3話 消える妹
「おらぁ、《V字斬り》ィィ!!」
闇景色の中、剣術Lv.1に目覚めたタケシが天使より与えられたブロードソードを文字どおりVの字に斬り払う。その剣捌きは確かなもの、初めて剣に触れた者が放っていい剣筋ではない。
「《ファイアーボール》! きゃはっ、爽快なんですけどぉ!」
その横では取り巻きの女子、ど茶髪にケバいメイクを施した“リエ”が手にした杖から火魔法Lv.1の炎の火球、《ファイアーボール》を放つ。その声と顔はまさに爽快そのものといった感じだ。
(マジかよ、マジでオレちゃんだけスキルなしかよ……)
天使の指導を受け、次々とスキルを放つ不良達の姿にますます朧の気持ちは暗くなる。なんの力もなく侵魔なんていう化け物だらけの空間に放り出されると言われれば当然だ。
「大丈夫、お兄ちゃんには、わたしがついてますっ」
「御星……」
そう言って抱きつく御星に、朧は安心感を覚える。
御星もスキルに目覚め、その力を大いに披露して見せた。
《陰陽術Lv.1》の能力は四属性の使い魔、それらを式札に憑依させての使役。火の鳥に水の蛇、風の猫に土の亀それぞれが火の矢や水の弾を放つなど強力なものだった。
不良に囲まれその誰もが敵、そんな中で自分を慕ってくれる御星の存在は唯一の救いとなっていた。
『さぁ、皆さん、間も無く世界が開かれます。同時に侵魔も現れますので十分に警戒をして下さい。ご武運を……』
「あのっ、オレちゃんマジで何も——」
『クスっ』
本当に力を与えてもらえないのか? そう聞こうとする朧だったが天使は馬鹿にした様に笑い、バサッ! と翼を広げるとその姿は光となり、天へと帰っていった。
「おおっ更に真っ暗になって行くぞ!」
「いよいよだな!」
朧がうな垂れるのを尻目にスキルに目覚めた不良達が興奮し始める。
まるでゲームみたいな能力を得たことに浮かれ、自分たちの置かれた絶望的な状況など忘れてしまっているかの様だ。
「大丈夫、お兄ちゃんはわたしが守ります!」
御星の頼もしいセリフとともに、朧の視界は闇に塗りつぶされる。
そして暗闇が開かれると——
(な、なんだこれは……!)
闇が開かれた先には校舎、そこは変わらない。
だが、その先にはどこまでも草原が広がっていた。
(これが異界と交わるってことか、とんでもないな)
「おいっ、ミキがいねぇぞ!?」
「なに? あれ、本田もいない!」
広がる光景に面食らう最中、不良達が騒ぎ出す。
見れば取り巻きの女子と男子が1人ずついなくなっている。
そして——
「御星……どこだ御星!?」
自分の可愛い義妹、御星もその姿を消していたことに朧は気づく。