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PK問題

 ホームとなっている借家の一室に、雑魚蛙の死体を下ろす。

 一度登録すれば街のポータルからボスエリアへは直行可能なので、わざわざ雑魚蛙と戦う必要は無いのだが、ケロツグ攻略に当たって蛙の動きがどんな物かを観察するために、それなりの数戦闘をこなしている。

 ただ、観察して分かったのだが、やはりと言うか雑魚蛙には格闘戦用のAIは搭載されておらず、その動きはケロツグに比べると大分拙い。例えは悪いが剣豪の予行演習に棒きれ持った猿と戦う様なもので、大した役には立たなかった。

 肉は美味いし、皮と舌はそれぞれ素材として使えるので、あとで従姉一家に流せば良いだろうと死体を持ち帰ったのだが、思ったよりも数が多くて借家の一室はさながら紛争地帯の死体置き場の様になっている。他人が見たら、アニメに出てくる死霊術士の研究施設と勘違いしてもおかしくあるまい。

 ゲームとは言え、コレと同じ屋根の下で寝泊まりするというのは精神衛生上よろしくないので、ケロツグとの再戦は一旦お預けとして素材の解体に入る。

 レベル差もあって雑魚蛙は鎧袖一触で叩き潰せるため、素材の状態は悪くない物が多い。武器防具の素材となる皮と舌を剥ぎ取り、肉は使いやすいように大まかな部位にバラす。時間をかければ細かい部位に分ける事も出来なくは無いが、流石に数が数だし、料理人なら自分よりも分けるのが上手いだろうという事で止めた。

 ケロツグの死体をどうするかは少し迷ったが、結局は他の蛙と同じようにバラす事にした。肉の味は悪くなかったので売れば幾らかの金になるだろうし、いつまでも家に死体を置いておく訳にもいかない。皮はボロボロで使い物にならなかったが、舌はそこそこ状態が良かったので、これも後でジョージに渡せば良いだろう。

 粗方作業を終えた所で、フレンドからのメールが届く。見れば、マルガレーテから相談したい事があるとの旨が書いてある。オズ自身は生産関連に疎いので、どちらかと言えば来夢月あたりを頼った方が良いような気もするが。まあ、今剥ぎ取った素材を卸したいので、これから向かう旨を返信し、家を出た。



「ちーっす」

「あら、早いわね?」

「丁度、家に居たからな」


 なにせ、ゲーム内では家が隣同士なので、行き来するのに一分も掛からない。相手が受け取ったメールを開いている内に、家に入った。

 流石にこの雨で外に出る気にはなれなかったのか、家の中には従姉一家4人が揃っている。ゾフィーなどは、あからさまにブスっとした顔をしていたが。

 相談事というのがどういった類のものか、メールには書いていなかったため分からない。ただ、物のついででは無くわざわざメールで呼び出すと言う事は、それなりに厄介な案件だろうと言う事で、ひとまずはオズの用事の方を先に片付ける事にする。


「さて、早速で悪いんだけど、とりあえず蛙と亀の素材を引き取って貰いたいんだけど」

「蛙と亀か…… 悪いけど、色は付けられないわよ」

「別に構わんよ。余ったらNPCに売るか、最悪捨てるだけだし」


 マルガレーテから提示された買取額は、NPCの買い取り価格と殆ど変わらない。オズは素材の市場価格など把握していないが、従姉の商売に対する誠実さには一定の信頼を置いているので、彼女が提示したならボッタクリではあるまいという事で、そのまま了承した。

 実際問題、装備に金が掛からないオズは最低限の生活費さえ稼げればゲーム中でやっていけるので、金額に一喜一憂する必要もないと言うのが大きいが。


「あと、ジョージさんにお土産」

「これは…… 鉄製のパイプ、か? それにしても、やけに大きいが」

「『沼名主の喧嘩煙管』っつー、ボスドロップ品です。金属製なのは間違いないんで、鋳溶かすなりして下さい」


 ケロツグの持っていた煙管も、最初の一本だけは記念に持っておく事にして、それ以外は譲渡する事にした。装備出来ないオズが持っていても邪魔なだけだし、それ以前に煙草の臭いが残っているので、大量に家に置いておきたくないのだ。

 身長3m越えのケロツグが持っていても棍棒のようだった煙管は、身長2m弱のジョージが持つと立派な鈍器にしか見えない。そのままぶん回すのは大変だろうが、素材にするならむしろ丁度良かろう。


「鉄だとしたら、その大きさなら結構な量が取れそうだけど…… 相場が分からないから、そこまで高値も付けられないわよ?」

「まあ、構わんよ。どっちかって言うと、ドロップアイテムよりはボス戦が目的で戦ってるから、これからも増えるし」

「アンタねぇ…… そんなんだと、その内身を滅ぼすわよ」

「いや、ゲームと現実の区別くらい付けるよ。正直、ゲーム内の金なんぞゲームしてれば勝手に貯まる所があるから、そんなもんの為に脳味噌使いたくないってだけだし」


 ゲームやプレイスタイルによって異なるが、基本的にゲームの金というのは消費アイテムや装備と交換するだけのリソースである。衣食住の要素も無いではないが、それらを最低限賄うために必要な金額は意図的にかなり低めに設定されているため、最序盤以外は余り問題にならないのだ。

 現時点で装備の必要無いオズにとって、金銭というのは消費アイテムと交換するための物でしかない。その消費アイテムも品薄が続いている訳で、正直な話金を持っていてもあまり意味が無いのだ。現時点でわざわざ相場を調べてアイテムを高く売るというのは、労力に見合わないからやらないだけである。

 ゲーム内では結構インフレが発生しやすいのもあって、将来に向けて貯蓄するプレイヤーというのはあまり居ない。余程のクソゲーでない限り、金が必要になったらその都度金策をした方が、結果として時間効率が良くなるように設計されているというのもある。

 今回ここに来た主目的はトレードでは無いので、そこに時間を使うのも勿体ないと言う事で、早々に話題の転換を試みる。


「で、相談したい事があるって話だったけど?」

「ああ、そうなのよ。正直、どこから話せば良いのか分からないんだけど……」


 水を向けてやれば、マルガレーテの方も本来の目的を思い出したようで、アッサリと思考を切り替えた。

 ゲーム知識が不足している事もあって、相談内容を何処まで話すべきか迷う彼女に代わり、夫のジョージが説明を始める。


「端的に言えば、我々が今後どういったアビリティを取得すべきか、アドバイスが欲しい」

「はぁ……」


 アドバイスと言われても、オズ自身は生産関連のアビリティに関してはサッパリなので、なんとも答えようがない。

 そもそも、自分のアビリティ構成すら情報を集めず手探りでやってるくらいだから、自分に関係の無い生産関係のアビリティに関する知識もお察しレベルである。無論、調べようと思えば一通りの事は調べられるだろうが、わざわざその為にオズを呼びつけたとも思えない。

 どう返すか数秒迷ったが、見栄を張っても仕方がないという事で素直に言ってしまう事にする。


「正直、生産関係のアビリティに関してはサッパリなんで、掲示板を覗くなり来夢月あたりから情報を仕入れるなりした方が早いかと」

「いや、今回我々が取得しようとしているのは、戦闘関連のアビリティだ」

「はぁ? 失礼ながら、ジョージさん達は生産職志望でしょう? 言っちゃあ何ですが、低レベルの内から戦闘関連のアビリティを揃える必要も無いと思いますが」

「それが、そうも行かないらしくてな……」


 ジョージ夫妻の話によれば、数日前から生産職を狙ったPK(プレイヤーキル)が頻出しているらしい。

 PKが生産職を狙うというのは、大して珍しくも無い話である。サービス開始直後の品薄が続く中で、大して金を持っていない人間が良いアイテムを手に入れる方法は大きく分けて二つ。自分で作るか、持っている人間から奪うかだ。そして、後者を選ぶ人間というのは一定数存在する。無論、全体から見れば少数派ではあるのだが。

 AP(アビリティポイント)が限られたリソースである以上、欲しいアイテム全てを自力で生産するというのは純生産職志望の人間でもそこそこハードルが高い。戦闘職であれば尚更だし、そもそも戦闘職には一定の割合で「戦闘に関係ないアビリティは取得したくない」という人間が居る。それ自体は個人の意見だから自由にすれば良いが、その為にPKを繰り返すとなれば話は別だ。

 PKは迷惑行為ではあるが、違法ではない。一応、未成年者のPK行為は加害/被害の双方で行えないようになっているが、逆に言えば成年者のPKはシステム的に認められていると言う事で、言ってしまえばゲームプレイの一形態ではあるのだ。

 ただ、だからと言ってPKされて楽しいかと言えばそんな事は無い訳で、有志が集まって対策を講じようとしているのだが上手く行っていないらしい。


「そもそも、生産職同士の横の連携があまり強固ではないというのもあるし、そもそも戦闘力の低い生産職が集まっても有効な手段が講じられないと言うのもある」

「こう言っちゃなんですが、それで戦闘スキルを取るってのも本末転倒な気がしますが」


 VRMMOを遊ぶ人間の大半はVRゲーム初級者であり、つまるところ戦闘はモーションサポートに頼り切りである。オズからしてみれば勿体ない話だが、まあそれは置いておくとして。

 モーションサポートに頼って戦闘をするのであれば、プレイヤースキルによって戦闘力が大きく変わると言う事は殆どなく、アバターの強さは即ち種族レベルと戦闘アビリティに依存する。元々戦闘アビリティを持っていなかった生産職が付け焼き刃でアビリティを揃えた所で、効果としてはたかが知れている。

 ついでに言えば、当たり前の話だが戦闘アビリティを取得すると言う事はその分だけ生産アビリティの取得は後回しになる訳で、あまり良い選択とは言えない。


「ぶっちゃけ、PK被害に遭いたくないなら街中だけで活動するのをお勧めしますが。街中ではPvPすら禁止なんで、衛兵さんに勝てるような規格外のPKが存在しない限りは安全ですし。

後は、あんま言いたかないですが、騒ぎが収まるまでログインしないってのも手としてはアリです」

「とは言え、子供達とのレベル差も大分開いてしまっているからな。我々が生産職を目指したのは子供達の装備を調えたいという動機があったからで、それさえ果たせなくなるというのは避けたい」

「それなら尚更、今の時期に戦闘アビリティを取るというのはやめて置いた方が良いですな。それこそ、レベリングするなら知り合いに護衛頼めば良い訳ですし」


 当然と言えば当然だが、PKをやっているプレイヤーもそれなりのリスクマネジメントはしている。と言うか、そもそも生産職を狙うのも「戦闘力が低くて、良いアイテムを持っている確率が高い」というのが、PK側からしてみれば格好の獲物だからだ。ならば、人数を増やすなり護衛を付けるなりしてPK側のリスクを上げてやれば、襲われる確率は減らせる。

 PK自体が居なくなる訳では無いので、他の生産職プレイヤーが襲われる可能性は依然としてあるのだが、オズとしてはそこまで面倒は見切れない。余程偏ったプレイをしていない限り、生産職プレイヤーにも戦闘職の知り合いなりが居るだろうから、それぞれが護衛を頼むなりして対策をすれば良いのだ。

 PKをするプレイヤーにしても、半数以上は単にアイテムの効率の良い入手方法がPKだからやっているだけで、それが手段として有効でないと分かれば、また別の方法を検討するだろう。


「まあ、俺で良ければ四六時中とは行きませんがお付き合いしますし、それが駄目なら来夢月の伝手で信頼できる人間を紹介して貰う手もあります。

戦闘職に転向したいとか、戦闘と生産を両立させたいというなら別ですが、そうでないなら戦闘アビリティの取得は止めといた方が無難ですな」

「正直、ワルト君に頼り切りと言うのも、それはそれで気が重いのだが……」

「このゲーム紹介したのは俺ですし、その辺はあまり気にしないで下さいよ。実を言えば、何だかんだで半年程度は何かと面倒を見る事になるだろうとは思ってましたし」


 最近のVRゲームは感触がリアルな物が多いため、初心者は現実とゲームの線引きに失敗しやすい。

 PKも、言ってしまえばゲーム内のアバターがやられて多少金とアイテムが減るだけの話なのだが、VRとなるとそれだけではない「恐怖」が付きまとう。良くも悪くも現代人は平和慣れしており殺し合いを体験した事がないため、ゲーム内とはいえそれが自分の身に降りかかるとどうしても必要以上に怖がってしまうのだ。

 こればっかりは口で言ってどうにかなる問題でもないので、ひとまずオズとしては無駄なアビリティ取得を止めさせる事に尽力するのだった。

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