8話 欠点
【討伐者組合】、買取カウンター——
「鑑定、お願いします」
「はい、こちらへどうぞ」
朧がいうと、給仕服を、少々、可愛らしくした様な、制服を身にまとった少女——受付嬢の“ルル”が笑顔でカウンターに手をやる。
「えーと……そうだ“発動”っと」
ルルに従い、朧は腰につけた小さな黒革袋の口を開ける、すると……
ドサドサっ。
袋の口から、明らかに大きさの不釣り合いな、緑の塊が、計6つ。
ゴブリンの死体だ。
こんな手品じみた、事を可能にするのは、朧の加護の能力……ではなく、皮袋のおかげだ。
闇魔法式収納袋、通称、“アイテムポーチ”。
ある程度の体積のものであれば、生きてる物以外何でも、収納出来てしまえる代物。
異界の技術であり、アリサから、討伐者をするには必要だろうと、スペアを借り受けたものである。
(確か、大魔導士様とやらが、作り上げた技術で、メチャクチャ高いんだったよな)
なんで、そんな代物を2つも所持しているのか、それはアリサが勇者(見習い)である事に起因していたりする。
「ま、またゴブリン6匹なんですね」
記憶をたどっている朧の耳に声が。
目の前に出された、死体を見て、少々引き攣っているルルのものだ。
「おい見ろよ、あのガキまた6匹だぜ」
「アリサちゃんに、アイテムポーチ持たせてもらっても、あれじゃあな」
ルルと朧のやり取りを見ていた、討伐者2人が、後方——待合所を兼ねた、酒場で馬鹿にした様に大声で話す。
(ああ、うざいんごねぇ……まぁ仕方ないか)
それに対し、内心悪態を吐くも、それもやむなしと自分に言い聞かせる。
アリサの導きで、異界の領地であった都市【ポーラン】に流れ着き、半月。
朧は彼女同様、討伐者となっていた。
当初は、異界の侵魔に対し有効な遠距離武器、それも高速の弾丸を放つ銃を召喚する《銃聖ノ加護》に大喜びした2人。それのみならず組合では期待のホープなどと、囃し立てられたものだが、ある日、重大な欠点に気付く。
「《銃聖ノ加護》、やっぱり、1日6発が限界なのよね?」
(そうなんだよなぁ)
自身の討伐した侵魔の買取依頼を終えたアリサの言葉に、朧はガックリとうな垂れる。
そう、《銃聖ノ加護》には使用回数の制限があったのだ。
その回数は、リボルバーの装弾数と同じ6発。
その回数打ち切ると、再度召喚し直しても、翌日にならなければ弾は復活しないのだ。
(まぁ、タダで新しい弾丸が装填されるから、メリットっちゃメリットなんだが……)
周りが剣術や槍だと、中世レベルのスキルで、頑張る中、やはり銃というのは強力だ。普段使う狩場よりも危険な場所で、上位の侵魔にも対抗する事も可能だろう。そうすればゴブリン6匹などとは比べものにならない、報酬が手に入る。
「なぁ、アリサ。俺もそろそろ上位の敵と……」
「ダメよ。確かにオボロの力は、強力だけど、経験が全然だもの。無駄撃ちして、無駄死にするのが関の山だわ。あと1ヶ月は様子見ね」
と、パートナーであるアリサから許しが出ないのである。
「前途多難だな……」
能力の欠点。
更に肝心の、御星や、憎っくきクラスメイト達の情報も得られず、朧の不満は、ゆっくり、ゆっくりと積もってゆく