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光明が見えたからと言って吉兆とは限らない

「オッさんさぁ、そういうの隠してるのズッケくね?」

「ズッケェと言われてもなぁ……」


 ゾフィーの詰問を受けつつも、ビッグタートルの突進を躱してヒレに一撃を加える。

 あの後、今すぐ破濤海岸を攻略するのは無理という結論に達し、ゾフィー達もレベル上げのために試練の海へと着いてきていた。ゾフィー以外の面子は【水泳】を取得したばかりなので動きに不安はあるが、それでも魔法で雑魚敵を始末する程度なら何とかなっている。

 オズも相手するのを亀のみに絞れるなら、MP消費は【水流操作】のみで済むので大分楽だ。エンチャントや回復に関しては騎乗しているゾフィーに一任していたのだが、そもそも亀相手の動きも大分安定しているので彼女の出番は多くなく、暇になって話しかけてくる。

 雑談で【調息】が途切れるのはあまりありがたくないが、そもそもそこまで緊迫した状況でもない。適当に駄弁りながら、亀を処理していく。

 ちなみに、話題はオズがステップを隠していた件についてである。オズとしては、自分に使えないテクニックなので使わなかっただけで、特に隠していたつもりは無いのだが。


「オッさん自身がステップ使うとすると、《ストーンウォール》位しか使えないから、あんま有効な場面が無いんだよな」

「さっき《マジックウォール》でやってたじゃん?」

「水中なら、全体重支えられなくても蹴って勢い付けるだけで意味あるけど、地上だとそうもイカンからなぁ」


 《ストーンウォール》はウォール系の魔法でも他より頑丈なのだが、土の地面や石壁等からしか生やせないという欠点がある。壁として使うにはそこそこ優秀だが、足場として使うには利便性が低い。

 《マジックウォール》や《アイスウォール》はオズの体重を支えるには心許なく、それ以外のウォール系は触れるとダメージを与える系なので足場には出来ない。と言うことで、オズ自身がステップを使える場面がほぼ無かったのだ。

 そんな事を話している間に亀の前ビレが破壊される。動きの鈍った亀に張り付き、後はいつも通りボコり倒した。


「まあ、ステップ使いたいなら、来夢眠兎と一緒に来夢月に習いに行くのが早いんじゃないか」

「そもそもの話、ゾフィーちゃんは上手い事雷避けとるし、ステップ要らんのとちゃう?」


 雑魚処理を終えて合流してきたカブータスが、会話に入ってくる。

 意外な情報だ。


「そうなのか?」

「ボスの予備動作見切って、上手い事水に潜ってスイーッと避けてましたよ」

「でもあれ、水の中でもかなり離れないと雷のダメージ食らうし、麻痺もするよ?」

「直撃食らう訳やないから、ダメージもヒールで何とかなるし、麻痺った時だけ《キュア》すりゃエエんやろ。

わざわざ足場を3つも4つも作るより、よっぽど効率エエと思うで」


 どうやら、あの雷は水面に当たった時点で威力が拡散されるらしい。水中にいても誘導雷のような形でダメージは食らうらしいが、直撃に比べれば大分マシなので、魔法防御の高さもあってゾフィーにとってはそこまで脅威でもないようだ。

 オズには出来ない回避方法である。フィールドの水深を考えれば、使えるとしても中型種族までだろう。中型種族でも、身体の大きいジョージや翼の大きいラインハルトには無理かも知れない。

 と、言うか。


「それが出来るなら、来夢眠兎もわざわざステップ覚えるより、ずっと水に潜ってた方が楽だろ」

「えっ?」

「《ブレスインウォーター》使って普段は水中にいて、攻撃するときだけ顔出しゃ良いんだよ。雷来そうなときだけカブータスがアラート出せば、とりあえず直撃だけは避けられるだろ」


 ボスの攻撃は他に水の槍や風の刃もあるが、どちらも雷に比べればダメージは低い。魔法防御の高い来夢眠兎からすれば、そこまで脅威でもないだろう。《ブレスインウォーター》を常時かけているのであれば、溺死の恐れもない。

 ステップを覚えて高速の雷撃を回避するよりは、よほど安定するだろう。


「ステップ自体は難しくもないし、覚えて損は無いと思うけどな。ただまぁ君達、もうちょっとパーティ内で情報を共有しなさい」

「ご、ゴメン」

「すんません」


 少なくとも雷の回避に関しては、オズが提案したのよりずっと良い方法が既に発見されていた訳で、報連相の不足で余計な遠回りをするところだった。

 トドの足止めに関しては、ジョージ夫妻が何か考えてくれるだろう。

 そんな事を話ながら進んできた訳だが、試練の海の攻略は思った以上に上手く行っている。オズの消費MPが抑えられたお陰でアイテム無しでも進行出来ているし、他の面子は順番にオズに騎乗することで何とかなる。

 【騎竜】に変化したことでリセットされたアビリティレベルは、【騎乗】レベルの高いゾフィーを乗せていることで既にレベル13にまで上がっていた。唯一の難点は、回復のためにカブータスまで【騎乗】を取ることになったくらいか。

 マップを確認すると、既に試練の海も終端が近い。平和の海と同じ仕様なら、終端に近付けばポータルなどの前触れ無しにいきなりボス戦に突入するはずだ。

 スクリューシャークの例を考えれば、ここのボスも初見で勝てる見込みはほぼ無いだろう。流石になし崩しで巻き込むのは躊躇われたので、パーティメンバーに確認を取る。


「もうそろそろボスが出る海域だが、お前らどうする?」

「一緒について行く、で良いのでは?」

「ですねぇ。ここでお別れしても我々だけで海岸に戻れる気はしませんし、かと言って送って貰えばオズさんだけでここに戻ってくるのは厳しいでしょうし」


 オズの問いにキリカマーが答え、来夢眠兎が補足する。

 確かに、オズ一人でここまで戻ってくるのは無理だろう。回復アイテムはストームライダーズ戦で使い切っているので、現状では継戦能力が圧倒的に足りていない。

 反対意見は出なかったが、金策を考えれば重量ペナルティが出るギリギリまでは狩りをしたいという事で、しばらく周辺で狩りをした後、ボスに挑むことになった。



 ボスエリア目指して泳いでいると、急に周囲が暗くなった。

 メニューを確認するが、【竜眼】は機能している。夜の闇程度なら問題無く見通せるはずだから、恐らくはボスエリアのギミックだろう。


「うわっ、何コレ、暗!」

「ゾフィー、【気配察知】で周囲の警戒頼む。この状況じゃ、不意打ち食らったらひとたまりも――」


 辺りを見渡すが、近くにいるパーティメンバーすらかなり見づらい。ボスを発見するのは困難だろう。

 ゾフィーに警戒を頼んだところで、不意に灯りが灯った。周囲を明るくするほどではないが、この暗闇で青白い光は一際目立つ。【光魔法】の発する光ともまた違った感じなので、これもギミックの一種だろうか。

 どこかでそんなのを聞いた気がするなどと考えていると、不意にオズの身体が光り目掛けて突進し始める。止まろうにも、身体の自由が利かない。慌てて確認すれば、いつの間にか魅了の状態異常に罹っていた。

 ゾフィーに解除を頼もうにも、声を発することすら出来ない。そのまま、オズの身体は一直線に光り目掛けて突っ込んでいき――不意に現れた顎に、為す術もなく噛み砕かれた。

 気がつけば、スータットの噴水前だった。パーティを組んだ際に指定した、リスポーンポイントである。


「オッさん、今の何だったん?」

「スマン、魅了の状態異常に罹って、声すら出せんかった」


 オズに騎乗していたゾフィーは一緒に死に戻ってきており、ジト目で問いただしてくる。彼女からしてみれば、何の前触れも無くオズの自殺に付き合わされた訳で、怒るのも無理はない。


「多分、チョウチンアンコウみたいなボスなんだろうな。光で獲物を魅了して、そのまま食うとか、多分そういうギミックだ」

「あ、知ってる。こないだ水族館で見た」


 そんな事を離している間に、次々とパーティメンバー達も死に戻ってくる。

 カブータス、キリカマー、ラインハルトと続き、しばらく待った後で来夢眠兎が戻ってきたことで、全員が揃った。

 とりあえずはオズの自宅へと移動し、そこで反省会を始める。と言っても、ほぼ何も分からないまま死んだに等しいのだが。


「とりあえず、ボスについて何か分かったことある?」

「ボスの名前はアングラーフォートレス、弱点は水中モンスターの例に漏れず雷と火です」


 【鑑定】が間に合ったらしい来夢眠兎が、ボスの情報を伝える。

 確か、チョウチンアンコウの英名がアングラーフィッシュだったか。恐らくは、オズの予想通りチョウチンアンコウかそれに類するギミックのモンスターだろう。

 とは言え、分かった情報だけ集めても攻略はかなり厳しい。


「兎にも角にも、魅了が厄介だな。声すら出せないんじゃ、自分で《キュア》するのは不可能だ」

「あの暗さじゃ光の精霊も居らんでしょうから、精霊に頼むんも無理やろしなぁ」


 魅了に罹ったが最後、解除の手立てがない。自力解除は不可能で、パーティメンバーに頼もうにも声が出せなければ知らせることも出来ない。

 これが、他のメンバーに攻撃を仕掛けるとかであれば、気付いて貰うことも出来るかも知れないが、ボスに向かって殺されに行くのでは気付いてもそこから追い付いて解除までどうしてもタイムラグが出る。と言うか、このパーティだと他のメンバーがオズに追い付くのは不可能だろう。

 そもそも、魅了が《キュア》で解除出来るかどうかも分かっていないので、そこから試す必要があるのだが。

 ラインハルトが疑問を投げ掛ける。


「チョウチンアンコウって事は、多分あの光を見ると魅了されるんだよね。

目を瞑って、光を見ないようにすれば大丈夫なのかな?」

「それも、試してみないと分からんなぁ。誰か、試した奴居る?」


 一応聞いてみるが、ゾフィー以外の全員が魅了されてからの自殺で死に戻ったそうだ。まあ、あの暗がりで急に光が現れたら、注視するなと言う方が不可能だ。どこまでも嫌らしい仕掛けではある。

 来夢眠兎によれば、魅了状態でも光を見続ければ【鑑定】は入るので、それで何とか情報だけは持ち帰れたらしい。キリカマー曰く、魅了された後だとそもそも目を閉じるのもままならないとのこと。

 流石に、どうやっても防げない魅了攻撃をぶっ込んでくるほど運営も鬼ではないだろうから、何らか対応策はあると思うが。今の状態だと、それも検証するまで分からない。

 仮に目を閉じただけで魅了を防げたとして、その状態でボスと戦うのは結構辛いだろう。【気配察知】はオズも取得しているが、レーダー頼りでボスと戦うのはあまりやりたくない。


「そういや、俺はボスの攻撃で即死だったんだが、カブータスは?」

「俺も同じですわ。魅了されてたから盾も使えん状態でしたけど、仮に使えても駄目でしょうね」


 パーティ内で最も防御力の高いカブータスが駄目なら、生半可な手段ではボスの攻撃は防げまい。もしかしたら魅了中は防御力が下がるとかあるのかも知れないが、試す気にはならない。

 総合してみると、ボスに関して持ち帰れた情報ガあまりに少ないので、攻略の目処も立てられない。やはり、もう何度か挑む必要があるだろう。

 キリカマー達はストームライダーズ対策のアイテムに関してジョージ夫妻に相談したいとのことだったので、その場でアイテムを分配してパーティを解散した。

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