4話 銃聖ノ加護
「おいどうなってやがる、もぬけの空だぜ?」
先頭を歩いていたタケシが、ブロードソードを地面にコツコツと当てながら誰に言うでもなく漏らす。
タケシの言う通り校舎はもちろん、今いる校庭にすら朧と4人の不良以外誰もいなかったのだ。
(御星、どこへ行ったんだ?)
突如として2人の不良男女とともに消えた義妹である御星の身を案じ、朧は心で漏らす。義理とはいえ自分を好いてくれている妹、その存在はかけがえのないものなのだ。
「ちょっと何よアレ!!」
失意に飲まれそうになる最中、リエが叫ぶ。
その先には——
『グギャッ』
『グギギ!』
(緑色の……小鬼? あれが天使の言っていた侵魔ってやつか!?)
校舎から少し離れたところにいる緑の小鬼、身長50センチほどのそれは朧が思った通り、異界から現われ出た侵魔。その名を『ゴブリン』と言う。
「おいっ、気づいたみたいだ。こっちへ来るぞ!」
「冗談じゃない、あいつら剣を持ってるぞ!?」
朧達の存在に気づき、走り出した二体のゴブリン。
その手にある短剣を見てタケシの取り巻き“山本”と“斎藤”が狼狽える。
「落ち着け、俺達にはスキルがある……いや、いい事を思いついたぞ」
2人に対し、猿大将らしく一喝しようとするタケシだったが、その言葉を途中で止め、いやらしく口と目を歪める。
「《V字斬り》!!」
「ぐっ! 何を……ッ!?
そしてその直後、スキルを使い、あろう事か朧を斬りかかったのだ。
イジメを受けていたのもあり、警戒していた朧はそれをなんとか躱し切った。
「よく考えてみたらよぉ、あんな未知の化け物相手にするより、力の無ぇお前を囮にして逃げた方が賢くね?」
「ぶっ……あははは! さすがタケシ、あったまいい〜!」
「こうなったら、法も何も関係ねぇからな!」
「きゃはは! スキルのないゴミにはそれがお似合いかもね!」
(嘘だろ、こいつら本気で言ってるのか!?)
剣を槍を杖を……その先端を向け、ニタニタと笑うと4人に朧は愕然とする。
「やれ、リエ!!」
「きゃはははぁっ、《ファイアーボール》!!」
「ぐあぁぁぁぁ——ッ!?」
タケシの指示でリエが放った《ファイアーボール》が直撃し、朧は大きく吹き飛ばされる。飛ばされた後も燃え移った火を消す為にのたうちまわり続けた。
「ぎゃはははははッ!! 火を消すのもいいけどよぉ、化け物がすぐ後ろまで来てるぜ!」
「きゃはは!! 芋虫みた〜い、きっもぉい!!」
そう言ってひとしきり、ボロボロになった朧を嘲笑うとタケシ達は無力な朧を残して去って行った。
『グギャギャッ』
『グギャ!』
ようやく火を消しさった朧だったが、それでは終わらない。
ゴブリンが醜悪な顔で見下ろしていたからだ。
そして、二体の手にした短剣が同時に振り上げられた。
「な……ッ!?」
直後、朧の目が見開かれた。
ゴブリンの短剣に恐怖したから——というわけではない。
驚いた理由は視界の端に、ある2つの単語が浮かび上がっていたからだ。
(《銃聖ノ加護》に《複聖ノ加護》……?)
——避けて!
浮かび上がった2つの単語に目を丸くする朧の頭の中に、警告の言葉が響きわたった。
「あぶねッ!」
間一髪のところで短剣を避ける。
そんな朧の頭に再び、声が響く。
——《銃聖ノ加護》を使って、そうすれば……
澄み渡るような声が今度は浮かんだ単語を使えと促し、そこで途切れた。
「ああっ、わっけわかんねぇがやってやる! 《銃聖ノ加護》!!」
ヤケクソとばかりに朧が叫ぶと、その右手を光が包み込んだ。
そしてその手の中には——
(け……“拳銃”じゃねえか!?)
朧の手に現れたのは白銀の拳銃、回転装弾式——リボルバーと呼ばれるタイプのものが握られていた。
『『グギャァァァァッ!!』』
「喰らいやがれ!」
獲物に避けられた事に怒ったゴブリン達が再び短剣を手に襲い来る。
対し、朧もリボルバーを構えその引き金を絞る。
ガウンッ!!
腹に響く様な銃声が鳴り響き、腕に衝撃が走る。
『グギャッ!?』
ゴブリンの一体が倒れた。
その眉間の間には小さな穴が……銃弾に撃ち抜かれたのだ。
(すごい、すごいぞ! 銃の使い方が完璧に分かる!)
《銃聖ノ加護》を発動した朧の脳には拳銃の扱いに関する知識が生まれていた。今の朧は歴戦のガンマンにも等しい力を有しているのだ。
「終わりだぁぁぁ——!!」
叫び、残りのゴブリンへ向け、引き金を引く。
ドパンッ! と今度はその胸を撃ち貫いた。
「はぁはぁ、やったぜ……」
ドサっ。
ファイアーボールによって受けたダメージと、未知との戦いに勝利した安心感で朧は気を失った。
「へぇ、やるわね。助けに入ろうと思ってたんだけど……これなら……」
その少し離れた先で1人の少女が、小さく笑う。
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