戦国時代にエルフとして転生してしまった 後編
前編は http://ncode.syosetu.com/n0190du/ です。
下部にもリンクを置いてます。
「な、なぁキンコ。ちょっと多すぎねえか?」
四々太が怯えた目でこちらを見る。
面しているのは伊東の軍勢。千はいないか?
偵察したところ隊を3つほどに分け、本隊と思われる一番多い隊はさらに3つに別れてる。後方は100人くらいだったが、後詰めってやつかね?
「まとまってくれてれば良かったが…。」
3隊の距離が縮まるように灌木だけの沢がある谷間に浮きながら待ち構えていたが、思ったよりも離れている隊があるな。
本隊の後詰めと別動隊は一撃じゃ無理だな。面倒だ。
せっかく頭の上をペカペカ光らせておいたのに無駄になったわ。
「お、お前さんの力は信じちゃいるが、大丈夫なんだろうな?」
「どってこたないね。俺の下で固まってて。」
そう、多少手間がかかるだけでどうってことはない。
前から考えていた一網打尽の方法を試すとしようか。
…と、誰か出てきたな。
火縄銃とか弓を持ってる奴らもあとからついてくる。
銃持ってるのな。ばぶりー。
「世を乱す妖とそれに与する者どもよ!我こそは民部大輔様の一番組頭、川崎源次三郎衛門丞佑盛なり!この地に住まう民たちの安寧の為…」
「あっそ。」
兵がしれっと展開し始めてた。口上を長々と聞いてると範囲から漏れる兵が増えそうだ。
俺は川崎なんちゃらを無視して手を前にかざして風を巻き起こす。
かざす意味はないんだけどね。雰囲気ってやつ。
「#§∃%Å⊃§%……!」
まだ何か言ってら。
気にせずに雨に似せた水をばらまく。いわゆる暴風雨ってやつね。
大きめの台風並みの風と雨。昼間で雲もないから明るいとこだけは違うが、こいつらにはそんなこと関係ないだろう。
火縄銃も使えないし弓もつがえない。
被害がないのは俺と下の野郎ども、そして後詰めと別動隊の1隊だ。
これ以上範囲を広げたら力が残らないかもしれないから、あとで各個撃破することにしよう。…さて、仕上げだ。
「サンダーストーム!!」
相手の様式美は無視してもこちらのお約束は外さないぜ!
今度は手を上にかざし暴風雨の範囲に雷をばらまく。
バリバリバリバリ!
「…じゃ、はぎ取りよろしく。活きのいいのは頑丈にしばってね。」
「お、おぅ。…すげぇな。けた違いの雷おこしの刑だ。」
こいつらのお仕置きは電気ビリビリの刑だからね。
くらったことのあるやつは鳥肌を立てて身を震わせていた。
半分以上はショック死してると思うし直撃したやつは焦げている。
けっこう威力あったな。
あたりをゆっくり乾かす魔法を使いつつ周りを見回す。
後詰めも別動隊もあまりの出来事に身動きするのも忘れているようだ。
今のうちだな。
近い後詰めの方から行くか。
旗やら吹き流しがいっぱいあるから、ここに大将とかいるかもね。
飛んだまま近づいたら一人が走りだし、連動するように他の兵たちも逃げはじめる。逃がさんよ。
後詰めがいるあたりの地面を一斉に陥没させて亀裂をいれて土をぐちゃぐちゃにする。意識があるだけ阿鼻叫喚だ。
雷の方が静かになっていいね。
…っと、おや?
一所だけ俺の魔法の影響がない。
旗が2種類立ってるから大将のとこか?
たしかに屋根に藤の家紋は伊東家だな。
もうひとつは…どこだ?服はお公家さんっぽいぞ。武家の元服とかにしかつけないような烏帽子だし、女の人をはべらしてるわ。周りには白装束の奴らがいて、いかにもだ。
ちょっと警戒しながら近づく。
「ほほほ。なかなかの術でおじゃりまするな、高祖さま。」
一番偉そうなお公家さんが言う。
「ほんにの。ここまでとは思わなんだ。」
はべっていた女が返す。
「おおおおおお御内室殿!どどどうかよろしくお頼み申す!!」
立派な具足をつけた若者がうろたえながら叫んでいた。
こいつが三位の坊っちゃんか?
うーん、そこはかとなく危険な予感がしてきたわ。
まさか俺の魔法を防ぐ存在がこの世にいるとは。
「何者?」
俺が言うのもなんだが、得体の知れない相手は避けるのが最良だとは思う。ただ好奇心には勝てない。思わず誰何する。
「麿こそ訪ねたいの。手前こそ何者ぞ?」
「坊、良いではないか。名乗りは戦の作法やろう?のう、民部どの?」
「か、かような儀、身どもには計りかねるかと。」
「まあよかろ。…そこな妖よ。ここにおわす武者が民部大輔殿、この軍の大将や。この麿が陰陽頭有脩よ。して、このお方が我が室にして高祖たる今世の名は椿。手前とも系あろうかの。」
パンっ!と麿野郎が柏手をすると側に控えた旗持ち達が旗を替えた。
おおう、五芒星。陰陽師ってやつか。
「否や、坊。この者は妾とは異なる、理の力をつこうておる。どころか、世界が違うておるな。」
「なんと。」
「安倍晴明の何か?」
「ほほほ。産まれ出で十にあろうか妖が麿が父祖さまを存じかえ。いかにもや。麿が系は父祖明神さまと高祖さまに元しておる。」
「そうや、ここよりはそとほど悪しの。」
椿はそう言うと何やら身ぶりをし始めた。
すると葉のようなものが浮き出て、風もないのに舞い散らばる。
民部がガクンと崩れ落ちた。
おお、兵たちもだ、寝だした。
白装束が意外にも機敏な動きで四々太たちや別動隊の方へ向かっていく。
椿と同じような身ぶりで葉を浮かしながら。
俺は一応バリアで防いでおく。
なるほど、寝かせる技か。ちょっとほしいな。俺はどうも人の精神に作用するような力は使えないみたいなんだよな。あと火も苦手。感知能力もないし収納も無理。やれないことは多い。
瞬く間に辺りの兵達が寝落ちする。
見事な手際だ。
「ほほ、これでよかろ。さ、妖よ、作法に則り手前も名乗れよ。」
白装束たちが戻ると麿野郎が促した。
うーん、余裕綽々なのが気に食わんが、どうも敵対しないっぽいし未知すぎるが…ここは正直にいくとするか。いつもか。
「…金狐と呼ばれてる。転生したらこの姿。」
「なんとなんと。転生とはの。されば観音の類いになるやろか。」
「さあ?」
「積もる話になりそうや。そとゆくいしようかの。」
椿に指示を受けた白装束たちが床机を持ってきた。
便利だなこいつら。
俺も降りてきて腰かけ、これまでのあらましを二人に話した。
… … … … …
「おう、遅かったじゃねぇか。」
「…色々あったんだよ。」
飫肥城に飛んで行くと助太郎に出迎えられた。
軍を壊滅させたら、後を任せて助太郎を手伝う手はずだったからな。
面目はないが不機嫌に返す。
「そうなのか。じゃあ首尾を話してもらうぜ。」
俺の表情で何か予定外なことが起きたと察したのだろう。少し顔をしかめさせながら館に向かった。
あの二人は都の北、若狭国からはるばる日向国まで来たんだそう。
伊東は幕府の幹部の伊勢なんちゃらと綿密な関係を持っていて、そこからの要請だったそうだ。
普段はこんなことで出張るような奴らじゃないんだが、俺の魔法に興味を覚えたらしい。ちと派手にやり過ぎたな。
麿野郎は土御門家の当主で安倍晴明の子孫。
椿は安倍晴明の妻で、代々の安倍家、土御門家の当主の母であり妻であるそうな。
その正体は妖弧。俺みたいなパチもんじゃない本物の妖弧。
昔は玉藻前とか言って派手にやらかしたから今は大人しくしてるんだと。そっちの意味でも先輩だよこんちくしょう。
俺の話で一番驚かれたのは、未来から来たことだ。
奴らの知識でもありえないことらしい。
これから起こる信長上洛、本能寺の変、豊臣政権、徳川幕府の流れをみて、俺の話が本当かどうか判断するとのこと。
安倍晴明が現代でも有名人だと言ったら顔をほころばせてたな。
エルフについては知らなかったが、これまでも妖人や、化生の類いはいたんだそうな。
そいつらは平安時代の頃までに食い合って弱体化し、大抵が封印、消滅している。
椿は人に取り入り生き長らえてる稀有な例だと。
俺みたいに自然とかに干渉するのは苦手だ(出来ないとは言ってない)が、逆に体内に作用する術が得意らしい。
まったく、やれやれな奴らがいるもんだわ。俺もか。
「それで、どうなったんだ?」
口をあんぐり開けて聞き入ってた助太郎だが、我に返るとやはりこれからが気になるようだ。
「飫肥院に限り所領安堵だと。」
そう、奴らなんと詔勅まで用意してやがった。
俺が日本で暴れ回らないなら見てみぬフリをするそうな。
多少は天下統一とか、チラッと思ってたのに残念だ。
ごねたら最後はバリアの外に葉をぎっしり張り付かせて「このまま手前を封じても良いのや?」とかのたまった。
若干バトって白装束を一人倒したが、そもそも人じゃなかった。
まあ、お互い底を見せないで譲歩した方がマシだと決断した。
ちとビビり入ったのは認めよう。
助太郎に事情を話して詔書を渡す。
「なっ!そ、それが詔…。だが、大名どもは黙っちゃいないぜ?」
だろうな。朝廷や幕府の威を借りて国人衆をまとめている伊東はともかく、島津や肝付は黙ってはいないだろう。
いや、伊東にしても国人やらを使ってちょっかいかけてくるに違いない。なにせ、南の櫛間院が孤立してしまうからな。
起こした民部くんはそれを聞いて泡を飛ばして抗議してきた。どうやら父にやっと任された領地らしく、手放したくないのだと。
麿はせめて櫛間と替えては如何?と、こっちにも振ってきたが却下だ。志布志に近すぎだろ。飫肥は東西南北よその領地から離れているが、櫛間はそうはいかい。断固却下!
結局民部くんはうなだれて帰っていきました。
櫛間だけでは食わせて行けないらしく軍を分けて、南行きは川崎なんちゃらくんが率いて櫛間に、北は民部くんがお父さんに怒られに行くっぽい。どんまい。江戸時代に入っても飫肥は譲らないからな。
「俺が黙らせるから問題ない。」
「そうなるわな。しかし、俺たちの野望はこれまでか。事を起こしてすぐ挫かれちまったなぁ…。」
「にゃ、これからよ。」
そう、まだこれからだ。
領地は確定されてしまったが、この狭い土地でもやれることはたくさんあるのだ。あと、少しサービスももらう予定だし。
「なんか考えがあるみてぇだな。」
「うむ。菱刈の山を一部もらう約束した。」
ふっふっふ、実は大人しくする対価に飫肥だけは少ないとゴネて、菱刈の山を一部くれと要求したのだ。
菱刈には、昭和の終わりになるまで見つからなかった鉱山がある。
しかも日本で有数、どころか唯一無二の埋蔵量を誇る金山だ。
場所はまだ選定していないからあとで申告することになっている。
ここ2年でそれとなく調べたら砂金は川内川から出るし掘ってる山もあるみたいだが、菱刈鉱山のあたりは真幸院に近く、伊東、相良、島津をはじめとして菱刈、伊集院など大名、国人が争いまくっている不安定な場所。
基本は地下だし一町か二町くらいしか要求しないので大丈夫だ。
そして菱刈鉱山から油津まで巨大トンネルを掘り、トロッコが走れるようなレールも敷けば…ウハウハだ。
トンネル掘るのに地面に細い目印の亀裂を作ることになるだろうが、まあ些細なことだろう。たかが100キロほどだ。
目印ないと掘り進められないしな。測量士求む。
「…壮大過ぎてなんとも言えねぇが、ようするに儲かりまくるってことか。」
「Exactly。」
もち、金山だけじゃなく内政チートも発動する予定。
武士権力の介在できない巨大な自治都市を築き上げるぜ。
目指すは江戸を越える百万都市だ!
お読みいただきありがとうございました。
前編は下部のリンクより。
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