病室
冬、乾燥した空気が肌を掠めて痛みを覚えた。
今日は一度も部屋から出ていない。
何も予定などは無く、ただただ陽が昇り沈むのを見届けようとしている。
最近になって考え出したことがある。
静かな白い部屋の中で一人、ただただ過ぎていく日常が体に重く巻き付き、時間がのろのろと過ぎる日々に、自分はどう幸せを感じればいいのだろうか。
そんな物など存在しないと分かっているのに。
一つ山を越えた、あとは空へ旅立つだけだ。
山を越えたことで一つ答えが見つかった。
この世界は幸せで溢れていると、数え切れない悲しみの数もその分幸せが裏に隠れているだけだと。
幸せなどないと決めつけて、諦めかけていた。
だが、そこら中に幸せが転がっている。
何故今まで気づかなかったのか。何かが「できる」だけで幸せなのだということを。
窓から差し込む夕景を彩る暖かい橙色のカーテンを手の隙間から覗くことがどれだけ幸せな事か。
冷たい部屋に差し込んだそれが埃を染め天に広がる星のように躍らせる。
この身に透き通すかのように周りを舞い、体中の温度を上げてゆくようなそんな気がした。
春、少し冷たい空気の中に優しさが混じりはじめた頃
ベッドの上にに差し込んだ一枚の橙色のカーテンはゆっくりと腕から頬を伝い静かに私を包みこんだ。
その時私の肌はもう温度を残していなかった。