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誓いはアッサリ破られる

 プロゲーマー二人の参戦は、戦力としては申し分ないものだった。


「スーホは左、クマゴローは右側の奴等を頼む!」

「承知!」

「りょーかい」


 相手はプロなので、逐一作戦を伝えずとも、大まかな担当を割り振るだけで後は勝手に行動してくれる。相手の数が多いだけに、殲滅速度の向上は最優先課題であり、意思伝達のわずかな時間すら惜しいのだ。

 鉄製のブリキ人形達は魔法が効きにくいため、相対的に物理寄りの種族は相性が良い。特に、ケンタウロスのスーホはトップスピードに乗ればトロッコと併走する事も可能であり、その状態から相手の車輪を壊したりすれば簡単に事故を起こせる。ただ、有効なHP回復手段を持ち合わせて居ないため、オズのサポートが必須だったりするが。

 今も、ストーブの炎に削られ、HPの減ったスーホからヘルプ要請が飛んでくる。


「HP5割!」

「《リジェネレート》《ライトヒール》! スマンが、これで耐えてくれ」


 そこそこ魔法系のステータスも高いとは言え、専門職で無いオズは回復量で一段劣るが、それでも無いよりは大分マシだ。リキャストタイムとMPの問題で常にHP満タンまでは持って行けないのだが、機動力があるのでヘルプを受けてからの対応もそれなりに迅速に行えるため、今の所はピンチに陥るような事は無い。

 一方のクマゴローは、体重を活かして上手くトロッコを引きずり倒しているため、こちらも戦力としては申し分ない。ただし、スーホほどの機動力は無いので、どうしても多数の敵を捌くのに手が足りなくなる事があり、その際にはオズが助けに入る事で対処している。

 さて、ここまでの説明で察せられるかと思うが、オズは二人のサポートに駆け回る必要があるため、かなり忙しい。殲滅速度を鑑みれば、スーホとクマゴローを固めて配置するのは非効率であり、ばらけての運用が定常状態となる。結果として、オズは離れた二人の間を駆けずり回りつつ、手が空いたら敵の殲滅にも回る訳で、やらなければならない事が何気に多いのだ。

 いくらプロ二人が自己判断で動けるとは言え、最低限の意識共有は必要なので、指示出しを止める事は出来ない。ステータスとアビリティの都合上、サポート役はオズが適任なのは確かだし、物量で押してくる相手に対して「手が空いたので休憩します」と言うのは悪手なのがわかりきっているため、積極的に攻撃しない訳にも行かない。

 器用貧乏故に出来る事はそれなりにあり、且つこちらが少人数故に出来る者が出来る事をやっていかないと、戦線が崩壊しかねない。結果として、オズの負担は目に見えて増えている。人数が三倍になって楽になったはずなのに、その実感は全くない。

 まあ、愚痴を言っても始まらぬ。少なくとも、ソロで来ていた時には適当にちょっかいを出して逃げ帰るしか出来ていなかったのが、それなりに戦えている訳で、特段の進歩ではあるのだ。


「こっちの担当は、これでラストだ!」

「こっちはラス2!」


 スーホとクマゴローから、景気の良い報告が上がってくる。殲滅速度が上がったお陰で、敵が湧くよりもこちらが敵を倒す速度の方が早くなっている。無限湧きの地獄から解放されたのは、何気に朗報だった。

 程なくして、残敵を掃討し終わり、一旦小休止を取る事にした。次の敵が湧いてくればそう間を置かずに戦闘になるのだが、それでも全くの休憩なしで戦い続けるのに比べたら、遥かに楽だ。【調息】による回復も見込めるので、ちょっとした小休止であっても有ると無いとでは大きく違う。

 辺りに散らばった部品類から比較的マシな状態のものを選んでバッグに入れつつ、スーホが問うてくる。


「しかしまあ、話には聞いていたが凄い数だな。寄ってくるスピードを考えると、体感で言えば蟻より多いかも知れん。

やはり、この先の坑道から湧いてるのか?」

「鉱山街で聞いた所によると、そうらしいな。ただ、俺もこの目で確かめた訳じゃないが」

「森には睡眠の状態異常を持つ蝉、山はこの物量。運営は、本格的にソロプレイヤーを抹殺しようとしてるとしか思えないね」


 クマゴローの意見には、他二人も異を唱えない。MMORPGというのは大抵の場合、ソロよりパーティが有利になるよう設計されている。とは言え、ここまであからさまにソロプレイヤーでは対応の難しい敵が出てくるというのは、ゲームとしても珍しい事ではあるのだ。

 運営側にどういう意図があるのかはサッパリ分からないが、現状ではパーティを組まねば森も山も攻略は難しいだろう。ブリキ人形達は昼間は坑道で働いているそうなので、その時間帯であればもう少し敵の数も少ないのかも知れないが、それはそれで社会人には酷な話だ。

 レベルが上がればまた違うのかも知れないが、このゲームでは一定以上格下の敵と戦っても経験値が入らないようになっているので、単純にレベルを上げてのゴリ押しも難しい。余程上位の人間でなければ、ソロ攻略は実質不可能だろう。

 クマゴローが続ける。


「正直、雑魚相手すらこの調子だと、僕ら3人でもこのままボス攻略ってのは厳しいんじゃないかな」

「ボスを見てないんで、何とも言えんが。普通に考えれば、ボスが雑魚より弱い事もないだろうし、まあ無理だろうな」

「出来れば、装備と消費アイテムを揃えてから挑みたい所だ」


 修理のためにジョージに預けたランスがまだ帰ってきていないため、予備の武器を使っていたスーホが嘆息する。これまでは物資不足のために殆ど出回らなかった回復アイテムだが、流石にそろそろ流通が開始してもいい頃だろう。

 フルダイブ型のゲームでは回復アイテムを使うのもボタン一つという訳にはいかず、薬を飲んだり患部に塗布するといった一手間が必要となるが、スキルに頼らずにHP回復が出来るというのはメリットが大きい。回復を魔法ではなくアイテムで行えるのであれば、その分浮いたMPを他の事に回せるので、戦術の幅は広がる。

 装備についても、ジョージ達をキャリーして鉄鉱石が手に入るようになった今なら、これまでより上の装備が手に入るだろう。特にスーホは装備による大幅な戦力増強も見込めるので、それをしてからの方が良いと言うのも納得出来る意見である。

 つい先日、碌な準備をせずにゴーレムに挑んで負けているので、一週間待たずに同じ失敗をするのも避けたいのだった。

 メニュー画面を確認していたスーホが、不意に声を上げる。


「スマン、そろそろMPがやばい」

「あー、そういや夜間戦闘は《ナイトビジョン》頼りだったか。ま、今日の所は無理するつもりも無いし、帰るか」

「異議なし」


 という訳で、狩りを始めて1時間と少しで、街へと帰る事になったのだった。



 スーホ達はジョージ夫妻に新装備の相談をしに行くとの事だったので、一緒に行く事にした。オズはオズで、ジョージからロボットの部品をなるべく持ってくるように頼まれていたのだ。

 ブリキ人形達の部品は鋳溶かせば鉄になるのは勿論、バネや歯車などの部品類はそのまま流用する事も出来る。それらの部品類はアビリティで自作する事も不可能では無いが、細かい部品を一から作るのは手間だし、アビリティレベルが低い内は精度に不安も残る。流用出来るなら流用した方が、効率的なのだそうだ。

 鉄に関しては鉱山街に辿り着いたジョージ達なら自力で手に入れる事も可能だが、敵からのドロップアイテムである部品類はそうも行かない。鉱山街の納品依頼に少し色を付けて買い取って貰えるため、金額としては中々のもので、オズとしては文句なしに美味しい稼ぎである。断る理由が無い。

 これから訪問する旨は事前にメールして置いたので、ノックして返事を待たずにドアを開ける。


「ちわー」

「あら、いらっしゃい」


 マルガレーテが出迎えてくれる。事前に要件は伝えて置いたので、トレード画面を開いて部品類を提示し、相手側から所定の金額が提示された事を確認してから取引を承認する。あっという間に取引は成立した。

 報酬を3等分してパーティメンバーに分配し、その場で流れ解散する。スーホ達はそのままジョージと何やら相談しているようだったので、邪魔するのも悪いので帰ろうとした所で、マルガレーテに声を掛けられた。


「ワル君、ちょっと聞きたいんだけど。例のゴーレムの核って、簡単に手に入る物なの?」

「まあ、ゴーレム自体は倒し方を知ってれば攻略は難しくないし、アイテムドロップも【狩猟】があれば確実なんで、入手自体はそこまで難しくは無いかな」

「そう…… いくつか仕入れて欲しいって言ったら、受けてもらえる?」

「そりゃ、別に構わんけど」


 どのみち、オーク相手の練習のために、山へは毎日通っているのだ。レベリングのついでにボスを倒すのは、そこまで手間ではない。【捕食】があればノーコストで安定して倒せる相手であるし、損をする事も無いだろう。

 一応何に使うのか聞いてみれば、防具やアクセサリーの材料として、ゴーレム核は優秀らしい。素材として使うだけでそこそこ優秀な防御力補正を得られるため、特に前線要員の人気が高いそうだ。ボスドロップであり、それなりにレアリティも高いため、加工して売れば高値が見込めるとの事。

 マルガレーテ達の懐が潤えばオズにもそのおこぼれが見込めるので、協力を拒む理由も無い。


「どの程度必要なのか言って貰えれば、とりあえず揃えるけど」

「現状だと、有れば有るだけって感じね。ただ、あんまり数を揃えて貰っても、料金は後払いになるけど」


 まあ、鉄鉱石だの部品だので仕入れが込んでいるので、現金が足りないのは理解出来る。来夢夫妻から貰った軍資金も有るので、そこまで金に困っている訳でも無い。踏み倒される心配もあまりないし、その程度は許容範囲だ。

 条件を詰めていると、程なくしてラインハルトとゾフィーが帰ってきた。


「たっだいまー。お、オッさん丁度良い所に居た」

「おう、お帰り。なんだ、俺に用があったのか?」

「明日、時間ある?」


 ゾフィーから、急なお誘いを貰う。

 話を聞けば、どうにも指示出しで詰まっているらしい。これまで経験の無い事をしているのだから、すんなり行く事はそう無いだろうと思っていたが、それにしてもギブアップが早い気がする。ただ、指示出しで拗れるとそれこそパーティの雰囲気が悪くなる可能性もあるので、ギブアップが早いのも一概に悪いとは言えないのだが。

 断る理由も無いので快諾しようとして、思い止まる。そう言えば、やりたい事が一つあったのを思いだしたのだ。


「ところで、アドバイスする時にデスペナ付いてても大丈夫か?」

「いや、構わないけど、何で死ぬの?」

「鉱山街の向こうに、滅茶苦茶強い敵が出るフィールドがあるらしくてな。折角だから、行ってみようかと思ってる」


 明日は土曜日なので、朝からログインが可能だ。今まで門が閉じていて行けなかった灰人の道へと行けるので、是非行っておきたい。坑道側の道と同じ仕様であれば、街を出てすぐの地点にポータルがあるので、一度踏み入れば次からは時間帯に関係なく行けるのだが。その辺の仕様が分からないので、万が一ポータルが無い場合に備えて、一度は戦闘出来る様にしておきたい。

 ラインハルトとゾフィーは顔を見合わせていたが、まあアドバイスだけならデスペナが付いていても出来ると言う事で、とりあえずは承諾して貰えた。正直ありがたい話だ。

 初心者が指示出しで躓く点はいくつかあるが、大抵のパターンでは問題の解消にそれなりの時間が掛かる。余程上手く行かない限りは、最短でも明日一日が丸々潰れるとみて間違いない。恐らく、頼んだ側はそこまで大事になると思っていないのだろうが。

 丁度良いので、ジョージと話し合っていたスーホ達も誘い、約束を取り付ける。指揮官にもいくつかタイプがあるので、なるべく多くの人間から意見を聞いた方が良い。それに、ぶっちゃけ指揮官としての能力はスーホの方が高いので、説明役としてもあちらの方が適任ではあるのだ。

 集合時間や連絡方法を取り決め、その場は解散となった。「遠くから見守ろう」みたいな話をしたその日のうちに介入を求められる事になった訳だが、まあこういう事もあるだろう。

 さて、明日は忙しくなりそうだ。準備も色々必要になるだろうし、ひとまずはレベルドレインに向かう事にする。

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