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若いからって苦労を買いたい訳ではない

 オズの立てた作戦は上手く行っており、ラインハルト一行は安定して昆虫の総攻撃を撃退出来るようになっていた。最初にクワトロガッターを落とすことで中盤以降のカブータスの被ダメージは格段に減り、生存性が向上している。

 ただ、何がどうという訳でもないのだが、何となくやりにくいというのが、ラインハルトの正直な感想だった。今の戦闘で4度目なのだが、作戦に慣れていないのを差し引いても、何と言うか違和感がある。それが何なのかは分からないが。

 各自の役割に関して、特に分かりにくい点はない。クワトロガッターさえ落とせばダメージレースが一気に楽になるというのは納得出来る話だし、その為の火力集中と、カブータスのフォロー人員を配置するというのも理屈としては正しいと思う。ただ、実際に作戦を実行してみると、思った以上に窮屈さを感じるのだ。

 まず、クワトロガッターに攻撃を集中する分、他の雑魚は放っておくことになるので、そこからの攻撃はガッターを倒すまで続くことになる。大部分はカブータスが防いでいるが、それも彼の守備範囲に収まっていればこそで、少し離れればたちまち昆虫達の総攻撃に晒されるため行動可能範囲が狭い。

 また、攻撃を集中してもクワトロガッターはそこそこ体力があり、瞬殺とは行かないのでその間はカブータスの負荷が跳ね上がる。それはフォローに回るラインハルトの負荷が大きくなることも意味しており、中々に大変だ。

 そもそも、ラインハルトが覚えている回復魔法は《ライトヒール》と《リーフヒール》だけであり、体力の多いカブータスのフォローに回るには少々力不足なため、特に攻撃の激しい序盤はゾフィーにも手伝いを頼むことになる。


「ゾフィー、悪いけど、ブータの回復お願い!」

「ん!」

「ブータ、次のリキャストまで30秒、耐えられる!?」

「まかしとき!」


 何故自分が指示出し役をしているのか分からないが、それをしないと下手をすればカブータスが落ちかねない。カブータスは普段の言動こそステレオタイプの関西人をなぞっているが、その実結構気にするタイプなのを知っているので、落ちると地味に凹んで面倒だ。タンクが真っ先に落ちるのはある意味栄誉なので、まだ深刻では無いが。

 最大の難点が、クワトロガッター相手に全力を出し切ると、その後の雑魚掃討で苦戦を強いられることだ。カブータスの負荷は減るので、最終的に勝てるには勝てるのだが。それでも、蝉だのカレイドキャタピラーだのを通常攻撃で倒していくのは、思った以上に精神的疲労が溜まる。

 これまでは、蝉さえ全滅させれば自分達の得意パターンで戦えるため、上手く行った状態で後半になれば精神的には楽だったのだが、今は最初から最後までずっと忍耐が続くという状況になっている。

 正直、何故勝てているのかよく分からないのだが、それでも勝てているのも、問題と言えば問題だった。負けていれば、まだオズに作戦変更の陳情も出来ようが、勝っているだけに文句も言いづらい。

 そんな事をウダウダ考えている内に、集中砲火を受けたクワトロガッターが墜ちた。なんだかんだで来夢眠兎とゾフィーの火力はそこそこ高く、集中すればクワトロガッターを倒すのはそこまで難しくもない。MPは大分心許ないが、雑魚を掃討するだけなら最悪カブータスとキリカマーだけでも何とかなってしまう。

 もう一踏ん張りと言うことで、手近なダンガンカナブンに槍を突き出す。



「あー、疲れた」


 戦いが終わり、いつもの様にオズの上に移動したゾフィーが弱音を吐く。

 実際、ゾフィーはカブータスのフォローとサブ火力、そして雑魚散らしとフル稼働しているので、戦闘中は休む暇がない。魔法使いの来夢眠兎とは違いMPが切れていても攻撃は出来るというのもあって、もしかしたらパーティで一番忙しいかも知れない。

 逆にラインハルトは、終盤までカブータスのフォロー以外することがない。何せ、蝉を後回しにした結果としてラインハルトが飛ぶ機会がほとんど巡ってこないので、ずっと地上に居ることになる。元々火力の期待出来ない鳥人は、そうなると出来ることが本当に少ないのだった。

 作戦が上手く行って戦闘が安定するのはありがたいのだが、どうにも慣れない動きが多くて気疲れする。文句を言う事でもないのだが、何かコツの様な物は無いのだろうかと考えていると、キリカマーから声を掛けられた。


「ラインハルト君、さっきの戦闘、ゾフィーに指示出してたけど」

「え、ああ、勝手なことしてゴメン。僕だけじゃブータのフォローが追いつかなかったから」

「いや、ありがたい。今後も、ゾフィーへの指示出しはそっちでヨロシク」

「ええっ!?」


 降って湧いた役目に驚愕する。

 指示出しをする人間が複数居ると、現場が混乱するのではなかろうか。と言うか、今回のアレはあくまで飛べない状況で本来の役割とは違う事をやっていた経過途中でのことであり、今後も継続するのは色々無理がある…… 様々な言い訳が頭を巡るが、それを言語化する前にオズからお達しが出た。


「ま、現状だとキリカマーは回ってないからな。慣れるまでは、分担出来るところは分担しといた方が良いだろ」

「って言っても、僕は指示出しの事なんかサッパリ分からないんだけど」

「とりあえず、今のお前に求められてるのはコーチングだ。ゾフィーは集中すると視野が狭くなる傾向があるから、後ろから状況見てフォローしてやれ。

ゾフィーとカブータスならある程度は性格も分かってるし、何言えば良いかはキリカマーよりは詳しいだろ」

「まあ、そうだけど」


 確かに、現状パーティで一番働いていないのは自分だろうから、負荷分散という意味では一番良いのだろう。元々、経験のないキリカマーに指揮官役を押し付けてる負い目もあり、結局は押し切られることになってしまった。

 キリカマーの申し出に渋々頷くと、本当に嬉しかったらしく喜色満面の笑みでクマゴローとハイタッチをしていた。どうやら、上手い事はめられたらしい。なんとなく恨みがましい目でオズを睨む。


「実際問題、慣れない内はパーティ5人に均等に目を光らせるってのは難しいからな。助けられるなら助けてやるのがチームワークだぞ」

「それはまあ、分からなくはないけど。実際、ワルトってどうやって全員の状態を把握してるの?」


 相手の言う事に一理あるのは確かだが、それを認めるのは少々癪だったりする。ただ、そこでグダグダ言っても仕方が無いので、建設的な方向へ話を持って行こうと、話題を変えた。今はラインハルトの担当はゾフィー一人だが、この先増えないとも限らない。

 オズは少し考える素振りをした後、何でもないことのように話を始める。


「カウンティングっていうテクがあるんだが、今すぐお前が使えるようになるのは無理だから、現実的な所を話すと、だ。

ぶっちゃけ、チーム全員の状態なんぞ細かく把握する必要は無い。お前らのパーティだと、カブータスのHPが最優先で、次点でキリカマーとハルのMPって感じだな」

「ブータのHPは分かるけど、なんで僕とキリさんのMPを?」

「有り体に言って、この森程度の敵ならカブータスさえ生きてりゃ何とかなるから、あの子のHPとフォロー要員のMPさえあれば、戦線は維持出来る。

ゾフィーも来夢眠兎も性格が攻撃寄りでMP管理はあまり上手くないから、そっちをアテにするよりはある程度節約出来るお前とキリカマーに『回復重点でMPは温存して』って言う方が上手く回るんだよ」

「はぁ……」


 言っている事は分からなくもないが、何とも拍子抜けする話ではある。ただ、『全員分を正確に把握しろ』と言われるよりは気分的に大分楽なのは確かだ。

 ゾフィーが攻撃寄りと言うのは身に染みて知っているが、来夢眠兎もそうだというのは意外だった。言われてみれば、戦闘中に来夢眠兎が回復魔法を使っていた覚えがあまりない。とは言え、メイン火力の彼女が回復まで担うとパーティ全体の火力が落ちるので、ある意味当然なのかも知れないが。


「ところで、カウンティングってどういうテクニックか聞いても良い?」

「ぶっちゃけ、説明が面倒なんだが…… 基本はゲームに必要な数をかぞえるって事なんだが、ゲームによって把握しなきゃならん要素は変わるし、特に細かい定義は無いな。

MMOだと、大体はMPやリキャストタイム、残りのアイテム数なんかからどの程度スキルが残ってるかってのを把握するのに使う。で、使いすぎてりゃセーブさせる場合が多いか」

「……それを全員分やるの?」

「さっきも言ったが、普段はそこまで細かく覚えとく必要も無い。俺も、こないだお前達と組んだときは全員分把握してたが、スーホ達が居る時はある程度そっちに任せてるな。

当たり前の話だが、カウンティングに夢中になって作戦忘れるようだと本末転倒だから、その辺は匙加減だぞ」


 そんな事を話している内に、全員の回復が終了した。《騎手回復》のスキルは、こういう時には本当に役に立つ。

 ひとまず、今言われたことを出来るようにしようとオズの教えを頭の中で反芻していると、スーホから声を掛けられた。


「オズに少し相談があるんだが。一回、ここのボスに挑んでみないか?」

「また、急な申し出だな。俺は構わないが、理由を聞いても?」

「正直、キリ達のパーティはそもそもアビリティが足りていない気がするんだよな。勿論、その状態でプレイヤースキルを上げるのも悪くはないが、それよりはレベルアップでAP取得した方が手っ取り早い。

今からボスに挑めば、勝っても負けても丁度昼休憩のタイミングに差し掛かるだろうし、負けた場合のデスペナを昼休みである程度潰すことを考えても、良いタイミングだと思うんだが」


 スーホの淀みない回答に、オズが少し考える。

 このゲームではアビリティレベルに応じてステータスが上がるから、アビリティの所持数はそのまま戦闘力に直結する。また、パーティを組んで日の浅いラインハルト達は、パーティプレイ用のアビリティに乏しい。そこを補うというのは、良い案に思えた。

 珍しく話を聞いていたのか、オズの肩に乗っているゾフィーが期待に満ちた目でオズを見つめていた。大方、昆虫退治に飽きたのだろう。ラインハルトとしても、気持ちは分からなくも無い。

 オズはぐるっと一同を見渡し、反対意見が無い事を確認すると、口を開く。


「ま、そろそろ後ろで口出すだけってのも飽きてたしな。丁度良いから、ボスの面でも拝みに行くか」


 と、言う訳で。ゾロゾロと連れ立って、一同はボスエリア目指して移動を開始したのだった。

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