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どこもかしこも地雷だらけ

なんか恐ろしい勢いでポイントが増えていて怖くなったので、実家から投稿です。

活報にもささやかながらSSを上げていますので、お暇ならどうぞ。

「オッさん、起きろ!」

「ふぁ!? 寝てない、寝てないぞ。で、何ページからだっけ?」

「コッテコテですなぁ!」


 騎乗したゾフィーに頭を叩かれて、慌てて覚醒する。

 睡眠の状態異常は、こうして他のメンバーに起こして貰えばすぐ解けるので、パーティだと脅威度は下がる。起こす手間はかかるので常に有効というわけではないが、それでも全員が一斉に状態異常にならない限りは希望が持てるというのは、かなり大きい。

 ツッコミを入れてきたカブータスのHPが減っていたので、彼が抑えつけていたクワトロガッターを横からぶん殴って担当を代わった。サポートに回っていたキリカマーに、回復を頼む。


「キリカマー、カブータスの回復頼む!」

「了解」

「《アーマーピアース》 よし、オッさん、セミ終わり!」

「っしゃ。飛べ、ハル!」

「分かった!」


 ゾフィーの《アーマーピアース》は敵を貫通するので、間に何か居ても問題なく眠眠ゼミを攻撃できる。最優先で蝉の撃破を頼んでいたのだった。蝉の存命中は墜落の危険があるために背中で待機していたラインハルトは、その心配がなくなった事でオズの尻尾をカタパルト代わりに飛び立つ。ダンガンカナブンやカレイドモスが何匹かそれに釣られ、後衛への圧力が下がったところで来夢眠兎の範囲魔法がさく裂した。

 一人ではクワトロガッターを抑えきれないとは言え、それでもカブータスの防御力はパーティで一番高い。適切なサポート体制とオズという交代要員が出来たことでその能力はいかんなく発揮され、ガッター以外の攻撃を一身に受けてもそうそう落ちはしない。

 そうしている間に、昆虫はどんどん数を減らしていく。担当を代えるたびにぶん殴られていたガッターもとうとうHPが尽きて動かなくなり、最大戦力を失ったエネミーは程なくして全滅したのだった。



「いやー、先生に指示貰えると、楽でエエですな」


 樹精さんからの討伐依頼を一通り終え、カブータスが満足げに言う。オズ一人では何ともならなかった昆虫総攻撃も、パーティなら苦戦したもののクリアできている。やはり、数は力だということだ。

 カブータスの述懐も当然のことで、ラインハルト達のみで組んでいた時は、誰も指示出し役が居なかったらしい。仲良しグループでパーティを組んだ時にはよくあることだが、それでは実力を発揮できないのは当たり前だ。「高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に」なんていうのは、プロゲーマーでも出来るのは一握りである。

 オズとて指揮能力に自信があるわけではないが、それでも「誰が何をやるか」というのを逐次明確にするだけで、パーティメンバーは格段に動きやすくなる。VRゲームでは特に、指揮官の役割は重要だ。

 ふと、カブータスの言葉に違和感を覚えたラインハルトが、疑問を呈する。


「……先生?」

「ああ、そか。普段そう呼ばされとるから、つい出てもうた」

「オッさん、そんな事してんの?」

「いや、ゾフィーちゃん、ちゃうねん。呼ばしとんのは、別の人や。このゲームには居らん」


 オズの『弟子』を名乗る彼女は、カブータスという『弟弟子』が出来たことを大変喜び、事あるごとに姉貴風を吹かせたがる。先生呼ばわりもその一環だった。ミリオンクランズ・ノーマンズは今のところ国内限定のサービスなので、カブータスの言う通りこのゲームに彼女は居ないのだが、習い性というのはあるらしい。

 何かに気付いたらしいキリカマーが、オズに問うてくる。


「もしかして、『妖精』?」

「まあな。それより、今後も組むつもりなら、お前らの中でも指示出し役を決めといた方が良いと思うぞ」


 この場に居ない人間の事を話していても仕方がないので、話題を変えた。

 単にゲームを楽しむだけなら、指揮官というのも絶対必要というわけではない。ただ、当たり前の話だが負けるよりは勝った方が楽しいわけで、そういう意味では指揮官も居た方が良い。

 MMOPRGに疎いゾフィーが質問してきた。


「指示出しって、その日のリーダーがやるんじゃないの?」

「指示出し出来る奴だけでリーダー回してるなら、それでも良いけどな。例えば、スーホ達と組んでるときは、俺とスーホの間でリーダー押し付けあってたし。

ただ、このパーティだと全員が持ち回りで指示出し役やるのはまず無理だから、リーダーを持ち回りにするなら、指示出し役は別に専任立てた方が良い」

「……リーダーと指示出し役って、別の役目?」

「厳密にいえば、そうだ。まあ、一緒くたにする事が多いが」


 リーダーはあくまでパーティの代表で、内外の利益調整役である。パーティ内部での戦利品の分配や、他パーティと出会ったときに折衝役をするのが役目で、これは戦闘の役割(ロール)に関係なく、パーティメンバーが信頼できる人間に任せるのが一番いい。

 一方、指揮官は戦闘中の指示出し役だ。戦闘中に限って言えば、リーダーよりも指揮官の方が権限が強いことが多い。もっとも、戦時非戦時の区切りはVRゲームでは難しいので、リーダーと指揮官が別だと揉めることもあるが。戦闘中に指示を出す都合上、戦闘時に他メンバーの状況を把握できる人間がやる必要がある。


「向き不向きも色々あるから一概には言えんが、タンクやスカウトなんかはそれだけで手一杯になりやすいんで、指示出しには向かないと言われてる。

一般的には、敵味方の状況を把握しやすい後衛職がやるのが良いと言われてるな」

「じゃあ眠兎?」

「別に、絶対後衛がやらなきゃならん訳でもないが。今だって、サブタンクのオッさんが指示出しやってたわけだし。

押し付けになっても禍根を残すし、メンバーで話し合って決めるのが大前提だ」

「ふーん」


 ゾフィーは分ったような分からないような返事をする。MMORPGのパーティなんて、それこそ千差万別で絶対的なセオリーがあるわけでも無い。


「てゆーかさ、例えばいつもは眠兎が指示出しやってて、オッさんと組むときはオッさんが指示出し役やると混乱しない?」

「それも、人それぞれだけどな。俺とスーホは、お互いにリーダーやってる方の指示聞いて動いてたし。

あと、俺がお前らのパーティに入れて貰うなら、お前らの指示出し役の言う事を俺が聞けばいいだろ」

「むむむ」


 ゾフィーが考え込む。他の面子も、思考の迷路にはまりかけている様子だった。実のところ、この辺の仕組みを突き詰めていくと最終的には軍隊式が一番効率的ということになるのだが、それはそれで受け入れられるゲーマーの方が少ない。

 迷ってばかりでもそれはそれで時間の無駄なので、メンバーを現実に引き戻すべく手拍子を叩く。


「色々言ったが、あんま難しく考えんな。

今回は俺が指示出ししとくから、それ見て誰が指示出し出来そうか考えとけ」


 そう声をかけ、狩りを再開した。



 その後も討伐依頼を受け続け、そろそろゾフィーのログアウト時間だということで、街に戻ってきたのは良いのだが。戦利品を分配してパーティを解散し、ラインハルトとゾフィーを家に送り届けたところで、一緒についてきていた来夢眠兎から声を掛けられた。


「未整理の情報に関して、問題なければ売っていただきたいのですけど」

「……それなぁ」


 そう来るだろうな、というのは予想できなかった訳ではない。ただ、流石に女性の来夢眠兎に娼館の情報を売る気は無いし、面倒なことになったなというのが正直なところだ。こんな事なら、多少強引にでも来夢月にコンタクトをとっておいた方が良かったかもしれない。

 誤魔化そうと思えば出来なくはないだろうが、それはそれで禍根を残す可能性があるため、譲歩できるラインを提示することにした。


「レベルを1に下げる方法に関しては、『成人向けエリアのとある店』以上の情報を出す気は無い。再レベルアップの仕様に関しては、話すのは構わん。

それで良ければ、まあ話はするが」

「【竜爪技】に関しては?」

「そっちは、第一発見者がゲッコーだからな。俺から勝手に売れないんで、あっちに聞いてくれ」

「分かりました。では、それでお願いします」


 意外とあっさり引き下がってくれた。あるいは、オズの態度から何か察したのかもしれないが。まあ、相手が譲歩したなら、オズが愚図る理由もない。丁度家に来夢月も居るということで、話をするべくお邪魔することにした。

 来夢家には、意外な先客が居た。来夢月と、先程山で出会ったKNOWSONが談笑していたのである。


「なんだ、知り合いだったのか」

「ん、ああ、KNOWSONさんの事かい? 残念ながら、今日が初対面だよ。

山で君に会ったってことで、一応仁義を切りに来てくれたのさ」

「まあ、それは口実で、実は大手にゴマすりに来たんですけどね」


 それにしても、ちょっと情報提供者と接触した程度で仁義を切りに来るというのも、中々にすごい話だ。あるいは、本気で単にゴマすりに来たのかもしれないが。

 いずれにせよ、商売敵のはずの両者間にはギスギスした雰囲気のようなものはない。少し意外に思ったので、聞いてみることにした。


「商売敵にしては、仲良いんだな」

「ま、こういう『ごっこ遊び』はプレイヤーが複数いないとあっという間に廃れるからね。

喧嘩するより、ある程度は仲良くした方が得なのさ」

「ウィークリーオラクルのお陰で、需要も伸びそうですしね。是非、大手さんには頑張って頂かないと」

「おっと、プレッシャーだね」


 言葉の端々に含むものが見え隠れしているが、二人ともこの会話を楽しんでいるようだ。マイナーなロールプレイ愛好家が、同好の士を大切にするというのは理解できなくもない。そういう意味では、ある意味で仁義だ何だというのも、ロールプレイの一環なのかもしれなかった。


「情報を売りに来たんだが、出直した方が良いか?」

「ああ、そういう事でしたら、私の方がおいとま……」

「いや、居て貰って構わないよ。娘がわざわざ引っ張ってきたって事は、何か爆弾持ってきたんだろうから。

一緒に吹き飛ぼうぜ?」

「お前の中で俺の扱いはどうなっとんだ」


 実のところ、『レベルドレイン』の第一発見者もオズではない。ライオン頭が店長と揉めていたということは、オズの前にあの男が店にたどり着いていたはずで、ネタの鮮度は微妙である。まあ、ゲッコーならまだしもあのライオン頭に配慮する理由はオズには一切ないので、まだ情報を持っていないらしい来夢家に話すのは全く問題ないのだが。

 どうやらKNOWSONも立ち会うようなので、そのまま口を開く。


「『レベルドレイン』って知ってるか?」

「ああ、あの」


 名前に反応したのは、KNOWSONだった。色々謙遜していたが、どうやら独自の情報網は持っているようだ。ある意味、説明の手間が省けて助かったというべきか。


「知ってるなら話が早い。あそこでレベル1になれるぞってだけで、俺からの情報は以上だ」

「あの、ちょっと待ってください。え、その、ちょっと……」


 KNOWSONはオズと来夢眠兎を交互に見やると、何かをこらえる様に頭を抱えた。正直、気持ちはわからなくもない。そのまま、来夢月を部屋の端に引っ張って行って、何やら話し込んでいる。

 来夢月も、この段階になって状況を理解したらしく目を白黒させていたが、何やら観念したようだ。こちらに向き直り、重々しく口を開いた。


「眠兎、悪いんだけど、席を外して貰えないかな」

「……私には聞かせられない話という事ですか?」

「成人向けエリアの話題だからね。君に聞かせるにしても、まずはこっちで吟味したい」

「…………わかりました」


 結局は娘の方が折れたようで、来夢眠兎は家から出て行った。男三人、大きく息を吐く。

 来夢月が恨みがましく言った。


「流石に、こういう爆弾は想定外だよ。ウチの家庭を崩壊させる気かい?」

「言っとくが、情報を売れと言ったのは来夢眠兎だし、売るのもレベル1になってから再レベルアップの際の仕様だけで、店そのものに関する情報は一切なしってのは事前に通達したからな。

つーか、KNOWSONが知ってるなら、後でそっちで情報共有しとけば良いだけでは?」

「あー、いえ。私が知ってるのは、風俗関連スレで『レベルドレインにぼったくられた』と騒いでる輩が居て、レベルドレインという単語自体がNGワードになったというだけなので」


 なんというか、心当たりがありすぎる。あの男、百獣の王をアバターにしている割にはかなりみみっちい真似をしているようだ。

 最大の懸念事項は取り除かれたので、再レベルアップの仕様に関して説明していく。といっても、ほぼデシレの受け売りだが。AP取得はやはりインパクトが大きいらしく、話を聞くにつれて情報屋二人の目に光が戻ってきた。


「ところで、やっぱり店の情報を聞くのはNGかい?」

「いや、俺も流石に家庭崩壊の引鉄は引きたくないんだが」

「ああいや、そういう事じゃなくてね。KNOWSONさんから聞いた話が本当だとすると、そのサービスって成人男性しか受けられないだろう?

メリットを考えると、ある種の男女差別になりかねないと思うんだよね。なので、類似する店舗があるんじゃないかって思ったんだけど」

「ああ、そういう事か。悪いが、それについては知らんとしか言えない」


 風俗街を逐一チェックした訳ではないので何とも言えないが、少なくともそういう店舗を他に見た覚えもない。というか、デシレの同族を見かけるのも、店長に出会った時のような例外を除けば店の中かゲッコーの屋台だけで、そこに男性が居た覚えはない。

 お値段やレベルアップのハードルを考えれば、最初の街に設置されるにしては少々重いクエストなのは事実で、もしかしたら他の街に本店があってスータットは支店なのかもしれない。

 そこまで考えて、ふと思い出したことがあって口を開く。


「そういや、そこの店員、スータットには最近来たって言ってたな。故郷があるそうなんで、そっちにはなんぞ有るのかも知れん」

「へぇ、ちなみに、その故郷の場所は?」

「いや知らんよ。つーか、故郷を出て娼婦やってる娘に、根掘り葉掘り聞くとか俺は絶対嫌だからな」


 何気ない会話から爆弾が飛び出した経験があるので、オズとしてはそこはNOを突き付けておく。情報屋二人も、流石にそこまでの突っ込んだ対応を求めることはしなかった。

 しばらく話した後、話題は森の討伐依頼に移る。やはりというか、KNOWSONは森に討伐依頼があることを知らなかったらしく、【精霊語】の重要性について改めて考え直しているようだった。KNOWSONは生産職に伝手があるらしく、薬草や雑草を持っているなら買いたいとのことだったので、手持ちを全部渡しておく。ちなみに、普通の生態系なら絶滅していてもおかしくない勢いでゴブリンを狩っているオズだから、雑草の所持量も半端ではない。未鑑定ということで捨て値で売ったのだが、それでも結構な額になった。

 思わぬ収入で懐が温まったので、森でレベル19まで上げた後、『レベルドレイン』へ直行する。行動パターンが、完全にダメ男のそれだった。



 今日も今日とて、賢者のお時間である。

 リアルに戻った時に死にたくなったりするが、レベル1になったメニュー画面のスクリーンショットを見れば、生きる活力がわいてくる。今ならアビリティ封印という新ネタもあるので、きっとニヤニヤが止まらないに違いない。オズはどこまでも現金な人間だった。

 デシレがカードにお手製らしきスタンプを押すのを見届けて、部屋を出ようとしたらそのまま押しとどめられた。


「ボクのレベルが5になったので、ささやかな景品があります」


 そう言えばそうだった。主従が逆転したのですっかり忘れていたが、元々はその為に作ったカードである。カードのスタンプ欄には印がついており、デシレのレベルが5、14、30になった際に景品がもらえるらしい。スタンプ欄は30までしかないので、クラスチェンジはレベル30説がオズの中で真実味を帯び始めている。そういやこの情報は来夢月に話してないな、と思い出したが、確定情報ではないのですぐ忘れることにした。

 デシレは数回深呼吸をした後、言葉を続ける。


「えと、景品をお渡しする前に確認したいのですが、APって余ってますか?」

「あー、とりあえず30ほどあるが、それで足りるなら」

「いや、余らせすぎですよ。3あれば十分です」


 結局、再レベルアップしてから新たにアビリティを取っていないので、実は30よりもう少しある。今まで見たことのないAP値が嬉しくて、つい取っておいたのだった。

 デシレは改めて深呼吸すると、オズの胸、心臓のあたりに口づけをしてきた。これまでそういったサービスは無かったので、少々驚く。しばらくじっとしていると、やがてデシレは離れていった。


「ええと、これで終わりです。メニュー画面に新しい加護が増えているはずなので、ご確認ください」


 言われて、メニューを確認する。確かに、【樹精の加護】の下に【小悪魔デシレの刻印】という項目が増えていた。効果としては、デシレの好感度に応じて、デシレ以外の相手からの魅了・レベルドレインの成功率が下がり、デシレからの魅了・レベルドレインの成功率が上がるらしい。

 好感度とは、また面倒な値が出てきたものだと思う。オズとて、客と娼婦の間柄で会うたびにに好感度が上がると考えるほど、おめでたくもない。下手すりゃマイナスに振り切っている可能性もあるわけだが、だからと言って迂闊に「好感度教えて」などと言えば、余計に悪化するだろうことも想像に難くない。何とも扱いに困るアビリティだが、まあレアリティという面で言えばオンリーワンであり、中々悪くない。

 てっきりちょっとしたポーション程度だと思っていたので、うれしい誤算ではあるのだ。素直に礼を言っておく。


「おう、ありがとさん。それにしても、お前さん魅了とか使えたんだな」

「あ、いえ、その、これから覚えるので……」

「お前、そこで『お客さんが毎日来てるのが、その証拠ですよ』とか言えれば、店長からの査定が上がるんだぞ」

「うえぇ!?」


 デシレが素っ頓狂な叫び声をあげる。初日から思っていたのだが、この娘は少々アドリブに弱すぎる。まあ、オズとしてはそれくらいの方が話しやすいのだが。レベルが上がった分だけ職務には忠実になったようで、デシレは顔を真っ赤にしながらも説明を続けた。


「とっとにかく、今なら【隠蔽】というアビリティが覚えられるはずなので、それで刻印は隠しておいてください!」

「あー、これって、やっぱ隠さないといけない系の奴?」

「この街の人たちは、ボク達がどんな仕事をしてるか知ってますからね。それでもその印を見せびらかすんですか?

良いんですか!? 良いんですね!?」


 どうやら弄り過ぎたらしい。デシレの声がどんどん甲高くなっていく。

 考えてみれば、娼婦の付けたキスマークを晒して歩くというのも、相当アレである。それに思い至らないあたり、賢者モードになっても賢くなるわけではないらしい。当たり前だが。

 忠告はありがたく受け取り、早速【隠蔽】を取得して【小悪魔デシレの刻印】を隠す。完全に隠し通せるわけではないらしく、【?????】という表示は残っているが、まあ良かろう。

 デシレに追い出されるようにして、店を後にした。



 オズは知らないことだが。

 この後しばらく、『レベルドレイン』では「お客さんが毎日来てるのが、その証拠ですよ」というフレーズがプチ流行した。それにより、デシレの精神は少々削れ、オズへの好感度はそこそこ下がったのだった。

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