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デートの約束の約束を取り付ける

「あ、そうだ。【飛行】なんですが、店長に確認したところ、お貸しして問題無いそうです」

「おお、そうなのか」


 いつものレベルドレインにて。デシレから、そんなことを言われた。

 メニューに載っていない物を注文している自覚はあったので、正直断られるんじゃないかと思っていたのだが、そうでもないらしい。

 とりあえず、無意味に羽をバサバサさせる日々とはおさらばする算段が立った訳で、オズとしてもありがたい話である。となれば、後の問題はお値段なのだが。


「下世話な話で申し訳ないが、おいくら?」

「それなんですが…… 店長から『貴方に任せるから、好きにしなさい』と言われてしまいまして……」


 デシレが困ったように言う。

 『好きにしろ』と言うのは、つまりは『裁量権を与えるから、自分の思うように値段設定をしてみろ』と言う事だろう。これまで悪魔に成った店員がいないとは言え、デシレも随分大任を与えられたものだ。

 下手な値段を付ければ、これ以降に悪魔となった後輩達にしわ寄せが行く訳で、デシレの双肩に悪魔店員達の稼ぎが掛かってくる。つい先日まで半人前だった店員に与えるには、少々重いミッションに思える。

 当のデシレも同じ意見だったらしく、申し訳なさそうに尋ねてくる。


「と言う訳で、その、値段設定に関して、ご意見を戴ければと……」

「と、言われてもなぁ……」


 このゲームではオズもアビリティを金で買ったことが無いので、相場という物がよく分からない。

 不当に安く買い叩くことになれば、それが発覚した際に要らぬ軋轢を生む可能性もある訳で、あまり適当なことも言えないだろう。かと言ってバカ高くしてしまえば、今度はオズが手を出せなくなるのだが。

 とりあえず、基本方針を確認する。


「お前さんとしては、どうしたいんだ? やっぱ『アビリティ売って大金持ちだぜ!』みたいな方向で行きたい感じ?」

「いえ、そういうのはちょっと…… サービスじゃなくてアビリティに高値を付けるようだと、お店の方針と違っちゃいますし。

出来れば、あくまで付録として扱いつつ、それでいてお店にお金が落ちる形にしたいんですが」


 オズとしては、珍しいアビリティを譲渡するのだからそこに強気な値段を付けるのはアリだと思うのだが、デシレの意見は別のようだ。

 確かに、あくまで高級娼館として振る舞うなら、あからさまにアビリティを売って金を稼ぐというのは本来の趣旨とは異なるだろう。ただ、だからと言って何も無しに無料で渡してしまえば娼婦の方が客に貢ぐ形になってしまうので、それはそれでよろしくない。

 サービスを主としてアビリティの受け渡しはおまけ的な扱いとしたいのであれば、取れる手段は限られてくる。


「ふむ。だったら、小悪魔時代のカードみたいな物を作って、ある程度ポイント貯めたら選べる特別メニューみたいな形でどうだ?

前みたいに『週2回以上来店』みたいな条件を付けとけば、ある程度は店に金を落とすだろ」

「お値段はどうします?」

「値段は変えなくて良いんじゃないか。例えば、【飛行】だったら習得のために外に出る必要はあるんだし、デートに【飛行】くっつけとけば、デートして同伴来店して店でサービス受けて、である程度の料金にはなる。

アビリティに値段を付けるんじゃなくて、アビリティのためにある程度のお大尽遊びが必要なように設定しとけば、お値段据え置きで店も儲かるような仕組みに出来るだろ」


 レベルドレインは高級娼館なので、普通に贅沢すれば結構な金が掛かるように出来ている。

 アビリティそのものに値段を付けずとも、ポイントを貯める為に来店して、その上でお大尽遊びをすればそれだけで店にはかなりの金額が入るはずだ。

 【飛行】以外にも悪魔が覚えているアビリティは色々あるだろうから、その中から適当に見繕ってチェックポイントを設けておけば、眷属は喜んで金を落とすだろう。と言うか、そこで金を渋るような人間は、そもそもこの店に来て悪魔の眷属になったりすまい。

 デシレとしても、小悪魔時代に慣れ親しんだシステムなので想像がしやすいらしく、宙を睨みながら色々と考え込んでいるようだ。


「うーん、【飛行】は外に出る必要があるからデートプランと抱き合わせるとして、やっぱりアビリティを揃える途中で大体のメニューを網羅するようにしといた方が、親切ですかね?」

「そこは、人ぞれぞれじゃないか? と言うか、その辺は客の好みをくみ取って、ある程度店員に裁量権持たせた方が上手く行くんじゃねぇかな。

それこそ、気に入ったメニューばっか選びたい奴も居れば、全部網羅したい奴も居るだろうし」


 ああでもないこうでもないと、意見を出し合っていく。

 しばらく話し合ってデシレの中で骨子が出来上がったらしく、とりあえずはそれで店長に提出してみるそうだ。上手く行くことを祈ろう。


「ありがとうございました。……と、そう言えば。お客様は、【飛行】の習得は急ぎますか?」

「いや、元々取得の目処が立ってなかったアビリティだし、今日明日に無いと困るって訳ではないかな。勿論、早けりゃ嬉しいが。

まあ、『じゃあ明日デートしようぜ!』って言われても困るだろうし、そっちの都合に合わせてくれ」


 【飛行】は欲しいが、無ければ攻略出来ない類のアビリティでは無い。直近の攻略目標は海なのもあって、そこまで取得を急ぐものでもないので、オズとしては急かす真似もしたくなかった。

 こういう店のお作法は未だによく分かっていないが、相手の都合を考えずに勝手にスケジュールを建てれば、流石にいい顔はされないだろう。

 デシレとしてもオズの申し出はありがたかったらしく、ホッとした表情をしている。


「確かに、クラスチェンジして羽とか大きくなったので、服のサイズ直しの時間は欲しいですね」

「そういや俺も、羽生えたから鞍とか付けられなくなってるな」


 デシレのクラスチェンジの際にマルガレーテが拵えてくれた馬具一式は、新たに生えた翼と干渉するためいくつか装備不能になっている。

 今まで困らなかったのでそのままにして置いたのだが、デシレを外に連れ出すなら仕立て直した方が良いかもしれない。街中で、馬具が無いと困る状況がそうあるとも思えないが。


「そういや、俺この街で遊ぶところとか知らんし、行きたい所とかあるなら教えて貰えるとありがたい」

「うーん、ボクも外に出たとして屋台に行くか服を買いに行くか位しかしたことが無いので……

出来れば、あまり人の多くない場所がありがたいのですが」

「人が多くない所なぁ…… いっそ、街の外に出てみるか?

異邦人(プレイヤー)はそれなりに居るだろうが、現地人(NPC)はまず居ないし、森や海程度ならお前さんの安全マージンも確保出来ると思うぞ」


 将来的には、デシレも街中を堂々と歩けるようになった方が良いのだろうが、急にやれと言われても辛かろう。初デートでいきなり負荷を掛けるような事もしたくないので、彼女の意見を尊重する。

 クラスチェンジの際にデシレを連れて灰人の道を通った経験もあるので、それより到達レベルの低い樹精の森やムーンサイドビーチであれば、そこまで危険は無いだろう。店的に、街の外まで連れ出すのがOKなのかは分からないが。

 とりあえずその辺も考えて貰うと言うことにして、その日は店を後にした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです。 [気になる点] 2人の体格差はどんなもんなんだろ? オズの肩に座ってのれる?
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