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風俗にハマる奴の気持ちが今なら分かる

新年あけましておめでとうございます。

元旦の朝から主人公が風俗にハマる話を書いていますが、私は元気です。

 レベルドレインの効果は、思った以上に素晴らしい物だった。

 そもそも、今オズが使っている動きは殆どが他ゲームのモーションサポートからパクってきた物であり、それらは大元を辿れば実在する武術の動きである。これらは、当たり前だがホモサピエンスの身体で使用する事を前提に作られており、構造が大きく異なるリザードマンの身体ではその効果を十全発揮できない。

 それでもまあ、なんとか使える動きをピックアップしてやっていたのだが、ここで竜裔の高い身体能力が逆に仇となった。オズがモーションサポートに頼らず動けるようになったのは種族レベル10の頃であり、この頃になると、多少拙い動きをしても身体能力の高さで()()()()()()()()。改めてレベル1になった際、今までの動きがアバター性能に頼っただけのゴリ押しであったことを認識し、愕然としたのだった。

 急遽、自分の動きを再構築する必要が発生したのだが、そこで役立ったのがオークである。武術の動きというのは、大体の場合が自分と近い体格の相手を想定して作られている。身長3mちょっとのオークは、オズの練習相手としては丁度良かったのだ。まあ、もう20cmほど平均身長が高かったらとか、ケロツグの半分で良いから高性能なAIを積んでいたらとか、言い出したらキリがないのだが、この際贅沢ばかりも言っていられない。

 ただ、どうしても見過ごせない欠点が一つあって、オークの経験値効率が良すぎてレベルアップが早過ぎる。山で1時間ほど練習しているだけで、簡単にレベル10を越えてしまうのはいただけない。

 レベルだ、レベルを下げねばならぬ。 10でも、5でも、2でも駄目だ! 1だ、1にせねばならぬ!!

 レベルドレインジャンキーの誕生であった。



 さて、『ちょっとした景品』目当てに作ったレベルドレインのカードだったが、こうなれば俄然意味合いが変わってくる。これは景品引換券などではない、レベル1(夢の国)へのパスポートである。何があっても無くす訳には行かないので、普段はホームに備え付けてある金庫に大切に保管することにした。

 それと、金策パターンの構築も急務だ。もはや週に2回などと生温い事は言っておれぬ。何としてでも毎日通えるような経済力を早急に得る必要があるので、とりあえずフレンドに金策案を聞いて回ることにした。

 ジョージ夫妻は生産組であり、収入の多くを自作品の売却で賄っているため、オズには真似できない。元々分かってはいたが、却下だ。

 スーホとクマゴローは仕事のためログインしていない。流石にリアルの邪魔をしてまで金策を尋ねるのも憚られるため、保留。

 来夢月は、珍しいことに今日はログインしていない。来夢翠と来夢眠兎はそれぞれ狩りに行っているそうなので、これまた邪魔するのも憚られるので保留。

 ゲッコーも生産組なので恐らく真似できまいとは思ったのだが、駄目元で行ってみたところ思わぬ情報が聞けた。詳しく見たことはなかったのだが、役場の納品依頼には食肉関係も含まれているらしい。値段はNPCショップに売るより少し割安になるが、代わりに窓口は24時間空いている。プレイヤーには嬉しい仕様だ。

 早速、家に大量に余っている蛙の死体を全て納品する。家に置いていただけなので保存状態は悪く、大半は値下げされたりその場で破棄されたりしたのだが、それでも量が量なので悪くない稼ぎになった。ついでに、依頼達成の初回ボーナスであるAPの若干ではあるが手に入ったため、オズとしてはホクホクだ。

 それと、ゲッコーから得られた情報はもう一つある。


「【竜の胃袋】っていうアビリティを知ってるか?」

「いや、知らん」

「やっぱそうか…… 俺も、偶然見つけたんだが――」


 元々は、【狩猟】によってケロツグの死体が丸ごと手に入ったため、内臓料理にも手を出してみようと思ったのが切っ掛けらしい。未だに【狩猟】を取っているプレイヤーは少ないため、内臓系を手に入れられる者も限られる。上手くやれば、他者と差を付けられると思ったそうだ。

 いくつか料理を試作してそのまま試食していた所、【悪食】アビリティが【竜の胃袋】というアビリティに変わったらしい。その際、レベルは3から1に下がったそうだが。ゲッコーの推測では、【捕食】の効果である稀にステータスアップしたりアビリティを習得したりというのが正にこれではないか、とのこと。言われてみれば、納得できる部分はある。

 肉食獣は、獲物を仕留めた際にまず腸から食うという。【捕食】が肉食獣の能力を模したアビリティなら、内臓を食って効果を発揮するというのは真っ当と言えば真っ当だ。【狩猟】の取得がほぼ必須となるので、それなりにハードルも高いが。

 内臓は傷みが早く保存が利かないので、今までは捨ててしまっていたのだが、大分勿体ない事をしていたらしい。唯一の不安は『ケロツグの死体』という点で、これが隠しボス以外はアウトとなると途端に厳しくなるのだが、その点に関しては未検証なのでなんとも言えないそうだ。少なくとも、雑魚蛙や猪の内臓ではそう言った効果は無かったとのこと。

 まあ、サンプル数が少ないのでウダウダ考えていても仕方が無い。ゲッコーには情報提供のお礼と食事代を兼ねて、余っているワニを提供しておいた。その後、ワニをもう一匹提供してデシレを店まで送ることになったのだが、それはまた別の話である。



 検証のために、ワンプゲーターをもう一匹狩ることにする。本日4度目であり戦闘的にも経験値的にも美味しくないのだが、ついでに山の猪の納品依頼もこなしてしまうための選択である。

 ワニの倒し方は非常に簡単で、口を開く力が強くないので変形のフロントチョークで口を絞り上げ、目玉に尻尾の先を突き立ててそのまま頭の内部に魔法を数発ぶち込むだけだ。アビリティ構成にもよるだろうが竜裔のステータスだと種族レベルが12もあれば安定するので、最早作業でしかない。

 まあ、戦闘自体はメインでないので、今はどうでもいい。早速、皮を剥いで血抜きをし、内臓を取り出す。ゲッコーによればいくつかの料理を試食した後にアビリティが変わったため、部位なのか量なのか、はたまた組み合わせなのかは不明とのこと。【料理】レベルは昨日取得してから上がっていないので、諦めてそのままかぶり付いた。

 なんというか、滅茶苦茶生臭くてニチャニチャして不味い。よく考えなくても、処理してない内臓を食うなんて現代日本人にとっては罰ゲームでしかない。だが、これもアビリティ取得のためだ。吐き気を堪えながら飲み込んでいく。内臓を粗方食い終えた所で、【悪食】が【竜の胃袋】というアビリティに変化した。レベルは14だったのが1に下がっているので、恐らくは取得の際にリセットされる仕様なのだろう。

 効果は事前に聞いていたとおり、元の【悪食】の能力にプラスして《消化吸収》というスキルを覚えるというものだ。《消化吸収》の効果は満腹度を50%消費してHP/MP/STを回復するというものだが回復量は雀の涙で、試してみたゲッコー曰く「【調息】の足元にも及ばないゴミスキル」だそうだ。レベルが上がれば変わってくるのかも知れないが、まあ期待はしないでおこう。

 さて、こうなればやる事は決まってくる。猪を納品した後は、森に行ってオヤブンウルフを食おう。



 結論から言えば、オヤブンウルフの内臓を食うと【爪技】が【竜爪技】に変化した。レベルは16から1に下がっている。リセット説が濃厚になってきた。

 考えようによってはメインウェポンのアビリティレベルがリセットされる訳で、人によっては相当厳しいデメリットなのではないかと思われるが、まあオズからしてみれば大した事でも無い。爪がなければ尻尾で殴れば良いじゃない、の精神である。

 さて、モーションの再構築と【捕食】の仕様を確認したことで、オズの中で一つの仮説が生まれている。キャラクリエイトの際には竜の子孫だなんだと格好良い単語が並んでいた竜裔だが、実の所プレイヤーは『身も心もリザードマンになること』を求められているのではないかというものだ。

 【爪技】や【尾技】に搭載されているモーションサポートは、大振りな動きが多すぎてほぼ使い物にはならない。格闘系のアビリティもいくつか取ったが、これもホモサピエンスの身体構造を前提としたモーションサポートしか積んでいないため、やはり竜裔に相応しいとは言い難い。

 つまり、竜裔で格好良く戦おうと思ったなら、プレイヤーは新たに『リザードマン拳法』を編み出す必要がある訳だ。「アホか」と思わないでもないが、このゲームがアダプターの実験場的な側面を備えている事を思えば、あながち否定も出来ない。単に、リザードマン向けのモーションが地球上のどこを探しても見つからなかっただけかも知れないが。

 ステータスは高いのでレベルさえ上げれば性能ゴリ押しも不可能ではないし、【捕食】にしたって【料理】等の逃げ道は用意されているので、致命的な物では無いが。ガチ勢がゴリゴリの効率プレイを目指すなら、超論理的人外蛮族プレイという新境地を開拓する必要がある訳だ。考えてみれば、中々に面白い仕様である。

 ゲームというのは、攻略法を編み出すために試行錯誤している時間が一番楽しいと、オズは思っている。そもそもゲーマーなんて実績(トロフィー)一つのために修羅にも餓鬼にもなる生き物だ。畜生道に堕ちるくらいは今更で、大した事でも無い。

 顔のニヤけを抑えられないまま、ボスフィールドを後にする。



「オ、ヨク来タナ。……ドウシタ?」

「ああ、しばらく振りです。いや、ちょっと良い事があったんで、ニヤけてました。すんません」


 森2のフィールドに入った途端、樹精さんとバッタリ遭遇した。ニヤニヤしているのを見て不審な目を向けてくるので、慌てて取り繕う。ファーストコンタクトが友好的な相手だから良かった物の、浮かれたままで蟻に襲われたりしたら危ない所だった。自省せねばなるまい。

 辺りは相変わらずの「森っぽさ」に包まれており、ゲーム内だということを差し引いても中々に心地良い。そう言えばイベント後にここを訪れるのも初めてなので、すこし情報収集をしていくことにする。


「あれから、蟻共はどうなってます?」

「無事、追イ出シタ。オ前達、オカゲ」

「おお、そりゃ良かった。精霊樹も無事ですか?」

「無事。ダケド、元気ナイ。結界、弱イママ」


 予想されたことではあるが、イベントを攻略したからといって全てが元通りとは行かない様だ。イベント情報を差し止めていたという後ろめたさもあり、申し訳ない気持ちになる。

 その後も色々と聞いた所、どうやら森2は敵の出ないセーフティエリア的なフィールドに変わったらしい。今は養生が最優先ということで精霊樹の辺りは全面立ち入り禁止になり、ハニーリッターという蜂の騎士達が見張りをしてくれているとのこと。Honey(英語)Ritter(ドイツ語)という名前に少々違和感はあるが、まあゲームではよくあることなので気にしないようにする。

 精霊樹に杭をぶっ刺された後遺症は意外と大きく、森3のフィールドでも招かれざる昆虫達が森を食い荒らしているらしい。こちらは蟻と違って呪いを使うようなことは無いが、単純に力が強くてそこそこ数も多いので、樹精さん達も手を焼いているそうだ。


「まあ、俺に何か出来ることがあれば言って下さい。なるべく協力するようにしますんで」

「本当カ!?」


 半分くらいは後ろめたさを誤魔化すために言ったのだが、樹精さんは思ったよりも食いついてきた。加護も貰っていることだし、まあ手伝う分には構わない旨を告げると、嬉しそうにしていた。

 前回のイベントで有用性が実証されたはずの【精霊語】だが、取得コストが仇となって未だに取得者は多くないらしい。害虫退治を依頼しようにもまともに取り合ってくれる人間が少ないと言うことで、樹精さんも困っていたようだった。討伐依頼を出してくれるとのことなので、早速受領する。

 ゴブリン退治はまあ楽勝。ゴブリンの群れも言わずもがな。インスタンスエリアらしきゴブリンの巣壊滅も、格下相手だけあってなんら問題無い。

 ダンガンカナブンは空を飛んで体当たりを仕掛けてくるカナブンだが、速さと数こそ多少あるものの軌道はそう複雑でもないため、慣れればどうと言うことも無い。

 カレイドキャタピラーは表皮で日の光を反射してこちらを幻惑してくるそうだが、夜だと意味が無いので瞬殺。食ったら毒があったので驚いたが、【竜の胃袋】レベル上げには丁度良い。

 カレイドモスはカレイドキャタピラーの成虫で、こちらは鱗粉で幻惑してくるのだが夜も有効なのが幼虫との違いだ。ただ、単に5匹くらいに分裂して見えるだけなので、全部殴れば本物に当たる。脳筋万歳。毒は幼虫よりも更に強力だった。

 この次辺りから段々怪しくなってきて、眠眠ゼミはその名の通り睡眠の状態異常をかけてくる蝉だ。クソ五月蠅い蝉の声を聞きながら眠くなるという訳の分からない状態に陥ったが、幸い状態異常の成功率がそこまで高くないのと、攻撃力自体は控えめなのでなんとか押し勝った。

 クワトロガッターは牛よりも大きいクワガタで、クワトロの名の通り2対4本の顎バサミを持っている。レベル17に上がったオズよりも力が強く、防御力も高いので苦戦したが、昆虫だけあってひっくり返されると弱いので、ギリギリ辛勝といったところだ。

 その次は今までの昆虫の総決算だったのだが、ダンガンカナブンとカレイドモスが纏わり付いてくるために眠眠ゼミに近付けず、睡眠を食らった所でクワトロガッターに頭をちょん切られて死亡した。

 何事も、調子に乗りすぎは良くないと言うことだ。


「スマン、調子乗ッタ」

「まあ、それについてはお互い様なんで」


 樹精さんが謝ってくるが、討伐が楽しくてはしゃぎ過ぎたのはオズも同じなので、これについては相手を責める訳にも行かない。レベルも、いつの間にか18まで上がっていた。

 樹精さんからの依頼は処理としては役所の依頼と同じで、報酬が森で取れる素材系なのが異なっている。初回ボーナスのAPも貰えるため、再レベルアップ分も含めてAPが貯まっていてそれを眺めているだけでも楽しい。収支としては大きくプラスであるため、オズとしては特に文句は無い。

 デスペナルティが付いていてもクリアできるゴブリン関連だけを数回マラソンし、樹精さん的に「これなら希望が持てるかも?」というラインまで行った所で、一旦お開きとなった。

 樹精さんから貰った素材を改めて役場に卸せば、なんと所持金が1.2デシレ(1デシレは最安のコースで1回レベルドレインを受けられる金額)貯まっていたので、喜び勇んで娼館『レベルドレイン』に突撃する。

 デシレが「今日は来ないんじゃなかったんですか!?」と驚いていたが、そんな約束をした覚えは無い。今のオズの目標は、彼女を30日でレベル30まで持って行く事である。

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