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精霊に関するエトセトラ

 ボス戦が終わり、誰が言い出した訳でも無いのだがその場でプレイヤー同士の交流会のようなものが始まっていた。

 攻略組は最前線でお互い顔を合わせてはいるものの、普段はライバル同士であるので積極的に関わったりしない。ただ、折角ボス戦で意図せずとは言え協力体制になったのだから、この期に顔合わせと軽い腹の探り合い程度はしておこうというのが、前線組の共通の認識らしかった。

 各所で物々しい雰囲気での自己紹介が行われ、いくつかのチームでは早速ボーナスアイテムの確認と競売が始まっていたりする。ボスエリアに留まっているプレイヤーは、総勢で50名程。途中で死に戻りしたプレイヤーも多いから、ボス戦に参加したプレイヤーとなれば倍程度はいるだろう。大規模討伐イベントとしては小規模だが、それでも開始一週間でこれだけの数が一カ所に集まるというのは、そうそう無い事だ。

 オズ達は別に攻略組では無いのだが、スーホがレイドのリーダーであった虎人に捕まって何やら勧誘を受けている様なので、見捨てるのも不義理な気がしてその場に留まっている。正直、さっさと帰ってジョージ夫妻への報告とボーナスアイテムの確認をしたいのだが。


「あら、オズ悪人さん。今回はどうも、ありがとうございました」

「いえ、こちらこそ。正直、ボスがここまで強いと思ってなかったんで、レイド組めて助かりました」

「そう言って頂けると、ありがたいですわ」


 とりあえず人目を避ける為に隅の方へ移動していると、来夢翠に声を掛けられた。来夢眠兎の母という事だが、双方ウサギ顔なので、言われなければどっちが年上なのか分からないだろう。

 どうも、好奇心旺盛なのは一家共通の様で、早速質問攻めにされる。簡単な情報は夫である来夢月から得ていたようだが、本来オフレコ情報という事で、あまり詳しくは聞いていなかったらしい。イベントの事、蟻の事、森の仕掛けの突破方法など、かなり多岐にわたって聞かれた。

 樹精の結界以外は隠すような事もないので、聞かれるままに答えていく。ついでに、来夢翠がどうしてここに来たのかも教えて貰った。


「今日の午前零時に、公式からイベント告知があったんですよ。丁度、ウチのメンバーがそれを発見して、山の攻略も行き詰まっているから、そっちに行ってみようかって事になりまして」

「と言う事は、来夢翠はパーティメンバーにもイベントの事を話してなかったのか」

「そりゃそうですよ。情報屋の妻が、勝手に他人に情報を流したりすれば、信頼関係に関わりますから」


 その場にいたメンバーの了承は取り付けたとは言え、勝手にスーホ達に情報を開示したオズとしては耳が痛い言葉だ。

 来夢月の奥さんが攻略組だと知っていれば、事前に協力を打診するなり何なりの手が取れたのだが、勝手に検証班だと思い込んでいたので全く考えつかなかった。来夢一家には悪い事をしたと思う。

 聞けば、来夢月は知り合って早々に【乗騎】アビリティの件でやらかしたので、情報の取り扱いについてかなり慎重になっていたらしい。検証班というのは、多くのプレイヤーの協力が無いとまともに機能しないので、協力的な情報提供者に対しては配慮しすぎるくらいで丁度良いと言うのが、来夢一家のスタンスだそうだ。


「まあ、アレだな。今度、旦那さんには何かお詫びの品でも持ってくわ」

「あら、それでしたら【乗騎】アビリティのスキルなんか喜びますよ。何せ、ウチのサイトで【乗騎】と【騎乗】のページだけアクセス数が段違いですから」

「喜んで良いやら、悲しんで良いやら……」


 実のところ、同じ【乗騎】持ちのスーホには覚えるスキルに関して話しているし、パーティメンバーである来夢眠兎もその会話を聞いてはいるはずなので、今更教えなくても知ってはいると思うが。そもそも、パーティメンバーに対して秘匿するほどの情報でもない。

 まあ、丁度レベルが14に上がって覚えた新スキルもあるし、それで足りないようであれば【精霊語】についての情報も付けよう。と言うか、オズの持っている情報で、来夢月の興味を惹けそうなのがそれ位しか思い浮かばない。


「それにしても、公式の告知だと15名程度でのレイド推奨イベントの筈だったんですが。よく、半分の人数で攻略できましたね」

「まあ、半分以上が樹精さん達のお陰だわな。結界のギミックは順路を案内して貰えば実質無効化できるし、道中でもMPさえ払えば《リジェネレート》かけて貰えるんで、HPとスタミナについても大幅に余裕が出来るし。

【精霊語】の取得は苦行でしかないが、無けりゃ攻略は不可能だったろうな」

「【精霊語】ですか…… 検証班でも確認はされているものの、APが重くて本稼働後に取得したという話は聞きませんねぇ。

β時代には、そもそも精霊が居なかったので死にアビリティの扱いでしたし」


 【精霊語】の取得方法は、図書館で閲覧できる教科書を読破した上で、10APを支払うという正に苦行である。オズは、図書館の営業時間中にログインできなかったので、コリーの伝手で借り受けたのだが。

 キャラクリエイトの際の取得候補にも挙がってはいるらしいが、キャラクリエイト時に支給されるAPは種族を問わず10しかないので、余程の拘りがない限り取得する人間はまず居ないだろう。参考までに、一般的な基幹アビリティのコストは3~4、補助アビリティなら1~2だから、【精霊語】の異常っぷりがよく分かる。

 余談だが、スータットの街に暮らしているNPCは、殆どが【精霊語】を話せるそうだ。読み書きソロバンと同じレベルで、子供の頃から教えられるのだとか。英国人の伯父を持ちながら英語劣等生のオズとしては、恐ろしいとしか言いようが無い。実際、【精霊語】もゲームでなければ絶対に覚えられなかった自信がある。

 補助アビリティでありながら10APというコストは疑問ではあったが、恐らくこの後にも8種類の精霊がいると思われるので、それを考えるとそこまで暴利という訳でもないだろう。9種類の精霊と話すのに10APというのは、切りの良い数字にしたかっただけなのかそれとも『10種類目』の存在をを示唆しているのか、微妙な数字ではあると思うが。


「そう言えば、呪文詠唱ってもう試しました?」

「いや。そもそも、詠唱する呪文が分からん。魔法系のスキル覚えたら判明するって訳でもなさそうだし。

呪文詠唱にどんなメリットがあるか分からんのに、わざわざ調べるってのも面倒だしなぁ」

「それこそ、樹精に聞いてみれば良いのでは」

「……その手があったか」


 【精霊語】で呪文詠唱が可能になるという事は、呪文自体は精霊の言葉である可能性が高い。それなら精霊に聞けば良いというのは、ある意味当然の事だ。何故今まで気付けなかったのか。

 早速、近くにいた樹精さんに話を聞いてみる。その結果、判明したのは次のような事だ。

 まず、呪文詠唱というと大層に聞こえるが、基本的にはその辺にいる精霊にお願い事をして、対価(MP)を支払って魔法を使って貰うのだそうだ。攻略中にオズがやっていたのも、呪文詠唱の扱いになる。勝手に翻訳されているので、そういった意識は全くなかったが。

 普通の魔法スキルと何が違うのかと言えば、魔法を使用するのが自分か精霊かの違いになる。

 これにはメリットとデメリット双方があり、まずメリットとしては使用者の覚えていないスキルも精霊にお願いすれば使用できる上、使用者のリキャスト制限にも引っかからない。ただし、使用者が覚えていないスキルを行使して貰うには多めにMPを払う必要があるし、お願いする相手はNPCとはいえ感情があるので、あまり一方的に要求だけを繰り返せば当然聞き入れられない。

 デメリットとしては、まず「その辺にいる精霊」に呼びかけるので、「居ない精霊」に呼びかけても当然応えて貰えない。例えば、砂漠に水や冷気の精霊は居ないし、夜には光の精霊は殆ど居なくなる。火山などで火の精霊に呼びかけても、そこに居るモンスターは大抵が火属性に強いので、あまり有効でなかったりする。

 また、先にも述べたが精霊自体にも感情があるので、一方的に要求だけを繰り返すようだと、そっぽを向かれる。プレイヤーに例えて言えば、通りすがりの人間にしつこく辻ヒールを要求するような行為なので、当たり前と言えば当たり前だ。それに、例えば樹精なら無闇に植物を傷付けるような人間を嫌うので、そういった点にも注意する必要があるらしい。


「余所で精霊さんを見掛けた覚えが無いんですが、精霊が居るかどうかってのはどこで判断すれば良いんですかね?」

「スガタヲ、ミセナイ、ダケ。ドコニデモイル」


 どうも、精霊というのは日本で言う八百万の神に近いらしく、例えば荒野であってもぺんぺん草一本生えていれば、そこに樹精は居るらしい。ただ、例えば大森林にいる樹精と荒野のぺんぺん草の樹精では、当然ながら勢力が違う訳で、後者の場合はお願いできる事もかなり限られるそうだが。

 ちなみに、魔法で出した物には精霊は宿らないらしく、例えば真っ暗闇で《ライトボール》を使っても、その光を利用して光精を呼び出す事は出来ないそうな。「魔法で生み出された物はどっから来てんだよ」という疑問が無いではないが、そこら辺を考え出すと訳が分からなくなるので、オズはアッサリと思考を放棄した。

 色々と教えて貰っておいて何だが、「使い所が難しいな」と言うのが正直な感想だ。何かしようとする度に精霊の機嫌を伺わなければならないのであれば、戦闘ではまず使えないだろう。有用な場面も多いだろうが、魔法がファンブルする可能性があると言う事は、それだけで戦術が成り立たなくなる可能性があると言う事だ。

 今回、樹精達は「精霊樹を救う」という目的があったのでオズ達に協力していたが、よその土地にいる精霊まで協力的であるとは限らない訳で。あまり、戦闘に不確定な要素を持ち込みたくは無い。オズの中では、固定値と常時発動のパッシブスキルこそが正義だ。


「コンカイ、セワニナッタカラ、『カゴ』アゲル。ドウゾクタチ、チョットダケ、コウインショウ」

「カゴ…… ああ、『加護』か。ありがとうございます」

「タダシ、キ、アマリキズツケルナ。ヒドイヨウダト、『カゴ』トリケシ」

「何処まで出来るか分かりませんが、肝に銘じておきます」


 確認してみれば、いつの間にかアビリティの下に『加護』の項目が増えており、そこに【樹精の加護】が追加されていた。ありがたい事なので、素直に礼を言う。

 正直、「木を傷付ける」と言うのがどの程度でアウトになるか分からないので、今後について確約も出来ない。木こりが間伐を許される位だから、あまり厳しい事は無いだろうとは思いたい。

 恐らく、森の営みとしてある程度の所までは許容するが、生態系を崩しかねない様だと流石にアウトとか、そういった事だとは思うのだが。ぶっちゃけ、林業だの何だのに携わった事の無いオズとしては、そこら辺の匙加減は全く分からない。


「一つ確認しておきたいんですが、植物系のモンスターとか、扱いとしてはどうなるんです?」

「もんすたー、セイレイ、ヤドラナイ。ノーカン」

「あ、そうですか」


 流石に、トレントを狩ったらアウトとか、そう言った縛りは無いらしい。と言うか、精霊が増える度に狩猟禁止のモンスターが足されていくと、最終的に何も狩れなくなりかねない。

 ひとまず、聞きたい事は聞けたので、礼を言って樹精さんとは別れた。オズとしては、採取系のアビリティを取る気が無いので、あまり細かい判断基準についてチェックしようとも思わない。「そう言えば農家とかどうなるんだろう?」とふと疑問が湧いたが、スータットにもNPCの農家は居るので、多分その辺も落としどころがあるのだろうと思う事にした。

 傍でずっと耳を傾けていたが、精霊語が一切分からない来夢翠に、樹精さんから聞いた事をそのまま伝えてやる。


「へぇ、なかなか面白いお話ですね。旦那が喜びそう」

「正直、面倒だってのが本音だが」

「あら、仮想現実ですもの。NPCが独自の価値観を持っていて、しかもそれが画一的でないと言うのは、世界観が良く出来ている証拠ですよ」


 確かに、彼女の言うとおりではある。そもそもRPGというのは、大なり小なり世界観を楽しむゲームであって、それを煩わしいと思うのなら格ゲーやアクションゲーをやっていれば良いのだ。

 そう考えれば、運営がまずこの森にプレイヤーを向かわせようとしたのは、そういった世界観をプレイヤー自身に体感させるためでもあるのだろう。言ってしまえば、序盤のイベントをそのままチュートリアルの一環として仕込んだ訳だ。盛大にしくじったが。

 そんな事をしばらく話していると、レイドのメンバー達がそろそろ街に戻ろうと声を掛けてきた。

 どうやらスーホは勧誘を断り切ったらしく、虎人が非常に残念そうな表情をしている。スーホとしても、息抜きで始めたゲームでまで効率だ何だと言いたくはないのだろう。

 街に戻るには、ボスエリアを抜けてポータルを使用するだけなので、そう大した道行きでもない。

 見送ってくれる樹精達に手を振りつつ、森を後にした。

今更ながら1話でやらかしていたのに気付いたので、ここでも訂正をば。

英国人男性と結婚したのは、オズの「伯母」になります。父親の姉ですね。1話で「叔母」と書いていたのですが、こちらの字だと父親の妹になってしまうので。

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