7話 想いと復讐を胸に秘め
「い、いい子、いい子〜」
「違ぁう! もっと優しく、いたわる様に!」
「うう、勘弁してよぉ。回復魔法も掛けたし。謝ったじゃない。何でこんな事……」
「ほほぅ、じゃあいいんだな? “加護持ち”のオレちゃんに逆らうんだな?」
「うう〜、ごめんない…」
不遜な態度で椅子に腰掛け、踏ん反り返る、朧。
その隣で彼の下腹部を、涙目で、優しく撫であげるアリサ。
どう見ても“そう言うお店”です。
本当にありがとうございました。
なぜ、この様な状況になっているのか。
それはアリサが、《銃聖ノ加護》、《複聖ノ加護》という2つの能力の持ち主である、朧の急所を思わず蹴り上げてしまったからである。
朧が、気絶から覚めると血相を変え、トンデモナイ勢いで土下座を決め、平謝りするアリサ。理由を聞けばエルフには絶対の掟があり、“加護”を持つ上位種、“ハイエルフ”と呼ばれる者と、彼女の言う“大魔導士”の力を持つ者には危害を加えてはいけないというものだそうだ。
どういうわけか、その力——それも2つも——に目覚めた朧に、というわけだ。
これは、それを聞き、色々ムシャクシャしていた、朧の悪ノリである。
「くっ……もう、いい。殺しなさい」
(うわぁ、“女騎士”みたいなセリフ吐いた)
「悪い悪い。やり過ぎた、ごめんよ」
「うう、服の上からとはいえ、この仕打ち……まあ、いいわ、私も悪かったし、これでキレイさっぱりチャラよ?」
「ああ、オッケーだ」
流石に無神経だった行動をチャラにしてもらえて、ホッとする朧。
それを見てアリサも小さく笑うのだった。
「それじゃあ、行くか。行き先、“討伐者組合”……だったっけ?」
「ええ、そうよ」
2人は手を組む事になった。
そして、“討伐者組合”。それが、これから2人の目指す場所だ。
“討伐者”と呼ばれる者たちが集い、その討伐者に、魔物——天使が侵魔と呼ぶものの、討伐依頼や、死体の買取を行う場所が、ここからしばらく行った先に存在する。
(しばらくは、そこでアリサと一緒に活動する。いろんな人が出入りするらしいから、もしかしたら御星の情報も、そしてアイツらの情報も……)
朧は討伐者になる事を決めた。
これは、自身も勇者(見習い)をする傍ら、討伐者でもある、アリサからの提案に可能性を感じたからだ。この混じり合った世界で生きて行く為の力、路銀、情報を手に入れ、自分の目的、『御星との再会』と『クラスメートの殺害』を達成するのには、これが現時点で最善の方法だと。
行動を開始する2人。
教室を出て、階段を降り、校舎を出れば——
『グギっ』
『グギャっ』
『ギャギャ』
「早速出やがったな、ゴブリン!」
ガウンッ!!
『ギィ!?』
「ふふ。やる気ね、オボロ?」
出会い頭に、《銃聖ノ加護》で顕現させた、リボルバーで敵の額を撃ち抜く朧。
その姿を見て、アリサも腰の刀を引き抜きながら、闘気を放つ。
(オレちゃん……いや、“俺”は、生き抜いてみせる。このクソみたいな世界を! そして御星を守り、アイツらを……っ!!)
自分を慕う妹、そして憎っくき復讐相手達の顔を胸に秘め、弾丸を放つのだった——。