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とりあえず山に辿り着く

感想欄で人数ガバをご指摘いただきましたので、修正しました。

ご指摘いただいた方、ありがとうございます。

「クマゴローさん、やっちゃって下さい!」

「あいよー」

「グゲゲゴゴゲェ!?」


 少々気の抜けた返答とは裏腹に、容赦の無い打撃がケロツグを襲う。

 オズがケロツグを羽交い絞めにし、クマゴローが殴る。紛うことなきリンチの図であるが、ケロツグが自由になった場合には後衛や生産組が一気に危うくなるため、当人達としてもそれなりに真剣だった。

 何せ、13人居るレイドメンバーの半数以上が後衛か生産組なのに対し、タンクを出来る人間が一人も居ないというバランスの悪さ故、取れる戦術というのが非常に限られる。多少見栄えが悪くとも、安全に勝つには他にいい手も思い浮かばない。

 腕の中でケロツグがもがいているが、午前中の戦闘でケロツグの筋力に関しては大方把握できている。適度にいなしつつ要所要所で絞め直せば、逃すことはない。クマゴローもケロツグが力を入れにくいよう、脇腹やアバラを重点的に殴ってくれているので、状況は安定しているかに思えた。

 ふと、腕の中の荷重がなくなる。何事かと思い見れば、ケロツグが万歳の格好のまま座るようにして羽交い絞めから抜け出していた。暴れて隙間が出来た所で、脱力してそのまま腕を抜くというのは羽交い絞めの抜け方としてはオーソドックスな方法ではあるが、少なくともケロツグがやっているのを見た覚えは無い。

 午前中に戦った限りでは、ケロツグは力には力で対抗しようとする悪癖があったので、こんな抜け方をしてくると言うのは予想外だ。

 オズ一人で相手をしているのであれば、危なかったかも知れないが。


「へぇ、言うだけあって、良いAI積んでるんだね」

「グゲェ!」


 二人を相手にしているときに、半端なエスケープなどしてもかえって状況を不利にするだけだ。

 クマゴローが座り込んだケロツグの足首を持ってそのままベキリと捻れば、


「お前、そういうのは午前中にやっとけよ」

「ゴゲァ!」


 オズも鎖骨に肘を落としてボキリとへし折る。

 こうなってしまえば、もう抵抗らしき抵抗も出来ず、そのままケロツグは死ぬまで殴られ続けたのだった。合掌。



「カエルいいよね」

「いい……」


 沼地のボスエリアを抜け、山へと入る。

 一方的な戦いになるかと思われたケロツグ戦は、思ったよりも収穫が多かった。恐らくはドロップ目当てに攻略組が殺到している所為もあるのだろうが、ケロツグがたった半日で戦い方を学習するほど良いAIを搭載していたというのは、嬉しい誤算だった。これは今後のボスにも期待できると言うことで、オズとクマゴローはホクホクである。

 ただ、それ以外の面子に関しては見学だけでボス戦が終了したので、拍子抜けの感が強い。特に、「一撃でも貰うと危ないから」と言うことで後方に回されたゾフィーはおおいに鬱憤を溜めていた。


「んで、山ってどんな敵が居んの?」

「午前中に少し覗いた限りじゃ、オークとイノシシ位しか見てないな」

「本当は、カラスも居るんですけどね。普段は山に入った途端に鬱陶しいくらい集ってくるんですが、今日は居ませんね?」


 ゾフィーの質問にオズが答えれば、来夢翠が補足してくれた。確かに、空を見上げても何かが飛んでいる様子はない。これも雨の影響だろうか。

 この面子だと、空中から集団で来られると騎手や後衛を守るのがほぼ不可能なので、ありがたい話だったが。


「飛んでる敵か…… 蜂を除けば、このゲームじゃ初か?」

「だな。そろそろ、本気で乗騎の運用を見直す必要があるかも知れん」


 オズとスーホにとっては頭の痛い問題である。ただでさえ、上空からの攻撃というのは防ぎにくい。そこに騎手の安全まで考慮する必要があるとなれば、取り得る戦術はかなり限られるだろう。と言うか、ぶっちゃけ「逃げ回りながら数を減らす」位しか思い浮かばない。

 もう少しレベルが上がって、範囲攻撃を景気よくぶっ放せるようになれば、また違ってくるのかも知れないが。現状では、飛び回る敵を効率よく殲滅する手段がオズには無い。


「つーか、現時点で範囲攻撃系の魔法を一つも覚えてないんだが、この状況でカラスの相手って相当厳しくないか」

「あれ、言ってませんでしたっけ? 魔法アビリティの合計レベルが100になると【魔法拡張】と【多重起動】を覚えられるようになるので、範囲魔法を使いたければそちらを習得するのが現時点では唯一の手ですね。

私達は、βからの引き継ぎ特典で習得してますけど」

「武技系のアビリティにも似たようなのはあるんですが、そもそもいくつも武器を揃えるのが手間だというのと、攻略組はモーションサポートが働く武器攻撃スキルを嫌うので、それが魔法優位の大きな理由の一つですね」

「あー、そういう仕組みか」


 ぼやくように漏らせば、来夢母娘から即答が返ってくる。どうにも、このゲームでは結構常識的な知識だったらしい。

 既存の単体攻撃魔法に追加MPを支払うことで範囲化したり威力を高めたりというのは、VRゲームではそこそこ多い手法だ。ショートカットキーやコマンド選択を行えるゲームと違い、プレイヤーが思考して選択するVRゲームでは、魔法の名前を覚えるのがただでさえ面倒くさい。威力や範囲が多少変わっただけで魔法の名前が変わったりすると、混乱する人間が結構多いのだ。

 オズが現時点で覚えている魔法は【無属性魔法】と樹水氷光の4属性で計5種類である。レベル100にするには最低でも各20まで上げる必要があり、現実的では無い。全属性を網羅すれば各10レベルでいいのだが、それをするためのAPが確保できないので、やはり無理だ。器用貧乏の欠点がまた新たに浮き彫りになった形である。


「まあ、物理攻撃は物理攻撃で、上手くやれば急所を突いて雑魚を一撃で散らしたりできるので、そこまで優位に立ててる感じはしませんが」

「そこら辺、突き詰めようとすると論争になるからなぁ。魔法だって『三種の神器』はある訳で、結局は個人の技量に左右される部分が大きいとは思うが」

「なにそれカッケェ」


 『三種の神器』という中二ワードにゾフィーが反応した。実のところ、そこまで凄い技術でもないのだが。


「サテライト、ノールック、パラレルっつー魔法の基本テクを引っくるめて『三種の神器』と呼んでるだけだ。実際、それだけだと大した事はないんだが、応用が利きやすいんで、そこから派生したテクがいくつもある。

まあ、RPGに限らずアクションや弾幕シューティングみたいなゲームでも魔法系の「プレイヤーの意思で発動する」攻撃は多いんで、それ系をやってるゲーマーなら大体覚えてる。オッさんだって使える位だしな」

「へー、見して見して」


 せがんでくるゾフィーにペチペチ頭を叩かれながら、どうした物かと考える。正直、わざわざ披露するようなテクニックでも無いのだが、まあゾフィーの機嫌が直るなら良いかと思い、結局は見せることになった。


「先に言っとくが、本当に大したテクじゃないからな?

じゃ、オッさんの尻尾の先に注目。で、《ライトボール》」


 オズの尻尾の先に、光の球が生まれる。光球はしばらく尾の先に留まっていたが、やがて円を描くように回転し始め、そうかと思えば逆回転したり波打ったりと、不規則な軌道を描く。


「これがサテライト。今は尻尾の先でやってるが、本来はプレイヤーから一定範囲の好きな場所に魔法を配置するテクだ。シールド系の魔法を移動させて、敵の攻撃を防ぐのなんかによく使う。

で、一度に複数の魔法を操作するのがパラレル。例えば…… 《マジックシールド》《アイスシールド》」


 尻尾の先に、新たに無属性と氷の盾が生まれる。二つの盾は、先に生まれた光球同様に尻尾の周りを周回し始めた。時に交差するように、時に寄り添うように動く3つの魔法は、VRを始めたばかりの面々にとっては正に「マジック」であり、「おおー」という歓声と共に拍手が送られる。

 まあ、喜んで貰えるなら悪い気はしない。


「んで、最後の奴は?」

「ノールックはそのまんま、見てない方向に攻撃魔法とか飛ばすんだが、ぶっちゃけ地味なんだよな。「意識だけで軌道を描いて魔法を飛ばす」っつー、神器の中でもかなり重要なテクではあるんだが、それだけだとあんまり見栄えはよろしくない。

一応、今もオッさんは尻尾の方を見ずに操ってるんで、ノールックの一種ではあるんだが」

「えぇー」


 『三種の神器』なのに演目が2つしか無い事に、ゾフィーが不満の声を上げる。別に見てない方向に魔法を撃つだけならいくらでも出来なくはないが、オズが説明したとおり大して見応えが無いのは事実だ。

 ゾフィーの機嫌がまた燻りかけたところで、キリカマーから助け船が出された。


「ゾフィー、折角だから「バックレ見せろ」くらい言っとくと良い」

「ばっくれ?」

「バックレーザーっつー、ノールックの一種だ。あんま実用性は無いが、まあ見栄えはするか。

じゃ、再びオッさんの尻尾の先に注目。で、《レイ》」


 後ろに向かって投げた石コロを、尻尾の先から放たれた光線が貫く。続けて、2つの石コロをそれぞれ《マジックニードル》と《アイスニードル》が撃ち落としたことで、再び観衆から拍手が生まれた。


「今のがバックレーザーで、背面から魔法を放って背面の標的に当てるっつー難易度の高い技だ。それだけに、実戦で当てるのはかなり難しいんで、ロマン技に近いが」

「そういうのって、どこで覚えるん?」

「さっきも言ったが、魔法系の攻撃って色んなゲームにあるからな。それ系で練習モードがあるゲームなら、半日やってりゃある程度は使えるようになるぞ。

実際、カブータスも基本テクだけなら使えるしな」

「何!? マジかよブーちゃん」

「マジかよブーちゃん」

「君ら二人ホンマに仲ええな」


 突然話題に上がったカブータスの名に、ゾフィーとラインハルトが反応する。カブータスもフルダイブのVRを始めたのは1年程前で、しかも間に受験期間を挟んでいたため、プレイ時間はそう多くない。それを知っているだけに、明確に先を行かれているというのがショックだったのだろう。


「言うとくけど、ホンマに使えるだけやぞ。さっきのオズさんみたいに、神器の合わせ技とかバックレみたいな高等テクは無理やからな」

「何だよブーちゃん出来る子かよー」

「アイツ、夏休みの宿題とか親戚の家に行ってる間にサラっと済ませるタイプだぞ」

「オドレらは……」


 リアルでの知り合いだけあって、二人のカブータス弄りは結構遠慮が無い。それが許される程度の付き合いもあるのだが。

 まあ、変に孤立するよりはマシだろうと言うことで、やいのやいのと言いながらもフィールドを進んでいくのだった。


作中で細かい説明を入れるとますますテンポが悪くなるので、こちらで補足をば。


急所への攻撃は別に物理攻撃の専売特許という訳ではなく、魔法でも出来ることは出来ます。

ただ、剣の間合いからの首筋を狙った一撃と、10m程度先からの首筋を狙ったウィンドカッターのどちらが反応しやすいかと言えば後者の方な訳で、魔法での急所攻撃にはより工夫が必要になるというだけの話です。


あと『三種の神器』はあくまで作中の世界でのテクなので、実際にフルダイブVRで出来るのか作者は知りません。

基本テクなのはオズが説明したとおりで、実は今パーティに居るメンバーだとジョージ一家と来夢眠兎以外は最低限使えることは使えます。ただ、MMORPGで後衛魔法使いがそんな多彩な攻撃をしなければならない状況というのは普通無いので、あまり重視されません。オズみたいに前衛だけど魔法も使うとか、ソロ魔法使いで前衛に立たざるを得ないプレイヤーにとっては役立つテクニックですが、ある程度使いこなすには練習が必要で、それをする時間があるならさっさとレベル上げをして使える魔法を増やした方が時間効率は良いといった感じ。

作中の過去で「サイキックフォース」や「ワンダーランドウォーズ」のVR版みたいなゲームがいくつも発売されていて、そこで培われた技術というどうでもいい設定が一応あります。

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