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どうにも、「チートアビリティで無双!」って感じではない

 沼地での狩りは、その後は順調だった。

 種族レベルが上がって各々がゴブリン相手に1対1で負けない程度になったため、狩りの効率は上がっている。難敵と言われていた蛙とも戦ってみたのだが、来夢眠兎からの情報通り、タンクと火力が一人ずつ居ればなんとかなるレベルで、オズのHPが5割ほど削れたが倒すのはそこまで苦でもなかった。

 蛙のドロップアイテムは舌と皮、そして肉で、舌と皮はそれぞれ武器と防具の素材に、肉はそのまま料理に使えるとの事だ。来夢眠兎は皮が欲しいとの事だったので、今回の案内の報酬としてそちらを渡し、それ以外は全てジョージとマルガレーテに持たせる事で話が付いている。

 生産に興味がない子供達にそれらを渡しても意味がないし、売却して利益を得るなら、交渉事に慣れているマルガレーテが一手に引き受けた方が効率が良い。オズは、種族特性もあって装備品を殆ど必要としないので、今回の報酬は全て従姉一家の初勝利のご祝儀と言う事で譲っている。

 今日一日戦ってみた感触からすれば、オズ一人なら金策はどうとでもなると思われるので、それなら一家に報酬を譲渡することで味を占め、長くゲームを続けて貰おうという魂胆である。

 来夢眠兎とゾフィーの種族レベルが7、ジョージとマルガレーテ、ラインハルトの種族レベルが6、オズの種族レベルが5になった所で、時間の都合もあり一旦引き上げる事になった。

 レベルだけ見るとオズがイジメを受けているようだが、これは元々大型種族の経験値テーブルが重めに設定されている為らしい。それにしても、稼働初日にたった数時間で2レベルも離されるのはやり過ぎではないかと思うのだが、それをここで言っても仕方が無い。まあ、こういう種族だと思う事にする。

 と言う事で、スータットの街に帰る事になったのだが。


「オッさん、Go」

「ワルト、Go」

「ワル君、Go」

「…………」

「アンタら、この状況は少しおかしいと思いませんかね?」


 従姉一家4人が、オズの背中に乗っている。ログイン直後のブレーメンと荷重は似ているが、今度は4人とも直接オズの背中に乗っているのが、違いと言えば違いか。現在のオズのSTRでは4人の体重を両足のみで支えて歩くのは辛いので、四つん這いになって這うように街へ向かっていた。

 一応、「オズの【乗騎】アビリティのレベル上げ」という名目は付いているが、本音としては歩くのが面倒なだけだろう。まあ、狩場の選定で危うくやらかす所であったので、今回はその反省の意味も込めて大人しく従っているが。

 明らかな過積載によるペナルティはそこそこ重いようで、目の端に表示されているスタミナのメーターがゴリゴリ減っていくのが見える。


「【運搬】というアビリティがありまして、こちらはアビリティレベルに応じてアイテム等の可搬重量を上げてくれます。前衛は装備の重量が嵩みがちなのでβ時代から人気のあるアビリティでしたが、装備が殆ど無い竜裔ですと少し微妙かも知れません。

あと、【調息】というアビリティは、呼吸を整えている間はノーコストでHP、MP、スタミナが徐々に回復しますよ。ただ、レベルが低い内は回復量も雀の涙で、呼吸を乱した途端に効果がなくなる上に呼吸を整えてから効果が発動するまで若干のタイムラグが生じるという欠点もありますが。

他には、【樹魔法】のレベル1で覚える《リーフヒール》もHPとスタミナを回復してくれる魔法です。【光魔法】レベル5で覚える《ライトヒール》はHP回復量は多いもののスタミナは回復してくれないので、回復役を買って出るなら2種類持っていた方が良いです」


 来夢眠兎は、オズに便乗する気は無いものの一家を止める気も無いらしい。立石に水でアビリティの説明をしてくれるのは、案内の一環なのかそれとも単に本人が話し好きなだけなのか。

 なんにせよ、アドバイスはありがたく受け取って【運搬】【調息】を取得する。【樹魔法】は選択肢になかったので、何かしら取得条件があるのだろう。格ゲー好きのオズとしては呼吸を整えるのはそう苦でもないが、【調息】の回復量は本当に雀の涙で、だましだまし進んでは休憩を挟む羽目になった。

 スータットの街に辿り着く頃には、もはや【調息】もままならない程度には疲労困憊していた。オズにとっては永遠にも感じられる時間だったのだが、時計を見ると意外にも行きとそう所要時間は変わっていない。と言う事は、来夢眠兎の歩行速度は4人乗りのオズと同程度しかないという事で、改めてこのゲームの種族格差に戦慄する。



 従姉一家とは街の入り口で別れた。あちらは本日のゲームは終了し、これからリアルで夕食をとるらしい。ゾフィーだけは遊び足りなそうにしていたが、マルガレーテの「また明日ね」という言葉に渋々頷いていた。

 オズと来夢眠兎は、もう少しゲームを続けるつもりである。特に、来夢眠兎は元々目的があってオズ達を案内していた訳で、そちらを果たすまではログアウトする気は無いとの事だ。


「さて、改めて、竜裔の使用感を聞かせていただきたいのですけど」

「了解だ。半日付き合って貰った恩もあるし、分かる限りの事は答えるよ。ただ、出来ればメシを食いながらにしないか? 空腹でバッドステータス付いてるんだ」

「あら、気付きませんで。でしたら、丁度オススメの店があります」


 最近のVRゲームはよく出来ていて、空腹で脳に糖分が回っていない感覚も再現してくれる。「あれ、これナンパじゃね?」という事に思い至ったのは、食後の茶を啜って人心地付いた後だった。まあ、強引に誘った訳では無いから、迷惑行為で通報される事も無いと思いたいが、次から気をつけようと心の中だけで反省する。

 来夢眠兎が案内してくれた店はいわゆる大衆食堂的な雰囲気の店で、値段は少し高めだが美味くて量が多い、大型種族にはありがたい店だった。周りも不快でない程度に活気があるので、話をするのに変に畏まらずに済む。なるほど、オススメというだけはある。

 契約不履行の誹りを受けたくはないので、竜裔の使用感について思いつく限りの事を話していく。


「とりあえず沼で戦ってみて感じたのは、前情報にもあったステータスの高さだな。低レベルの裸プレイっつーネタにしか思えん様な状態でも、格上のモンスターとやり合えるのは文句なしに強いと思う。ただ、時間が経ってプレイヤーメイドの武器防具が出回れば、そう大きなアドバンテージじゃなくなるだろうが」

「少し気になっていたのですが、竜裔は腰布が装備出来ますよね? 初期装備はどうしたのですか?」

「防御力0のゴミアイテムなんで、売っぱらった。もっとも、売値も0だったから捨てたって言う方が正しい気もするが」


 大抵のゲームがそうであるように、ミリオンクランズ・ノーマンズにおいても装備を全て外したからといって直ちに全裸になる訳ではない。普段は白い上下のインナーが勝手に装備され、全裸になれるのはそれが許されている特殊な空間のみだ。

 ただ、いくつかの種族で例外があり、見た目が人間と大きく異なる種族はインナーが表示されない事もある。動物が全裸でも法に触れないからなのか、はたまた動物にパンツを履かせる行為を運営側が嫌ったのか。

 竜裔もその例外種族の一つで、腰布を外したオズの姿はまんま直立歩行するトカゲだ。自分のアバターである事を差し引いてもこちらの方が格好良いと思えてしまうので、実のところ初期装備がゴミなのも含めて運営は竜裔に服を着せる気が無いんじゃないかと邪推している。


「逆に、目に付いた欠点や不満点などはありますか?」

「不満点という程でもないかも知れんが、身体のサイズや下半身の関節構造が人間と異なるのは、ちょいと気になるな。まあ、俺が普段格ゲーやアクションゲーメインだからってのもあるだろうが」

「そんなに違う物ですか?」

「とりあえず、チュートリアルでモーションサポートOFFにしたら、芋虫に殺されかけた。あとサイズに関しては、今日一日の間で足元にいるゾフィーを何度か見失いかけてるから、仲が良い奴同士で組む場合は慣れるまで注意が必要かもな」

「はぁ」


 どうにも、来夢眠兎には「モーションサポート抜きで身体が動かせない」事への危機感が伝わらないらしい。元々、MMOは装備や所持アイテム、スキル構成等の戦術面での強さが大きく影響するゲームであるので、これは仕方が無いだろう。どちらかといえば、オズの方が異端なのだ。

 装備が限られている点に関しては、今日一日では問題が起きていないため、なんとも言えない旨を申し添えておく。腕が長くてリーチもあるので武器がなくても困らないし、防具も無くても何とかなるレベルに収まっていた。これで文句を言えば罰が当たるだろう。


「そう言えば、魔法は使っていなかったようですが。何か理由が?」

「いや、単純に欲しいと思わなかったから、取らなかっただけだ。デフォルトで習得しているアビリティは全て物理系だったし、オススメされた【樹魔法】は選択肢に無かったしな」

「ああ、【樹魔法】については多分、【無属性魔法】を取得していないからですね。前提となるアビリティを取得していないと選択肢に現れないアビリティは、結構多いですよ。

ちなみにですが、【無属性魔法】をAP使って習得しようとすると、結構お高いです。このゲームはそこそこ魔法優位なバランスに設定されているのですが、そのバランス設定とアビリティ関連の設定の所為で、β時代は小型の魔法種族優位で大型の物理種族は不利だと言われていました」

「マジか……」


 調べてみると、【無属性魔法】の取得に必要なAPは7だった。種族レベルアップで取得できるAPは2だから、約4レベル分のAPをつぎ込む計算になる。取得できなくはないが、少々悩ましいお値段だ。

 ソロで活動するときの事を考えれば、回復手段として【樹魔法】は取っておきたい所ではあるのだが、とりあえず保留としておく。


「これは答えたくなければ無理に答えなくていいのですが、【乗騎】アビリティについても色々語っていただけると嬉しいです」

「別に隠したい訳では無いんだが、正直効果があったのかどうかすら定かでないな。4人乗りの暴挙に耐えられるのなら、あっという間にレベル5まで上がる位しか分からん」


 【乗騎】アビリティは、主に恩恵を受けるのが騎手側なので、オズ自身にはこれといった感想がない。一応、騎手の重量によるペナルティを軽減する効果もあるはずなのだが、少なくとも最序盤のレベルで4人乗りの暴虐を受け止められるほどではなかった。

 ただ、騎手が多い方が取得経験値も増えるらしく、街に着く大分手前でレベル5まで上がっている。アビリティレベルは種族レベルでキャップが掛かるから、オズの種族レベルが上がっていればもう少し上も狙えたかも知れない。


「実を言いますと、プレイヤーで【乗騎】を取得した人を見るのは初めてなんですよ。と言うか、β時代に【乗騎】アビリティを取得したという話は聞かないので、もしかしたら全プレイヤー中でもオズさんが初めてかも知れません」

「プレイヤーで、という言い方をするって事は、NPCなら取得した奴は居るのか」

「レンタルホースが正にそれですね。ただ、レンタルホースは戦闘になると問答無用で逃げ出してしまうので、まともに戦闘したという話は聞きませんが」


 レンタルホースというのは、フィールドを移動する手段として貸し出されている騎馬の事らしい。序盤で利用するにはレンタル料が高い上、一度馬から降りるか戦闘になると勝手に街へ戻っていくため、本当に「目的地まで行くだけ」にしか使えないそうだ。

 それでも、沼地までの移動時間が大幅に短縮されるため、β時代にはそれなりに需要のある移動手段だったらしい。来夢眠兎の足の遅さを実感したオズからしてみれば、なるほど納得できる話ではある。


「効果がどうこう以前に、まずプレイヤー同士で騎手と乗騎の関係ってのがネックになると思うが」

「まあ、乗られる方は普通に面白くないでしょうね」


 少なくとも、オズの認識では乗騎というのは騎手よりも一段下に見られる立場だ。頭ごなしにやれと言われれば、反発するプレイヤーが多いだろう。

 来夢眠兎の言うようにβ時代の取得報告がなかったのなら、それを目的に種族を選んだ人間も多くはないだろうから、仮に取得条件が判明しても取りたがるプレイヤーがどれほど居るか。


「ついでに言えば、当たり前の話だが乗騎側は騎手が落馬しないよう、ある程度考えて動く必要がある。ゴブリン相手でもかなり面倒くさい感じだったから、乗騎での戦闘はかなりストレス溜まりそうだ」

「大型種族は、近接物理が得意な種族が多いですからね。それを選んだプレイヤーに『激しい動きはNG』なんて言えば、反発が多いのは予想できます」


 考えれば考えるほど、乗騎側にメリットが少ない。もしかしたらアビリティのレベルが上がればまた違うのかも知れないが、現時点では進んで取りたいとは思わない。

 息の合ったプレイヤー同士が組めば、それこそ人馬一体の素晴らしいコンビネーションプレイが生まれるのかも知れないが、そこまで息の合ったパートナーを見つけられるプレイヤーが、果たしてどれだけ居るかという話だ。


「一応フォローしとくと、効果自体はかなり強力なアビリティだと思う。プレイヤーがやりたいかどうかは置いとくとして、テイムや召喚なんかで高レベルの乗騎を取得したがる人間は多いんじゃないか? テイムや召喚があるのか知らんが」

「βテストには、【モンスターテイム】のアビリティはありました。乗騎になるモンスターはテイム出来ませんでしたが、普通に考えれば正式稼働で追加されているでしょう」


 【乗騎】レベル5で覚えたスキルに《騎手回復》というのがある。文字通り、騎手のHPMPとスタミナが微量ずつ回復するパッシブスキルで、なんとノーコストだ。ゲームに慣れている人間なら、他者のMPをノーコストで回復出来るスキルの強さが分かるだろう。アビリティ自体は、決して悪くはないのだ。乗騎側に一方的に悲しみを背負わせる、超格差構造なだけで。

 VRMMOというゲームの特性上、レンタルホース以外にもNPCの乗騎を手に入れる方法が存在するだろう事は想像に難くない。わざわざプレイヤーが乗騎をする動機は薄いだろうなぁ、と言うのがオズの偽らざる本音だ。


「野次馬根性で申し訳ないのですが、オズさん自身はこれからも乗騎を続けるおつもりで?」

「進んでやりたいとは思わんが、知り合いを狩場まで乗っける位なら、まあ許容範囲かな。流石に、重量制限と人数制限は付けたいが」


 結局は、どの程度まで乗騎のデメリットに目を瞑れるかという事だろう。オズとしては、まあゲームなんだし知り合いにちょっとサービスしてやる位は良いかなと思う。4人乗りは二度と勘弁だが。

 その後も、竜裔の種族アビリティに関して色々語っていたのだが、来夢眠兎がリアルで夕食の時間だということでお開きとなった。

とりあえず書き溜め分はここまでで、後は不定期更新になります。

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