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森イベント攻略戦(後編)

 結論から言えば、予想通りイービルアント・ビショップは回復役で、イービルアント・ルークはタンクだった。

 ただ、ビショップの方は呪いの状態異常をこちらに付与してくるし、ルークはルークで四本腕に盾二枚と槍二本を装備しており攻撃も出来るのが、予想外と言えば予想外だったが。


「ハル、スマンがビショップの妨害頼む! ゾフィーは、引き続きポーン優先で狙っといてくれ!」

「分かった!」

「オッケー!」


 騎乗している二人に、何度目になるか分からない指示を飛ばす。ラインハルトが尻尾に足を掛けたのを感知し、そのまま打ち出す様に飛ばしてやる。相手も慣れたもので、上手く初速を付けて飛んでいった。

 蟻たちとの戦闘を重ねる内に判明したのだが、蟻の中で仲間を呼ぶのはポーンだけで、他の奴等は基本的に戦闘オンリーだ。また、どうにも最初に接敵する際の数は決まっているようで、他の役割が増えただけポーンの数は減っており、上手く対処すればあまり仲間を呼ばれずに対処できる事も分かってきた。

 それでも、敵の数が多いのには変わりがない。特に、他の蟻と連携した際のナイトは一際厄介で、ルークやポーンに足止めされてナイトに奇襲されると、どうしても対応が遅れがちになる。


「樹精さん、すみませんが、全員の回復お願いします!」

「マカセロ」


 もはや手段を選んでも居られなくなりつつあるため、樹精達にも助太刀をお願いしている。

 あちらも無制限での協力とは行かないようで、その分のMPはしっかり持って行かれるのだが、それでもまだ覚えていない《リジェネレート》をかけて貰える事や、オズ自身のリキャストタイム等を考慮しなくて済むため、大分助かっていた。

 前を塞ぐように立ちはだかったルークの盾に手をかけ、そのままハンドルを回すように捻ってやる。流石に竜裔の膂力にてこの原理まで利かされれば抵抗できないようで、ルークの腕はアッサリと盾ごともげた。空いた脇腹に貫手を突き刺し、さらに体内を《レイ》でえぐってやれば、タンクと言えども耐えられないようでそのまま動かなくなる。

 樹精達へのお願いと攻撃魔法で常にMPがカツカツの状態だが、ここでケチればあっという間に劣勢になりかねないので、湯水の如く注ぎ込む。基本、喋ってるときとスキルを使うとき以外は、【調息】が常時発動するよう呼吸を整えていた。

 そうして、ほぼ総力をつぎ込む形で、蟻たちを殲滅していく。他の面々も似たような状況で敵を減らしていき、何とか今回も勝利した。



「やれやれ、分かってはいたつもりだが、敵の数が酷いな」

「まあ、その分だけ経験値も美味いがな」


 四本目の精霊樹の杭を抜き、その場にへたり込む。蟻は蟻で必死なようで、戦闘は一戦一戦が総力戦の様相を呈している。周囲の蟻たちが軒並み集まってくるため、連戦になりにくいのが救いと言えば救いだが。

 スーホの言うとおり経験値が美味いのは確かで、大型種族のオズ達ですら、種族レベルは14に上がっている。ちなみに、小型種族のゾフィーと来夢眠兎は、レベル17になる手前で経験値が入らなくなったらしい。

 流石に連戦で疲れたのか、ゾフィーが珍しく弱々しい声で呟く。


「ところで、精霊樹ってあと何本あるんだろ……」

「恐らく、次で最後だ。その後最初の精霊樹に戻ったら、そこがゴールだろ」

「なんで分かんの?」


 元気づけるように言ってやれば、キョトンとした顔をされた。仕掛け自体は、種が割れてしまえばなんと言う事は無いのだが。


「多分だが、精霊樹を順番に巡ると、五芒星を描くようになってる。だから、五本の精霊樹を順番に巡って、最後に起点に戻ればゴールだってのは予想が付く」

「おお、オッさんスゲー」


 勿体ぶるものでも無いので種明かしをしてやれば、素直に感心された。実のところ、ゲームでは珍しくもない仕掛けなので、パターンさえ分かっていれば気付くのは簡単だ。

 精霊樹から次の精霊樹までは基本的に直進のみの一本道で来ているし、教会で渡された水筒が五つだったことから精霊樹の数も予想が付くから、あとは道順からそれっぽい図形を予想すれば良い。五芒星は魔除けの印としても有名だから、精霊の結界に用いられても納得は行く。


「アマリ、イイフラスナ」

「分かってますよ。基本、パーティメンバーだけです」


 樹精達に釘を刺された。まあ、森の結界というセキュリティに関わる事を、不特定多数に知られたくは無いのだろう。オズとしても、森を荒らす意図はないので、大人しく従っておく。

 話題転換として、ゾフィーに気になっている事を確認する事にした。


「そういや、戦闘中かなり激しく動いてるが、お前大丈夫なのか?」

「んー? なんか、【壁歩き】上がってるし、多分大丈夫っぽい」

「なんだそりゃ」

「【壁歩き】はその名の通り、壁などを歩行可能になるアビリティですね。レンジャー系や昆虫系の種族が、種族アビリティとして取得している事が多いようです。

レベルが上がれば、それこそ垂直な壁を二足歩行する事も出来るようになるそうですが…… オズさんって、壁判定なんですね」

「どうにも、ここの運営はとことん俺を人間扱いしない気らしいな」


 横から来夢眠兎がアビリティの説明を入れてくれる。聞けば、初日からゾフィーが器用にオズに登ってきていたのは、この【壁歩き】が効力を発揮していたかららしい。ちなみに、【壁歩き】とあるが歩くだけでなく、尻で座ったり背中で寝転んだりと言った芸当も可能との事。

 乗騎といい壁判定といい、どうにも運営は大型種族に厳しい気がする。その分、体格などでは優遇されているので、もしかしたらその辺りのバランスを取っているだけなのかも知れないが。

 ただ、オズの心情に目を瞑れば、ゾフィーの落馬を防いでくれるという点で非常に有用なシステムではある。ラインハルトは【飛行】、ゾフィーは【壁歩き】でそれぞれ落馬を防げるのであれば、オズとして自由に動ける範囲がある程度確保できるので、戦闘面でありがたいのは確かだ。やはり、釈然としないが。

 ちなみに、聞けばキリカマーも【壁歩き】は覚えているらしい。ただ、彼女の場合は三角飛びのように一時的な足掛かりとして使う事が殆どで、あまりレベルも上がっていないそうだが。

 時間が時間なので、一旦昼食にしようと言う事になり、各自が携帯食で空腹度を回復する。誰も料理系のアビリティを取っていないので味気ない食事になったが、まあ仕方が無い。

 その場で簡易テントを張り、リアルでの食事を取るために一旦ログアウトした。



 一時間ほど休憩した後に再度ログインし、探索を続行する。

 スーホの予想通りクイーンとキングはボスになっているようで、全ての精霊樹の杭を抜いた状態でも、出会う雑魚はポーン、ナイト、ビショップ、ルークの四種類だけだった。流石に、ここまで来て雑魚にやられて死に戻るのは嫌なので、慎重且つ最大火力で以て殲滅していく。

 途中で休憩を挟んだのが良かったのか、特にミスも無く誰一人欠けずに最初の精霊樹まで戻ってくる事が出来た。

 広場に着けば、最初に来たときには無かったポータルがデンと置かれている。ゲーム的に仕方が無いのは理解するとしても、やはり世界観をぶち壊しているのは否めない。


「オオオ……」

「ノロイ、トケタ」

「コレデ、モリ、ナオル」


 どうやって察知したのかは知らないが、精霊樹の杭が抜けた事は樹精達にも知れ渡っているらしく、いつの間にやら広場に集まって来ている。

 樹精達にとってやはり精霊樹は特別なもののようで、その喜びようと言ったら、放っておけばそのまま酒宴でも開かんばかりだ。まあ、そこまで喜んで貰えれば、オズ達としても悪い気はしない。


「オマエタチ、オカゲ。ワレラ、カンシャ」

「アリガトウ」

「アリガトー」

「いやまあ、スータットの人達もこの森にはお世話になってますんで。おかしな事にならずに済んで、俺達としてもホッとしてますよ」


 樹精達が口々に礼を言ってくるので、言葉の分かるオズが代表して受けておく。

 オズ達としては、この後にボス戦が控えているだろうから、まだイベントが終わった訳では無いのだが。それを言って樹精達の喜びに水を差したくも無い。


「オレイ、シタイ。ナニカ、ナイカ?」

「そうですね…… この後、蟻共の親玉をぶちのめしに行こうと思うんですが、協力して頂く事って出来ますか?」

「オオ、モリノテキ、ワレラノテキ」

「モリノヘイオン、ワレラノヒガン」


 駄目元で協力を依頼したのだが、思ったよりもやる気満々の返答が返ってきた。争いを好まないと聞いていたが、流石に自分達の縄張りでシンボルマーク的なものに杭を突き立てられれば、腹に据えかねるものがあったらしい。

 とりあえず、具体的にどんな協力が得られるのか聞いてみれば、MP使用無しでの自動リジェネレートと、《アイヴィーバインド》という拘束系のスキルを使用してくれるらしい。攻撃系の援護が無いのは、ゲーム的にゲストキャラの火力頼りでボス攻略をされたくないからだろうか。

 いずれにせよ、オートでの《リジェネレート》はありがたい。HP回復もさることながら、ボス相手で激戦が予想される状況ではスタミナ回復はかなり重要だ。特に、鳥人のラインハルトはスタミナ量がそのまま飛行時間に直結するので、スタミナが回復するだけで戦力が大幅にアップする。

 ボスエリアは目と鼻の先ということなので、仲間達と準備確認をし、そのまま進軍した。



「おや?」

「あ、どうも」


 ボスエリアには、先客がいた。種族もバラバラな12人ほどのパーティが、森の奥の戦闘を見学している。彼らの視線の先では、30人ほどの大規模レイドが今正にボス戦を繰り広げていた。どうにも、先を越されたらしい。

 通常、このゲームではボスエリアでは他のパーティと出会わないようになっている。他のパーティが攻略中のボスエリアに侵入しても、個別のエリアに飛ばされて協力プレイや横槍等は入れられないようになっているのだ。

 それが、他のプレイヤーと鉢合わせたと言う事は、どうやらここのボスはプレイヤー同士で協力して大規模討伐を行うタイプのようだ。つくづく、最初の街から2番目のエリアに入れるようなイベントでは無い。


「どうも。ボス戦、しないんですか?」

「いやあ、それが…… 自称攻略組の方々に、『こいつは俺らが出したボスだから、俺らに優先権がある』とか言われちゃいまして……」


 見学組の方に声を掛けてみれば、随分ノンビリした声が返ってきた。

 イベントボスへの攻撃に関して、優先権というものは公式には存在しない。ただ、大抵のゲームにおいて、ボスを討伐した際には功績に応じたボーナスが入るのが一般的なので、攻略についての優先権というのも、当然諍いの原因になり得る。

 ただ、攻略組というのはゲームに金と時間をつぎ込んでいるだけあって、他のプレイヤーよりもステータス的に優位に立っているので、普通にボス討伐をしていれば普通に功績を挙げられる。他人を排除するというのは、十中八九が自分に自信の無い『なんちゃって』攻略組だ。

 見学組もそれを分かっているのか、焦る様子もなく自称攻略組の戦闘を眺めていた。ノンビリした雰囲気ながら目が真剣なのは、ボスの攻撃パターンを少しでも多く吸収しようという姿勢の表れだろう。

 自称攻略組はナイトの機動性に付いていけずに、後衛への攻撃を許してしまっている。後衛達が自衛にかかりっきりになれば、当然ながら火力と回復が不足する。ビショップに呪いの状態異常をかけられたタンクが満足に動けなくなり、そこをポーンの数の暴力で良いようにされていた。瓦解するのも時間の問題だろう。


「せめてクイーンの攻撃パターンくらい引き出して欲しいんですが、無理そうですね」

「ですねー。まったく、何を攻略してきたんだか」


 見学組が、口々に勝手な事を言っている。ただまあ、優先権を主張しておきながら碌に蟻に対処できていないのだから、そう言われても仕方が無いだろうが。

 クイーンらしき一際大きな蟻が奥に見えてはいるが、先程から目立った動きをしていない。手前の森のボスと同じく、手下が一定数やられないと動かないタイプなのか、はたまたここからでは見えないような行動をしているのかは分からないが、いずれにせよ有益な情報は取れそうにない。

 一応、蟻たちは見学組の方にも何匹か来ては居るのだが、見学組は危うげなく対処している。孤立した蟻の脅威度が低いのもあるだろうが、対処が手慣れている事から、恐らくは敵の攻撃パターンもある程度は見切っているのだろう。

 自称攻略組がもう少し有能なら、横槍入れて美味しい所をかっ攫う案もあったが、それよりは全滅を待った方が後腐れがなさそうなので、オズ達も見学に回った。


「あいつらが全滅したら、一緒に攻略させて貰って良いですかね?」

「構いませんよ。そうだ、何なら、レイド組んで貰えませんか」


 別に断りを入れる必要も無いのだが、変な所で揉めたくないので一言入れれば、相手から意外な申し出が返ってきた。

 先にも説明したとおり、レイドというのは諍いの原因になりやすい。攻略開始前にキチンと条件を詰めたらなともかく、ボス前に即席でレイドを組んだりすれば、大抵の場合は役割や論功で揉める。特に、今回は相手が12人に対してオズ達は7人で人数差があるので、尚更だ。


「申し出はありがたいんですが、ウチはエンジョイ勢が7人ですし、タンクも居ませんよ?」

「まあ、それは見れば分かるんですが。実は、ウチのメンバーに【歌唱】っていうアビリティを持ってる奴が居ましてね。ソイツがレイド組んだ相手にバフを撒けるんで、人数居るだけで盾が増えて嬉しいんですわ。

それに、ウチらも今日組んだばかりの即席レイドで、実質6人パーティが2つあるだけなんで、7人パーティってのはそれだけでありがたいんで」


 当然だが、支援系のプレイヤーというのは単独では大した戦闘力を持たない反面、人数が増えればその有用性は増す。特に、蟻のような数で攻めてくる敵は、殲滅速度がそのまま後衛の安全に直結するから、多人数にバフをかけて一気に押し切る戦法自体は珍しくもない。

 今戦っている自称攻略組達は、戦闘こそ拙いもののそれでも30人近い大所帯だから、それを全滅させるような相手に12人で当たるよりは人数を増やした方が賢明だという判断自体は、オズ達も納得のいく話だ。

 ただ、今日あったばかりの人間と組んで、論功で揉めるのは嫌なのも確かで、どうしたものかとパーティ一同で顔を見合わせる。

 どうしたものかと悩んでいれば、相手方のメンバーの一人が、こちらの考えを見透かしたように声を掛けてきた。


「折角ボスまで来たのだもの。後で揉める危険はあるにせよ、他人に取られるよりは、自分達で倒せる確率を上げる方がマシだと思いますよ。ねえ、眠兎ちゃん?」

「マっ…… お母さん!?」


 来夢眠兎が慌てた声で反応する。今の今まで、相手方に自分の母が混じっている事に気がつかなかったらしい。まあ、小型種族が大型種族に紛れるとどうしても見つけにくくはなるので、仕方が無い部分はあるだろうが。

 来夢眠兎の母親がこのゲームをやっていると言うのは何度か聞いた事があったが、実際に会うのは初めてだ。てっきり、来夢月と同じように情報屋稼業に従事していると思っていたのだが、どうやら攻略もしているらしい。


「どうも、娘がお世話になっております。来夢眠兎の母で、来夢翠(ライムグリーン)と申します」

「あ、これはご丁寧に。オズ悪人と申します。こちらこそ、旦那さんと娘さんにはお世話になっております」

「あら、オズ悪人さんというと、『下の人』のオズ悪人さん?」

「その名で呼ばれるのは初めてですが、【乗騎】取って公式に晒されたオズ悪人という意味なら、そうです」


 自己紹介をされたので、こちらもそれに応える。いつの間にやら、オズにもありがたくない二つ名が付いていたようで、話を聞いていた見学組の数名からも「おお、あれが」とか「じゃあ上に乗ってるのが竜騎兵さんか」等と言った声が聞こえてきた。

 正式稼働が開始したばかりだし、ウィークリーオラクルもまだ一度しか発行されていないので、そこに名前が載った人間というのもそう多くない。来夢月に聞いた限りでは【乗騎】の件はちょっとした騒ぎになっていたようだから、注目を集めるのも仕方の無い事かも知れないかった。


「経験値は単純に頭割り、戦利品はランダムゲットで恨みっこ無し。それで一つ、収まりませんかね?」


 相手方のリーダーらしき虎人が、話をまとめようとしてくる。駄弁っている間に自称攻略組は瓦解しているので、そろそろオズ達の出番も回ってくるだろう。

 パーティ内で軽く話し合った結果、やはり人数とバフは魅力的だと言う事で、レイドの申し出は受ける事にした。相手方の人間性に関しても、とりあえず来夢眠兎の母が居るなら最悪な事はないだろうと信じる事にする。

 簡単な自己紹介と、それぞれの役割について話し合った所で自称攻略組最後のタンクが沈み、蟻たちがこちらに殺到してきたので戦闘を開始した。

おかしい、前後編でサクっと終わらせるはずが、前中後編になった挙げ句にボス戦が残ってる……

ボス戦はなるべく早くに上げるようにしたいです(願望)

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