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先人の知恵が常に有用とも限らない

 トドの皮を剥いで、自宅の共用ボックスに突っ込んでおく。欲しければ、マルガレーテ辺りが適当に値段を付けて持っていくだろう。

 その気になればオズが騎乗出来そうな大きさのトドは、皮を剥ぐのも一苦労だった。今までは全て爪で解体していたが、この先大物の敵が増えるのであれば、本格的な解体道具の導入を検討した方が良いかもしれない。

 一度ジョージに相談してみようかと考えていると、通知音と共に視界の端にインフォメーションが流れる。丁度、一家がログインしてきたらしい。一応は同居しているので、お互い気まずい思いをしないようにログイン/ログオフの通知を受けるよう設定しておいたのだ。

 メニューから保管庫にトド肉を放り込むと同時、3階の窓が開いてゾフィーが出てきた。そのまま、壁を歩いて下へと降りてくる。少し遅れて、ラインハルトがやはり窓から飛び出してきた。子供達は、階段を使う気が無いらしい。まあ、ゲームならではの移動方法であるので、使いたくなる気持ちも分からなくは無いが。

 こちらを見つけたゾフィーが、駆け寄ってくる。


「オッさん、丁度良い所に居た。一緒に海岸いこーぜ」

「海岸? まあ、構わんけど、お前らのパーティは良いのか?」

「ちょっとボスで躓いてるから、出来ればワルトにヒントだけでも貰えるとありがたいかな」


 突然のお誘いだったので他の面子が了承しているのか問うてみれば、ラインハルトからも補足が入る。

 海岸のボスは一応倒したので情報を伝えるのは問題無いが、攻略にどの程度協力するかは他の面子とも相談の必要があるだろう。あまり手を貸しすぎて、攻略の楽しみを奪ってしまっては意味が無い。

 その辺は実際に話し合って決めるしか無いだろうという事で、3人で連れ立ってポータルへと飛んだ。



 しばらく待った後、メンバー全員が集合した。

 待ち合わせ場所が街のポータル前なので、ブランチポータルから直接飛べるオズ達が一番早く着くのは当然と言えば当然である。

 早速オズが本題を切り出す。


「で、海岸のボスで躓いてるんだって?」

「まあ、そう。水で機動力が奪われる上、頭が良いから後衛を的確に狙ってくるので眠兎が狙われやすい。

あと、空からの雷がラインハルト君と相性最悪なので、事故りやすい」


 キリカマーが端的に問題点を述べた。

 トドはともかく、上に乗っている人型は魔法使いなのだから、ある程度の知能はあるだろう。単純なヘイト稼ぎではターゲットを奪えないというのも、納得出来る話である。

 空を飛んでいるラインハルトは、ボスを注視している間は上空に背を向けることになる。そこから高速で落ちてくる雷を察知して咄嗟に回避するのは、ゲームを始めたばかりの彼には難しいだろう。

 そこそこ水深があるため、小型種族のゾフィーや狼に騎乗する来夢眠兎はその機動力を奪われる形となり、中型種族のキリカマーにしても動きにくいのには変わりない。パーティメンバーで多少マシに動けるのはタンクのカブータスだけと言うことで、まあそのままでは厳しかろう。


「と言うか、オッさんはどうやってボス倒したの?」

「トドは水上を滑れるだけで、何でもホバーで乗り越えられる訳じゃ無いみたいなんで、手持ちのナマコだのイソギンチャクだのの死体でバリケード作って閉じ込めた。

で、移動力を奪ったところで飛び乗って、上の魔法使いから始末した感じかな」


 ゾフィーの質問に包み隠さず答える。

 聞いてみた限り、思った以上に解決の糸口が掴めていなさそうだったので、とりあえずオズがやった攻略法を教える程度はした方が良いだろう。

 話を聞いて少し考えた後、キリカマーが口を開いた。


「カブータス君、同じ事をやれと言われたら出来る?」

「どやろなぁ? どの程度の死体を用意すればエエか分からんし、重量によっちゃペナルティくらいそうや。

そもそも、俺自身の機動力は高くないから、相手の行動範囲限定しようにも追い詰めるのが一苦労やろなぁ」


 カブータスは難しい顔をする。オズは元々AGIが高い上、【水泳】や【水流操作】もあるので機動力はなんとかなったが、カブータスが全く同じ事をするのは難しいだろう。

 が、パーティで戦う以上は、別に彼一人でそれをやらなければならない訳でもない。

 ラインハルトが、横から口を挟む。


「トドを閉じ込めるバリケードがあれば良いなら、死体にこだわる必要は無いんじゃ? むしろ、道中の死体は諦めてその為の道具を持ち込んだ方が良い気がする。

僕が持てる程度の道具なら、バリケードを構築する位なら手伝えるし」

「マキビシとか?」

「水深考えると凄い大きさになりそうだし、僕が持てるかって問題はあるけど、方向性としてはそんな感じ」


 ゾフィーやカブータスも交えて、ああでもないこうでもないとアイデアを出し合っていく。

 それを横目で見つつ、キリカマーはもう一つの問題点を挙げる。


「あとは、眠兎の安全をどう確保するか」

「つーか、来夢眠兎も魔法使いなんだし、それなりの魔法防御はあるだろ」

「魔法防御はありますが、HPが低いので…… 私だと、雷の直撃3発で沈みます。あと、水深の所為もあって水の槍だと溺死の危険もあるので、そちらも油断出来ませんね」


 オズの疑問には、当人が答えた。

 オズ自身は雷の直撃を受けていないが、誘導雷でもそこそこのダメージを貰っていたので、直撃を2発耐えられるなら十分な気はするが。とは言え、火力担当の来夢眠兎が自分の回復で手一杯になれば、それはそれで厳しかろう。

 あと、溺死に関しては完全に考慮の外だった。確かに、あの水深だと小型種族は肩か首まで水に浸かることになるだろうし、その危険もあろう。


「トドがやってたみたいな水の上を滑るアビリティとかあれば、とりあえず溺死は免れそうだがな」

「【水魔法】のレベル40で、《ウォーターウォーク》という水上歩行のスキルを覚えるそうですが。レベルキャップ的に、ボス戦までに覚えるのは無理ですねぇ」

「無い物ねだりをしても仕方ないしな。諦めて、ステ使えば良いんじゃねーの? 狼に乗りながらとなると、《マジックウォール》か《アースウォール》位しか無理そうだが」

「ステ?」


 オズの何気ない一言に、来夢眠兎が疑問を返す。

 来夢月も使っていた技術だったので、そこで引っかかるとは思わなかったのだが。まあ、オズは主に格ゲーで活動しているので、MMOだとまた別の名称があるのかも知れない。

 別ジャンルのゲームで似たようなテクが必要となる事は多いので、車輪の再発明が起きやすいのだ。


「ステップっつー、魔法とかで足場を作るテクだ。乗っても問題無さそうな魔法を足場にしたい場所に展開するだけだから、テクと言うほどのもんでも無いが。

MMOだと別の名称があるのかしらんが、来夢月は普通に使ってたし、詳しいことはそっちに聞いて貰った方が良いだろ」

「オズさんだと駄目なのですか?」

「俺の場合はガタイが…… いや、見せた方が早いか。《マジックシールド》4連」


 オズがスキルを発動させると、地面に水平になった魔法の盾が階段状に並んで現れる。一番初歩的なステップの使い方だが、問題となるのは《マジックシールド》の脆さだ。

 オズが1段目に足を掛けて軽く体重を乗せると、それだけでシールドにヒビが入る。そのまま脚に力を入れると、オズの身体は1ミリも浮かばないまま、シールドが割れた。足場を作ったところで、乗れなければ意味が無い。

 割れた1段目を無視して、残りの3枚のシールドを来夢眠兎の足元に並べてやる。彼女は少し躊躇ったが、シールドに足を乗せた。何の問題も無く3段目まで登り詰める。


「つー訳で、魔法の強度と俺の体重が全く釣り合ってないんで、俺には使えん。さっきも言ったが、来夢月は一緒に組んだとき使ってたから、このゲームの使い勝手を聞くならアイツの方が詳しいだろ」

「パパの裏切り者……」

「いや、それは聞かなかった眠兎が悪い」


 裏切られた少女の純真な心を、キリカマーの突っ込みが容赦なくえぐる。

 魔法の強度やリキャストを考えれば、ずっとステップを使って水の上を行くのは不可能だろう。恐らくは雷を避けるために使うことになるだろうが、その練習方法などはオズには教えられないので、当人達で頑張って貰うしか無い。

 色々と対策案は出たが、どれも今すぐ実践出来る物でも無い。とりあえず、その上でどうするかを問うた。


「んで、どうする? 急いで海岸をクリアする必要があるってんなら、俺もパーティに混ぜて貰うが?」

「いや、折角皆で案を出したから、一旦は自分達だけで挑戦してみたい。皆も、それでいい?」


 キリカマーがパーティメンバーに問うが、反対意見は出なかった。

 であれば、オズとしては一旦お役御免である。当人達がやる気になっているのに、あれやこれやと手を貸すとお互いのためにならない。


「ま、ゴールデンウィーク中はそこそこ時間取れるだろうし、また手が必要なら呼んでくれ」

「あ、そう言えば。ボスを倒したという事は、次のエリアには行ったのですよね?」


 来夢眠兎が尋ねてくる。

 情報屋としてはそちらも気になるのだろうが、残念ながらそれに関して有益な情報はオズは持ち合わせていない。


「あー、船の墓場って名前らしいが、嫌な予感がしたんでポータルだけ登録して逃げ帰ってきた」

「オッさん、ホラー苦手だもんな」


 ゾフィーの言うとおり、オズはホラー系が苦手だ。

 宇宙生物とか深淵の邪神みたいなクリーチャー系はそこまででもないが、ゾンビや幽霊のような人の形をした物は生理的に駄目だ。人の形をしてても、殺人鬼とかはまだ何とかなるのだが。

 そんな訳で、船の墓場なるフィールドがホラー系だと何も出来ないまま死に戻る可能性が高かったため、とりあえずポータルに飛べるようにだけして帰ってきたのだ。

 実際にどんなフィールドなのかは後で情報屋にでも聞くとして、もしホラー系であった場合はそちらを迂回して海側を進むか、もしくは地獄カゲロウを攻略して裏切りの荒野に行くことも考える程度には、ガチで行きたくない。


「まあ、得手不得手は誰にでもあるとして。とりあえず、今日はどないしよ?

ボス攻略はとりあえず準備せんとあかん物が多いし、ジョージさん達に依頼するにも金策は要るやろ」


 カブータスが、話を現実的な方向に引き戻す。

 ボス攻略の方向性は決まったとは言え、その為に準備しなければならない物は多い。今すぐの攻略は無理なので、ひとまずは今日の予定を立てるための話し合いが始まった。

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