を作りましょう!」
「前向きに善処させていただく所存です!」
飛び回る昆虫の薄い所を縫うようにして逃げ回る。途中、主にオズと来夢月の魔法で雑魚処理もしているのだが、それよりもボスの爆撃に巻き込まれる方が多い。つくづく群れで生きるのに向かないボスだ。
そこかしこにクレーターが出来るが、VRゲームでは不整地の戦いも珍しくない。リザードマンの手足の爪は、むしろおあつらえ向きですらある。途中から雑魚を爆撃に巻き込むコツも掴んできたので、雑魚処理だけならビートルファイターの時よりも効率的だったかも知れない。
雑魚も大分まばらになってきた所で、背中のジョージから声が掛かる。
「ワルト君。済まないが、しばらく揺れを抑えてくれないか」
「善処はしますが、あんま期待はせんで下さいよ」
言いながら、極力揺れを減らすように小刻みに手足を動かす。
ジョージが用意したのは投網器とかネットランチャーとか呼ばれる、読んで字の如く網を飛ばす器具である。カナブンの群れをたたき落とせるように大きめの網を用意していたら、カブトムシでも捉えられそうだという事で急遽ボス戦用に調整された物だ。
元がカナブン用と言う事でビートルファイターの角で破られないか心配だったのだが、角の無いビートルボンバー相手ならかえってやりやすかろう。
ビートルボンバーは爆撃のお手本通り、爆撃対象と移動軸を合わせようとする傾向がある。軸線上に並んだ所で、ジョージの持つ筒から網が発射された。動きの遅いビートルボンバーでは回避は間に合わず、自分から突っ込む形で網に捕えられる。抱えられた幼虫は何かに接触するだけで爆発する仕様だったらしく、直後に爆炎が噴き上がった。
クワトロガッターさえ一撃で倒す爆撃の威力はやはり半端ではなかったようで、ビートルボンバーは派手に炎上しながら墜落した。HPも、瀕死まで削れている。
「派手な親子心中だなぁ」
「ああいうのも、モンスターペアレントって言うのかしらね?」
「どっちかっつーと、毒親の方だと思うけど」
最期の悪あがきで自爆攻撃などされてはたまらないので、そのまま遠距離からボスの体力を削りきる。程なくして、ボス討伐のインフォーメーションが表示された。どちらかと言えば燃焼ダメージの方がトドメになったようだが。
なんとなく締まらないながらも消火して素材剥ぎを始めたのだが、ほとんどの敵は燃焼で死んでいるため、取れるのも炭化した物ばかりだ。ボスの腹も一応残っていたが、表面は見事に真っ黒だった。覚悟を決めて齧り付くが、不味い物が炭化したら更に不味いという、当たり前の事だけが分かった。
「予想通り、【角】が【竜の角】になったな」
「あんまりこんなことを言うのも良くないのかも知れないけど、アナタ、もう少しプレイスタイルを見直した方が良くない?」
「……そんな気はする」
マルガレーテの言う事もイチイチもっともだったが、恐らく聞き入れることはないだろう。ゲーマーとはそんなものだ。
焦げ跡の残るボスフィールドが気にはなったものの、オズ達にはどうしようもないと言うことで、そのまま次のエリアへと足を運ぶ。
いつの間にか時刻は夕方に差し掛かっていたようで、空と海も夕焼け色に染まっていた。
「あら、綺麗ね」
「こういう景色を見ると、ここがゲームだというのを忘れそうになるな」
VRゲームに慣れていないジョージ夫妻は、目の前の景色を純粋に楽しんでいるようだった。
一方で、来夢月の方はなにやら海岸線を眺めていたのだが、やがてお目当ての物を見つけたらしく、一点を指差した。
「さて、皆様あちらをご覧下さい」
「どれどれ…… ってアレ、街か!」
来夢月の指差した方を眺めれば、結構立派な港町らしき建造物が目に入る。午前中は気がつかなかったが、まあゾフィーの死に戻りでそれどころではなかったからだろう。
「攻略組から、森の情報が落ちてこなかった理由がコレさ。ボクらに先を越された反省からか、街の存在そのものを秘匿する方向に舵を切ったらしくてね」
「つー事は、最前線組は次の街に到着してるって事か?」
「どうだろう? 実を言うと、本当に情報が落ちてこないんだよね。とは言え、街への一番乗りならそれなりに喧伝すると思うし、多分まだだとは思うけど」
準攻略組の来夢翠のパーティや、エンジョイ勢のオズが砂浜へと進んでいるのに、最前線組が次の街へ到達出来ていないというのは少し意外だった。
ただ、これまでの傾向を見るに、攻略組はNPCとの交流を最低限にしているので、いよいよAPが足りていないのかも知れない。逆に言えば、APが足りなければ最前線組ですら難儀するフィールドという事だが。
さて、いつまでも景色を眺めている訳にも行かない。ジョージ夫妻は長時間の戦闘で流石に疲れたそうなので、そのままポータルから街へ戻って解散した。




