2話 能無し
(天使、だと……)
突如として闇に満ちた世界、天空には魔法陣が描き出され光だし、それがやんだかと思えば、翼を持ち天使を名乗る少女が目の前に……朧を始め、御星、不良達も驚愕に目を見開く。
『驚かれるのは無理もありません。ですが時間が無いので聞いて下さい。まずこの世界は【異界】と交わってしまいました。そして……』
混乱する朧達に天使から告げられたのこんな内容だった。
まず、この世界の一部は別の世界——異界の地と交わってしまった。そして今後、その地に住まう『侵魔』が現れ、この場にいる者を襲い始める。魔物には地球の武器は一切の通用せずこのままでは全員、殺されてしまう。
この天使は、地球の人類が死なぬよう『異界の神』が使わした者で魔物に対抗出来る力を与えてくれると言う。
「ふざけるな、異界に侵魔?」
「そんなの信じられるかよ!」
おとぎ話やゲームの様な単語の数々に、声を荒げるタケシ。その声に「そうだそうだ!」と取り巻きも加わる。
「でもお兄ちゃん、あの羽に輪っか、本物ですよね?」
「ああ、そうだな御星。だとしたら——」
異界に侵魔、ありえない話では無いんじゃないか? 不安そうに抱きつく御星を安心させる様に頭を撫でてやりながら、朧は心で推測を立てる。
『では、皆さんに戦う力、《スキル》を、そしてそれに見合った異界の武器をお与えします。それ……っ!』
騒ぎ立てる不良達に対し、天使は言うとその翼から光を放った。
「うおっ!?」
「お兄ちゃん! えっわたしも!?」
翼から飛び出した光が朧の体を包み込み、驚きの声を上げる。
「お兄ちゃんの体が!」と叫ぶ御星だったがその体もまた光が覆った。
周りの不良達も同様だ。
「おお、なんだ!? 視界の下に変な文字が……《剣術:Lv.1》?」
「私も……《火魔法:Lv.1》」
最初に光の拘束から解放されたタケシが叫ぶ。
続いて取り巻きの不良女子も己の視界の下に浮かぶ文字を口に出す。
『おめでとうございます。これで侵魔と戦うことが可能になりました。《剣術》に目覚めたあなたには、このブロードソードを。《火魔法》に目覚めたあなたにはこちらのヤドリギの杖を……』
天使が祝福の言葉とともにその翼から次々と武具を取り出し、周りの者へ与えていく。
「お兄ちゃん、私は《陰陽術》というスキルに目覚めた様です!」
そう朧に報告する御星の視界の端には《陰陽術:Lv.1》の文字が浮かび上がっていた。
「これは素晴らしい。《陰陽術》はなかなか目覚める方がいない強力なスキル、おめでとうございます。それではこの式札を……」
「さすが御星ちゃんだぜ!」
「かわいいのに強いなんてな!」
そう言って梵字の様なものが描かれた札の束を御星に与える天使に、沸き立つ不良男子達。
《陰陽術》は式札に魔力を込めることで火・水・風・土の四属性の魔法を使える様になるレアスキル、その力は強力だ。
(えっと、オレちゃん……)
周りが自身の変化にざわめく中、朧は1人絶望を覚えていた。
何故なら——
『おや、あなたはスキルに目覚めなかった様ですね? たまにいるんですよね〜、こういう能無しが。さぁ皆さん、スキルの使い方をお教えします』
天使が朧を冷ややかな目で見据え、鼻で笑うと皆を次の段階へと導くべくスキルのレクチャーを開始する。
そう、朧の視界の端には《スキル》の文字は無かったのだ。
(嘘だろ……天使の話が本当なら、オレちゃんに戦う術はない。つまり——)
「あははははっ! 朧ぉ、お前スキルに目覚めなかったんだってな!!」
「きゃははっ、ダッサ〜い! アンタ侵魔に殺されちゃうじゃん!」
「……っ!」
タケシと取り巻きの言葉に朧は更なる絶望へと追い込まれるのだった。