一寸先は罠
ボス討伐も終わり、戦利品をアイテムバッグに収めていく。
ハニーリッター達は昆虫素材は要らないと言うので、オズ達がそのまま戦利品を頂戴することになった。
パーティの大半が【狩猟】アビリティ持ちなので、死体がそのまま残っている敵も多く、その選別と素材の剥ぎ取りも一苦労である。まあ、通常のドロップよりは明らかに獲得アイテムも多いので、文句を言えばバチが当たるだろうが。
大型種族が4人もいるパーティなので、損傷の少ない雑魚モンスター死体は丸ごと持ち運ぶことも出来るため、金策という点ではかなり恵まれている方でもある。
ただ、大型モンスターであるクワトロガッターとビートルファイターは流石の大型種族でもそのまま運搬するのは難しく、解体して必要そうな部分だけ持っていこうという事になったのだが……
「最初はグー、ジャンケンポンッ!」
「あいこで、ショッ、ショッ、ショッ」
オズとクマゴローのジャンケン対決は白熱していた。
肉食獣である二人は、ボスの内臓を食う事でアビリティを得られる可能性がある。どちらが死体を引き取るかで勝負しているのだった。
ボスと戦うのは何度でも可能だし、二人とも【狩猟】アビリティは持っているので死体を手に入れるのにも不自由はないのだが、双方負けず嫌いなので勝った上で相手より先にアビリティを取得してドヤ顔をしたいのだ。何とも大人げない年長組だった。
果たして、ジャンケン勝負はオズに軍配が上がり、勝者となったオズは右手を高く上げて勝利を誇る。パーの形だったので、イマイチ格好が付かなかったが。
素材となりそうな部分を剥ぎ取り、恐らく内臓が詰まっているであろう腹部にかぶり付く。昆虫食にあまり縁の無い年少組は、それを若干引いた目で見ていた。
ゾフィーが少々嫌そうな声音で聞いてくる。
「オッさん、美味い?」
「カブトムシ臭い泥に不思議な渋みが混じってて、ぶっちゃけ不味い」
「その食レポは要らなかったなぁ」
ゾフィーの質問に正直に答えれば、後で自分もそれを食う羽目になるクマゴローが嫌そうな顔をした。
ゲームのスタッフが何を考えてこの味をデザインしたのか知らないが、どうにも【捕食】アビリティは味覚的なハードルが高い。あるいは、【料理】アビリティに付加価値を持たせるためのデザインなのかも知れないが。
まあ、所詮はゲームだし、アビリティを手に入れるためなら多少不味い位は我慢出来る。そのまま食い進めて行くと、やがて通知音が鳴った。
「っと、新しいアビリティ覚えたな。えーと……」
「オッさん、角生えてる!」
ゾフィーの言うとおり、メニューのアビリティ欄には【角】のアビリティが増えていた。【鱗】が【竜鱗】に変化した事を考えれば、これももう一度カブトムシを食う事で【竜角】辺りに変化するのだろう。なんだかのど飴みたいだが、まあそれは良いとして。
どの辺りに生えたのかと思い頭をなで回してみるのだが、どうにもそれっぽいモノが手に触れない。おかしいと思いながら頭をペタペタやっていたのだが、ゾフィーから「鼻、鼻」と言われて、ようやく自分の間違いに気づいた。
手を自分の鼻先に伸ばして見ると、確かに今までに無かった突起に指が触れる。竜の角と言う事でてっきり頭に生えると思っていたのだが、どうも鼻先にサイの角の様な物が生えているようだった。そうと意識して見れば、鼻先に何か生えているのも見えるのだが、眼鏡のフレームと同じで、意識しないと自然に無視してしまうようだ。
攻撃に使うことを考えれば、頭部よりも鼻先にあった方が便利ではある。ただ、リーチの長い腕とそこそこ威力のある牙があるのに、わざわざ角で攻撃する機会があるかは微妙だが。
「しかし、アビリティに応じて姿形が変わるというのは、初めてじゃないか?」
「言われてみりゃ、確かにそうだな」
スーホの指摘で気付いたが、これまで種族アビリティを覚える際は、事前にそれに応じた行動をして内部経験値の様な物を貯める必要があった。だが、今回の【角】はこれまで無かった器官を用いるアビリティであり、通常の方法で取得は出来ない可能性が高い。
言ってしまえばちょっとした隠しアビリティなのだが、見た目に反映されるという事は取得状況が一目でバレると言う事で、ゲームが始まったばかりのこの時期には少々厄介ではある。
まあ、ゲーム慣れしているオズなら降りかかる火の粉は自分で払えるので問題無いが、もしラインハルトやゾフィー、カブータスが同じ状況になれば、面倒なことになるかも知れない。面倒なのに絡まれたら、すぐさまプロかオズに相談するよう年少組に言い含めておく。
ハニーリッター達といくらか情報交換をした後に別れ、そのまま次のフィールドへと足を踏み入れる。
「海だぁーーーー!!」
ゾフィーの第一声が、フィールドの特徴を端的に示していた。ムーンサイドビーチという名称から想像は付いたが、白い砂浜に青い海と、まるでリゾートビーチのような光景が眼前に広がっている。
幼いゾフィーは興奮を抑えきれないようで、ポータルへの登録を済ませるとそのまま波打ち際へ向かって走って行く。
ラインハルトが、はしゃぐ妹に一応は釘を刺しておこうと声を掛けた。
「おーい、あんまり離れないでよ」
「大丈夫だって。へーきへー……」
ゾフィーの返答は、最後まで続かなかった。砂の中から突然現れた巨大な貝が、そのまま彼女を飲み込んだのだ。
パーティ内では索敵アビリティがトップクラスの彼女が、反応も出来ずに飲み込まれるというのは流石に予想外で、一同は慌てて貝に向かって駆け寄る。
一番先に接敵したスーホが勢いのままにランスを貝殻に突き立てるが、ビクともしなかった。
「攻撃の相性もあるんだろうが、それにしても硬いな!」
「砂に潜られると厄介だ。とりあえず、大型4人で貝を持ち上げて、全員で攻撃。 物理攻撃は駄目そうなんで魔法優先で!」
続けて追いついたオズの号令の元、大型種族4人で貝殻を持ち上げる。近付いて改めて分かったのだが、アサリのような貝殻はそれこそオズでも丸呑みに出来そうな程大きい。ゾフィーが自力で脱出するのはまず無理だろう。
モンスターを持ち上げるというのは賭けではあったが、現状で一番マズいのはそのまま砂に潜って逃げられる事である。流石に、不意打ち以外で大型種族を瞬殺出来るような火力を持ち合わせているようだと、何をしても太刀打ち不可能なので、大型種族のメンバーにはリスクを負って貰うしかない。
「モンスターの名前はトラッパーシェル、弱点は火と雷です!」
来夢眠兎から【鑑定】の結果が報告され、各人が攻撃を開始する。
トラッパーシェルは丸呑み以外にロクな攻撃手段を持っていないらしく、基本的にはされるがままだ。時々、威嚇するようにガチガチと貝殻を打ち鳴らすのだが、貝殻が開く瞬間は中に直接魔法を叩き込めるので、ボーナスタイムでしかない。
それでもかなりタフなようで、10分くらい攻撃を続けてようやくHPを削りきった。火属性の攻撃が多かったためか、貝殻がパカッと開いて、中からほどよく火の通った貝の身が姿を現す。あたりに、美味しそうな匂いが広がった。
とうの昔に死に戻っていたようで、貝殻の中にゾフィーの姿は無い。
「どうするよ、これ?」
「気分的なもので申し訳ないんだけど、ゾフィーを食べた貝を食べるってのは、止めて欲しいかな……」
ラインハルトの申し出は本当に気分的なものでしかなかったが、誰からも反対意見は出なかったのでそのまま採用され、貝の身は捨てて貝殻だけをアイテムバッグにしまい込む。
スカウトを失った状態で探索を続けるのも無謀だし、そもそもお昼の時間も近いという事で、一行はそのままポータルを通って街に戻ることにしたのだった。




