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格上はやっぱり強い

 体の中に立ち込める朝霧の感触で、ログインした事を知覚する。

 簡素なベッドから起き出して、体の感触を確かめる。頻繁にレベルの上げ下げをしているので、自分が今どの程度動けるかというのを感覚的に掴んで置かないと、事故が起きる可能性が高まる。普段ならあまり気にしないが、今日はこれから鉱山街の向こうにある高レベルのフィールドへ乗り込むつもりであるので、ちょっとした感覚のズレで事故ったりしたら悔やんでも悔やみきれない。少しばかり入念に確認をしておく。

 昨日はレベルドレインに行った後に再レベリングを行ったので、現在レベル19だ。ロボット相手だとレベル20までは上げられるのだが、適正レベルの関係で19から20へのレベルアップには結構時間が掛かる。夜更かしをしてベストコンディションでない状態で高レベルエリアに踏み込むのも躊躇われたので、妥協する事にした。

 あくまで体感だが、このゲームでは種族レベルが1アップしたからと言って戦闘力が目に見えて上がるような事は無い。アビリティレベルの上昇によるステータス上昇はそこまで劇的ではないので、オズの様にプレイヤースキルがある程度高いと、ステータス補正よりも当人のコンディションの方が戦闘力に対する影響度が高い。

 ステータスが高いに越したことは無いし、有用なスキルを覚えればそれだけで選択肢が広がるので、レベルはレベルで重要ではあるが。

 一通り体の感触を確かめ終えた所で、家を出た。未だに森や坑道への道もクリア出来ていない段階ではあるが、それでも未知の強敵と言うのは心躍る。人にもよるだろうが、オズは物量ですり潰されたり状態異常でハメ殺されるよりは、強敵にアッサリ潰される方がモチベーションが上がる派だ。

 ワクワクしながら、ポータルを抜けて鉱山街へと足を踏み入れる。



 灰人の道は、ゴツゴツした岩がそこかしこに散見される、まあ普通の山道だった。標高が高いのか、背の高い植物は見当たらず所々に草花が見えるだけだ。

 特に瘴気が吹き荒れてるとか、街から少し歩いただけで即死トラップが発動するような事は無く、少々拍子抜けしたのも事実だ。まあ、その気になればレベル15程度で踏み入れるフィールドではあるので、そこまで鬼畜な仕掛けも用意出来なかったのかも知れないが。街のすぐ外にポータルが設置されていたので、忘れず登録しておく。これで、日没後でも街の外に出られるはずだ。

 坑道への道に比べれば足元の状態は良くないが、これはそういう物だと思うしかあるまい。戦闘フィールドによって有利不利が変わるのも、フルダイブ型VRの醍醐味ではあるのだ。そこそこ斜度の高い坂道を道なりに登っていけば、程なくして敵に遭遇した。

 4匹ほどの、武装したオークである。鉱山街の手前で会ったのとは違い、明らかに文明的な装備をしているのが特徴だ。身長も蛮人オークよりは少し高い。ハイオークとかその辺だろうか。

 それぞれ、槌と盾、両手槍、両手剣、杖を手に持ち、防具もキッチリ着込んでいる。全裸のオズよりも、よほど文明人っぽい。見た目から判断するに、メインタンクの盾持ち、サブタンク兼サブ火力が2匹、メイン火力の魔法使いだろうか。それなりにバランスの取れたパーティだ。

 蟻の時もそうだったが、役割(ロール)がキッチリ別れているというのは、分かりやすい強敵の証である。特に、このゲームでは魔法使いが火力と回復を兼任出来るので、それが居るだけで相手側の戦力は大きく上がる。これは期待して良いだろう。

 先手を取ったのは、オーク達だった。盾持ちが自分の盾をメイスで叩き、大声を上げて威嚇してくる。


「ゴアァァァ!!」

「……っちぃ!」


 そういう効果のアビリティなのか、もしくは単にレベル差でそうなっているのかは分からないが、一瞬身が竦んで動けなくなる。すぐさま下腹に力を入れて体勢を建て直すが、その頃には槍持ちがすぐそこまで迫っていた。

 突き出される槍を、バックステップで躱す。続く大剣持ちの振り下ろしも同じ様に回避して、カウンターとして鉱石を指で弾いて飛ばす。わずかに頭をずらし、兜で受け止められた。

 槍持ちは慎重なのかそういう役目なのか知らないが、槍の長さを活かしてこちらの動きを制限するように攻撃してくる。鋭くは無いが、鬱陶しい攻撃が多い。そして、その槍を躱すために動いた所を、狙い澄ましたように大剣が襲ってくる。こちらは大振りだが、タイミングが良いので避けるのが難しい。これまでのモンスターと違い、明らかに戦い慣れたAIの動きだ。

 更には、そこに盾持ちが加わることで厄介さが跳ね上がる。盾と槍で動ける範囲を制限されると、大剣の回避がますます困難になるのだ。後ろに下がり続けるのも限界があるので、どうにかして盾持ちをどかそうと向き直った時だった。

 盾持ちが、ヒョイと盾を顔の高さまで掲げる。オズの視界が、盾で埋まった。マズいと思って飛び退くのと、オークがどかした盾の向こうから炎の槍が見えるのが、ほぼ同時。

 ヤケクソ気味に右手を突き出し、炎の槍を迎撃する。結果、右肩から先が燃え尽きるのと引き換えに、何とか頭だけは守れた。HPも7割減っているが、即死に比べれば安い。

 ブラインドショット。味方の魔法を隠して相手の回避を遅らせるという、特に珍しくも無いコンビネーションだ。()()()()()()()()()。NPC、しかもRPGのモンスターが使ってくるというのは、少なくともオズは経験が無い。


「ック、フヒ、フヒヒヒヒヒ」


 思わず笑みがこぼれる。駄目だ、笑えば【調息】が乱れる。状況をリセットするために、更に後ろに飛んだ。

 右腕を回復魔法の重ねがけで再生しつつ、深呼吸して気持ちを落ち着ける。


「いや、スマン。侮ったつもりは無いんだが、結果的にはそうなってたらしい。これからは、真面目にやるわ」


 距離を詰めてくるオーク達に語りかける。言葉が通じているかは分からないが、半分以上は自分に言い聞かせるための行為なので、特に問題は無い。

 もはや、相手をAIだなどとは考えない。奴等は、拙いとは言え戦術を駆使してくる立派なプレイヤーだ。ならば、オズとしても出し惜しみをするつもりは無い。

 防具の関係で一番倒しやすそうな槍持ちに、狙いを定める。相手も槍の間合いを活かして牽制してくるが、プレイヤーとして見ればその動きは大分拙いとしか言い様がない。


「《マジックシールド》」


 左手に魔法の盾を展開する。直径30cm程度と小さく、少々ダメージを受けただけですぐ壊れるという防御手段として見た場合にはクズ魔法だが、使用者の体から離して使えるバックラーとして見れば中々に便利なスキルだ。

 振り回される槍の柄に盾を当て、そのまま擦り上げる様にして相手の懐に潜り込む。苦し紛れの蹴りを放ってくるが、それは悪手だ。蹴り足を掴んで、そのまま後ろにひっくり返す。


「せぁっ!」


 叫び、相手の顔面目掛けて爪を振り下ろす。竜裔の長い腕は、立った状態からでも少し屈むだけで倒れた相手の顔面を攻撃出来るのだ。

 3発入れた所で魔法が飛んできたので、欲張らずに位置をずらして回避する。運良く爪が目に入ったらしく、起き上がった槍持ちの右目は潰れていた。成果としては上々だ。

 回復のために後ろに下がろうとする槍持ちを、執拗に追い回す。盾持ちと大剣持ちがカバーに入ろうとするが、槍持ちの体を盾にして阻止した。こういう嫌がらせは、オズの十八番である。

 右目が潰れた槍持ちは、距離感が取れない所為でこれまでよりも動きが悪い。間合いの取り方も雑なので、誤爆を恐れてか魔法での援護射撃も無く、一方的に殴ることが出来る。程なくして無事だった方の左目も潰れ、本格的にでくの坊と化した。

 嬲るような趣味も余裕も無いので、喉笛に貫手を突き立てる。流石に盲目の状態で防御も出来ず、傷口から血の泡を吹きながら倒れた。まず一匹。

 追いついてきた盾持ちが、再びオズの目の前に盾を掲げる。残念ながら、それはもう見た。空いた脇腹に、掌底を叩き込む。鎧通しの一撃は、格ゲープレイヤーにとっては必須技能だ。

 体をくの字に折った盾持ちを押して、そのまま飛んできた炎の槍にぶつけてやる。盾持ちの魔法防御はそこまででも無いのか、苦悶の声を上げて転がっている所を、頭を踏み潰してトドメを刺した。二匹目。

 仲間とのコンビネーションが取れなくなったためか、これまでとは違い大剣使いは中段に構えたままジリジリと距離を詰めてくる。恐らくは、自分が牽制して魔法使いが攻撃をするようなパターンを作りたいのだろうが、付き合う義理はオズには無い。

 アイテムバッグからクズ鉱石を目一杯掴み、そのまま相手の顔面目掛けて投げつける。目を潰された槍持ちの末路を見ていたためか、片手を上げてガードするがそれは悪手だ。片手で保持が弱くなった大剣の腹に、《アイスシールド》をぶち当てて弾く。

 武器を手放すのだけは免れたが、その隙に懐に入られてしまえば結果は同じだ。引きずり倒して死ぬまでボコる。三匹目。

 この期に及んで魔法での攻撃は当てられないと悟ったか、残った杖持ちはそのまま杖で殴りかかってきた。アビリティを取得しているのか、その動きは意外と悪くない。ただ、良い訳でもないので、躱して攻撃を当てるのは難しくないが。

 それでも杖持ちは諦めず、顔面をガードした状態でタックルを仕掛けてくる。引きずり倒した状態なら、魔法が当たるという目論見だろう。オズのアバターが人間であれば。

 ワザとタックルを食らい、引きずり倒される過程で相手の胴体を足でロックする。魔法職とは言え、オークの体躯とレベル差故か少なくないダメージを貰ったが、即死しなければ計算通りだ。尻尾で自分ごと相手の体を持ち上げ、後ろに倒れ込むようにして相手の頭を地面に叩き付けた。

 カンガルー式フランケンシュタイナー。二人分の体重を脳天に叩き付けられれば流石に無事では居られないらしく、杖持ちオークはピクリとも動かなくなる。念のためにトドメを刺して、四匹目。

 終わってみれば、かなりギリギリの戦いだった。絶えず動きながら魔法を使っていたため、MPとスタミナはギリギリである。最後のタックルでHPも減っているので、技が失敗していれば負けていた可能性もある。真面目にやると言ったのに、最後は遊びすぎたかも知れない。


「首挟んでないから、フランケンシュタイナーじゃなくてシザーズホイップの亜種になるのか?

カンガルー式シザーズホイップ…… まあ、それはそれで悪くないな」


 人間のアバターなら、タックルに対する返しとして一般的なのは膝蹴りか後頭部への加撃だが、竜裔の恐竜脚だと膝蹴りは行えない。有効手が後頭部への一撃だけだと対策される恐れもあるので、主に対クマゴロー用として編み出した技である。まさか、こんな所で実践する事になるとは思わなかったが。

 威力はなかなかだが、尻尾一本で二人分の体重を持ち上げるので、やや技の入りに不安はある。もう少し練習しないと、プレイヤー相手だと抜けられるかも知れない。

 オーク達の装備を剥がしてアイテムバッグにしまう。格上の装備なので、それなりの金にはなるだろう。死体を鑑定して、相手の種族がミドルオークというのも知れた。恐らく、まだ上にハイオークが居るのだろう。レベルも今の一戦で22まで上がっていた。四匹倒して3レベルアップというのは、破格の経験値である。それだけ格上の相手だったと言うことだろう。

 何にせよ、初戦の相手としては悪くなかった。オーソドックスな構成だっただけに、相手の実力がシンプルに感じられる良マッチメイクと言えるだろう。まさか、相手の構成がこれだけとも思えないし、期待しながら先へと進む。



 次いで出会ったのは、狼だった。熊並の大きさのそれを狼と呼んで良いのかは疑問だが、ゲームでは良くあることだ。

 鷹より大きなカラスも飛んでおり、一瞬オーク以外の敵も出るのかと考えたが、すぐに間違いに気付く。狼達の後を追うように、四匹のオークが現れたからだ。槌と盾、杖持ちは先程と同じだが、他は鞭と弓矢持ちなのが異なっている。

 鞭持ちが一声吼えると、それに従うかのように狼とカラスが襲いかかって来た。


「よりにもよって、テイマーかよ!」


 ただでさえ格上、しかも1対4という状況すら厳しいのに、更に数が増えるとなるとそれだけで戦況は悪くなる。とりあえずは数を減らそうとカラスに石を投げつけるが、回避を優先しているのかあまり有効打にはなっていない。

 カラスに気を取られれば下から狼が噛みついてきて、狼に向き直ればカラスがちょっかいを掛けてくる。かなり鬱陶しいコンビだ。その合間を縫うようにオークの攻撃も飛んできて、フラストレーションが溜まる。

 特に面倒なのは、弓持ちの攻撃だ。そういうスキルなのか、避けた筈の矢がホーミングして追ってくる事があり、気が抜けない。全てを迎撃するのも無理なので、せめてホーミングだけを見分けるようにしたいのだが、そちらにばかり注意を払っていると他の攻撃への対応が疎かになる。現状では、かなり有効と認めざるを得ない。

 このままではジリ貧なので、意を決して狼の口にカウンター気味に貫手を叩き込む。相手の喉奥に爪を突き立てながら攻撃魔法をぶち込めば、流石に無事では済まないようで何度か痙攣した後動かなくなった。

 仲間意識なのか単に好機とみたかは分からないが、オズの目に向けて鉤爪を突き立ててきたカラスを引っ掴み、そのまま頭を囓る。咥えられたままバタバタと暴れていたが、却って傷に障ったのかしばらくすれば動かなくなった。地面に叩き付け、念のため頭を踏み潰す。

 だが、反撃もそこまでだった。狼は最期の務めなのか死して尚オズの腕に食いついたままで、満足に動けなくなった所をオーク達の集中砲火に晒され、結局はHPを削られて死に戻る羽目になったのだった。

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