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気を取り直して出発する

 パーはチョキに負ける。つまりはそういう事である。

 オズとしても、自分から言い出したことであるので、自称プロの相手をするのに文句がある訳では無い。クマゴローはプロであるので、相手が自称プロとは言えPKを行うのは外聞があまりよろしくない。

 そういう意味では、オズが始末を付けるというのは次善の策ではあるのだ。ただ、ジャンケンとはいえど勝負事なら勝ちたかったという、それだけの事である。


「えー、と言う訳で、お前の処遇が決まりました。通報後に死刑。執行猶予無し。執行人は俺がやります」

「はぁ? キミ、正気かい? わざわざ不意打ちのチャンスを潰して勝てるとでも?」


 自称プロの言葉に頭が痛くなってくる。万が一オズが負けた所で、残ったクマゴローが始末を付けるだけで何も困らない。言ってしまえばオズは四天王の最弱ポジであるので、わざわざ不意打ちをする意味が無いというだけの話だ。

 ついでに言うと、自称プロの動きからモーションサポートに頼っているのがバレバレなので、そう言った意味でも不意打ちは意味が無い。宣言しようがしまいが、相手の行動に反応するようなアビリティを所有していれば勝手に発動するし、所有していないのであれば正面から適当に攻撃しても当たる。VR中級者と初級者の差というのは、そういう物だ。

 昼前に来夢月に聞いた所によれば、トッププレイヤーのレベルは19だと言う。もし情報が古くてそれより多少上に行っていたとしても、少なくとも自称プロがそこに到達していることはまず有るまい。つまりはプレイヤースキルの差を埋めるほどレベル差があると言うことも無いので、負ける要素は見当たらない。

 実につまらない相手である。

 秘密会話用に臨時で組んだパーティを解散し、宣言通り目の前の自称プロを迷惑行為で通報する。多少の付きまとい行為で即刻出動するほどGMも暇ではないので、実のところ嫌がらせ以上の意味は無いが、自称プロが今後も同様の行為を行ったときには効いてくるので、大事なことである。


「じゃ、殺るぞ」

「舐めるな! 《パワースイング》」


 黙って殺されるのは嫌だったらしく、自称プロが先制とばかりに攻撃してくる。踏み込みがモーションサポートまんまだったので、尻尾で足を払って転ばせた。

 VR中級者が初級者より圧倒的に有利な点の一つに、受け身が挙げられる。モーションサポートにも受け身の動作は無い訳ではないが、攻撃モーションを咄嗟にキャンセルして適切な受け身に移行すると言うのは、普通に受け身を取るよりもかなり難しい。自称プロにそんな真似が出来るはずも無く、無様に転がった。

 そのまま、後頭部に噛みついて持ち上げる。どうやら即死はしなかったようで、咥えられたままジタバタと暴れるが、そんなことをしても牙が余計に食い込むだけである。「後頭部を囓られた体勢から相手に攻撃する」なんていうモーションは大抵のゲームで存在しないため、モーション頼りの自称プロにはここから有効打を打つことが難しい。

 この状態からでも口の中に魔法をぶっ放されれば即死の危険が無いではないが、見えない標的に魔法を撃つというのはそれなりに高等テクで、自称プロには無理だろうと言うことで考慮しない。完全に舐めプだ。


「どうせだから、記念に1枚撮っとこうか」

「オズ、こっち向いて。笑って笑ってー」


 完全に見物人モードのクマゴローとキリカマーが、好き勝手を言ってくる。物を咥えたまま笑えというのはかなり無茶な気がするが、とりあえず口の端を持ち上げ、ついでにダブルピースしておいた。

 写真を数枚撮った所で自称プロのHPが切れたらしく、そのままエフェクトを残して消える。システムインフォでオズがPKになった旨が告げられ、ついでに『マンイーター』の称号を受け取った。プレイヤー相手の【捕食】の攻撃力が上がるらしい。まあ、そういうロールプレイをするなら役に立つかも知れない。

 ちなみに、恐らく倫理的な理由だろうが、自称プロは物凄く不味かった。運営も、プレイヤーを食材にするようなプレイはあまりして欲しくないのだろう。VRゲームで受けたダメージが肉体に効果を及ぼすことはないが、精神はまた別であるので、妥当な措置であると思われる。


「おい、戦利品の分配に関する話し合い、終わったぞ」

「おう、ご苦労さん。こっちも終わったんで、出発するか」


 タイミング良く、スーホが戻ってきた。特に揉めることもなく決着が付いたとのことだったので、そのまま出発することにした。



「と、言う訳でだね。ここに居る全員で、山のボスと戦って欲しいんだよ」


 来夢月が説明を締めくくる。戦利品の分配に関して、来夢一家は分け前を辞退する代わりに依頼したいことがあると言い、その内容を聞いていたのだが。

 話自体はそう難しい物ではなく、「トッププレイヤー達も攻略できなかった山のボスに関して、実地での情報が欲しい」と言うことだった。ボス戦に負ければ、当然経験値は入らない上デスペナルティは付くので、不利益と言えば不利益だが、大した事でも無い。案外拍子抜けした、と言うのが正直な所だ。


「まあ、その内ボスの顔は拝みに行くつもりだったし、俺は構わんけどな。ゲッコーやジョージさん達は、それで良いのか?」

「屋台をやる分には、デスペナ付いててもそこまで問題無いしな。アイテムロストは痛いが、【狩猟】で丸ごと食材が手に入るなら収支はプラスなんで、俺としてはOKだ」

「我々も、事前に説明を聞いて了承している」


 念のため生産組に確認すれば、ゲッコーとジョージからも了承が返ってきた。一番被害を被るであろう生産組が良しとしているなら、オズに断る理由もない。普段から死ぬことの多いオズは、金はホームに保管するようにしているため、スーホ達に払う報酬に関しても心配ない。

 一応はチームリーダーとして、来夢一家の依頼を正式に受ける旨の告知をしておく。


「んじゃ、各々の報酬に関してはそういう事で。取りあえずはリーダーのお仕事終了」

「何と言うか、その格好でチームリーダーと言われても、イマイチ締まらないわねぇ」


 背中のマルガレーテが、呆れたように言う。生産組は沼地のボスを倒していないので、ポータルが使えない。となれば当然徒歩で行くしか無いのだが、沼地はそれなりに遠いため時間が掛かるので、ジョージ一家はオズに騎乗していた。初日の悪夢の再来である。

 各種アビリティのレベルが上がっているため、初日のように目に見えてSTが減っていくと言うことはないが、騎手の体勢を考えると直立で歩くのも難しいと言うことで、結局は四つん這いになっている。幸か不幸か、【乗騎】のレベル14スキルは《四足歩行》というパッシブで、これは文字どおり四足歩行での行動に補正が掛かるので、思ったよりもスムーズに動けている。オズとしてはあまり嬉しくないが。

 この《四足歩行》だが、【乗騎】アビリティのスキルとしては珍しく、騎手が居ない状態でも発動する。元から四足歩行のスーホは無条件で発動するため、かなり有用とのことだった。何となく納得がいかない部分もあるが、スーホの体型で両手をついて移動しようとすると新手の雑技団にしかならないので、仕方の無い部分もあろう。

 来夢眠兎とキリカマーは昨日までと同じくスーホに騎乗し、ゲッコーが「俺も【乗騎】を覚えたい」と言ったため来夢夫妻は彼に騎乗している。唯一心配されたカブータスについても、重装歩兵のような見た目に反してそこそこ早く歩いているため、全体的な進軍速度は悪くない。


「レンタルホースと違って、戦闘を回避するのに神経使わなくて良いのはありがたいですねぇ」

「兎人族を始めとする魔法系は、移動の遅さがネックだからねぇ」


 来夢夫妻がシミジミという。βで強かったため攻略組には人気の高い兎人族だが、その足の遅さ故に野良パーティでは逆に不遇らしい。野良とは言え、効率化のためにパーティを組んでいる以上、移動速度の低下は無視しがたいのだそうだ。

 キチンとしたレンジャー職が居れば、周囲のモンスターを釣り出して効率的な稼ぎも出来なくは無いのだが、野良パーティで常にそう言った人材を確保できるとも限らないため、結局は火力を下げてでも移動速度を上げる方に傾く人間が多いとのこと。

 未だに乗騎となるモンスターをテイムしたと言うような情報も無いため、移動速度を上げるにはレンタルホースを使うか【乗騎】を取得したプレイヤーに頼るしかないのだが、【乗騎】を取得したいというプレイヤーは少ないため、当人達からすればそこそこ深刻な問題らしかった。


「レンタルホースは高いし、戦闘になると逃げるから目的地まで乗り続けるのも難しいからな。沼のボスは魔法職が相手するのは辛いってのもあって、結構お祈りされることが多いらしい」

「ワニさんは、的確に後衛狙ってきますからねぇ」


 ゲッコーが補足するように言えば、来夢翠も当時の苦労を思い出したのか溜息を吐いた。

 オズ自身は趣味に合わないので後衛職というのを選んだことがあまりないのだが、彼らは彼らで苦労があるらしい。まあ、当然と言えば当然だが。

 所で、先程の遣り取りで一点気になったので、確認しておかねばならない。


「沼のボスって、ケロツグじゃなかったか?」

「お、その名前が出るって事は、会ったのかい?」

「まあ、午前中にな。序盤のボスにしちゃAIが良いんで、かなり楽しめた」

「あれ、隠しボスだよ」

「なんと」


 来夢月から返ってきた答えに驚く。何せ、3回ボスに突撃して3回ともケロツグが相手だったので、隠しボスという発想は全くなかった。

 聞けば、本来の沼地のボスはワンプゲーターというワニらしい。一面沼地のフィールドに居るのはケロツグと変わらないが、こちらは沼に潜って下から後衛を食い殺すのが主な攻撃とのこと。そこそこAIが賢いので単純にヘイトを上げただけでは前衛に張り付かせることが出来ず、攻撃力も高いので前衛も連続して攻撃を食らうと危ないと言うことで、β時代から難敵として知られていたそうだ。

 一応、ワニなので実は口を開く力はあまり強くなく、《アイヴィーバインド》等で口を縛るという攻略法も発見されては居る。ただし、《アイヴィーバインド》はレベル14の魔法のため沼地で活動しているようなプレイヤーが覚えていることは少なく、代替となるアイテムはサービス稼働直後の物資不足で入手がほぼ不可能と、痛し痒しの状況であったらしい。

 結局、攻略組が採用したのは「レベルを上げて殺られる前に殺る」という単純な方法だそうだ。それはそれで、野良を組むような人間には厳しかろう。


「実を言うと、ケロツグは今日発見されたばかりの新顔でね。とは言え、今日ワニと戦ったという報告はないんで、恐らく天候が条件じゃないかって言われてるけど」

「そうなのか。まあ、それなら納得だ」

「ちなみに、レアドロップの煙管が鉄製だって言うんで、結構な数の攻略組が殺到してるらしいよ。ただ、ケロツグもケロツグで的確に後衛を狙ってくるんで、あまり上手く行ってないそうだけど」


 確かにあのAIにあの跳躍力だと、前衛が後衛を庇うのも限界があるだろう。オズだって、ゾフィーの安全を確保するのが難しいから午前中の狩り継続を諦めたのだ。

 スキルの構成上、このゲームでは魔法使いが火力とヒーラーを兼任することになるので、そこが落ちるとその辺が一気に不足することになる。かといって数を増やせば今度は前衛が庇うのが難しくなる訳で、なかなか丁度良い員数というのは難しいらしい。ゲームとしてはバランスが取れてるとも言えるが。


「ああ、そう言えば。隠しボスにいつでも会えるようになるアイテムが有るんじゃないかっていうんで、それも話題になっているね」

「ソイツは興味あるな。ケロツグ相手なら、もう2~3レベル程度なら上がっても楽しめそうだし」

「君達も戦った、バンディットライダーズが居るだろう? アレが『バンディットライダーズの手配書』って言うのを落とすのが報告されてる。シミター狙いで高額取引されてたね。

今の所、ケロツグがそういったアイテムを落としたって話は聞かないけど、多分落とすだろうってんで、そっちはそっちで目の色変えて探してる連中もいるよ」


 ケロツグが天候をトリガーにして現れる隠しボスだというなら、会いたければそれこそ雨乞いでもするしかなくなる。レベルが上がる前にケロツグと戦いたいオズとしては、興味深いアイテムではある。

 ただ、大抵の場合そう言ったアイテムはかなり値段が高騰する上、攻略組が金に物を言わせて市場に出る端からかっ攫っていくことが多いので、オズが手に入れるのは難しいだろうが。

 レアドロップらしい煙管は、恐らく【狩猟】の効果によって今の所10割手に入っている。なのにそのアイテムを見た覚えがないと言うことは、入手に条件があるのか、もしくはボス戦開始時にアイテムの所持/未所持が変わるのか。

 アイテムは欲しいが、その為に時間を使うならさっさと森の新しいフィールドを攻略した方がいい気もする。ウダウダと考えてる内に、沼へと到着したのだった。

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