表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/105

嘘を嘘と見抜けない人間にVRMMOは難しい

「ただいま帰りました」

「邪魔するぞ」

「おかえり、眠兎。オズ君も待っていたよ」

「今、お茶を淹れますね」


 あれから、ぶんむくれるゾフィーをどうにか宥めてパーティを解散し、オズは来夢家へ訪れていた。用件としては、ハニーリッターと【精霊語】に関する情報拡散をどうするか、である。

 単に情報を流すだけなら掲示板にでも書き込めば良いのだろうが、【精霊語】の習得コストを考えると追加での検証が難しいので、信用されるまで時間が掛かる可能性がある。あまり悠長にしていてNPCからのヘイトが高まるのもマズいので、出来ればサッと広めてそのまま浸透してくれるのが望ましい。

 プロ二人は情報の拡散自体には賛成だが、二人はプライベートとしてミリオンクランズ・ノーマンズをプレイしているので、プロのネームバリューを使って情報拡散をすると色々と面倒なことになるという事で話し合いへの参加を辞退していた。一番手っ取り早い方法が使えないのは残念だが、先のビートルファイター戦の動画は使って良いと言ってくれたので、それで良しとすべきだろう。

 来夢翠の淹れてくれた茶を飲みながら、4人で動画を鑑賞する。ハニーリッター達との交渉については狙ってやった訳ではないので、動画が残っているのはボス戦が始まった所からで、事前交渉の様子は残っていない。一応、ボス戦後の情報交換に関しては動画が残っているので、証拠としては一定の価値はあると思いたい。

 ハニーリッターとの会話は【精霊語】で行われていたので、アビリティを持っていない人間にどう見えるかは不安要素だったのだが、動画でならアビリティの無い来夢月にもハニーリッターの話は理解出来るということなので、一安心である。

 余談だが、先のイベントでオズが横流しした【精霊語】の巻物は、来夢翠が使ったそうだ。


「ふむ…… 【精霊語】の習得がネックではあるけど、非戦闘職への救済措置としては面白い試みだね」


 動画を見終わった来夢月が感想を述べる。

 これまでの経緯から、スータットの街と樹精の森が蜜月関係を築いているのはまず間違いない。となれば、スータットで生産職をやろうとすると、素材確保の面で【精霊語】の習得はそこそこ優先順位が高い。それがそのままステージクリアの救済措置になっているのは、確かに面白い試みではある。圧倒的に情報の周知が足りていないが。

 とりあえず、NPCの間に異邦人(プレイヤー)=密猟者の認識が広まる前に、情報を周知する必要があるのだが。


「まあ、この件については同業者にも広めておくよ。情報屋をやるならNPCとの繋がりも必須だし、裏付けを取るのも嫌がらないだろうさ」

「後は、どれだけ情報が信用されるか、か……」

「ああ、それに関しては、多分問題無んじゃないかな」


 オズの懸念を、来夢月は一蹴した。

 根拠が分からず困惑するが、根掘り葉掘り聞いてしまえば来夢月の情報屋稼業に抵触する事にもなりかねない。どう質問したものかと考えていると、オズの迷いを察したようで、来夢月の方から口を開いた。


「まだ未確定の情報だからオフレコでお願いするけど、このゲーム、どうにも職業システムみたいなものがあるらしいんだよね」

「種族によって特色出してるのに、そこにジョブまで加えたら、いよいよ面倒なことにならないか?」

「それが、いわゆるゲーム的な職業(ジョブ)じゃなくて、リアル寄りの職業(しょくぎょう)なのさ」


 来夢月の説明によれば。

 このゲームにもいわゆる『生産ギルド』的なものは存在し、大抵の生産職はそこに登録して施設を使用しながらアビリティレベルを上げていく。

 で、この生産ギルドで一定以上の成果を収めればギルドランクが上がっていくのだが、それとは別に『真面目に働いているかどうか』というのをNPCにチェックされていて、その『真面目さ』に応じてNPCの態度が変わってくるのではないか、と言われている。

 ギルドランクを上げるだけなら、必要最低限の品を必要最低限の品質で納めれば良いだけなのだが、品を納める頻度や質、継続期間などによって同じランクでもNPCからの覚えが変わってくるそうだ。そして、NPCからの覚えが良くなれば、ちょっとした個人依頼のような形でクエストを発行して貰え、それで小金を稼いだり運が良ければAPも取得出来るとの事。

 ある意味で当たり前と言えば当たり前なのだが、ゲーム的に見れば明らかにおかしいこの事象は、『職業システム』や『職業値が溜まる』と掲示板で呼ばれているらしい。


「主にKNOWSONさんからの受け売りなんだけど、薬師や木こりなんかの森に携わる職業でポイント溜めると、NPCから【精霊語】のレッスンもして貰えるそうだよ。

やたらと拡散して有象無象がNPCの元に押し掛けても悲劇しか起きないからってんで、具体例が挙がってこないのが難点だけど」

「スータットじゃ読み書き計算と一緒に子供の時分に習うらしいし、不思議じゃない、か?」

「そんな訳で、NPCからの信頼を勝ち取ればプレイヤー側にも利益があるというのは、プレイヤー間で周知されつつある。生産職では、樹精の森でクエストを受けるプレイヤーも増え始めてるらしいしね。

キミの情報も、その一端として受け入れられると思うよ」


 つまり、主に生産職のプレイヤーには、この情報を受け入れて検証するだけの下地がある人間もそこそこ居ると言う訳だ。情報を流して、そのプレイヤー達が追加で検証してくれれば、それだけ信用度も高くなる。

 余程の人嫌いではない限り、戦闘職のプレイヤーも生産職の助けを受けてプレイすることになる。となれば、不和の原因になるような行いは慎むようになるのが大多数なので、わざわざ樹精達の不興を買うような事はしなくなるだろう。

 幸か不幸か、ガンギマリの最前線攻略組はほとんどが森を抜けて浜辺を攻略しているので、「クリアした後のステージがどうなろうが知ったこっちゃねぇ!」みたいなプレイヤーが森に行く事は減るだろう、というのが来夢月の予想だった。

 伝聞の情報が多くてオズには何とも判断出来ないが、情報屋をやっている来夢月が言うのであれば一定の信を置いて良いだろうと思う。


「それにしてもこのゲーム、かなり寄り道を強いられる造りになっとるんだな」

「そうなんですよねぇ……」


 オズの感想に、来夢翠が嘆息する様に同意した。

 ラインハルト達が森の攻略に行き詰まっていた事から察するに、このゲームの戦闘は結構難易度が高い。彼等は確かに欠点はあるものの、エンジョイ勢全般を考えれば、特筆して戦闘力が低いという訳ではないだろう。その彼等が、上限レベルに達しても森をクリア出来ていなかったと言うのは、おかしな話ではあるのだ。

 MMORPGと言うのは8割以上がエンジョイ勢なので、それが序盤のダンジョンすらクリア出来ないというのは、構造として問題があると思っていたのだが。来夢月やオズのこれまでのプレイ内容から想像するに、NPCとガンガン交流してAPを稼ぎ、アビリティを揃えてステータスを上げてから攻略するというのが、想定された攻略法なのだろう。

 ラインハルト達も樹精の森でのクエストは受けていたが、恐らくはスータットや鉱山街イアンカーボンでのクエストも受けて、かなり潤沢にアビリティを揃えた位が、運営の想定した適正レベルなのだろう。

 正直、かなり酷い話だと思う。


「まだアビリティの情報もろくに出揃っていませんし、種族に合う合わないもありますので、情報屋としては『とりあえずアビリティ揃えれば良し』とも言えないんですよねぇ」

「そういや話は変わるが、この角、アビリティで生えたやつだ」

「その話、聞かなかった事に出来ません?」


 情報屋としてはあるまじき来夢翠の発言を聞かなかった事にするだけの優しさが、オズにも存在した。

 冗談はさて置き、現時点ではアビリティゲーだと思われるこのゲームで、種族アビリティの取得情報は貴重ではあろう。取得方法自体はゲッコーから聞いている筈だが、どのボスからどのアビリティが手に入るかというのは、押さえておいて損はあるまい。


「従来の方法で手に入らないかも知れない種族アビリティの存在とは、これまた情報屋泣かせだね」

「それこそ、NPCからの覚えが良くなれば、何らかの形で伝授して貰えるのかも知れんが」

「そりゃまた、勤労意欲が湧き上がるなあ……」


 明らかに勤労意欲が湧き上がっているとは思えない声音で、来夢月が天を仰ぐ。いかんせん、このゲームはキャラメイクの際に選べる種族がかなり多いので、気持ちは分からないでもない。

 オズには情報屋や検証班の事情に関してはよく分からないので、その辺は上手くやって貰うしかないのだが。

 ひとまず落とすべき情報は落としたと言う事で、来夢家を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ