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ゲームでは誰もが主人公になれるが、自分以外が脇役という訳ではない

「ワル君、悪いんだけど、レベル上げを手伝ってくれない?」

「そりゃ、構わんけど」


 遅めの昼飯を食ってしばらくして。

 ログイン後にさて何をやろうかと思案していた所、マルガレーテから呼び出しを受けたので、隣家までやって来たは良いのだが。いきなりの申し出に、少々戸惑う。

 今までマルガレーテはどちらかと言えば「レベル上げは必要だからやる」といったスタンスだったので、レベリングに積極的なのは少々意外だった。

 まあ、必要か不要かで言えば必要な作業ではある。子供達が砂浜に到達したため、そこで手に入る新しい素材を加工するには、種族レベルとアビリティレベルを上げる必要があるだろう。前向きなら、それに越したことも無い。

 ラインハルト一行のお守りが思ったより早く終わったこともあり、断る理由も特になかったので、そのまま森へと向かうことにした。



 丁度家を出た所で来夢月と鉢合わせたので、試しに誘ってみたら二つ返事で着いてきた。そんな訳で、今日も今日とてオズは3人を背中に乗せて森を歩いている。

 四つん這いで乗り物として振る舞うことに慣れてきたという事実には危機感を覚えるべきなのだろうが、足の遅い来夢月に歩調を合わせる時間的ロスを思えば、それくらいの人間性は惜しくないと思える程度にはオズもゲーマーである。


「いやはや、それは災難でしたな」

「ええ、全く」


 オズの背中の上で、来夢月がジョージ夫妻から事情を聞いていた。

 なんでも、ジョージがスータットの街のフリーマーケットで作成した装備を売っていた所、無礼なプレイヤーに絡まれたらしい。到底話にならないような条件で自分達の専属になるよう持ち掛けられたので、ジョージも当然断ったそうなのだが。

 ジョージの断り文句が相手の癇にさわったらしく、頭に血を上らせた馬鹿共があわや喧嘩沙汰を起こしそうになった所で、間一髪憲兵さんがやって来て馬鹿共を引っ捕らえて行ったそうな。

 ジョージに瑕疵は無かったのだが、そのまま営業を続けて馬鹿共が戻ってきても周囲に迷惑だという事で、本日の営業は急遽取りやめになったそうだ。


「そう言う訳だから、申し訳ないけどワル君への支払いも少し待って欲しいのよね」

「ま、しゃーないわな。そこまで急がんで良いよ」


 収入が減るのが痛くないと言えば嘘になるが、事情が事情だけに責める気も起きない。

 生産職を下に見る戦闘職プレイヤーというのは、残念ながら一定数存在する。何故ジョージが目を付けられたのかは分からないが、運が悪かったと思うしかあるまい。被害が続くようであれば、運営に通報しなければならないだろうが。

 一応は一家のアドバイザー的な事をしている来夢月は、この事態に思う所があったのか代替案を提示してきた。


「そう言う事なら、ウチの奥さんのパーティの装備を発注させて貰えないかな。丁度、砂浜攻略に乗り出した所なんで、新調するなら良いタイミングだろうしね」

「スーホやクマゴローも装備は欲しいだろうし、しばらくは知り合いからの受注生産に絞っておいた方が無難かな」

「やっぱり、そうなるかしらね……」


 来夢月の提案に乗っかる形でオズからも助言を送れば、マルガレーテも仕方が無いという風に頷いた。

 ジョージもマルガレーテも馬鹿の口車に乗るようなことなないし、街の中に居る限りは何かあれば衛兵がそれこそシステム限界の速さでやってくる訳だが、それで馬鹿が死滅する訳でもない。避けられるトラブルなら避けた方が、結局はコストが安く済む。

 生産アビリティのレベルを上げるには数をこなす必要があるので、受注生産に絞ってしまうと収益的には厳しいのだが、そこは周りが支えるしかあるまい。幸い、オズは装備を必要としないので、素材の無償提供にそこまで大きなデメリットは無い。レベルドレイン代は別途稼ぐ必要があるが。

 あまり気の滅入る話ばかりしていてもゲームが楽しくないと言う事で、一行は狩りを開始することにした。



 さて、オズがレベリング場所に樹精の森を選んだのには、いくつか理由がある。

 まず第一に、樹精達のクエストを受ければ素材が手に入る事。大半が薬草などの消費アイテムの材料なのだが、木材等も混じっているので装備を作るのに使えなくはない。ジョージ達は樹精のクエストを受けるのは初なので、初回特典のAPも稼げてお得である。

 今後の事を考えれば【精霊語】の取得優先度がかなり高いという事で、ジョージ夫妻はAPを取っておいて後で【精霊語】を取るときに使うそうだ。来夢月は取得条件だけは満たしていたらしく、途中でAPを使って【精霊語】を取得していた。

 第二の理由が、ハニーリッター達に聞いた情報にかなり有益な物が混じっていたので、その検証のためである。

 ハニーリッター達を疑う訳では無いが、流石に検証無しで受け入れられるような情報でもなかったので、来夢月と二人で試してみたのだが……


「本当に、精霊にお願いして起こして貰うなんて事が可能なんだねぇ……」

「正直、プレイヤーから聞いたら絶対信じられたなっただろうがなぁ」


 「精霊に『寝そうになったら起こして』とお願いすれば、起こして貰える」というのは、ゲームに慣れている人間ほど思いつかない手段である。

 テイムしたモンスターのような明確に『仲間』として扱われるNPCならいざ知らず、その辺にいる精霊までもがそういうファジーなお願いを聞いてくれるというのは、これまでのゲーム経験からしても信じられない事だった。実際に起こっている以上、信じざるを得ないのだが。言ってしまえばその辺の空気にすら判断能力を持たせている訳で、中々に贅沢な演算能力の使い方であろう。

 その辺にいる精霊に語りかけるという【精霊語】の特性上、起こして貰う手段は様々だ。光の精霊が《キュア》を掛けてくれるのは当たりの方で、大抵は微弱な攻撃魔法が飛んできてその衝撃で起きる事になる。微少なダメージは入るものの、眠ったまま敵に攻撃を食らうよりは遥かにマシなので、文句を言うようなことでもないのだが。

 もしかしたら起こして貰う精霊を指定すれば良いのかもしれないが、そもそも善意で助けて貰っていながら細かい注文を付けるというのも憚られるので、試してはいない。オズが寝そうになるとやたらと硬い木の実が飛んでくることが多いのは、【樹精の加護】の賜物なのかどうなのか。中々に検証班泣かせのシステムである。

 何にせよ、睡眠の状態異常さえどうにか出来るなら、眠眠ゼミなど鳴き声がやかましいだけの虫ケラである。

 森の討伐クエストは順調に進み、難関だった昆虫総攻撃も、クワトロガッターをひっくり返してしまえばひたすら雑魚処理をするだけの作業に成り下がった。


「《ウィンドカッター》3連」


 魔法で生じた風の刃が、飛んでくるダンガンカナブンの内翅を切り裂いた。地面に落ちた3匹の虫を、ジョージとマルガレーテが槍で突いて処理していく。

 最初に処理されたクワトロガッターを除けば、一番脅威度が高いのはそれなりに高速で飛び回るダンガンカナブンである。後ろに抜けさせると惨事になりかねないので、向かってくるのは両腕と尻尾を使って弾き飛ばし、眼前に来たのはそのまま噛み砕き、その辺を飛んでるのは魔法を使ってたたき落とす。最初は大きな昆虫を気味悪がっていたマルガレーテも、地面に落ちた虫を処理している内に慣れたらしく後半は自衛程度なら出来るようになっていた。

 分身を生み出すカレイドモスを来夢月の範囲魔法でまとめて処理し、脅威度の低いカレイドキャタピラーと眠眠ゼミを最後に片付ければ、インフォメーションにクエストクリアの記録が表示される。

 蝉の状態異常が無力化出来ないようであれば、一所に固まってオズを防壁にする形で持久戦を挑もうと思っていたのだが、意外なほど上手く行った。


「ま、一度攻略法が確立しちまえば、こんなもんか」

「物理寄りの種族を選んだワリには、君も魔法を当てるの上手いよね」

「つっても、魔法の軌道調整は他のゲームと変わらんしな。ある程度慣れてりゃそう難しくもない」


 来夢月のヨイショを軽く流す。

 思考で軌道を描く魔法攻撃は、アダプターの技術が出来る以前から数多くのゲームに実装されている。フルダイブVRのゲームだと、必中攻撃というのは受ける側の理不尽感が際立つので、魔法攻撃も頑張れば回避出来るようになっているゲームが多い。『自分の思い通りに魔法が飛ぶ』と言うのは、ゲームへの没入感を高めるのに一役買うというのもある。

 対人戦であればお互いの手の内の読み合いや相手にバレないような仕込みまで交えた応酬になる訳で、それに比べれば単調な動きのモンスターを落とすのはハッキリ言ってヌルゲーだ。

 かく言う来夢月も、先程までの戦闘で危うくなるような場面は無かった程度にやり手である。足の遅い兎人族ながら巧みにオズに護られやすい位置取りをキープしていたので、オズとしては非常にやりやすかった。一家でゲームをやっているだけあって、ゲーマーとしての年期を重ねているのだろう。

 森での狩りは今の所上手く行っており、ジョージ達のレベルも順調に上がっている。


「で、このままボスに行きます?」

「そうしよう。元よりその予定だったしな」


 オズが一応確認すれば、ジョージが当然というように答えた。

 この森に来た理由の最後としては、ジョージが丁度ボス戦に役立ちそうなアイテムを作っていたからだ。とは言え、元からビートルファイター戦を予想して準備していた訳ではなく、カナブン用に用意していた物がそのままボスにも流用出来そうだと言うだけの話だが。

 ビートルファイターは素早いとは言え、物理法則を無視したような無茶な機動をする訳では無いので、オズを囮にして落ち着いて狙えば当てるのはそこまで難しくないだろうという事だった。リアルで狩猟免許を持っているジョージの言葉なので、それなりに説得力はある。

 経験値効率から考えても、森の中で上限レベルまで上げるよりは次のフィールドに行けるなら行ってしまった方が良い。

 道中の雑魚を処理しながら進んでいくと、程なくしてボスエリア前のポータルに着いた。午前中はこの辺でハニーリッター達に遭遇したのだが、今は居ないようだ。タイミングが悪かったのか、遭遇のための条件があるのかは分からなかったが。

 無い物ねだりをしても仕方が無いので、そのままボスエリアへと足を踏み入れる。

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