6話 エルフのお誘い②
「ま、魔王?」
「そ、魔王。魔王を倒す事こそ勇者……見習い……の私の務めよ。あなた、えっと……」
「ああ、オレちゃんは朧、十六夜・朧だ」
(見習いなんかい)というツッコミは、心にしまう事にした様だ。
「オボロ、変わった名前ね。まあ、いいわ。それでねオボロには私の、魔王討伐のパーティに加わってほしいの!」
「ち、ちょっと待ってくれ! いきなり魔王なんかと言われてもな。オレちゃんは御星を、妹を探さないと……」
(それに……)
混乱する朧だったが、自分が無事である事がわかれば、目的ははっきりしていた。消えてしまった義妹、『御星の捜索』。そして、自分を面白半分で殺そうとしたタケシたち『クラスメイトへの復讐』だ。
(あいつらだけは絶対に許さない。必ず殺してやる)
「まぁ、気持ちは分かるけどね」
エルフの目は良い。
朧達のやり取りを遠くから見ていた、アリサは何となくの事情を察し、小さく呟くのだった。
「でもさ、悪い話じゃないと思うわよ? 私について来れば少なくとも野垂れ死になんて事にはならないし。色々と教えてあげる事も出来るわ」
(まぁ、確かに、こんな訳の分からん“異界”だったけ? そんなもんと混じった場所で一人きりなんて無理ゲーだもんな……。魔王云々は別として取り敢えずは……いや待てよ?)
「なぁ、アリサ……さん?」
「アリサで良いわ。そんなに怯えないでよ。変な事しなければこっちだって何もしないんだから、ね? 変態くん?」
「うぐ……服の匂いを嗅いだことは悪かった。この通り」
「ふふっ、素直でよろしい。さて何が聞きたいのかしら?」
ペコリと頭を下げる朧に、アリサはツリ目を和らげ先を促す。
「何で、オレちゃんを助けてた上に、仲間にしようとするんだ?」
「そうね。まず、オボロを誘った理由だけど、それは、あなたが強力なスキルを持っているからよ。“ゴブリン”を倒した時に使っていたのを見たの、あんなスキル見たこと無いわ。天使にもらったスキルでしょ?」
(“ゴブリン”、あの緑色の小鬼の事か。それに天使の事も……)
これで天使の言っていた事も本当だと確信する朧。
そしてアリサの憶測に1つ指摘をする。
「あの力なんだが、実は天使にもらった力じゃないっぽいんだよな。あの緑の、ゴブリンに殺される直前に視界の端に現れたんだ。《銃聖ノ加護》って、だから……」
「ちょっと待って!! 今、なんて……《加護》って言わなかった!?」
「な、何だよ急に!?」
——近寄るな! いい匂いがして、溜まったもんじゃないんだよ! それに……。
《銃聖ノ加護》と言った瞬間、文字通り摑みかかる勢いで、食いつくアリサに思わず顔を背ける朧。彼女の顔の位置は鼻と鼻の先——なもんで、その下、たわわな果実が朧の胸板に当たって大変な事になっているのだ。
「加護って言うのはね、高位のエルフ、もしくは、“大魔導士様”の血族にだけ与えられた神聖な力なのよ!? なのに、只人の……それも別世界のオボロがっ」
「ええいっ、大魔導士だか、エルフだか知るか! それよりさっきから胸を押し付けんじゃねぇ、ボケぇ!!」
「え、きゃああ!? 変態!!」
ボグゥ!!
「うげぇ! ひ、膝が……」
キレイにめり込んでいた。
朧の下腹部に……。
「あ、ご、ごめんなさい! 《ヒール》!!」
下腹部が暖かな光に包まれるのを尻目に、朧の意識は再び闇へと沈むのだった。