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フローティア  作者: ゆらぎからす
2.マニフェスト
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7日目(3)

 7日目(3)



 花紀に千尋達からの着信が届く。

 花紀、津衣菜、鏡子、美也の四人は、屋上看板の裏で待機していた。

 ここは駅東側に並んだ、三、四階建てのビルの一つ。

 津衣菜が飛び降りたビルからも、近い辺りだ。

「うん、笹木町(ささきちょう)にもいなかったんだね。分かった―。じゃあ、こっちも森下(もりのした)まで来たら、いないか気を付けてみるね」

「また、稲荷神社(いなりじんじゃ)組か?」

 花紀が通話を終えると、傍らで聞いていた鏡子が確認する。

 花紀は小さく頷いて言った。

「全員、いつもの所にも、瀬田月(せたづき)地区にも、いないんだって……エリア越えしちゃってるみたい」

「しょうがねえな、あいつら」

「その……『稲荷神社組』ってのは、よくあちこち出歩くのか? こないだの子たちみたく」

 今度は、向かいにいた津衣菜からの質問。

「こないだ……あ、うん」

 花紀は津衣菜を見て、何故か嬉しそうに答える。

「もみじんとぽぷらんよりもヤンチャだよ。全員が」

「ああ……それは、大変だね……」

「ついにゃー助けた日は大人しかったけど、たまたまだったんだよね」

 へにゃっと笑っている花紀は、コートに合わせた白の耳あて付きキャップを被っていた。

 鏡子は黒いニットキャップを、津衣菜と美也はパーカーに付いた黒のフードを、それぞれ深く被っている。

 幾分暗くなったとは言え、フロートにとって人前での被り物は必須だった。



 日が沈み、街がぽつぽつ灯り始めた頃。

 彼女たちの『仕事』は始まった。

「じゃー行くよー」

 巡回エリア、チェック対象の年少者や高齢者のグループ。

 彼らの今いる場所の予想。

 前回の巡回結果や、津衣菜が襲われた数日前の件を踏まえての、今回の注意点。

 そう言った内容をカンペで読み上げて、ミーティングは終わった。

 花紀の間延びした一言で全員は出発する。

 山を降りる直前に、彼女らは適当な振り分けで二組に分かれた。

「ちーちゃんたちは新川の向こう側、花紀おねーさんたちはこっち側って感じで回ろうねー。何かあったら何でも連絡を取り合おーねっ」

「んな事言って、子供たちにイジられまくって年長者の威厳がどうこうなんて涙声の報告はいらないっすよ、姉さん」

「うう、ちーちゃんのいけず……」


 畑や更地の中に農家が点在するだけの麓の風景も、進む間に家やアパートの数が増えて来た。

 やがて、ファミレスやラーメン屋、紳士服店、パチンコ屋、カーショップと言った、大きな駐車場付きの店舗が並ぶ、国道沿いへと出る。

 途中で、子供達のグループ、高齢者のグループ、それぞれ1つと接触した。

 彼らの人数を確認し、簡単な聞き取りをする。

 彼らはいずれも、拠点にしている場所から、あまり動かずにいた。

 特に異状もなかったが、子供達のグループでは花紀が集られ、老人グループにはとても長い世間話に花紀が付き合わされ、市街地入りは予定より大幅に遅れた。

 国道と県庁通りの交差点を過ぎると、ビルの立ち並ぶ市中心部だった。

 向伏市は県庁所在地であるにもかかわらず、県内最大の街ではなかった。

 だが、それでも二番目の都市ではある。

 密集したビルは今や、フロートの目には眩い位の光を放つ。

 片側4車線の大通りで車やバスが列を作り、歩道を行き交う人の数が一番多い時間でもあった。


 駅前の繁華街に入った花紀達は、決まってはいるらしいが何だか大雑把なルートで巡回する。

 ルートが大雑把なのは、大抵、『相手』の動きや現在地も大雑把だからだ。

 ポイントごとに、連絡の取れそうなグループ相手の場合は、電話をかける。

 それが不可能な場合は、いそうな場所をひたすら探し回って接触を図る。

 相当明るい所じゃなければ、肌の色の違いはそうそう目につかない。

 裏道や建物の陰を通り抜ける事が多かったが、人通りの多い中を紛れ込んで進む時もある。

 津衣菜や美也の様に、元から向橋市民だった場合、肌の色だけではなく顔そのものも見つからなくする必要があった。

 特に津衣菜は、今頃学校も家もそれなりの騒ぎになって捜索されている筈だ。

 ショーウィンドーに照らされる歩道を、雑踏に紛れて進む時、彼女達は一際深くフードや帽子を被り直し顔を伏せる。



「あれー? ここにもいないなあ。こういうのも、珍しいねえ」

 巡回対象を順調に見つけらずにいたのは、千尋達だけではなかった。

 花紀達も、自分達の担当するグループを、どれだけ『感覚を使って』も感知出来ずにいる。

 全てではないがフロートの中には、高い所や開けた所でなら、仲間の存在を一キロ以上先からでも感知出来る者がいるという。

 津衣菜の知る中では、遥と花紀がそうだった。

 そんなフロートは、大体班長(エリアリーダー)か、全エリアを統括する中心グループのメンバーになる事が多いらしい。

 津衣菜にも、フロートとなってからの『感覚の異様な鋭敏さ』に心当たりがあったが、そんな事の出来るレベルではない。

 これを聞いた時、津衣菜は花紀の様な少女が班長をやっている、理由の一端を納得した。

「花紀あんた……本当に分かってんの? これで、四ヶ所めなんだけど」

「だいじょーぶだよう。あの子たちのいそうな場所は、あと五つ残ってるもん」

「……まじで?」

 微かに朱が残る墨空の下、雑居ビルの屋上一帯を4人は隈なく探し回っていた。

 津衣菜は花紀の答えに、げんなりした顔を浮かべる。

 次の候補地で、探していた子供たちはすぐに見つかった。

 工事会社の駐車場。停めっ放しになっていたダンプの荷台で、彼らは「昼寝」のまっ最中だった。

「くくく、寝坊だぞおめーら」

 鏡子がどことなく優しげな声をかけると、もぞもぞと起き上がり始める。

「おはよー、みんな元気だったかな?」

「おはようございます」

「あよー」

 花紀がふわふわ明るい声で挨拶がてら、彼らの近況を確認する。

 身体に異常のある者はいないか――元々が『正常』ではないが、普段と違う事が起きている者はいないか。

 ゾンビ狩りや対策部に遭遇し、何か危害を受けたり連れ去られたりした者はいないか。

 生者と何かトラブルが起きてはいないか。

 そして――

「前にはいなかった子がいるねー」

 花紀の視線の先には、他の子供より一回り小さい、5才ぐらいの男の子の姿があった。

 前回の巡回で彼らに会った時、その子がいたかどうか津衣菜の記憶にはなかった。

「うん、今朝見つけたんだよ。だけど……」

 一人の子供が、なぜか困惑気味な様子で答える。

 だが、その言葉は途中でか細い呟きに遮られた。

「……おなかすいた……」

「――!」

「こいつ……!?」

「――違うよ! 発現はしてないよ!」

 少女達の空気が瞬時に張り詰める。

 鏡子も美也も身構え、目に鋭い光を湛えた。

 そんな中で、子供達が疑いを打ち消そうと鏡子の声に反論する。

「うん。安心は出来ないけど、まだ大丈夫だね」

 花紀が静かに言うと、両者の様子が多少緩んだ。

 彼女はその子供の前に立つと、屈んで目線の高さを合わせる。

「……目覚めてからも強く残ってるんだね……最後まですいてたおなかが」

 その場にいる全員にその意味は伝わったようだ。

 子供は極度に痩せていた。

 花紀が言うまでもなく、彼は『餓死または衰弱死』だった。

育児放棄(ネグレクト)か……?」

 鏡子の問いに花紀は首を横に振る。

「それは……分からない。食べさせなかったのか……それとも、食べさせられなかったのか」

「フロートに食欲って……その組み合わせはヤバいだろ」

「分かってる。だけど克服できない訳じゃない」

 鏡子の声が珍しく、心細げだった。

 だが、花紀は静かにその子供を抱き上げながら言った。

「ごはんはとても難しい問題。消化が出来ないのもあるし。だけど、不可能じゃない――こういう時の為の『方法』もある……気を付けながらでも、出来るだけおいしいもの食べてもらおっ……それも大事だよ」

「はっ、そいつが囚われている衝動を解決してやるのも発現防止ってね。ハルさんも言ってたけどさ。あたしの衝動解決にも賛成してもらいたいもんだ」

 少し皮肉げに鏡子が返す。

 花紀や子供の視線に気付いて、彼女はかぶりを振った。

「――あんたらへの文句じゃない。悪かったね」

「ついにゃーはどうかな?」

 急に自分へ話を振られて、津衣菜は一つだけ気になっていた事を答える。

「食事って言うなら、遥でなくてもいいから一旦……大人のフロートに預けた方がいいんじゃないかな。こう言っちゃ悪いけど、この子達に任せても……ゴミ漁りぐらいしか出来ないでしょ」

「ゴミ漁りって……目の前で言うのは、きついよ」

「この子達だって理解しなくちゃいけないだろ。同じ境遇で身を寄せ合うのも大事だろうけど、それで出来る事も出来ない事もあるって。だから私たちも巡回してるんじゃないの?」

「うん……そーだね」

 花紀は少しだけ微笑を浮かべながら頷く。

「えへへ、ついにゃーに教えてもらっちゃった。私、この子がかわいそうだってので頭がいっぱいになって、どうしてもそういう現実的なことに頭回らないんだ」

 少女達と子供達が話している間も、その子は会話に全く参加していない。

 時折「おなかすいた」と呟くばかりで、まるで、それしか言葉を知らないかの様でもあった。

 そうした会話能力の退化も、発症への危険性としてマークされる要素である。

 取りあえず、その子の移動先は遥から各グループと相談してもらう事とし、今日はこのまま様子見となった。

 花紀の判断で、発現予防のアンプルを多めに処方しておく事にする。

 数日前に津衣菜が遥から受け取った粉末は、あくまでも外出中の緊急用である。

 発現防止の薬剤は点滴や全身数か所の注射、皮下接種などがメインだった。

 津衣菜も花紀たちの班に入ってそれを聞かされてからは、一日おきに一時間かけて点滴を打っている。

 彼女の青白い肌から、紫の斑点や土気色は、今の所は消えていた。

「フロートも、ご飯は食べられるんですよ……でも、一緒に色んな薬を呑んでおなかに溜まらない様しないと、腐っちゃいますからね……最悪、おなか切って内臓ごと除去した事もあったって言うし……」

「私は一度も空腹になった事はないけど……身体を動かすエネルギーは、どこから出ているんだ?」

「私も分かりません……点滴の薬剤に、フロートのエネルギーになる酵素や核酸も入っているって聞いた事はありますが」

「何だそれ……というか、そんな酵素があるのも分かっているのに、私たちの身体の事がまだ分かっていないっていうのか?」

 駐車場を出て次の場所へ移動する途中、美也から説明を聞いていた津衣菜。

 彼女はその言葉の大きな矛盾に気付くと、つい口調を尖らせる。

 美也は首を横に振るばかりだった。

 横で聞いていた花紀にも視線を向けるが、彼女も困った顔で首を横に振る。

「対策部の研究所で、捕まえたフロートに片っ端から思い付いたものぶち込んで、何かの効果が出た物質を適当に調合したって代物さ。分かるもクソもねーんだっつうの」

 長く燻っていた津衣菜の疑問に答えたのは、鏡子の小馬鹿にした様な声だった。

 その答えの内容が、津衣菜の常識で受け入れられるものだったかどうかは、別として。

「な……何だ……それ」

「調合した薬は、対策部自ら日本各地のフロートにばら撒いている。あたしらの為なんかじゃない。一体一体捕まえるより効率良く実験データが取れるからさ。それでも、奴らのそんなクソみたいな薬をあたしらは必要としているんだ」

 鏡子の嘲笑が向けられているのは津衣菜だけではなかった。

 それは自嘲でもあった。

「その薬を仕入れて来て、管理して配っているのは遥だよな……あいつは……対策部の手先なのか?」

「おい、口のきき方に気を付けろ、自殺女」

 鏡子は津衣菜の動かない右腕を強く小突いて、低い声で凄む。

「あたしらをまとめ上げて実験体狩りから自衛し、その一方でクソでもやっぱり必要な薬を十分な量確保する為の交渉もする、そうやって対策部とずっと渡り合ってきたのがハルさんたちなんだ」

 鏡子の苛立った声は、普段の津衣菜への悪意ともニュアンスが違う。

 遥たちへの敬意から出た、理性的な怒りを含む口調だった。

「わたしも……ついにゃーに遥さん誤解してほしくないよ……つよい人で、何考えてるか分かんない事も多いけど、いつも私たちのこと、大事に考えてくれる人だから」

 花紀もおずおずとながら、鏡子に続けて言った。

 クソでも必要。

 そんな鏡子の言葉からも、事が単純でないのは分かり得たことだった。

『薬を持って来るから、手先』という発想が短絡的過ぎたのは、津衣菜にも分かっている。

 しかし、津衣菜にとっては、遥たち――このフロートのコミュニティそのもの――と国の機関である筈の対策部双方の、得体の知れなさが倍増する話でもあった。


 一体どんな交渉なのか?

 実験を妨害する『自衛するフロート』が、実験の産物である薬を、どんな代償(メリット)を提示して要求するのか?

 そして、対策部は、本当に事態の解決を目指しているのか?

 話の中に出て来る彼らは、研究の為に、フロートが非公然と人に紛れて増え続ける事をこそ求めている様に見えた。


 市街地エリアを線路に沿って北へ進む。

 四人は、森下地区にある県立図書館前に来ていた。

 噴水もある広い庭園の奥に、小奇麗なレンガ色の本棟と資料棟、県立美術館が並んでいる。

 建物の向こうには市内中央の小山が見えていた。

 庭園から山の麓に沿って、人工河川とサイクリングコース付きの遊歩道が伸びている。

 遊歩道への道に進もうとした花紀は、ふいに足を止めて呟いた。

「……来るね」

 他の三人も前方に目を向けたまま頷いている。

 津衣菜も何となく分かっていた。

 奥の建物、図書館の2棟の間から、何かが高速でこちらに向かって来ている。

「資料棟だ。行くぞ」

 鏡子の声で4人同時に駆け出した。

 まだ退館者の多く見える庭園の歩道ではなく、その脇の駐車場を通って回り込む。

 資料棟の前、本棟との間の角で、少女達は一斉に動いた。

「よっと」

「ふん」

「やぁんっ」

「あっ、わわっ」

 二つの小気味良い音と共に、津衣菜と鏡子の片手は、すれ違って走り抜けようとしていた七・八歳位の子供の首根っこを掴み上げていた。

 悲鳴を上げた花紀と美也の手は、空振りして何も掴んでいなかった。

「おい班長……一番先に気付いた奴が何で取り逃がす……?」

「ごめーん、でもねでもね、花紀おねーさんは思うんだよ。分かるのと捕まえられるのとは別の問題なんだって」

「す、すみません。やっぱり腕がうまく動か……」

「あー、美也はしょうがないけどさ」

「えええー、花紀おねーさんも許して下さい、がこさん、いやがこさまっ」

「ぎゃーー、ちくしょーっ、はーなーせーーっ」

 津衣菜と鏡子に捕まった二人の子供は、中でジタバタ手足を振り回し、もがき続けていた。

 賑やかになった彼女達だったが、背後に気配を感じ津衣菜は振り返る。

 花紀と美也の手を逃れて行った筈の、残り二人が戻って来ていた。

 二人の子供は、彼女達を睨みながら悪態をつき始める。

「そいつらかえせ。おれらのはしり邪魔すんじゃねえよババア」

「ほうババアと来たか。言うじゃねえかガキ」

 手中の子供をぶんぶん振りながら二人へ迫る鏡子。

「仲間を見捨てず戻って来た根性だけは認めてやる」

「美也、ひょっとしてあれが……」

「うん。稲荷神社組の子たちです」

 跳びかかって来た一人に持っていた子供で代理ヘッドバッド決めてる鏡子も、ババア呼ばわりが効いたのか口から魂飛ばしている花紀も避けて、津衣菜は美也に確認を取った。

「根性は買うけどな……相手があたしらとは限んねえんだぞ、累。ほどほどにしとけよ。今みたく捕まえに来たのが、もし、アーマゲだったら」

「ばーか、だったらなおさらおいてけねーだろ」

 一戦終えてようやく子供を解放しつつ、忠告を口にした鏡子だったが、累と呼ばれたリーダー格の子供はそれを一蹴する。

「そうそう。それに、ねえちゃんたちならともかく、あんなやつらにつかまんねーっつうの。そのためにおれら、まいにちこうやってきたえてんだぜ」

「本能の赴くまま、遊び回ってるだけじゃねーか」

 確かに彼らのダッシュは、普通の人間が捕捉出来る速度ではなかった。

『子供が走って来た』と認識した時には、既に彼らは通り過ぎているだろう。

 フロートでも、彼らの気配を掴んでいた筈の花紀が、現に捕まえられなかった位なのだ。

「で、でもねっ、るーちゃんたちだけで立ち向かっても助けられない場合だってあるよ。だから、そこで大人の人を呼ぶとか」

「まにあわねーよ、そんなの」

 何とか立ち直ったらしい花紀も説得に加わったが、子供達は取り合う様子がない。

「たすけられるたすけられないじゃねーよ。おれたちは、あれだ、一蓮托生ってやつなんだ。つかまろうがやられようが、おれたちはなかまをみすてたりしねーんだ」

「さいごにたすけてくれるやつがだれもいないって、つらいもんな」

 津衣菜は思わず子供達を凝視していた。

 続けて、花紀や美也に視線を飛ばす。

 二人とも、津衣菜と目が合うとその言わんとする所を察し、頷いて見せる。

 稲荷神社の境内を拠点にし、俊足と勝手気ままを身上とする問題児グループ。

 そのメンバーは全員、虐待によって人知れず死んだ子供達だった。

 そして全員がフロートとなって二年近く。

 実は、花紀達以上の古株だった。


 図書館で稲荷神社組と別れて二時間、四人は遊歩道から小山を半周していた。

 子供達には何も説得できなかった。

 彼らのヤンチャはまだまだ治らないだろう。

 千尋達には彼らを県立図書館で発見し、異常がなかった事だけを携帯で伝えた。

 あれから更に子供達のグループ一つ、高齢者のグループ二つと接触していた。

 彼女達のノルマはまだ残っている。

 子供達のグループ二つ、そして高齢者のグループ一つ。

 それでも、手分けした市内のフロートグループの半分なのだ。

 ミーティングでも目にした筈のマップを見直し、津衣菜も呆然とする他なかった。

 いくら何でも多過ぎる。

 老人はともかく、子供のフロートが。

 数日前、中学生や高校生のフロートの多さが気になっていたが、それどころじゃない異常な分布だ。

 およそ40~50人。この市内近郊だけでも、これだけの数の子供のフロートが存在する。

 それは『ここ数年で行方不明となったか、消えた事さえ気付かれなかった子供』の中の、ごく一部。

 そして、その死因の多くに、餓死と虐待死があった。

「ちょっと……多過ぎないか……子供が死に過ぎでしょ。ねえ……私が言うのもなんだけど、ここって、こんなに人が死ぬ街だったかな。誰もそんな事言ってなかったじゃない。どうして誰も言わないんだろう」

 道すがら隣を歩く美也に尋ねると、彼女は小声で呟いた。

「私、時々思うんです……ここだけじゃなく、この国が、もうダメなんじゃないかなって」





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