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世の中知らないことが多すぎる

 今日もまた、レベルが14に上がってしまった。全く以て残念だ。

 それにしても、忌々しいのは蝙蝠共である。山フィールドで夜になると、カラスの代わりに蝙蝠が出現するようになるのだが、コイツらはこちらが低レベルだと鬱陶しいくらい寄ってくるくせに、こちらのレベルが14を越えると途端に逃げ出すようになる。

 節分の豆まきの如く石コロをバラ撒けば撃ち落とすのはそこまで難しくないのだが、こんなどうでもいい雑魚でレベルを上げたくないオズとしては、ハッキリ言って迷惑以外の何物でもない。タダでさえ、レベルドレインを受ける度に少しずつではあるがレベルが上がりやすくなっているのに、数だけは多い蝙蝠の相手をしているとあっという間にレベルが上がってしまう。

 なるべくトドメは刺さないようにしてはいるのだが、当たり所が悪くて即死する蝙蝠も居たりするので、オークとの練習時間が減ってしまう。困った話だ。

 月火と試した感じでは、レベル14位で森に狩場を移し、最初はカレイドキャタピラーやカレイドモスを狩ってレベルを上げ、レベル16になったらクワトロガッターに移行するのが経験値効率が良いと思われる。まあ、出会うモンスターを完全に選別出来る訳ではないので、そうそう理想的な運びにもならないのだが。

 それでも、クワトロガッターは森3の奥の方にしか居ないので、それさえ注意していれば、仮に蝉に眠らされた場合でもカナブンやモスの攻撃なら何とか耐えられなくもない。少々博打の気も強いが、金策のためにはあまり悠長にレベル上げもしていられないのだ。

 森の敵から取れる素材で一番高価なのは、今の所クワトロガッターの甲羽と顎バサミである。クワトロガッターを狩れるだけ狩りつつ、樹精さんからの報酬を合わせて何とか一日一デシレの稼ぎになるかどうかという所なので、これはこれでオーク相手の練習と同じくらいにはオズにとって死活問題だ。

 未練たらしく山に残っていても何にもならないので、さっさとポータルから森に飛ぼうと踵を返したときだった。


「誰か、助けて下さーい!!」

「うるせぇ、さっさと死にやがれ!」


 声のした方を見れば、小型種族の男性――声からして、恐らく男性――が三人がかりで襲われている。恐らくはPKの真っ最中なのだろう。何故こんな所でという疑問もあるが、それより目を引いたのはPK側の動きだ。

 短剣を持ったネコと後ろに控えたウサギはモーションサポート頼りのつまらない動きだが、長剣を持ったオオカミは恐らく中級者だ。取り立てて動きが良い訳でもないが、少なくともオークよりは楽しめそうだと言うことで、急遽横殴りする事にした。

 まずは、邪魔者を片付けるべくウサギの頭を噛み砕く。防御力が低いだけあって、あっという間にエフェクトを残して消えた。異変に気付いてこちらに向き直ろうとしたネコの喉笛を爪で切り裂けば、何が起こったのか分からないといった表情のまま死に戻っていく。

 オオカミは小型種族の男性とオズに挟まれる愚を避ける為、横に大きく飛び退く。いつでも逃げに移れる様な体勢のまま、長剣の柄を両手で持って構えた。中々様になっている。

 ジリジリと後退しながら、こちらに問うてきた。


「なんだ、テメェは?」

「こんばんは、PKです」

「だったら、襲いかかる相手を間違えてんじゃねぇのか?」

「いやいや、殴り合って楽しいのは間違いなくアンタの方だろうよ」

「チッ、そっち系かよ、クソが!」


 言うが早いか、足元の砂利を蹴り上げる。他のゲームなら有効だったかも知れないが、今のオズは身長3m越えのリザードマンだ。少しばかり砂利を蹴り上げても、顔の高さまで来る事はまず無い。オオカミもそれに気付いたらしく、構わず突進してくるオズを見て顔をゆがめた。

 オズは掌に隠していた石コロを、親指で弾いて飛ばす。長剣を持つ手を狙ったのだが、オオカミもそこまで間抜けではないようで、手の位置をずらして柄で受けた。が、結果としてはその行動が命取りになる。オオカミが次の行動に移る前に、オズの指が長剣の刃を掴んだ。

 大型種族のオズと力比べをするほど愚かではないらしく、オオカミは武器を手放して逃走に入る。思い切りは良いが、オズもそれを許すほどお人好しでは無い。奪った長剣を逃げるオオカミ目掛けて投擲すれば、長剣の切っ先は見事にオオカミの後頭部に吸い込まれた。倒れてもオオカミが消えないので、追撃でいくつか魔法を放つ。それがトドメとなったようで、オオカミはエフェクトを残して消えた。

 短い攻防ではあったものの、それなりに楽しめた。やはりPvPは良い。

 良い気分で次へ行こうとした所で、襲われていた小型種族の男性から声を掛けられた。


「どうも、危ない所を助けていただいて、ありがとうございます。土竜族(ドリモール)KNOWSON(ノーソン)と申します」

「竜裔のオズ悪人だ。さっきも言ったが、殴って楽しそうな方を選んだだけだから、気にせんでくれ」

「ああ、貴方が。お噂はかねがね」


 KNOWSONは得心したといった風に頷く。どんな噂かは知らないが、どうせ【乗騎】絡みなのだろうと思うと、イマイチ喜べない。こちらの心情を察したのか、KNOWSONはフォローするように言葉を続けた。


「ああ、実は、私も情報屋をやっておりまして。ルナリアンさんの所に毎回特ダネを提供していると言うことで、注目していたんですよ」

「あー、なるほど」


 『ルナリアン』というのは、たしか来夢月が運営している情報サイトだったはずだ。そっち経由というのは、少々意外だった。結局は、【乗騎】絡みであることは変わらないが。それにしても、ゲームを始めて2週間足らずで二人目の情報屋に会うとは。実は、このゲームでは情報屋というのはメジャーな存在だったりするのだろうか?

 オズがそのまま歩き出すと、向こうも付いてくる。振り切るのも流石に大人げないので、歩調を合わせた。黙っているのも何なので、とりあえず話を続ける。


「情報屋ってそんなに需要のある商売なのか?」

「どうでしょう? 実を言えば、私の場合は趣味が8割と言った所なので。ゲームにもよりますが、儲けに繋がることはほぼ無いですね。

ただ今回のウィークリーオラクルで、今後もイベント情報はNPCから提供されることが公式に発表されたので、もしかしたら今後は需要が高まるかも知れません」


 そう言えば、そんな記事もあったか。オズとしては{訓練所}のインパクトが強すぎて、他の記事はあまり印象に残っていない。あの施設がチュートリアル前に使えれば今頃はもう少し色々出来ていたのにと思わなくもないが、そうなるとスーホ達とすれ違っていた可能性もある訳で、なかなか難しい所ではある。

 攻略組は大抵の場合、常に最前線の街を拠点とするため、あまり一所に腰を落ち着けてじっくりと情報収集というのは行わない。その所為で森のイベントに乗り遅れたという面もあるので、それを補う為の情報屋は重宝されるかも知れない。


「助けていただいたお礼と言っては何ですが、私の持っている情報で良ければ提供しますよ。

といっても、ルナリアンさんの様な大手とは比べ物になりませんが」

「まー、そうだな。良い金策の方法知ってたら、教えて欲しいかな」

「金策ですか…… 今だと、雑草鑑定とかですかねぇ。掲示板では出回っているので、既にご存知かも知れませんが」

「雑草鑑定?」


 聞き慣れない言葉に思わず聞き返せば、KNOWSONがそのまま説明してくれる。ゴブリンから手に入る雑草だが、あれを【鑑定】アビリティを使って鑑定すると、稀に薬草やハーブの類が混じっているらしい。特に薬草は回復アイテムの材料として需要が高いので、そこそこ高値で取引されているとのことだった。

 まあ、解消されつつあるとは言え物資不足のスータットで、回復アイテムの素材が重宝されるのは分かる。ただ、正直あまりにも迂遠な気はするが。


「つーか、薬草欲しければそれこそ森に行けば良かろうに」

「森で勝手に採取すると、NPCからのヘイトが貯まるんですよ。特に樹精に嫌われると、最悪の場合は蜂をけしかけられることもあるそうで。

役場で一定の手続きをすれば許可は下りるそうですが、審査が厳しいのでその手間を踏むくらいなら、という事らしいです」

「つーても、討伐依頼受ければ…… って、【精霊語】が無いのか」


 ようやく納得がいった。実を言えば、樹精さんからの討伐依頼の報酬に、薬草類も含まれている。役所の納品依頼の対象なので、そのまま流していたが。どうも、大分勿体ない事をしていたらしい。この間から、こんなんばっかりだなと思わないでもない。まあ、今回に限って言えば掲示板を見ないでプレイしているのだから自業自得であるが。

 とりあえず金になるならプレイヤーに売りたい所ではあるが、回復アイテムを生産している知り合いは居ない。APが余っているのでアビリティを取って自分で生産する手もないではないが、今それをやろうとするとレベリングの時間が減るので、あまりやりたくない。

 折角教えて貰った情報だがあまり役に立ちそうにもないなと思いながらも、KNOWSONには礼を言っておく。一旦荷物を整理するために、ポータルを使って街へ戻った。



 食肉関連を一通り役所に卸した後、ゲッコーの店に向かう。

 職人通りの屋台は、そこだけ邪教のミサみたいになってて笑える。おこぼれを狙ったのか、周囲にも数軒の屋台が新たに開業していた。まあ、生産職が元気になるのはプレイヤーとしては良い事である。

 ゲッコーに声を掛け、事前に注文を受けていた雑魚蛙を売却した。リピーターが増えたのである程度金が出来たのと、【狩猟】で内臓まで含めて食材が手に入るのは大きいと言うことで、頼まれていたのだ。どのみち山へは行くので、気分転換にワニや蛙の相手をするのはそこまで手間でもない。


「あ、オッサンだ。狩り行こー」

「おう、ゾフィーか。構わんぞ」


 丁度屋台で食事をしていたゾフィーに声を掛けられた。流石に、「風俗行く金を稼ぎたいからパーティはNG」みたいなクズ発言をする蛮勇は、オズも持ち合わせて居ない。ゾフィーはプレイ時間に制限もあるので、そんなに遅くまでは拘束されないという打算もあるが。

 見ればラインハルトとカブータス、来夢眠兎にキリカマーも一緒だったので、声を掛けてパーティ申請を飛ばす。承諾されたので、今後の予定について話し合う。


「で、どうする? 森か、山か」

「森がいいな。ワルトは、森の討伐依頼って受けてる?」

「ああ。まだ、ガッターまでしか狩れてないが」

「ホンマですかー」


 カブータスが気落ちしたように嘆息する。聞けば、彼等はクワトロガッターで躓いているらしい。タンクをしているカブータスがガッターの攻撃を抑えきれずに、全滅しているそうだ。まあ、アレを正面から押さえ込もうと思うとレベル18のオズでも無理だったから、仕方がないかとは思う。

 とりあえず、「正面から真っ向勝負せずに、ひっくり返して腹をぶっ叩けば案外楽だぞ」とだけアドバイスしておいた。具体的な方法は、彼等自身が考えた方が良いだろうとあえて言わない。

 定位置である、オズの肩に乗ったゾフィーが尋ねてきた。


「ところで、オッさんって今レベルいくつ?」

「14」

「だから、何で会うたびにレベル下がってんだよ!?」


 ある意味当然のツッコミが返ってくる。パーティメニューを開けばメンバーのレベルとアビリティは見えるように設定しているので、嘘をついてもすぐバレる。隠すことも出来なくは無いが、それはそれで相手に不審に思われるだろうから、これについては観念するしかない。

 未成年に聞かせたくない部分は伏せて、説明することにした。


「成人向けエリアに、レベル1に下げて貰える店があるんだよ。昨日そこでレベルダウンして、今日とりあえず14まで上げた」

「なんでそんな事してんの?」

「再レベルアップでAPが取得できるのと、レベル1だとアビリティやステータスの補正がほぼ無いから、体の動かし方を練習するのに丁度良いから」


 ラインハルトとゾフィーからしてみれば、オズがゲームのために奇行に走るのは珍しくない事なので、理由を話せばアッサリと納得して貰えた。

 話を聞いていたキリカマーが疑問を呈してくる。


「それって、アビリティ封印じゃ駄目なの?」

「なんだそれ?」


 聞けば、メニュー画面からアビリティを任意で封印する事が出来るらしい。アビリティに付随するステータス補正等も無効化されるため、全アビリティを封印すればレベルダウンと同じ効果が得られるのでは、とのことだった。知らない情報に愕然とする。

 ただ、当然と言えば当然だが、封印しているアビリティには経験値が入らないとのことなので、それはそれで微妙である。


「動き方の練習だけなら、そっちの方が良さそうだな。ただ、体感だが種族レベル低い方がアビリティレベルの上がりは良いんで、それを考えると悩ましい所ではある」

「へぇ。そこまで違うもの?」

「月曜にレベル1だった【竜爪技】が、今レベル13だからな。【歩行】や【耐久走】もレベル14だし、格上と戦ってる方が上がりやすい気はしてる」


 アビリティレベルには種族レベルでキャップが掛かることを考えれば、無制限という訳でもないのだが。山ではレベル14位までしか活動しないことを考えれば、ある程度レベルが上がっているアビリティに関しては、積極的に封印しても良いかもしれない。

 来夢眠兎の「なんでまた知らないアビリティが増えてるんですか」という文句を聞きながら、ポータルを通って森へと入る。

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