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どこもかしこも大変そうだ(他人事)

「森で精霊樹に刺さってた杭を抜いて、その後に元凶と思われる蟻共をぶっ殺しました」


 有体に言ってしまえば、オズ達のやったことと言えばそれだけである。

 もちろん、道中で面倒くさいギミックを解くために樹精達に協力を頼んだとか、杭を抜くたびに蟻共の種類が増えて戦闘が面倒になったとか、クソ厄介なレイドボスと戦う羽目になったとか、イベントに参加した人間からすればそれなりの要素はあったのだが。

 それらはイベントに参加していない現地人(NPC)からしてみれば枝葉末節でしかなく、彼らにとって重要なのは『森とそこに住む樹精がどうなったのか』でしかないというのは理解していたので、オズも説明の際には盛大にすっ飛ばした。単に、説明が面倒だったというのもある。

 ゾフィーも空気を読んだようで、所々に補足とも苦労自慢とも取れるような説明を挟む程度で、全体的に大人しくしていたため話し終えるのにそう時間は掛からなかった。

 説明を聞いていたコリーとしても、オズ達の苦労譚そのものには特に興味がなかったようで、とりあえず森の異変が解決したと聞いた時点でホッとした表情をしていた。

 ただ、役場の人間としては異変の元凶となった蟻について無関心ではいられず、そちらについては詳しい説明を求められたが。余談だが、この世界にはチェスは存在しないらしく、チェスの駒についてまで逐一説明しなければならなかったのは少々面倒だったが、まあその程度である。


「どうも、此度の異変の解決のために異邦人の皆様には大変なご尽力を戴いたようで。

本当に、ありがとうございました」


 深々と頭を下げるコリーに対し、若干気まずい思いをしながらも「まあ、異邦人(プレイヤー)側にも思惑があっての事なので」とだけ返事をした。

 実際問題、オズはイベントの参加者ではあってもプレイヤー代表というわけではないので、改めて礼を言われても困るというのはある。同時に、コリーはコリーでこの件について役場内部で権限を持たされているわけでも無いので、出来ることと言えば彼女個人として礼を言うくらいで、厳密に言えばこうしてオズ達に事情聴取をするのすら本来なら越権行為にあたるのだが。

 現実では社会人として活動しているオズとしては、そこら辺の面倒な事情にはあくまで気付かなかったフリをしつつ、一個人として「コリーさんには教科書を借りた恩がありますので」という微妙なスタンスを貫くしかなかった。


「それよりさ、これで森って元通りになるの?」

「それについては、今の所なんとも…… なにせ、樹精の森がここまで侵攻されるというのは、私の知る限りでは初めてのことですので……」


 ゾフィーとしては大人の事情よりも森の様子が気になるようで、その事についてコリーに質問を投げかけたのだが、コリーの返答はなんとも曖昧な物だった。

 メタ的な見方をするなら、恐らく森の復旧には時間が掛かると思われる。沼と比べると劣るとは言え、森のゴブリンは経験値的にはそこそこ美味しい敵である。沼より森の方が近いことや、始めたばかりのソロプレイヤーが沼で狩りをするのが難しい事を鑑みれば、このタイミングでゴブリンを駆除するというのは運営的には望ましくない。

 流石に蟻の侵攻は止まっているだろうが、何だかんだ理由を付けてゴブリンの侵入や結界範囲の縮小に関してはこれまで通りと思われる。そんなことを言ってもこの場の誰も幸せにならないので、オズとしても「元通りになってると良いな」という玉虫色の返事を返すしかなかったが。



 MMORPGというのは、誤解を恐れず言えば時間と金を掛けた者が勝つようにできているゲームだ。

 時間をかければ多少効率が悪くともレベルアップして強くなるし、課金アイテムを揃えればプレイヤースキルに関係なくプレイの効率は上がる。そして、同じように時間と金を掛けてゲームをしている人間が集まれば、さらに時間効率は上がって他者に差をつけることができる。

 MMOのトッププレイヤーというのはそれこそ一日の大半どころかほぼ全てをゲームに捧げている人間だ。オズからしてみれば、一つのゲームに全てを捧げている人間がそうでない人間よりも上に行くというのは、ある意味でなにより公正だとは思う。オズ自身は興味のあるゲームは色々手を出したい派なので一つのゲームにずっと専念するスタイルは真似したいとは思わないし、それ以前に社会人なので真似できないが。

 そんな訳で、実のところオズは自分がミリオンクランズ・ノーマンズでトッププレイヤーになれるとは欠片も思っていなかったし、サービス開始後一週間も経てば、そろそろトッププレイヤーとは明確な差が開いているだろうと思っていたのだが。


「このゲーム、他のゲームよりもかなり脳波が出やすいみたいなんですよ」

「はぁ……」


 来夢翠の説明に、どう答えていいかわからず生返事をする。

 リアルで昼食を取るというゾフィーを一旦家に帰し、自身も昼食を取る前に一度だけケロツグ討伐に行こうかと思っていたところで、今度は来夢夫妻に呼び出された。まあ、出会って一週間ほどのご近所さんではあるが、そこそこ世話にはなっているので、そのまま呼び出しに応じたのは良かったのだが。何故かいきなり脳波の話をされて、少々戸惑っている。

 「脳波が出る」というのはVRゲームで広く使われる慣用句で、プレイヤーの疲労を感知してVRポッドに設定された安全装置が働き、ゲームから強制的にログアウトさせられることを指す。実際には、強制ログアウト前に何段階かの警告が出るため、たいていの人間はその時点で自分からログアウトするのだが。「ヤバイ波形の脳波を感知して安全装置が働くらしい」という誤解からできた言葉だが、使い勝手がいいのか今でもよく聞く。

 元々人間の身体とは大きく異なるアバターを、アダプターを介する事で無理矢理動かしているわけだから、他のゲームよりプレイヤーに負荷がかかるのは、ある意味で納得できる話ではある。が、それをオズに話す意味がよく分からない。


「ゴメンね、ウチのカミさん、フィーリング型だから。

何が言いたいかっていうと、このゲームっていわゆる『やり込み』が実質不可能で、トッププレイヤー達もまだ最初の街に足止めされてるってことなのさ」

「ああ、そういう事なら、分らんでもない。つーても、それを俺に言われても力になれることは無さそうだが」


 こちらの困惑を悟ったのか、夫の来夢月が説明を引き継いでくれる。こちらは大分わかりやすい。

 情報屋の妻で準攻略組の来夢翠が所属するパーティが山の攻略で行き詰っていたと聞いていたので、全体的に攻略があまり進んでいないというのは予想できなかった訳でもない。ただ、新しいシステムを採用したゲームだと、しばしばこういった現象は起きる。他のゲームの定石を当てはめようとして、逆に非効率になるというのはゲームの世界ではままあることだった。

 VR以前のMMORPGでは特に珍しい要素でもなかった「種族差」という概念は、VRになってからは大分廃れている。アバターの身体的特徴を大きく現実と乖離させられない都合上、差を付けるとしても精々ステータス程度なので、「それなら自由にエディットできた方が良いだろ」という意見が大半で、メーカーとしてもその意見を良い意味で裏切るような要素は開発出来なかったためだ。

 それが、今回のアダプター開発で大きく変わったため、言ってしまえばこのゲームは既知のVRMMOとは根本が大きく異なっている。それに加え、開発スタッフも熱が入ったのかかなり実験的な要素を多く取り入れており、既存の攻略法が通用しにくいだろうなあと言うのはそこまでVRMMOに精通していないオズでも想像できる。


「ちなみに、僕の知る限り、現在のトッププレイヤー達の種族レベルは19が最高だね」

「おおう」


 確か、昨日のボス戦後のゾフィーのレベルが17だったはずだ。こだわる人間であれば2レベル違えば雲泥の差と捉えるかもしれないが、大抵のプレイヤーからしてみれば『たった2レベル』だろう。オズ達のパーティも、バリバリ最前線とまではいかないが、二線級の所で踏みとどまっているらしい。

 ちなみに、オズ自身の種族レベルは15なので、このまま行けば転落は近いだろうが。


「半分愚痴みたいで申し訳ないけど、このゲームってただでさえ正式稼働に伴って大幅に各種族の仕様が変更されたうえ、保護対象モンスターみたいな新要素の追加に、それらを検証しようにもログイン時間に実質制限がついてると、情報屋泣かせになっているのさ」

「まあ、それについてはご愁傷様としか言えないが。で、それを俺に話して、どうしろと?」

「回りくどい説明抜きに言うと、『これからもウチに情報売ってね』っていうお願いだね」

「そりゃ、別に構わんが」


 他に懇意の情報屋がいるわけでもないので、来夢一家に情報を渡すこと自体は別に問題ない。もしかしたら情報屋界隈での力関係なんかがあるのかもしれないが、オズが気にすることでもない。

 実際に情報が必要なのはオズよりもVR初心者であるジョージ一家なので、オズに支払われる対価に関してはそちらに情報を回す事で話も付いている。ご近所付き合いが滞らない程度に、情報を回しておけば良いだろう。


「ただまあ、今回みたいなラッキーを期待されても困るぞ。あんなの、狙って出来るもんじゃない」

「それは、重々承知しているけどね。ただ、君にとっては不本意かもしれないけど、【乗騎】一つとっても、君からもたらされる情報は結構価値が高いのさ」


 最近よく耳にする単語に、思わず口をへの字に曲げる。いつの間にかついていた二つ名といい、どうにもこのゲームでオズと【乗騎】アビリティはセットで語られる存在らしい。贅沢な悩みだとは思うが、どうせならもう少し格好いいアビリティとセットで語られたかった。


「昨日のボス戦で、『ネタ種族でも活躍できる』というのを身をもって実証しましたからね。正直に言えば、娘から話を聞いていた私でも、昨日のボス戦は色々と衝撃的でした。

特に、【乗騎】の機動力と《騎手回復》による手数の増加は、後方火力職から見ればかなり魅力的ですよ」

「あれも、良い事ばっかじゃないけどな」


 実のところ、騎手の安全をどう確保するかという点についてはあまり良い解決策が思い浮かばない。今までは、アビリティ無しの「なんちゃってタンク」的な立ち回りで誤魔化していたのだが、これから敵の攻撃が激しくなれば通用しなくなるであろう事は想像に難くない。

 バフや防御系のスキルで騎手を守るというのも手としては有りだが、タダでさえ器用貧乏な竜裔や一点特化型の人馬が騎手の防御にまでリソースを回せるかと言えば、かなり難しいだろう。かと言ってそれを騎手に任せてしまえば、《騎手回復》によるメリットが消えることになる。


「運営がどういう使い方を想定してたか知らないが、今の所正解なのは、ハルみたいに一時的な休憩所として利用する方法かな。もしくは、道中の運搬用と割り切るか。

でないと、下手すりゃ後衛が真っ先に落ちる事態になりかねんし」

「あら、昨日の戦闘を拝見した限りでは、かなり上手く回っているように見えましたけど?」

「アレはボス以外の飛び道具持ちが居なかったのと、スーホとクマゴロー、キリカマーの三人が上手く立ち回ったからだな。

敵に弓兵が居れば流石にスーホも全部は避けきれんだろうし、クマゴローとキリカマーが上手くフォローに回ってなければ何処かで立ち止まってピンチになった可能性は高い」


 スーホとクマゴローは、日本のプロゲーマーでもかなり上位に入る人間である。MMORPGは専門ではないが、多人数戦闘のアクションゲーム等で結構活躍しているので、複数人数での戦闘ノウハウ等も知っているというのが大きい。キリカマーも二人ほどではないが動けているので、恐らくはオズの知らないプロかワナビだろうと思われる。

 いずれにせよ、かなり息の合ったコンビネーションを見せていたので、昨日の戦闘ではそれが上手く働いた形である。オズの背中が削れたのも、無駄ではなかったと言うことだ。

 ただし、当然ながらそれと同じ動きを一般ゲーマーに求めるのは酷であるので、【乗騎】の運用方法を確立するのであれば、もう少し戦術を練る必要はあるだろう。


「それに、ウチは乗騎1人に騎手2人っつー変則的な運用してるが、それでも乗騎2名体制だからな。PT枠を考えると、やっぱプレイヤーが乗騎をやるのはそれなりにデメリットも大きいだろ」

「確かに、PT枠の問題はあるねぇ。昨今の流行だとメインサブの2盾体制が主流だけど、そこに乗騎を2人も放り込んだらそれだけで枠がパンクしかねないし」

「そもそも、タンク立てるなら後衛職が前に出るの自体アウトだしな。かと言って、《騎手回復》の為だけに大型種族を後ろに置いとくのも無駄だし、何にせよ『常に人馬一体』っていう運用は既存の戦術と合わせるのは無理がある」


 その後も、あーでもないこーでもないと乗騎の運用について意見を出してみた物の、結局有効な運用方法は思いつかないまま、昼飯の時間となって解散したのだった。

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